karin.|未来を歌わない19歳が自身と向き合い作った4曲

シンガーソングライターのKarin.が「知らない言葉を愛せない - ep」をリリースした。

目に映る景色も心の痛みも全部受け止めて言葉とメロディに落とし込んできたKarin.。前回の2ndアルバム「メランコリックモラトリアム」の特集では、高校卒業を目前にした自身の心境を明かしてくれたが、今回は高校を卒業した彼女がコロナ禍で自身を見つめ直したあとに完成させた今作について、じっくりと話を聞いた。

取材・文 / 上野三樹 撮影 / 堀内彩香

もう人生終わりだ

──高校を卒業してからいろいろと環境の変化があったと思いますが、どう過ごされていましたか?

Karin.

高校を卒業したら上京して音楽活動をしようと思っていて、1人暮らしの部屋も借りてたんですけど、コロナの影響で3月から実家の茨城に戻らないといけなくなってしまって。そこから6月までずっと実家で過ごして、「本当に私は何してるんだろう?」と思いましたね。学校に行くわけでもないし、音楽をするわけでもないし、何をすればいいんだろうと。その間は納得のいく曲も書けず、「もう人生終わりだ」くらいに感じました。そんなときにバンドのメンバーに初めて音楽のことを相談して、ひさしぶりにみんなと会ったらワーッとまた曲が書けるようになって。6月からレコーディングも始まり、やっとスタートできた感じがしました。

──曲が書けなくなるほど落ち込んでいたんですね。

はい。最初は高校を卒業したから書けなくなったのかなと思いました。教室の中にいたからこそ書けた曲がたくさんあったから、卒業して、自分にはもう何もなくなったんだなって。春からフェスやイベントも、ワンマンライブもツアーも全部なくなって、これから本当にどうなっていくんだろう、私は音楽を職業にして大丈夫だったのかなと不安になりました。周りの友達は大学の課題とかやってるのに、私は音楽に逃げたって思われてないかなと気になってしまい……。誰が私の曲なんて聴くんだろう、何もしなくても次の日はくるし、と少し自暴自棄になり、世界を作った人はこの世界をなんのために作って何を残していったんだろう?とか、もうこれは音楽の次元じゃないなってところまで考え始めてしまいましたね。

──バンドのメンバーに相談してみたことをきっかけに、また制作が動き始めて完成したのが今回の「知らない言葉を愛せない - ep」ということですが。曲自体はいつ作ったものですか?

「知らない言葉を愛せない」「泣き空」「世界線」は高校卒業後に作った曲で、「人生上手に生きられない」だけ高校3年生の卒業のときに作りました。

──リスナーからの反響はどうでしたか?

私の曲を聴いてくださる方って曲ごとに毎回違うのかなと思ってたんですけど、リリースされるたびに聴き続けてくださっている方がいるんだってことに気付いて。曲を書き続けてきてよかったなと思いました。楽曲に寄り添ったメッセージをくれる方もいてうれしかったです。私のミュージックビデオのコメント欄は自分のことを語られる方が多くて、それを見て「私だけじゃなかったんだ」と共感できて、私も安心します。私は自分のことをただ表現しているだけなのに、こんなにも曲を愛してくれる人がいることがすごいなと感じましたね。

Karin.

自分に似た空

──「泣き空」のリリックビデオではご自身で撮影した空の写真が使われたということですが、普段から空を眺めたり写真を撮ったりすることは多いんですか?

フィルムカメラを持っているので、毎日ではないんですけど空を撮ったりします。

──「何故晴れた空が皆好きなんだ?」という歌詞がありますが、その心境は?

空を見ると「自分に似てるな」と思うことがあるんですけど、それは雨空に近いような曇り空。今にも泣きそうな空を見ると落ち着くんです。

──雨が降り出しそうな空のような気持ちでいることが多いんですか?

そのほうが楽だから、暗い音楽を聴いているときも居心地がいいと感じます。周りから求められている自分になれなかったときに、なんで私の音楽を聴いてくださる人たちはそういう私を好きなんだろう?という気持ちを空に例えて作った曲です。Karin.としてアーティスト活動をしているときは笑うことはほとんどないんですけど、「何で笑わないの?」って言われたりするんです。でも今の私が思い描くKarin.に笑顔は合わないし、曲を作るときは確かなことしか絶対に書かないんですよ。明日のことや未来の話も書かない。わからないことを書いてもそういう曲は愛せないから、過去と今の自分をずっと書いていて。例えば20歳になった自分を想像して書いても、20歳になったときに全然そんなことなかったじゃん、って自分に裏切られるのも嫌だし。

──Karin.さんの曲の中に“あの頃”とか過去のことがよく出てくるのは、不確かな未来のことは歌わないという誠実さでもあるんですね。

そうですね。過去と今の自分を照らし合わせて“僕”と“君”にしてみたり、私の気持ちを夕陽や空に例えてイメージを膨らませながら書いてます。

Karin.

──「綺麗な部分だけを歌えば良かったのかな それ、歌わせてよ」という歌詞にはどういう意味が込められていますか?

今まで書いてきた曲にもあてはまるんですけど、私は悲しい感情も愛せるから、それを自信と責任を持って歌うということを表現しています。

──悲しみも愛せるようになったのは曲を書くようになってからですか?

そうかもしれません。悲しみをまるごと愛したいな、と曲を書く前からずっと思ってました。過去の過ちだったり、そういうものをすべて受け入れられたらいいなって。

──でも悲しいことがあったり傷付いたりしたら、すぐには受け入れられないですよね。

受け入れられないってことはあんまりないかもしれないです。私や私の音楽が嫌いな人はプレイリストに入れなきゃいいと思うんですけど、私はずっと自分から逃げることはできないんです。私はずっと私だから、自分の弱いところを見るのはつらいけど、悲しい気持ちになることはない。弱さって忘れられない、儚くて愛すべき感情な気がして。ずっと過去を引きずっていたら時間を無駄にしちゃう。今を精一杯生きたいと思っているので、悲しみと向き合ってこそ、今の自分がいる。それはすごくいいことなのかなって。そういうマイナスな感情がなければ、音楽すらやってなかったかもしれないので。出会ったことのすべてを受け入れようと思ってます。