Karin.|揺るぎない決意を込めた高校生活最後のアルバム

2019年8月に「アイデンティティクライシス」でデビューを果たし、収録曲「青春脱衣所」のミュージックビデオの再生回数が71万回を記録して注目を集めているKarin.が、2ndアルバム「メランコリックモラトリアム」を2月12日にリリースした(参照:Karin.が2ndアルバム「メランコリックモラトリアム」発売、初のワンマンツアーも)。

日々葛藤しながら、茨城の高校での学校生活や社会に対する思いを歌にしているKarin.。音楽ナタリーでは、高校卒業を控える中、進学を選ばず、音楽で生きていくことを決意した彼女にインタビューした。彼女は時に自問自答をしながら、現在の心の内を赤裸々に語ってくれた。

取材・文 / 鈴木淳史 撮影 / 塚原孝顕

早くデビューしたい

──今日は音楽活動を始めた頃からの話を伺います。初めて自分で曲を作ったときは手応えがあったのでしょうか? デビュー前である2018年6月に初ライブをされていますね。

最初は「これは曲とは言えないんじゃないか」って自信が持てませんでした。もしかしたら、自分が作った曲のようなものはすでに世の中に存在するんじゃないかとも思いましたし。1、2回目のライブではオリジナル曲とカバー曲を歌っていて、そこで競演したバンドマンの人から「何曲が自分の曲?」と聞かれて、「2曲です」と答えたら、「全部オリジナルだと思ったよ」と言われて。その言葉で、「私が作ってるのは曲と言えるんだ」と思えました。それから早く自分の曲のみでライブをしたいという気持ちも大きくなって、何曲も作っていったんです。その2カ月後に自分でCDを作って会場限定で売っていたら今の事務所の人に声をかけてもらって。本当によかったなと思いますね。

Karin.

──2018年6月の初ライブから1年後にあたる去年6月にデビューすることを発表しましたね。心境はいかがでしたか。

1stアルバム「アイデンティティクライシス」を一昨年の11月くらいに作り始めてから(参照:高校生シンガーソングライター、Karin.の初アルバム「アイデンティティクライシス」)、音楽で生きていきたいと思うようになって、高校卒業後は進学もしないと決めて、音楽と向き合ったんです。でも私のことを知っているのは地元の人くらいだし、その期間中はライブもなくて、音楽で食べていけなかったらどうしようとすごく不安になりました。私の音楽活動が知られないまま終わるんじゃないかとか、マイナスなことばかり思い浮かべて。そのたびに私に才能がないからだとか、けっこう自分を責めていたんですよね。だから「早くデビューしたいです」と周囲にいつも言ってたんですよ。結果的にデビューが夏休み時期になったおかげでプロモーション活動もできました。音楽をやっていなかったら、いまだに全国各地に行けてないと思います。高校生なのでお金もないですし。

──去年8月に1stアルバム「アイデンティティクライシス」でデビューしてから、わずか半年で2ndアルバム「メランコリックモラトリアム」をリリースされました。このスピードも早いですよね。

1stアルバムで10曲以上書いたから、もういい曲を作れなくなるんじゃないかと思っていて。だから、まさかもう1枚アルバムを作れるとは思わなかったです。今回も1曲ずつ増えていくたびに、もう作れなくなるかもしれないという思いが強くなりました。自分のがんばり次第だとは思っていましたが……だから完成させることができてすごくうれしかったです。

「いらっしゃいませ!」と言われるのも苦手

──いつ頃から「メランコリックモラトリアム」を作り始めましたか?

「アイデンティティクライシス」の制作が終わった5月くらいでした。初めて自分の音源がCDになるという、デビュー発表の準備をしていた時期に、次の曲、次の曲と書き始めて。最初は書かなきゃ書かなきゃと焦って思うように進まなくて、途中から楽観的に考えるようになったら書けました。作品って、自分を拘束していると生まれないんだなと感じましたね。

──葛藤はあったものの、周りの人と必要以上に絡むことがなかったのが作業するにあたってよかったんですね。

疑い深いのもありますし、人から褒められるのも苦手なんです。褒められるとなんだか申し訳ない気持ちになってしまって。私、音楽以外にプライベートとかで目立ちたいとは思ってないんですね。よく「音楽をやってるのに、自分の存在に気付いてほしくない人っているんだね」と言われるんですけど、誰かに自分の存在を気付かれるのが苦手で。だから私生活でもけっこう神経を使っていて、例えばお店に入って「いらっしゃいませ!」と言われないように工夫してます(笑)。

──人に対して距離感を持っているのに、「メランコリックモラトリアム」は前作「アイデンティティクライシス」以上に聴く方々へ訴えかける力強さを感じました。そのあたりご本人的にはいかがですか?

昔は自分と同じようなことを考えてる人は存在しないと思い込んでいて、「自分の気持ちを曲で表現して誰が幸せになるんだろう」と思っていました。でも1stアルバムに入っている「青春脱衣所」のミュージックビデオを発表したときの感想で、「よかったです」だけではなく、「私はこういう体験をしました」というそれぞれの実体験が書かれていて。リスナーの方々が私の曲を聴きながらご自身の経験と重ねてくれたことが本当にうれしかったです。とても救われました。

これでダメなら海に沈む

──初めてKarin.さんの音楽を聴く方々の反響が予想以上によかったわけですが、もとからKarin.さんを知っていた方々の反響はどうでしたか?

Karin.

音楽を始めるまで一緒に過ごしていた学校の人たちが私を別の見方で見るようになったというか。東京でレコーディングとかをしたあとに終電で茨城に帰って、また朝から学校に行くことを、周囲はすごいと褒めてくれるんです。けど、それって本質的にはみんなと何も変わらないことなんですよね。みんながそれぞれの才能を持っていて、私はそれがたまたま音楽だっただけ。言ってしまえば音楽活動なんて、高校生活の中でやらなくてもいいことをやってるわけじゃないですか。部活動とかもそうで、誰かの強制とかじゃなくて、自分がやりたいからやっている。それなのに、なぜ音楽をやっているだけで人としての価値が決まってしまうんだろうと。本格的に音楽活動を始めてからは、青春を送れているとは言えなくなってしまって。あと少ししか学校生活も残されてないと思うと寂しいですね……。

──みんなと何も変わらないという思いがあるのに、それが伝わってないのは寂しいと。

そうですね。いろいろなことを考えすぎて、自分で自分を追いつめているのかもしれません。いまだにただの高校生という意識は強いですし、「自分のことを特別だと思ってそうだね」とよく言われますけど、まったくそう思っていないんですよ。

──いろいろなことを考えていますよね。

例えば、まだ年齢的に子供扱いされることもあるんですけど、自分が勝手にそう思い込んでいるだけということもあって。今18歳なんですが、都合のいいように大人と子供を使い分けされてるなと感じることが多いですね。私はこのまま大人になってしまうことを不安に思っていて、だからといって子供にも戻れないんですけど……大人になるまでの期間を憂鬱に感じてしまって、それが今回のタイトル「メランコリックモラトリアム」につながりました。大人になる前にもうちょっと周りというか、世界が見える人になりたいなと思うんですよね。

──タイトル「メランコリックモラトリアム」はすぐに決まりましたか?

けっこう悩みました。“メランコリック”という言葉は最初から頭にあったんですけど、次に続く言葉が思いつかなくて。そこで“モラトリアム”が急に浮かんだんですけど、詳しい意味を知らなくて調べたら、“大人になるまでの猶予期間”とあったので今回の作品に当てはまるなと思いました。「このタイトルでダメなら海に沈みます!」と社長にメールしたら、「沈まなくて大丈夫です」と連絡がありました(笑)。「アイデンティティクライシス」につながるタイトルがいいなと思っていて、「ピーターパンシンドローム」みたいな感じのタイトルをいくつか考えていましたね。