鹿乃|samfreeとの約束を果たすための“手紙”

「マインドボイス」をフラットな形で聴いてもらいたい

──ではここからは1曲ずつお話を聞いていきます。1曲目の「マインドボイス」は先ほどのお話の通りsamfreeさんが生前最後に公開した楽曲で、音源としてCDに収録されるのは今回が初になります。

この曲の動画を観に行くと「今までありがとう」「忘れないよ」みたいな追悼コメントで埋まっているんです。でも私はもっとsamさんの楽曲の1つとしてフラットな気持ちで聴いてもらいたい思いを持っていて。どうしてもみんな、人の死に意味を見出そうとしてしまって、曲自体に悲しいイメージを付けてしまうんですよね。「Stella-rium」も今はそういう悲しい曲に見られがちですけど、そもそもあの曲は「放課後のプレアデス」というアニメのオープニングテーマとして作ったもので、samさんらしいすごく前向きで明るい曲なんです。なので今回の収録曲も明るい気持ちで聴いてもらえるようになればいいなと思っていて。

──samfreeさんは「マインドボイス」の動画に「答えなんて無いという答えが見つかりました」というコメントを添えていましたが、鹿乃さんはこの楽曲をどのように受け止めましたか?

この曲は、人には人の悩みや問題があって、誰でも逃げたくなるような気持ちがあることを書いた曲だと思うので、自分の一番情けないと思う部分を思い出しながら歌いました。自分がメジャーデビューしてから今までの葛藤、例えば「辞めようかな?」と思う瞬間がありながらも、結局辞めずにがんばっている、自分に重なる部分を思い出したりして。

──アーティスト活動を辞めたいと思ったことがあるのですか?

そうですね……何回かは(笑)。それは環境とかの話ではなくて自分自身の問題で、「これ以上自分にできるのかな?」という不安がけっこうあったんです。ただ、「辞めようかな?」と言ってるうちは、辞めたくないときなんですよね。本当の答えは自分の中にもうあって、実は悩み自体がないというか。女性はけっこう多いですよね、はっきり言わないで「ああ、もう別れようかなあ」みたいな(笑)。

──本人の心はもう決まっているけど、誰かに話を聞いてほしいというか。

だから「マインドボイス」という曲は、自分が人に聞いてほしい気持ちを歌ってるのかな、というのが自分の解釈でした。

次元を超えている感じが「私とsamさん」

──2曲目の「ルカルカ☆ナイトフィーバー」は、おそらく今作の収録曲の中でもっとも有名な曲だと思います。

ボカロファンなら聴いたことのない人はいないんじゃないかと思うぐらいの曲ですね。「ルカルカ☆ナイトフィーバー」はきっとsamさんがsamfreeとしてニコニコ動画を一番楽しんでいた時代の曲だと思うんです。当時のニコ動を思い起こさせるというか、画面越しに人を楽しませようとしている曲だと思っていて。この曲はライブでも歌わせていただいているので、今回絶対に収録したいと思っていました。

──原曲はユーロビート風のパーティチューンですが、今回は落ち着いた雰囲気のアコースティックアレンジにしたことで、切なくて甘酸っぱい魅力が前に出ているように感じました。

当時はうるさくてハデハデな曲だなと思って聴いていましたけど、アコースティックにしてみるとけっこういいことが書いてある曲なんですよね。「兄貴に釣られた日」の歌詞は置いておくとして(笑)。この曲は暗くなりすぎず、でもかわいく歌う曲でもないので、そのバランスに気を使って歌いました。

──この曲は本作のリードトラックでMVも制作されています。

MVの後半に登場するモニタの画面には、samさんが上げた「ルカルカ☆ナイトフィーバー」の動画のサムネイルを映しているんです。これはsamさんの楽曲だということを伝えたかったのと、次元を超えている感じが「私とsamさん」みたいになるかなと思ったんです。私からsamさんに向けて「今、楽しいかな?」って呼びかけたかったので。

鹿乃「ルカルカ☆ナイトフィーバー」MVのワンシーン。

いつか「ガンダム」の曲を

──「闇色アリス」はかつてキーチェック用に歌った曲とのことですが、今回改めてカバーしてみていかがでしたか?

この曲はすごくアニソンっぽいメロディなんですよね。今回いろんな曲を歌わせてもらって、samさんはすごくいろんな楽曲を作れた方だったんだなあと改めて思いました。これはどの曲でも言えることなんですけど、samさんの曲はメロディが歌いやすいんです。歌いながら「できることならもう1回ご一緒したかったなあ」と思いましたし、「闇色アリス」を歌うとどうしてもメジャーデビューする前のことを思い出してしまって……。楽曲に対してというよりもそういう気持ちのほうが強かったかもしれないです。

──「Daybreak」も同じくキーチェックの際に歌った曲だと先ほどおっしゃていました。

この曲に関しては同じようにアニソンのイメージが強いんですけど、ちょっと抱いている印象が違って。話がちょっと反れちゃいますが、私、「ガンダム」がめちゃくちゃ好きなんです。小学生の頃に兄の影響で観始めて、お兄ちゃんが作ってなかったガンプラを勝手に作って怒られたりして(笑)。特にシャアが好きで、「機動戦士ガンダム THE ORIGIN」の劇場版も映画館で全部観ましたし、「機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争」とか、新作も旧作も好きなんです。samさんには「いつか『ガンダム』の曲を歌いたいなあ」とお話したことがあって、「イメージが違うんじゃないかなあ」と言われたことがあります(笑)。この「Daybreak」はサビの熱い感じが私の中で「ガンダム」を思い起こす曲なので、歌っていて当時のsamさんとの会話を思い出しました。もし「ガンダム」の曲を歌うことになったら、samさんに「ほら、話来たよ!」って自慢したいですね。

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samの母の言葉

鹿乃「いつかの約束を君に」
2019年9月25日発売 / インペリアルレコード
鹿乃「いつかの約束を君に」

[CD+DVD] 3300円
TECI-1655

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CD収録曲
  1. マインドボイス
  2. ルカルカ☆ナイトフィーバー
  3. 闇色アリス
  4. Daybreak
  5. 桜のような恋でした
  6. 世界で一番近くに居るのに
  7. 人生ベリーハードモード

ボーナストラック

  • 瞬きの星団
DVD収録内容
  • ルカルカ☆ナイトフィーバー Music Video
鹿乃(カノ)
鹿乃
2001年1月に動画共有サイトに“歌ってみた”動画を投稿し、アーティスト活動をスタートさせる。2015年5月にテレビアニメ「放課後のプレアデス」のオープニングテーマを収録したシングル「Stella-rium」をリリースし、メジャーデビューを果たした。2016年5月には1stアルバム「nowhere」を発表。同年7月には1stライブ「ばんび~の」を成功させた。「ねじ巻き精霊戦記 天鏡のアルデラミン」「ソード・オラトリア ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか外伝」「狐狸之声」など、数々のテレビアニメのタイアップソングの歌唱を担当している。2019年9月にsamfreeのカバー曲で構成したトリビュートミニアルバム「いつかの約束を君に」をリリースした。

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