カイジューバイミーが11月12日に東京・渋谷CLUB QUATTROでワンマンライブ「怪獣記」を開催する。
2021年7月にデビューし、ストレートかつエモーショナルなロックナンバー、気迫のこもったパフォーマンスで独自の道を突き進んでいるカイジューバイミー。彼女たちにとって「怪獣記」は今年7月のデビュー1周年ライブ以来、2度目の渋谷CLUB QUATTROワンマンとなるが、前回果たせなかったチケットのソールドアウトを実現させるべく、4人は並々ならぬ決意と覚悟を抱いているという。音楽ナタリーではメンバーとプロデューサーのメルクマール祐にインタビューし、その胸の内をじっくりと語ってもらった。
取材・文 / 真貝聡撮影 / 石垣郁果
決意の血判状
一同 (取材部屋のドアを開けて)失礼します! カイジューバイミーです、今日はよろしくお願いします!
──よろしくお願いします。エレナさんが持っているその紙はなんですか?
スタンド・バイ・エレナ あ、これですか? (半紙を机に出して)血判状です!
──血判状というと、もしかして……。
エレナ そうです、本物の血です。みんな加減がわからなかったので、大変でした。(笑)。
スタンド・バイ・菜月 これには5人分の命が宿ってるんですよ(笑)。
──5人分?
菜月 メンバー4人と、あとはプロデューサーの祐さんの分です。「僕もメンバーだ」と言ってくださっているのを思い出して、祐さんの血も少し拝借しました(笑)。
メルクマール祐 この4人、ぶっ飛んでるんですよ。実際は拝借なんてかわいいもんじゃないです。ニタニタしながら近寄ってきて、半ば強引に(笑)。しかも血って思ったより出ないものなんです。おかげで今日はみんな絆創膏です。
──指の絆創膏はそういうことだったんですか。すごい覚悟ですね。
スタンド・バイ・華希 ついさっき血判状を作ってきました。11月12日に渋谷CLUB QUATTROで開催するワンマンライブ「怪獣記」に向けてお話させていただこうと思って来たので、これがないと始まらないなって。
祐 今までこの4人には、少なくともカイジューバイミーとしては、なんとなくで夢や目標を口にしてほしくなかったという思いがあって。メンバー自身もその思いを近くで感じてくれていて、目標を明言してこなかったんです。だって、ステージで叶えたい夢って、1人で達成できないものがほとんどじゃないですか。応援してくれるファンや心配してくれる家族がいて、実際のところ、僕も自分の夢のためにたくさんの人を道連れにしてきました。それは、自分のエゴに“夢”って名前を付けて、人を巻き添えにするということなんです。だからこそ、その覚悟を持った者が口にした夢から、ドラマや感動が生まれるんじゃないかとも思っていて。今回、メンバーが初めて「この会場を埋めたい」と言ってくれたんですよ。「これが夢だ」って。11月12日に渋谷クアトロでワンマンを開催するにあたり、今日は僕らの覚悟を伝えるべくこの場に来ました。ただ、血判状という形で、しかもそれに自分も参加することになるとは思いもしませんでした(笑)。
──「夢や目標を口にしてこなかった」ということですけど、今回のワンマン開催に至るまで、どんな心境の変化があったんでしょう?
祐 どうなんでしょう……。もともと、カイジューバイミーのメンバーはアイドルになりたいと思って集まったわけではなくて。最初はたぶん、みんなどこか腑に落ちてないながらも、無理矢理に説得されて活動してきたところもあると思います。だからアイドルとして、というよりも、1人の人間として日頃抱えてる鬱憤や、そのときどきの感情を、目の前にすべてさらけ出すことだけを念頭に置いてやってきました。そんな中、ステージを自分たちの居場所にしていく彼女たちの姿を見て、ライブの楽しさをもっと知ってほしいなと思ったんです。そこで提案したのが、2022年は小さい会場でもいいから、思い入れのある場所、そして端から端までカイジューバイミーが好きな人たちだけで埋め尽くした空間でワンマンをしようという話でした。
──メンバーの4人はそれを聞いたとき、どう思いましたか?
スタンド・バイ・ミーア ワクワクしました! 身の丈にあったキャパでの開催だったので、すぐにチケットをソールドアウトさせることができて。集客に気を取られることなく、ライブの演出や中身についてたくさん話し合うことができました。
祐 でも、その計画も長くは続かなかった(笑)。ワンマンライブってメンバーやスタッフにとって特別なもので、それは応援してくれるファンにとっても同じであってほしいのに、気付けば「定期公演」なんて言われるようになってたんです。メンバーからも同じような惰性を感じ取れたので、3つ目の箱である下北沢SHELTERを埋めたくらいで、その計画をなかったことにしてみました。しれっと(笑)。下北沢SHELTERはその計画の中で小さいほうの箱だったんですけど、ソールドアウトするまで時間がかかって、ギリギリだったんですよ。
華希 そんな中、夏以降は自分たちからいろんな地域に行っていろんなお客さんを前にライブをするようになって。それまでは東京の方や、地方から東京に来てくれた方の前でライブすることが多かったけど、この夏の経験を通して「もっと成長したい」という欲が強くなりました。自分たちで「今日は最高だったね」と思えるようなライブをしても、それだけでは納得できなくなって。「じゃあ次はどうしよう?」と、気が付けばどんどん多くを求めるようになっていました。
ミーア 私は、6月の下北沢SHELTER公演のとき、自分の中で思うことがあったんです。祐さんが曲に込めた思いや、活動に対して思っていることを改めて見つめ直すきっかけになりました。そのライブがデビュー1周年の1カ月前というタイミングだったこともあり、自分の中で大きな変化が出てきました。
──言葉にすると、どんな変化なのでしょう。
ミーア 今までは目の前のことだけを見ていたんですけど、少し先のことを見るようになりました。7月に、今回の「怪獣記」の会場でもある渋谷CLUB QUATTROでデビュー1周年ワンマンを開催したのですが、その「1周年」という文字を見たときに、今までは「うまくできるようにがんばらなくちゃ」と思っていたのに対して、「できなきゃ絶対に嫌だ」という感情が新たに芽生えてきて。最初は戸惑いました。
愛に包まれた1周年ワンマン
──今日の取材のために、カイジューバイミーが今年出演したライブの情報を資料としてまとめてみました。セットリストも網羅しているので、かなり分厚くなりましたが。
華希 えー、すごいです! ありがとうございます。
──今年だけで相当な数のライブに出演してきましたね。だいたい120本ほどでしょうか。
エレナ 今まで何本のライブをやってきたのか、こういうふうに資料としてちゃんと見たことなかったです。文字だけを読んでも、そのときに思っていたこと、めっちゃ悔しかった瞬間や最高だなって思った瞬間、ライブ1本1本の記憶がよみがえってきます。自分の中の何かを削りながらやってきたんだなって、強く感じます。思い返すと、7月4日に渋谷クアトロでやった1周年ワンマンがカイジューバイミーの新たなスタートになった気がする。あの日をきっかけに自分の中でカイジューバイミーに対する気持ちが大きくなったし、今は2度目のチャレンジになる、11月12日の渋谷クアトロワンマンのチケットを完売させたいと本気で思っています。当日どんな心境になるかまだ予想がつかないけど、「怪獣記」にすべてを懸けたいという気持ちがめちゃめちゃ強いです。
──今、話しながら目に光るものが見えたんですけど。
エレナ はい。これはただ文字が並んでるだけの紙じゃないなって。この1年間、私たちが生きてきた証で、このセトリの数々は、その日の私たちの感情をつづってあるのと同じなんです。全部が蘇ってくる。だから涙が出てくるんです。
──カイジューバイミーの活動がスタートしたとき、今みたいに声を震わせて話すほど、このグループが思い入れのあるものになると思っていましたか?
エレナ 全然予想してなかったです。去年のナタリーさんのインタビューのときと比べても、いい意味で気持ちが全然違っていて(参照:ロックアイドルグループ・カイジューバイミーが1stアルバム「純白BY ME」発売、バラバラな4人がぶつける剥き出しのマインド)。あのときも今も死に物狂いですけど。
──どう違うんですか?
エレナ 自分の中心にあるものは何も変わらないです。ただ、去年インタビューしていただいたときは4人ともバラバラという印象が、外から見ても、中から見ても強かったと思うんです。今もバラバラだけど、この4人だからこそ生み出されたものがある。ケンカもめっちゃするし、むしろメンバー同士でぶつかる頻度は増えたんです。それだけカイジューバイミーに対して、みんなの思いがどんどん膨らんでいる。グループをよくしたいと思うからこそ、言い合いも生まれる。ときには嫌になる瞬間もあります。でも、最終的に戻ってくる場所がここだから……うーん、言葉で表現するものじゃないのかもしれないですね、これに関しては(笑)。
菜月 エレナが言ったみたいに最近はケンカが増えて、私自身がイラつくこともめっちゃ増えました。前はほかのメンバーが何をしていても興味ないし、干渉もしなかったんですよね。自分のことで精一杯だったんで。でも、カイジューバイミーのよさをいろんな人に知ってもらうために「自分たちはこうしたい」という思いが強くなって。そしたらメンバーにもイラつくことが増えたし、あとはステージだけじゃなくて、街を歩いていてもイラつくようになったんです。
──え、どういうことですか。
菜月 徐々にファンの人も増えてきて、ステージ上の私もカッコよくなってきているはずなのに、ライブ会場から家に帰る途中、道を歩いていたり、満員電車に揺られていたりすると「自分ってなんでもないな」と思うんです。
──ライブをしているときと、ステージを降りたときの落差にイラつくと。
菜月 はい。ライブハウスのステージに立っている自分に自惚れたくない、みたいな気持ちもあって。前は「世の中の人に知られたい」とか思ってなかったのに、そういう感情も芽生え始めました。私は地方から上京してきたんですけど、最初は東京での生活がすごく苦しくて、ずっと逃げ出したかったんです。今も逃げ出したい気持ちはありますけど、カイジューバイミーとして活動していくうちに、ライブというものを知って、身の回りのことにも慣れてきて「こんなもんか」とか思い始めて。前までは満足できていたことも、今じゃ全然物足りなく感じるんです。そんな日常になんかイラつくんですよね。
──いつからそういう感情が芽生えるようになりましたか?
菜月 決定的だったのは、7月の1周年ワンマンです。あの日は本当に感動して、うまく言えないけど……なんかすごいものに包まれたんですよ。感動しすぎて放心状態になった。そのあとに「あれはなんだったんだろう?」と考えたら、「これが愛か」と気付いたんです。この場所が大切だってこと、祐さんが作る音楽のこと、このメンバーで活動すること、ファンが応援してくれていること、すべて含めてあの日は愛に包まれました。
次のページ »
ステージ上での突然の宣言