KAMIJO「美しい日々の欠片」インタビュー|絶望の底で寄り添う、冬のバラードソング (2/2)

ここまで絶望で終わる曲はなかった

──そして新曲「美しい日々の欠片」が1月31日に「LOUIS XVII」と同時にリリースされます。悲哀に満ちたバラードナンバーですが、どういうテーマで制作されたんでしょうか?

先ほど「Rusty Nail」の歌詞に改めて共感したと話しましたが、あの曲と強く心情がリンクしたのは、「美しい日々の欠片」を完成させた直後だったからというのもあったかもしれません。僕の10年の歴史、これまで描いてきたストーリーとは切り離して聴いていただける曲だと思います。まず、「バラードを歌いたい」と思ったんですよね。もちろんこれまでにもバラードは歌ってきましたし、「Sang ~君に贈る名前~」という曲をリリースしたこともあるのですが、あの曲はアルバム「Sang」に収録した「SangIII」の日本語詞バージョンだったんですよ。今回はアルバムと切り離して、1曲で成立する“ザ・シングル”という形で出したくて。僕は冬や雪も大好きなので、そういう世界観を感じてもらえる名刺代わりになるバラードを作りたいな、と。

──歌詞はどういったイメージで書いていったんでしょうか。

昨年は人の命について考えさせられることがすごく多くて。この10年間でもいろいろな別れを経験してきて、この曲では「大切な人との別れが決まっているとき、その日までをどう過ごして、その後どういう状態になってしまうのか」を描きたいと思っていました。これまでの楽曲では必ずどこかに救いを残してきたのですが、「美しい日々の欠片」はそうではなく、ここまで絶望で終わる曲はなかったんじゃないかな。最後が「あなたが どこにもいない」という歌詞ですから。

──確かに。

曲の前半は、死期が迫っている恋人と過ごす時間。曲の半ばで恋人が亡くなってしまい、最後は自分自身の精神状態を描いていて。結局、絶望から立ち上がることができず、その先を歌うことができなかったんです。希望の光は感じられませんが、絶望のどん底に一緒に落ちる、そういう寄り添い方もあるんじゃないかなと。

──なるほど。「美しい日々の欠片」を作ったことで、KAMIJYOさん自身にも変化はありましたか?

ありました。実はこの曲の歌詞は2回書き直してるんですよ。最初に書いた歌詞は、死期が迫っている恋人に対する愛が足りなかった。自分の絶望が中心になっていたので、全部書き直して。別れの時間までどう過ごせばいいだろう、どうすれば彼女の笑顔を絶やさないようにしてあげられるだろう……そこに向き合うことができたし、絶望のまま終わっているとは言え、自分自身も一歩前に進めたと思います。

──KAMIJOさんのボーカルにも深い思いが込められていますね。

実は今回の制作では、Synthesizer V(歌声合成ソフトウェア)を作詞のときに使っているんです。Synthesizer Vでいくつかのキャラクターを使って、キーを変えながら「美しい日々の欠片」を歌わせてみて。仮歌として使ったわけですが、もとになる声の方の癖とかテクニックがちらっと見えたりするんですよ。その過程で「こういう歌い方もあるんだ」という発見もありましたし、自分自身の引き出しもさらに広がって。僕はもともとテクノロジーが大好きで、それを全部自分の中に取り入れようと思っているんですが、Synthesizer Vによって無限の力を手にしたような感じでしたね。

──テクノロジーを活用して、自分自身の表現の幅を広げていくと。

そうですね。僕はもともと、歌詞の主人公に合わせてキャラクターを作ってるので、おそらくKAMIJOとして歌ってないんですよ。登場人物になりきるまでが大変なんですが、Synthesizer Vを活用することで、その選択肢が広がりました。特にこだわったのは、ギターソロに入る前の「隣に ずっと僕がいる」というフレーズ。“いる”を伸ばすところで口の開け方を変えて、母音も変化させているんです。最大の“嘆きポイント”だと思うので、ぜひ聴いていただきたいです。

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僕の中のポール・モーリアの血が騒いだ

──重厚なストリングスとロックサウンドが融合したアレンジも、KAMIJOさんの真骨頂ですね。

実は、今回はロックを忘れて作ろうと思っていたんです。当初のアレンジではギターもほとんど入れてなくて、ベースとピアノとドラムだけで構成して、あとはストリングスですね。これまでは打ち込みでデモを作って、それをアレンジャーの方と一緒に仕上げていたんですが、今回は初めて自分で譜面まで起こして、演奏家の皆さんに弾いていただきました。僕の中のポール・モーリアの血が騒いだといいますか、今回はムード歌謡と言われても文句は言いません(笑)。

──ポール・モーリアはKAMIJOさんのルーツになっている作曲家ですよね。それにしても弦のアレンジを自分で手がけるのはすごいと思います。音楽的な知識も必要ですよね?

もちろんそうなんですが、大事なのはセンスだと思うんですよね。最近、メインのメロディを歌っていると、別のラインが一緒に聞こえてくるんですよ。「美しい日々の欠片」では、そのラインをストリングスに生かしているんです。Bメロの弦楽器は、まさに主旋律と一緒に出てきたラインで。特に2ndバイオリンとビオラの絡みはぜひ聴いてほしいです。もう1つの聴きどころはサビのボーカルのライン。自分の中で「耽美とはこれだ」と言える旋律を作れたと思っています。それと、昨年行ったJapanese Visual Metalのツアー(Moi dix Mois、Versailles、D、摩天楼オペラによる合同ツアー)の影響もありますね。そこでJVM Roses Blood Symphony名義で「協奏曲 ~耽美なる血統~」というメモリアルシングルをリリースしたんですが、「美しき日々の欠片」のサビはそのときに自分が書いた主旋律の延長線上にあるような気がします。そういう意味では、これまでの僕の活動のすべてをこの楽曲に込めることができたんじゃないかな。

──10周年ライブにも参加したHIROさん、IKUOさん、shujiさんのプレイについては?

もちろん素晴らしいです。HIROさんのギターソロは、まさに絶望そのもの。レコーディングでも「絶望ですね」「絶望です」という会話を交わしていました(笑)。ソロのフレーズ作りもすべてHIROさんにお任せしたんですが、本当にすごかったですね。HIROさんとは10周年ライブのときも2人でプリプロをしっかりやらせてもらったんです。ダークな歌謡のセンス、ジャジーな音使いもそうですが、こちらが何も言わなくても欲しいフレーズを弾いてくれるんですよ。IKUOさんはボーカルの譜面を見ながら、対旋律のようなフレーズを弾いてくれて。休符の入れ方もすごく気持ちいいし、この方はやはり日本のトップベーシストだなと実感しました。shujiくんのレコーディングもすごくスムーズで。僕は基本のリズムパターンを作っただけで、あとはすべてお任せしました。ライドシンバルの録り方にもこだわってますね。先ほど「ロックを忘れて作ろうと思っていた」と申し上げましたが、参加してくれた方々がロックの要素をしっかり入れてくださって。本当にありがたいですね。

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“NEW VAMPIRE”が登場します

──現在開催中のライブツアー「NEW VAMPIRE IS BORN」では、新たな主人公が誕生しているそうですね。

ライブ自体は10周年ライブのディレクターズカットバージョンなんですよ。ファンの皆さんが喜ぶセリフもあるし、「美しき日々の欠片」も披露しています。ライブの最後の部分では今後のプロローグとなる新たなストーリーをお見せしていて。そこに“NEW VAMPIRE”が登場しています。僕にとってヴァンパイアはロックスターなんですよ。「Vampire Rock Star」という曲もあるくらい。今回登場したヴァンパイアがどういう存在なのかはまだ明かしていませんが、まずはルイ17世の物語を描いたライブの再演を楽しんでいただけたらなと。

──1月31日にはCLUB CITTA'でツアーファイナルがありますね。

スタンディングのチケットは無料ですので、ぜひいらしてください。

──KAMIJOさんの中では、その先の物語もすべてできているんでしょうか?

はい。これまでの10年間はルイ17世の物語を作ってきたので、途中で新たなアイデアが浮かんでも、取りかかることができなかったんですよ。今回披露した新たなストーリーも2018年くらいには生まれていたので、やっと皆さんにお見せできるとワクワクしています。

──そういうアイデアのストックはほかにもあるんですか?

あります。ただ、楽曲のストックはゼロなんですよ。デモ音源を残しておくとアイデアに詰まったときに頼ってしまうし、本当に自分が伝えたいメッセージとリンクしている曲であれば、必ず思い出すはずなので。KAMIJOのフィルターを通して記憶をたどってこないと世には出ないということですね。

──さらに6月にはヨーロッパツアーも決定しています。2024年も精力的な活動が続きそうですね。

ヨーロッパツアーは日本のツアーとは内容が違うんですよ。4月のライブの予定もありますし、今年は攻めまくるのでぜひ楽しみにしていてください。

ライブ情報

TOUR「NEW VAMPIRE IS BORN」2024

  • 2024年1月19日(金)大阪府 ESAKA MUSE
  • 2024年1月21日(日)愛知県 THE BOTTOM LINE
  • 2024年1月31日(水)神奈川県 CLUB CITTA'

KAMIJO -Visual Rock Identity-「The Anthem」

2024年4月20日(土)東京都 Zepp Shinjuku(TOKYO)

プロフィール

KAMIJO(カミジョウ)

1995年からヴィジュアル系ロックバンドLAREINEのボーカリストとして活動し、1999年にデビュー。その後2007年春にVersaillesを結成し、2009年にデビューした。Versaillesは2012年に活動休止したが、2015年末に活動再開。KAMIJOは在籍したバンドでほぼすべての作詞と大半の作曲を手がけており、劇伴制作でも才能を発揮している。2013年8月にはシングル「Louis ~艶血のラヴィアンローズ~」でソロデビュー。2014年3月にはソロメジャーデビュー作品「Symphony Of The Vampire」をリリースし、同年9月に1stフルアルバム「Heart」を発表した。活動20周年を迎えた2015年はワールドツアーを行い、オールタイムベストアルバム、リバイバルベストアルバムをリリース。2022年10月にアルバム「OSCAR」を発表した。ソロ10周年の2023年8月にアニバーサリー公演「KAMIJO Solo 10th Anniversary Special Live「LOUIS XVII」を実施。2024年1月にシングル「美しい日々」をリリースし、ライブツアー「TOUR『NEW VAMPIRE IS BORN』」を行っている。また6月にヨーロッパツアーの開催も決定している。