神田沙也加|新人歌い手・さあやのボカロ愛

潔い「シャルル」、すぐ次に向かう「シャルル」、怒ってない「シャルル」

──歌入れで苦労された楽曲はありますか?

一番時間がかかったのは「てのひらワンダーランド」ですけど、「シャルル」も適正キーを決めるのに難航していろいろ検証しました。

──「シャルル」は今回の収録曲の中でも新しめで、動画共有サイトでも大きな注目を集めた楽曲ですよね。

“歌ってみた”でも流行りましたよね。私も例に漏れず聴いてましたし、歌ったら気持ちよさそうな曲だなと思ったので、それにホイホイされた者の1人だと思ってもらえれば(笑)。「流行ってたし、みんな歌ってたから歌いたいじゃん?」というところに共感した選曲です。

──たくさんの歌い手の解釈がある中で、神田さんはどんなふうに歌おうと思われたのですか?

あまりこねくり回さないと言うか、潔い「シャルル」。未練がましくなくて、すぐ次に向かう「シャルル」と言うか(笑)。うーん……怒ってない「シャルル」かな? 力強いボーカルで歌われてる方が多いんですけど、そうではなくて、起きたことを受け入れてしまってる「シャルル」みたいな。

──不思議な表現ですね。

私、本当にこういう感じで、人に説明すると「えっ?」って言われることが多いんですけど、自分の中では確固たるイメージがあるんです。

──そこは今回のセルフディレクションだからこそできる部分でもあると思いました。

例えば自分のウイークポイントもよくわかっているから、その分何を押し出すべきか判断できるし、自分のできることの中で“潔い「シャルル」”みたいな歌い方を選べるんですよね。でもそれは今だからできることで、数年前には無理だったと思っています。

あまりの神キャストに叫びたくなった

──アルバムのラストを飾る楽曲「Crazy ∞ nighT」には、声優の速水奨さん、江口拓也さん、新田恵海さんが参加されてます。この曲はもともと8人のVocaloidがそれぞれの役柄で歌うミュージカルふうの楽曲ですが、今回はどういった経緯で作られたのでしょうか?

神田沙也加

「Crazy ∞ nighT」はアルバムの中にゴシックな曲も入れたいというのと、「MUSICALOID」というタイトルなので演じる要素もあったほうがいいということで選びました。今回はCDで作品を作るわけですし、演じることを職にされてる方の中でも、声で演じることに特化されてる声優さんに参加していただくのがいいなと思いまして。速水さんは私が通っていた養成所の先生をされていて、江口くんはTRUSTRICKが「俺物語!!」というアニメ作品のオープニングテーマ「未来形Answer」を歌わせてもらったときの縁、えみつん(新田)は「キューティ・ブロンド」というミュージカルで一緒だったので、皆さん交流のある方なんですよ。みんなレコーディングの日は律儀に「今から行ってきます」「終わりました」ってメールで報告してくれました(笑)。

──皆さん複数のキャラクターを演じ分けながら歌われてて、楽しい楽曲に仕上がってますね。

私は3人の声が入った状態で練習させていただいたんですけど、聴きながら表参道を歩いてて、あまりの神キャストに叫びたくなりました(笑)。「この3人の声が入ってる音を持ってる私、役得!」と思って。それぞれ演じ分けもすごいですし、声だけでキャラクターや表情の変化を表現してもらったので、声の演技に特化されてる方にお願いする目論見は当たってたんだと思いました。

──3人の声にご自身の歌を重ねたわけですが、いかがでしたか?

えみつんはもともと地声が高めなんですけど、それに対して私はそんなに高くはないので、そこはいい位置に振り分けることができたなと思いました。あとは皆さんの歌が完成されてるので、私はその隙間を埋めるような形で。速水さんは重みのある声なので、一緒に歌うところでは豊かな声質でクラシカルな歌い方にして工夫しています。恩師と歌う機会なんてそうそうないことなので、感極まるものがありました。

「私こういうのが好きなんです!」って配って歩きたい

──いろんなタイプのボカロ曲をカバーした作品になりましたが、それぞれの楽曲の魅力がしっかりと引き出されてるように感じました。

むしろ私のよさとかは二の次だと思っているんですよ。皆さんがソフトウェアとPCと自分の環境で作ったものが、ネット上で拡散されて、いろんな人に聴かれたり歌われたりする中で、その作品が伸びゆく要素の1つになりたいと思ったのが、今作を作ることにした1つのきっかけなので。ボカロにはもっといい曲がたくさんあるということを知ってもらいたいですし、普段そういった音楽に触れていない人にボカロ曲や“歌ってみた”の文化を伝えられたら、と思っています。

──ボカロ曲だというだけで色眼鏡で見がちな方もいらっしゃいますけど、神田さんのカバー集はそういう方に前置きなく聴かせたら素敵なポップスとして受け入れられるんじゃないかと思いました。

そこは本当に考えました。曲のよさは誰が歌ってるかということだけで決まるものではなくて、その在り方は無限大だし、もとにないアレンジとかコーラスを入れるだけでより好みに近付いていく可能性がいっぱいあるんです。私はある意味素材に徹するじゃないですけど、作品の一部として曲を生かせたらいいなと思っているんです。

──神田さんはこれまでミュージカルや歌手、声優などのお仕事を通じてご自身の歌を届けてこられましたが、それらの活動で培ってきたことを最大限に生かすことができたのでは?

私はデビューがCMのお仕事だったのでタレントっぽい活動から始まって、今までいろんなことをやってきたわけですけど、結果として一番長くやってるのが舞台なんです。それが言わば自分のライフワークの根源にあるんですけど、舞台というのは観劇のハードルが高くて、映画のように気軽に観に行く感じにはならないんですね。それがもっと敷居の低いものになるように、私が橋渡し的な存在になりたいという気持ちもあって、決して得意ではないテレビにも出演させていただいたり、ときには歌を歌わせてもらったりしている部分があるんです。ただミュージカルにだけ重きを置いてるわけではなくて、それぞれのお仕事が相乗効果を持てばいいなと思ってて。今回のアルバムはそういった伏線をうまく回収した感覚があるくらい、作り応えがあったし、満足しています。

──神田さんのキャリアの中でも自信作になったわけですね。

私は普段「舞台を観に来てください」とか「CDをリリースするので聴いてください」とか、全然言わないタイプなんですけど、このアルバムに関しては本当に「私こういうのが好きなんです!」って言いながら配って歩きたい気持ちがあるんです。モノ作りにおいて好きだって気持ちが最後まで薄まらず、濃いまま作れたからなのかなと思って。アルバムが完成して、今すごくうれしいし、早く聴いてもらいたいです。

──「好きの気持ちを原動力にする」というところは、ボカロPや歌い手と同じ部分だと思います。

本当にその通りで、その気持ちは保ててよかったです。やっと歌い手デビューができました(笑)。

──と言うことは今後も“歌ってみた”活動を継続していくのでしょうか?

今回のアルバムで12曲を歌ってみたわけですけど、13曲目からはどうしたらいいか、まだ考えているところなんです。やるからには本気で取り組みたいですから、コンスタントにやっていいものか、ちょっと迷う気持ちもありますし。自分のYouTubeチャンネルに動画をアップしていって、曲が溜まったらEXIT TUNESさんに逆プレゼンしようかな(笑)。でも、ボカロの曲を自分が歌わせていただくというのは、ゼロから曲を作るのとは違う魅力があってすごく楽しいので、今後についてはこのアルバムを聴いてくれた人に逆に聞いてみたいですね。どんな曲を歌ってほしい、とか。まだまだ名曲はたくさんありますし、今回収録しきれなかった自分の好きな曲もあるから、歌い手としても活動を続けていきます。

神田沙也加「MUSICALOID #38」
2018年3月7日発売 / EXIT TUNES
神田沙也加「MUSICALOID #38」此方乃(コチラノ)サヤ盤

此方乃(コチラノ)サヤ盤 [CD+DVD]
3240円 / QWCE-00674

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CD収録曲
  1. 林檎売りの泡沫少女[作詞・作曲:ゆっけ]
  2. SECRET DVD[作詞・作曲:みきとP]
  3. てのひらワンダーランド[作詞・作曲:ササノマリイ]
  4. 路地裏ユニバース[作詞・作曲:papiyon]
  5. 指切り[作詞・作曲:すこっぷ]
  6. シンクロサイクロトロン・スピリチュアライザー。[作詞・作曲:砂粒]
  7. シャルル[作詞・作曲:バルーン]
  8. kiss[作詞・作曲:みきーの(みきとP、keeno)]
  9. アイシテ[作詞・作曲:とあ]
  10. 潜水[作詞・作曲:青屋夏生]
  11. LUVORATORRRRRY![作詞:れをる / 作曲:れをる、ギガ]
  12. 「Crazy ∞ nighT」(w / 速水奨、江口拓也、新田恵海)[作詞・作曲:ひとしずく×やま△]
此方乃(コチラノ)サヤ盤DVD収録内容
  • 「林檎売りの泡沫少女」MUSIC VIDEO (another version)
  • MUSICALOID #38 Making Clip
神田沙也加(カンダサヤカ)
舞台を中心に女優としてのキャリアを積み、多数のミュージカルに出演。2014年3月公開のディズニー映画「アナと雪の女王」日本語吹替版ではアナ役を担当し、大ヒットを記録。同作で第9回声優アワード主演女優賞を受賞した。2014年4月からはユニット・TRUSTRICKの一員としてアーティスト活動を本格化させる。その後3枚のアルバムをリリースし、2016年12月の東京・中野サンプラザホールでのライブをもってTRUSTRICKとしての活動を休止した。2018年2月、ソロ名義でボカロ曲のカバー集「MUSICALOID #38」を発表する。