2002年のレーベル設立以来、持ち前の慧眼でYOUR SONG IS GOODやSAKEROCK、ceroなど個性豊かなアーティストを次々と世に送り出してきたカクバリズムの主宰者・角張渉。かたやメジャーレーベルでの活動を経て、2004年に自らのレーベル・ROSE RECORDSを立ち上げて自由かつアグレッシブな作品リリースを繰り広げてきた曽我部恵一。音楽ナタリーではカクバリズムの設立15周年を記念して、「常に気になる存在だった」という両者の対談を実施し、互いのレーベルに対する印象やそれぞれの運営方針について語り合ってもらった。また特集後半には細野晴臣、EGO-WRAPPIN'、坂本慎太郎、tofubeatsなど、カクバリズムゆかりのアーティスト21組から寄せられた祝福メッセージも掲載している。
取材・文 / 大石始 撮影 / 相澤心也
友達同士でレーベルやってる感じがカッコいい
──曽我部さんはいつ頃からカクバリズムというレーベルの存在を意識するようになったんですか?
曽我部恵一 ユアソン(YOUR SONG IS GOOD)の最初のミニアルバム(2002年の「COME ON」)だったと思いますね。ジュンくん(サイトウ“JxJx”ジュン)から直接もらったんじゃないかな。1990年代に下北沢のSLITSというクラブでライブをやっていたCOOL SPOONあたりのバンドを思い出しましたね。あのアルバムが出た頃は青春パンクの時代でもあったから、ひさびさにこういうバンドが出てきたなあと思って。
僕がバイトしていたdiskunionの下北沢店に曽我部さんがよくお客さんとしていらしてたんです。まだ長女さんが小さくて、曽我部さんがレコードを見てる間、ダンボールの上にちょこんと座って待ってるんですよ。曽我部さんは「もう少しだから、ちょっと待ってて」と言いながらレコードを見てて。
曽我部 お店でしゃべったのが最初だよね?
そうだったと思います。2005年に下北沢のCLUB Queでユアソンと曽我部さんのツーマンをやったことがあって、そのときに曽我部さんをゲストに迎えてサニーデイ・サービスの「青春狂走曲」をやったこともありましたね。
曽我部 あれは楽しかったね。ちょっとラテン~カリプソっぽいアレンジで。あの頃はまだ僕もレーベルを始めたばかりだったから角張くんにいろいろ相談してたんですよ。
プレス数のことだとか税金のことだとか、すごくリアルな話をしましたよね(笑)。
──曽我部さんがROSE RECORDSを立ち上げたのは2004年6月です。角張さんは曽我部さんが自分のレーベルを立ち上げるという話を聞いたときはどう思いました?
正直、びっくりしました。ただ、銀杏BOYZとかパンク~ハードコアのシーンと曽我部さんの接点が表面化していた時期でもあったから、すごく自然でフレッシュだったんですよ。有名なアーティストがインディーで何かをやろうとすると、もうちょっと業界チックになりそうだけど、曽我部さんの場合は全然違った。
──一方、カクバリズムの立ち上げは2002年3月。角張さんの中ではそれ以前から、いつか自分のレーベルをやってみたいという思いがあったんですか?
そうですね。高校の頃からパンク雑誌の「DOLL」とかを読み漁っていたんですけど、アーティストやレコ屋がやってる自主レーベルの存在を「DOLL」やファンジンなんかを通して知って、自分でも憧れてたんですよ。友達同士でやってる感じがカッコいいなと思って。
曽我部 「インディーズってカッコいいんだな」という思いは僕も子供の頃からあったな。ナゴムや太陽レコードは勝手にやってる感じがして、すごく憧れました。
──曽我部さんもいつか自分のレーベルをやってみたいという思いがあったと。
曽我部 ソロを始めるとき、自分は自主でやりたいなと思ってたんですよ。ただ、周りはあんまりメリットがないと考えていて、結局最初はメジャーと契約してアルバムを2枚(2002年の「曽我部恵一」、2003年の「瞬間と永遠」)作ったんです。その後、ほかのレーベルへの移籍の話もあったんだけど、移籍してもまた契約満了の年でほかのところを探すのかと思うと、すごくめんどくさくなっちゃって。だって、そういう細かいことがイヤで音楽を始めたはずじゃん?(笑)
わはは、そうですよね! すごくわかります(笑)。
曽我部 だから、そういう細かいところから逃げるために独立したような感じだよね。
結果、いいタイミングでしたよね。
曽我部 そうかもしれない。当時は「シンガーソングライターがインディーレーベルを立ち上げるなんて、意味がわからない」ってよく言われて。パンクやダンスミュージックのアーティストならともかく。
今は普通になりましたけどね。
曽我部 そうだよね。当時はフォーク歌手が自主レーベルで地味に出してるようなイメージを持たれかねなかったから。だから、最初はそんな前例を覆したいという思いもあった。
立ち上げ当初のROSEはものすごい勢いでリリースしてましたよね。「えっ、また出るの?」っていうぐらい(笑)。でもお客さんからしてみると、すごくうれしいだろうなと思って。カクバリズムでは各アーティスト、2年に1枚ぐらいアルバムを出せればいいかと思ってたんですよ。あんまりアーティストに無理をさせるのもよくないなとかいろいろ考えちゃって。でも、その横で曽我部さんはビシバシ出してた(笑)。
曽我部 「好き勝手やってますよ、僕はタガが外れた状態なんですよ」ということをアピールしたほうがいいんじゃないかと思ってたのよ。自分たちのスタンスを主張する意味合いも含めて。
それは伝わってきました。アーティストサイドはどんどん出したいんですよね。1枚作ったあと、「じゃあ次はタイミング探ろう」なんて言うと、「えっ、すぐにやりましょうよ!」って言われる(笑)。
曽我部 そうだよね。ROSEの場合は売ることよりも、まずは出していくことのほうが大事だから、プロモーションのこととか考えずに、まず出す(笑)。
好きに生きていかないと意味がない
──角張さんはカクバリズム立ち上げのときに意識していたことはあったんですか。
最初は7inchシングルだけをリリースしていこうと思ってたんです。今ほどアナログが注目されていた時期じゃなかったけど、7inchだけ出すのがカッコいいんじゃないかと思って。当時は今みたいにバンドのケアもしてなかったので、思い返すとけっこうなペースで出してたんですよね。
──アナログが注目されていなかった時期だからこそ、7inchシングル専門のレーベルとして打ち出していこうという角張さんなりの戦略もあったんじゃないかと思うんですが。
注目されていないとは言え、ブレイクビーツの12inchやブラジルものの再発はどんどん出てたし、自分らの周りでも当時からアナログを買う楽しさはすごく浸透してたんですよね。その中で僕らみたいな若いレーベルが7inchを出していくのも面白いんじゃないかという気持ちは確かにありました。クボタタケシさんやDJの方々からの反応も励みになりましたね。
──曽我部さんも時代の潮流に対してどういうものを打ち出していくかとか、そのつど戦略を考えているんですか?
曽我部 (即答して)全然考えてないです。好きなことをやろうと思ってるだけで。
そこはずっと変わってないですよね。
曽我部 うん、全然変わってない。ただ、僕も7inchは出していきたいかな。角張くんが言ってたように、クボタさんからメールが来るとうれしいんだよね。こないだも「曽我部くん、中村ジョー&イーストウッズの『Bye Bye シティライツ』の7inchってまだある?」って聞かれて。クボタさんに送るためにも7inchは作らないとダメだなって思ってる。
──それぐらい好きにやろう、と。
曽我部 そうそう。ウチは自分以外の作品もたくさん出してるわけだけど、それも縁。例えば、中村ジョーくんは彼が90年代にハッピーズってバンドをやってた頃からよく対バンしてたし。ほかのアーティストもそういう人たちが多いですね。くされ縁と言うか。
──角張さんはどうやってリリースタイトルを決めてるんですか。
曽我部 カクバリズムはそうとう厳選してるよね?
厳選っていうと偉そうですけど……。
曽我部 いやいや、大事なことだよ。1つひとつのタイトルを愛情持ってやっていることを僕は見てるから。逆にウチは無茶苦茶にやろうと思ってて(笑)。
ははは。ROSEとLess Than TVは自然とそうですよね。
曽我部 Less Thanには本当に勇気をもらってる。こないだ映画(「MOTHER FUCKER」)も観たんだけど、音楽の内容がどうこうよりも、「こうやって好きに生きていかないと意味がないよなあ」と思った。自分のレーベルも好きなようにやろうと。だからさ、自分の音楽のクオリティはものすごく大事なんだけど、ウチのレーベルのバンドのクオリティなんて知ったこっちゃない。自分たちで上げてこい、と(笑)。
曽我部さんと谷さん(Less Than TV主宰の谷ぐち順)という大先輩2人がこういう感じだから大変なんですよ。こないだ谷さんと話していたら、「じゃあ、今度角張のソロ出そうよ」とか言い出すし(笑)。僕も破天荒にやりたいけど、曽我部さんや谷さんみたいにはできない。だから、別のやり方を自然と探っていくというか。普通に宣伝して、地道にやっていくという。
曽我部 俺は角張くんをリスペクトしてるよ。俺も谷さんも好き勝手やってて、カクバリズムだけがしっかりやってる(笑)。
いやいや(笑)。曽我部さんと谷さんには本当にいつもめちゃパワーをもらってますよ。
曽我部 それはお互い様だよ。
次のページ »
バンドに対しても自分がメンバーの1人みたいな意識がある
- カクバリズム15 Years Anniversary Special(終了分は割愛)
-
2017年10月22日(日)大阪府 なんばHatch
<出演者>
YOUR SONG IS GOOD / cero / キセル / 片想い / VIDEOTAPEMUSIC / スカート / MU-STARS / neco眠る2017年11月5日(日)東京都 新木場STUDIO COAST
<出演者>
YOUR SONG IS GOOD / cero / キセル / 二階堂和美 with Gentle Forest Jazz Band / 片想い / VIDEOTAPEMUSIC / スカート / 思い出野郎Aチーム / 在日ファンク / MU-STARS / mei ehara / and more
- 曽我部恵一(ソカベケイイチ)
- サニーデイ・サービスのボーカル・ギター。1971年生まれ、香川県出身。1990年代からサニーデイ・サービスの中心人物として活躍し、バンド解散後の2001年からソロアーティストとしての活動を開始する。精力的なライブ活動と作品リリースを続け、客演やプロデュースワークなども多数。現在はソロのほか、2008年に再結成したサニーデイ・サービスを中心に活動を展開し、フォーキーでポップなサウンドとパワフルなロックナンバーが多くの音楽ファンから愛され続けている。2004年に自主レーベル「ROSE RECORDS」を設立し、自身の作品を含む200タイトルを超えるさまざまなアイテムをリリースしている。
- 角張渉(カクバリワタル)
- 音楽レーベル・カクバリズム代表。1978年、宮城県出身。1999年に安孫子真哉(ex. 銀杏BOYZ)と共に自主レーベル・STIFFEENを立ち上げ、2001年11月にリリースしたFRUITYの音源集「"Songs" Complete Discography 」がスマッシュヒットを記録する。2002年3月にカクバリズムを設立し、第1弾作品としてYOUR SONG IS GOODの7inchアナログシングル「Big Stomach, Big Mouth」をリリース。以降SAKEROCKやceroなど多彩なアーティストの作品を次々と世に送り出す。現在、レーベルの15周年を記念したツアー「カクバリズム15Years Anniversary Special」を開催中。ツアーファイナルは11月5日に東京・新木場Studio Coastにて行われる。