ナタリー PowerPush - KAMIJO
薔薇、フランス革命、ポール・モーリア…… ソロ処女作で示したアイデンティティ
“ミュージカルソング”と“革命の中にある人間の儚さ”
──今回のシングルに収録される「Louis~艶血のラヴィアンローズ~」「Grazioso」「幻想トリアノン」という3曲は、ストーリー的につながっていたりするんですか?
はい。つながっています。まず2曲目の「Grazioso」に関しては、「Louis~艶血のラヴィアンローズ~」を別の角度から見た歌詞になっています。
──「Grazioso」はミュージカル要素の強い楽曲ですよね。歌詞もとても詩的だし。
ミュージカルソングを作りたかったんです。ラヴィアンローズとはフランス語で“薔薇色の人生”という意味なんですが、人は誰でも心のどこかにつらいと思っていること、つまり、イバラの道があると思うんですよ。でも、みんなそれに負けずがんばって生きていると思うんです。そんなイバラもいつかはきれいに咲くときが来るよ、ということを「Louis~艶血のラヴィアンローズ~」では歌っていたりするのですが、それを具体的に、ミュージカル的に表現したのが「Grazioso」になっているんです。「Grazioso」は優雅な曲にしたくて、ゆったりとした気持ちで、自分は自分の道をしっかりと歩んでいく──。そんな思いで歌いました。この曲では、初めてイタリア語で歌ったりもしているんです。やはりミュージカルと言えばイタリアかなと思いまして、本場の言葉で歌いたいと思ったんです。
──3拍子で進んでいく「Grazioso」はオペラ歌唱でもあり、聴いていてとても優雅な気持ちにさせられました。そこから3曲目の「幻想トリアノン」へは、どのようにつながっていくんですか?
「幻想トリアノン」は、まさに、フランス革命の戦火の中のイメージです。
──切ないですよね。
そうですね。炎の中に見える恋人の姿といいますか、革命の中にある人間の儚さ的なモノを描いたので。マリー・アントワネットが、革命の中で自分の子供たちと過ごしたトリアノンという離宮がベルサイユ宮殿の中にあるんですが、そこを心のよりどころとして、戦火の中に立ち向かっていく戦士たちの様を思い描きました。
──歴史を見ている感覚になったのは、KAMIJOさんの思惑通りだったということですね。
そう言っていただけるとうれしいです。
常に作り上げた目の前のモノが集大成
──ソロの楽曲は、より強く個性を感じました。「Louis~艶血のラヴィアンローズ~」はクラシカルな要素がふんだんに盛り込まれた、まさに幕開けを感じる1曲でしたし、スピーディで激しくありながらも気品にあふれていて。
はい。そこはとても意識した部分でもありました。バンドサウンドとオーケストラの融合というのが、極めて高い次元で実現できたなと思っているんです。今回、バイオリンもチェロもビオラも、全部打ち込みではなく生で入れているんです。そのダイナミックレンジがエレキギターとどうなじむかというのが、今回の大きなチャレンジでもあったんですが、そこも大成功しましたね。サビが3回繰り返されているんですが、すべて違う表現になっているのもこだわったところでしたし、バンドとなじませるために生演奏の弦の音に打ち込みの弦の音を加えたところもこだわったところでした。また今回、特に意識した点としては、間奏にギターソロがないことなんです。僕はギターのサウンドが大好きなので、今回も細かいリフも1つずつ作っていきましたし、間奏にギターソロを入れたくて仕方なかったのですが、今回はソロデビュー第1弾作品ということもあり、バンドとの差別化を図るために、ギターソロを入れずすべてオーケストラにしたんです。
──そんなこだわりもあったんですね。今後、ライブではどんな表現方法で魅せていきたいと考えていますか?
ライブは、Versaillesがとても面白い魅せ方をしていたバンドだったので、ソロで独自の魅せ方を作っていくにはもう少し時間がかかってしまいそうですね。できる限りビジュアル面と音楽を体感してもらえるような、作品としてのライブを構築していきたいと思っているんです。僕自身、それをどう作っていくのか、楽しみにしているところでもあるので、この先アルバムを作ったあとにライブという形で皆さんにお届けしていけたらなと思っています。
──アルバムの構想は、もうKAMIJOさんの頭の中にはあるんですか?
そうですね。まず今回のシングルで、まさに名刺になるような作品が作れたと思っているので、これを拡大させたモノができてくると思います。
──アルバムは1つの集大成になるということですか?
いや、僕の中では常に、作り上げた目の前のモノが集大成なので、現時点での集大成は今回のシングルなんです。作り置きができないタイプなので。集大成という言葉を使うとするならば、アルバムは、今作からそこまでの集大成ということではなく、まさにそのときの集大成ということになると思います。
僕である意味
──最後に1つお聞きしてもいいですか? KAMIJOさんは、歌詞にあえて難しい表現を用いたり、今回のようにイタリア語を用いたりして作品を作られていますが、わかりやすい言葉で伝えることを選ばないのはどうしてですか?
僕である意味、とでも言いましょうか。わかりやすく誰にでも書けるモノであったら、それは僕である必要性がないと思うんです。例えば「愛してる」といった言葉は、どなたにも伝わるわかりやすい言葉だと思うのですが、逆に僕であることがわかりにくいと思うんです。なので、僕であることをわかりやすくするという意味もありますね。
──なるほど。
それから、とても単純ですが、純粋にこれが僕の好きなことであるということです。どんなアーティストでもそうだと思うんですが、好きなことを必死でやっている姿ってとても素敵だと思うし、人って本気になって向き合っている姿が一番美しく見えると思うんです。僕もただ、自分が好きなことを必死でやっているだけ。いや、楽しんでいるだけですね。僕のことや、僕の音楽を好きと言ってくれる皆さんは、僕と共通認識を持ってくれていると思うのですが、特にフランスが好きという人じゃなくても、フランスをモチーフとした物やビクトリア模様のきれいな物って、みんな大好きだと思うんですよ。だから、それを音楽で思いっきり表現している人もいるんだよって知ってもらって、耽美派と呼ばれるこの世界を好きになってもらえたらうれしいなと思います。
- ニューシングル「Louis ~艶血のラヴィアンローズ~」 / 2013年8月28日発売 / Sherow Artist Society
- 初回限定盤 TypeA [CD+DVD] / 1890円 / SASCD-061
- 初回限定盤 TypeB [CD+DVD] / 1890円 / SASCD-062
- 通常盤 [CD] / 1260円 / SASCD-063
初回限定盤 TypeA / TypeB CD収録曲
- Louis ~艶血のラヴィアンローズ~
- Grazioso
初回限定盤 TypeA DVD収録内容
- Louis ~艶血のラヴィアンローズ~(Music Movie)
- Grazioso(Music Movie)
初回限定盤 TypeB DVD収録内容
スペシャルロングインタビュー / Music Movieメイキング / レコーディング風景 / 楽曲解説等
通常盤 CD収録内容
- Louis ~艶血のラヴィアンローズ~
- Grazioso
- 幻想トリアノン
- Louis ~艶血のラヴィアンローズ~(Instrumental)
- Grazioso(Instrumental)
- 幻想トリアノン(Instrumental)
KAMIJO(かみじょう)
1999年、ヴィジュアル系ロックバンドLAREINEのボーカリストとしてSME Recordsよりデビュー。その後2007年春にVersaillesを結成し、2009年にワーナーミュージック・ジャパンよりデビューした。Versaillesはデビュー作となるシングル「ASCENDEADMASTER」でオリコン週間ランキング8位を記録し、2012年12月にファンに惜しまれつつ活動休止。KAMIJOは在籍したバンドでほぼすべての作詞と大半の作曲を手がけており、劇伴制作でも才能を発揮している。2013年8月にシングル「Louis ~艶血のラヴィアンローズ~」で満を持してソロデビューを果たす。