バンドに対しても自分がメンバーの1人みたいな意識がある

──さっきカクバリズムのタイトルについて曽我部さんは「厳選してる」とおっしゃっていましたが、実際、厳選してるんですか?

角張渉

角張 そうですね。厳選というとアレですけど。最初はユアソンとSAKEROCKというインストバンドが中心にいたわけですけど、ライブをやるにしても意識的に対バンは避けてたんですよ。そのほうがお互いの支持層が広がるんじゃないかと思って。歌モノにしてもウチにはキセルがいるから、近いタイプのアーティストだと被っちゃうなとか。そういう全体のバランスは最初から考えてました。

曽我部 マネージメントの部分も考えてるわけだよね。

角張 そうですね。自分自身マネージメントに関心があったし、できるだけアーティストのそばにいたいという思いが強かったんです。だから、マネージメントもきっちりやっていこうと思うと、アーティストの数もどうやっても絞り込まないといけない。

──だからなのか、カクバリズムって所属アーティストも含めたファミリー感がありますよね。

角張 もともとはそんなに一体感があったわけじゃなかったんですよ。レーベル設立10周年のイベントくらいからちょっとずつ打ち解けてきた感じ。ユアソンは自分よりも歳上なので、後輩としてキャッキャ言ってればよかったけど、ceroとかはめちゃ歳下なので、接し方も多少は変わってきますよね、どうしても。

──ROSEの場合、所属アーティスト同士の関係性はどんな感じなんですか。

曽我部 どうなんでしょうね? よく対バンする人たちもいるだろうけど、あんまりROSE一派みたいな感じにはしたくないんですよ。

角張 谷さんはLess Thanのアーティストについて「所属させてるつもりはない」って言ってましたけど、ROSEもそんな感じですよね。

曽我部 そうだね。アーティストにとっては出したいところから出せるのが一番いいと思ってるから、僕は契約でアーティストを縛るのがイヤで。今回は縁があって1枚作ったけど、次も必ずウチから出さないとダメとかそういう考えはなくて。「所属アーティストがたくさんいますね」ってよく言われるんだけど、そんな感覚もない。だから角張くんがマネージメントもきっちりやってるのがすごいなと思って。だって、もしも自分がマネージメントしてるバンドが対バンで出て、自分たちよりもカッコよかったら絶対にイヤだもん。ツブしてやろうかなとすら思う(笑)。

角張 社長なのに(笑)。

曽我部 だから、マネージメントに向いてないんだよ。人としての器が角張くんみたいに大きくない。

角張 いやいや(笑)。

──曽我部さんの場合は経営者という意識もあまりないわけですね。

曽我部 うん、ない。

角張 ROSEの場合は「1つの場所を作った」という感覚のほうが強いんですよね?

曽我部 そうだね。ライブハウスを作った感じと言うか。

角張 そういうレーベルのあり方にものすごく憧れるんです。でも、自分は所有欲みたいなものがあって、バンドに対しても自分がメンバーの1人みたいな意識がある。

曽我部 所有欲というのはマネージメントをやるうえで必要なことでもあるよね。「絶対にお前たちを手放したくない」という愛情。俺はそれが全然ないの。今日の出会いでしかないから、明日のことは知らないよっていう。

子供の頃から「遊んで暮らすんだ」って思ってた

──ところで、お互いのレーベルのアーティストについての印象はいかがですか? よく聴くタイトルもあるんじゃないかと思うんですが。

角張 ランタンパレードは昔から好きですね。

曽我部 ランタンはすごくいいのに誰も聴いてくれないなと思ってたんだけど、ceroや彼らの周りの人たちが絶賛してくれて。本人もすごく喜んでたし、とてもうれしかったですね。

角張 ライスボウルとは福岡で一緒に飲んだことがあるんですけど、酔っぱらって自転車の上で寝てて。いいバンドだなと思いました(笑)。

曽我部恵一

曽我部 ライスボウルの毛利(幸隆 / Vo, G)くんは東京に来るたびに俺の家に泊まるんですよ。で、毎回俺に説教されるという(笑)。

角張 いい関係ですね(笑)。

曽我部 カクバリズムの作品で一番聴いているのは、鴨田(潤 / イルリメ)さんのアルバムかも。彼はカクバリズムに入る前からチェックしていたアーティストだし、僕自身影響を受けてる。自分の枠をいかに取り払っていくかというテーマを持っているという意味では、僕とも通じるところがある人だと思ってて。弾き語りでも一緒にやってるし、リミックスもやってもらってますからね。

──今後のレーベルのあり方についてもお聞きしたいんですが、サニーデイの最新作「Popcorn Ballads」はApple MusicとSpotifyのストリーミング配信のみという形で世に出ましたよね。あのリリースについて角張さんはどう思いました?

角張 あれにはびっくりしましたね。その前の「DANCE TO YOU」がド名盤で、ずっと聴いてたんですよ。そうしたら、さらっと次のアルバムが配信されて。ROSEを立ち上げた当初に感じた「もう出るの?」という感覚を改めて感じました。「DANCE TO YOU」とも全然違うフレッシュなアルバムだったことにも驚きました。

曽我部 「DANCE TO YOU」は背水の陣みたいな感覚もあったんですよ。はっきり言って、僕は十代の子が四十代のバンドなんて絶対に聴かないと思って。自分が十代の頃のことを思い返しても、四十代のバンドを聴くなんてありえない。そのことに気付いて、「なんとかしないとバンドが終わるぞ」と思ったんですよ。ベースの田中(貴)はラーメン評論家として忙しいし(笑)。

角張 だははは(笑)。

曽我部 それで背水の陣を敷いて「DANCE TO YOU」を作ったら、みんな「いいね!」って言ってくれたんだけど、「ここで守りに入っちゃダメだ、遊び倒さなきゃ!」と思って。「DANCE TO YOU」が売れて、ある程度会社にお金が入ったから、だったら次はお金が入んなくてもいいやと思って「Popcorn Ballads」を作ったの。

角張 すごいっすね。誰かほかに社長がいたら、そうはさせないとお金を隠しますよ(笑)。

曽我部 そうだよね。なんにせよ、自分よりも歳下の子たちが憧れる存在じゃないとダメだと思うし、そのうえで何をやろうか常に考えてる。角張くんもそうじゃん? 「カクバリズムみたいなレーベルになりたいよね」って若い子たちから思われなきゃダメ。

角張 すごくわかります。

曽我部 僕は子供の頃から「遊んで暮らすんだ」って思ってたし、自分にとってミュージシャンがまさにそういう職業だったんだよね。The Rolling Stonesなんか、めっちゃ遊んでそうじゃん。だから、それを今も続けてるだけなんだよ。

角張渉

角張 いやー、俺は小市民だなあ(笑)。自分もハチャメチャやりたいっていうアイデアとか浮かぶんですけど、スタッフのみんながあんまりいい顔をしないんですよ(笑)。だから、何かアイデアを思い付いたら、ユアソンのジュンくんやカメラマンの平野太呂くんにまず相談してきたんです。そうやって周りの友人たちの反応が1つの基準になってて、そういう後押しがないと1人でハチャメチャやる勇気がない(笑)。

クラウドファンディングは好きじゃない

──サニーデイの最新作がストリーミング配信で出たように、リリースや制作の形態も多様化してきましたよね。最近ではクラウドファンディングで制作資金を集めるケースも増えてきました。

曽我部 俺、クラウドファンディングってあんまり好きじゃなくて。ほかの人がやってるのはいいんだけど、俺はやりたくない。好き勝手にやって、それに対してお客さんがお金を払ってくれるのはいいんだけど、「好き勝手やりたいから先にお金もらっていい?」っていうのは自分としては順番が違う。

角張 僕も同じなんですよ。クラウドファンディングをやってる友人も多いし、やってよかったという人もたくさんいるから詳しく聞いたらもっと違うイメージを持つとは思うんですけど、カクバリズムではたぶんやらないですね。

曽我部 社会的なことや映画の制作で資金を集めるのはいいんだけど、僕らがやってることって、基本的には反社会的な活動だと思うんですよ。「遊んで暮らそう」と言ってるわけだから。

角張 反社会的って(笑)。

曽我部 反社会的活動だから学校をイヤになった奴らが集まって来るし、僕らは現実から逃避する場所を作ってるわけだからね。クラウドファンディングって自分にとってロックであること、パンクであることと反するんですよ。お金がなくてもどこかからお金を借りてレーベルを始めてほしい(笑)。

角張 僕も学生ローンでお金を借りてレーベルを始めましたからね(笑)。

曽我部 それは大きい声で言ったほうがいい。インディーレーベルを立ち上げるということは、人生に勝つか負けるか、それぐらいの覚悟でやることだと思うんですよ。だから、角張くんが知らない人からお金を借りてレーベルを始めたのは、カクバリズムがこういう形で続いているということのすごく大事な根本だと思う。

角張 当時、貯金があればよかったんですけど(笑)。

──カクバリズムを立ち上げて15年経ったわけですが、振り返ってみてどうですか?

曽我部 今、最高でしょ?

角張 (笑)。確かにそうかもしれないですね。こないだ札幌のZeppでウチの所属アーティストだけで15周年のイベントをやったんですけど、最初から最後までずっと楽しくて。周年イベントなのに、みんな新曲をやってくれるし、面白いことをカマしてくるんですよ。それがすごくうれしくて。自分で勝手ながら、いいレーベルだなあと思いました(笑)。

左から曽我部恵一、角張渉。

曽我部 10周年や15周年って、自分たちのためのイベントだもんね。

角張 5年に1回とか、区切りのタイミングでしかできないですしね。ウチの場合はやっぱりYOUR SONG IS GOODが15年続けてきてくれたというのが大きいんですよ。バンドあってのレーベルなんで、こうやって続けてこれたのは本当に嬉しいことだと思います。

カクバリズム15 Years Anniversary Special(終了分は割愛)

2017年10月22日(日)大阪府 なんばHatch
<出演者>
YOUR SONG IS GOOD / cero / キセル / 片想い / VIDEOTAPEMUSIC / スカート / MU-STARS / neco眠る

2017年11月5日(日)東京都 新木場STUDIO COAST
<出演者>
YOUR SONG IS GOOD / cero / キセル / 二階堂和美 with Gentle Forest Jazz Band / 片想い / VIDEOTAPEMUSIC / スカート / 思い出野郎Aチーム / 在日ファンク / MU-STARS / mei ehara / and more

15周年イベントの最終公演に向けてカクバリズムとナタリーストアによる新アイテムを鋭意制作中!

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カクバリズム設立15周年記念グッズ

曽我部恵一(ソカベケイイチ)
サニーデイ・サービスのボーカル・ギター。1971年生まれ、香川県出身。1990年代からサニーデイ・サービスの中心人物として活躍し、バンド解散後の2001年からソロアーティストとしての活動を開始する。精力的なライブ活動と作品リリースを続け、客演やプロデュースワークなども多数。現在はソロのほか、2008年に再結成したサニーデイ・サービスを中心に活動を展開し、フォーキーでポップなサウンドとパワフルなロックナンバーが多くの音楽ファンから愛され続けている。2004年に自主レーベル「ROSE RECORDS」を設立し、自身の作品を含む200タイトルを超えるさまざまなアイテムをリリースしている。
角張渉(カクバリワタル)
音楽レーベル・カクバリズム代表。1978年、宮城県出身。1999年に安孫子真哉(ex. 銀杏BOYZ)と共に自主レーベル・STIFFEENを立ち上げ、2001年11月にリリースしたFRUITYの音源集「"Songs" Complete Discography 」がスマッシュヒットを記録する。2002年3月にカクバリズムを設立し、第1弾作品としてYOUR SONG IS GOODの7inchアナログシングル「Big Stomach, Big Mouth」をリリース。以降SAKEROCKやceroなど多彩なアーティストの作品を次々と世に送り出す。現在、レーベルの15周年を記念したツアー「カクバリズム15Years Anniversary Special」を開催中。ツアーファイナルは11月5日に東京・新木場Studio Coastにて行われる。