KAMIJO「美しい日々の欠片」インタビュー|絶望の底で寄り添う、冬のバラードソング

KAMIJOのニューシングル「美しい日々の欠片」と、ライブBlu-ray / DVD「LOUIS XVII」が1月31日に同時リリースされる。

「美しい日々の欠片」はKAMIJO自身も「ここまで絶望で終わる曲はなかった」と語るほどの悲哀に満ちたバラード曲。重厚なストリングスを取り入れたサウンドに乗せて、愛する人を失った深い絶望が感傷的に歌われている。ライブ映像作品には、昨年8月に東京・Zepp Shinjuku(TOKYO)で行われたソロ10周年記念公演「KAMIJO Solo 10th Anniversary Special Live『LOUIS XVII』」の模様を収録。本公演はKAMIJOが10年にわたって描き続けてきたルイ17世の物語の堪能できる内容となっている。

音楽ナタリーではKAMIJOにインタビューを行い、ライブの作り方や新曲に込めたこだわりについて話を聞いた。

取材・文 / 森朋之

「Rusty Nail」を紅白で歌えたことは本当にうれしかった

──まずは昨年12月31日の「第74回NHK紅白歌合戦」についてお話を聞かせてください。KAMIJOさんはYOSHIKIさんのステージにHYDE(L'Arc-en-Ciel、VAMPS、THE LAST ROCKSTARS)さん、PATA(X JAPAN、Ra:IN)さん、難波章浩(Hi-STANDARD、NAMBA69)さん、清春(黒夢、sads)さん、松岡充(SOPHIA)さんらとともに出演しました。

去年のクリスマスにオファーがあったんです。その時点では何がどうなるかわからなかったのですが、とりあえず「Rusty Nail」の歌詞を覚えて、準備だけはしていました。参加されたボーカリストは著名な方ばかりでしたので、僕はハモりに徹して。自分のやるべきことはできたのかな、と。

KAMIJO

──出演者の皆さんとはもともと交流があったんですか?

難波さんは初めてでしたが、ほとんどの方とは面識がありました。YOSHIKIさんとは「YOSHIKI CHANNEL」(YOSHIKIのニコニコ生放送公式チャンネル)でも幾度となくお世話になっていますし、「hide memorial summit」や「VISUAL JAPAN SUMMIT」などでも皆さんとご一緒させていただいて。

──なるほど。「Rusty Nail」という楽曲に対しては、どんな思いがありますか?

昨年、HEATHさんが亡くなったこともあって、自分的にもいろいろな思いがありましたね。僕もずいぶん長く音楽をやらせていただいてますが、その中でさまざまな出会いや別れを経験してきて。そんなことも含めて、「Rusty Nail」の歌詞には改めて共感しました。もともと僕はX JAPANの「WEEK END」でロックに目覚めた人間なので、その続編と言うべき「Rusty Nail」を紅白で歌えたことは本当にうれしかったです。お祭り的な雰囲気もありましたが、出演者の皆さんと一緒にしっかりメッセージを届けられたんじゃないかと思いますね。

──本当に貴重な機会ですよね。

そうですね。もちろんYOSHIKIさんのステージではありますが、先輩方と一緒に歌わせていただくことで感じられることもたくさんあったんですよ。例えばHYDEさんが歌うときのブレスの位置。THE LAST ROCKSTARSのライブ映像を観て確認はしていたんですが、「本番ではフェイクも入れるんだ?」とか。どこで力を込めるのか、どこで抜くのかなど、すごく勉強になりました。

ライブに“演技”が必要だった

──1月31日にKAMIJOさんのライブBlu-ray / DVD「LOUIS XVII」がリリースされます。昨年8月に東京・Zepp Shinjuku(TOKYO)で行われたソロ10周年記念公演「KAMIJO Solo 10th Anniversary Special Live『LOUIS XVII』」の模様を収録した作品で、KAMIJOさんが10年にわたり描き続けてきたルイ17世の物語を堪能できる内容です。

自分のアーティスト活動において、ライブのあり方を常に模索してきまして。アルバム「Sang」(2018年3月発表)のタイミングから声優の方々を起用して、“体感する映画”のようなライブを目指してきたんです。ライブの中で描かれる、ルイ17世を主人公とした物語はほとんどが史実に沿っていて。去年のライブではその中に自分のオリジナルのストーリーやヴァンパイアをモチーフとして取り入れながら、ファンの皆さんと一緒に、まったく新しい物語を作り上げることができたと思っています。

──まさにこの10年の集大成ですよね。

そうですね。周年と言えばベストアルバムやシングルコレクションを出しがちですが、僕の場合、重要な位置付けの曲はシングルよりもアルバムのタイトル曲であることが多くて。そういったことを踏まえて、ライブでしっかりと集大成を作り上げるべきだなと。

──KAMIJOさんのライブは「フルストーリーライブ作品」と称されますが、ライブの制作はどのように行われるのでしょうか?

まず、どうしてこのようなライブを行うようになったかと言えば……映画のエンディングテーマを聴いて感動するのは、その曲が映画のストーリーとリンクして、感情移入できるからだと思うんです。僕は全曲でそれをやりたかったし、そのためには“演技”が必要だったんですね。なのでライブの制作としては、まず脚本を書きます。それをもとに声優の皆さんに演技をしていただき、そこに映像を加えていきます。

──KAMIJOさんが自分で脚本を作るところから始まるんですね。

原作も脚本もすべて自分です。最初に伝えたいメッセージを決め、セットリストを作る。その間を埋めるように脚本を書いていくのですが、先ほども言ったようにほとんどが史実なので、そこまで大変なことは………いや、やっぱり大変ですね(笑)。ライブの数カ月前から脚本を執筆し、声優の皆さんのキャスティングをしていただいて、収録のディレクションなどは、すべて自分主導で行っていますから。

KAMIJO

ルイ17世と僕は背中合わせで1つの物語を作ってきた

──KAMIJOさんのライブでは、舞台美術や衣装も重要ですよね。

そうですね。でも、一番大事なのはやはり原作、脚本だと思います。「オペラ座の怪人」や「白鳥の湖」もそうですが、長きにわたって演じられている演目は原作が素晴らしいし、それさえあればどんなコンテンツにも発展させられるので。軸にあるのは「これを作品として形にしたい」という思い。それを見つけられたら、その後のクリエイティブな部分は努力次第なのかと。

──KAMIJIOさんの作品の核は、ルイ17世だったと。

はい。ルイ17世は、フランス国王ルイ16世とマリー・アントワネットの次男で、10歳で亡くなったとされていますが、実は生きていたという説もあるんです。彼の人生に僕がこれまで経験してきたこと、感じてきたことを反映させる。そういう意味では、ルイ17世と僕は背中合わせで1つの物語を作ってきたのだと思います。それを軸としながら、生まれてくる新しいアイデアをどんどん形にしていって。自分自身も楽しんできたし、「ファンを驚かせてやれ」という気持ちもありますね。

──バンドメンバーの演奏も素晴らしいですね。

本当に。10周年ライブは、La'cryma ChristiのHIRO(G)さん、現在Rayflowerで元ΛuciferのYUKI(G)くん、さらにRayflowerのIKUO(B)さん、元Janne Da Arcのshuji(Dr)くんという強力なメンバーに集まっていただいて。全員が1990年代から活躍していて、しかもメジャーシーンに進出し、ポップス系のアーティストの皆さんと勝負してきた方ばかり。その経験はすごく大きいと思うんですよね。僕の音楽は歌モノとしての要素が強いんですが、アレンジ面において力を貸していただきました。皆さんそうなんですが、すべてのプレイが歌を中心に考えられているんです。例えばHIROさんは1音1音がボーカルのメロディとハモるアルペジオを弾いたり、テンション系の音を加えたりしてくれて。本当に素晴らしい演奏をしていただいたし、とても感謝しています。

──KAMIJOさんはボーカリスト、パフォーマーに徹することができる、と。

それしかやることがないんです(笑)。ライブの最後に感謝の言葉を述べさせていただきましたが、それ以外はほぼMCもなくて。本当にやり切りました。あとはファンの皆さんの存在も大きいですね。例えばマリー・アントワネットが処刑されるシーンでは、会場にいるファンの皆さんが革命広場(コンコルド広場)に集まった群衆のように見えたり。

──確かに。このライブ映像作品は予備知識なく楽しめるし、KAMIJOさんの音楽の入門編としても最適ですね。

はい、全部が入っているので。フランス革命という言葉、マリー・アントワネットという人名はご存知の方が多いと思いますし、それさえわかれば楽しんでいただけると思います。