夢が叶ったと思った瞬間は
──活動していく中で、夢が叶ったと思った瞬間はありましたか?
牧 日本武道館に立ったときとか、ツアーで知らない街に行ったときと答えたらカッコいいと思うんですけど……現実的に言えば、値段を考えずに好きなごはんを食べられたとき。昔だったら質より量で選んでいたのに、バイトもせず音楽だけやって好きなものを食べられた瞬間は「夢が叶ったなあ」と思いましたよ。好きな服とか機材を買えたときもそうだし。日常生活の中にも夢が叶ったと実感することがいっぱいあって、それが蓄積して自信になったり曲作りのインスピレーションになったりしていくから、また夢が大きくなっていくんですよね。
柳沢 僕もCoCo壱番屋で無限にトッピングできたときはうれしかったですね。
牧 「豚しゃぶにほうれん草、今日はチーズもいっちゃおうかな」みたいなね(笑)。
柳沢 甘くなるソースを足したときの背徳感ってすごくないですか?(笑)
──「武道館でライブをやる」「チャートで1位を獲得する」みたいなことを夢に設定していると、果たされたときに燃え尽きることもありそうですが、お二人とも生活に密接なのでその心配はなさそうですね。
牧 大きい目標だけを追いかけて走るのは、めっちゃしんどいと思うんですよ。身近なところにも夢はあるはずだし。例えば、好きなアーティストに会うこともそうですよね。去年ザ・クロマニヨンズとツーマンライブをして、(甲本)ヒロトさんとマーシー(真島昌利)さんに会ったときはヤバかったです。そうやって常に今を楽しみながら築き上げていくのが活動を続ける秘訣だと思いますね。
──夢を持ち続けられる状態を保つことにも意識的ですよね。柳沢さんは以前のインタビューで、ロックギタリストとして「余白を残しておきたい」とおっしゃっていました(参照:go!go!vanillas「MAKE YOUR DREAM」特集)。
柳沢 インプットとアウトプットのバランスはすごく意識しているかもしれないです。インプットしすぎるとガチャガチャしちゃうし、自分の芯がなくなっちゃう気もするので。でも、メンバーが勧めてくれたものは絶対にインプットするようにしています。音楽、マンガ、映画、お酒でもなんでも、とりあえず吸収しようと。自分が一番年下というのもあるんですけど、そうやってきた結果が今なので。
牧 活動の規模が大きくなると慣れや飽きが生まれて、そこから亀裂が入ってバンドが終わってしまうのはよくあることじゃないですか。そういえば、コロナ禍が落ち着いて日光東照宮に行ったとき、門の左側の柱だけ逆になっていると教えてもらったんですよ。完璧になってしまうとそこからは落ちるだけだから、あえて逆にしているそうで。バンドに置き換えても、常に未完成で発展途上、ピークは死ぬときだという気持ちでやってないと足元すくわれると思うんですよね。音楽そのものもメンバーの関係性も、いつも新鮮でいたいです。
影にフォーカスした「SCARY MONSTERS EP」
──ロンドンでのレコーディングや海外フェス出演など、国内に留まらないのも新鮮に活動するためにプラスに働きますよね。
牧 そうですね。海外を目指すことについて「歳を取ってからだと難しくなるよ」と言われることもあるんですけど、実際にやってみて、いろいろな経験を積んだからこそビビらずにできたと思ったんですよね。だから、若くないとできないことなんて、ほとんどないんですよ。行動力と覚悟があれば、何歳でも夢を見られるのかなと。
──新作「SCARY MONSTERS EP」のレコーディングは2回目となるロンドンで行ったそうですが、前回と比べていかがでしたか?
牧 正直、「SHAKE」を録った1回目の感動はなかったかもしれないけど、その分冷静にいろんなことを見れました。前は見るもの全部が「すげえ!」って感じでしたけど、今回は逆に日本のよさを知る機会にもなったし。
柳沢 もちろんロンドンは素晴らしいんですけど、「これなら日本でやったほうがうまくできるな」という部分もありましたね。面白いのは、EPの収録曲のうち「ヒトカゲ」は全部日本で録ったのに、一番海外の音になったんですよ。ロンドンで吸収してきたものを、ちゃんと日本で再構築できるようになってきたのかなと。
──「SCARY MONSTERS EP」は、収録曲を通して「他者とのコミュニケーションの難しさ」というテーマを感じました。
牧 そうですね。最初に作った「ダンデライオン」はテレビアニメ「SAKAMOTO DAYS」からインスピレーションを受けた曲で、テーマは「影」だったんです。坂本太郎というキャラクターは、影から陽の当たる場所に出ていこうとした人間で、そこにいろいろな困難があるわけですけど、今回はその影のほうにフォーカスしようと。EP収録曲の「SCARY MONSTER」は曲名の通り、怖い怪物に見えるような人でもマインドは優しい可能性がある。優しそうでも騙してくる人もいるし、そういう感じ方がフラットに伝わればいいなと思って作りました。前のアルバム「Lab.」に入っている「Super Star Child」という曲も、共感性が高すぎて気疲れしちゃう人がテーマでしたが、そういう人じゃないとクリエイティブなことはできないと思うし、そういう人たちがもっと生きやすくなればいいなと。僕らのお客さんにも若い子もたくさんいる中で、つらい社会に対して僕らの音楽が拠りどころになりたいという気持ちが強くなっていて、それが「影」とリンクしたんですよね。
──柳沢さん作詞作曲の「正体」も同様のテーマですよね。
柳沢 「ダンデライオン」ができたときに原作マンガの「SAKAMOTO DAYS」を読み始めて、朝倉シンというキャラクターをきっかけに思いついたのがこの曲です。出発点が一緒だったというか。
──柳沢さんはインタビューで「牧さんの曲がカッコいいからみんな集まっているというのが僕らの大前提で、柱で、一番の拠りどころ」とおしゃっていましたが、そのうえで自分でも曲を作るモチベーションはどこにあるんでしょう?
柳沢 レノン=マッカートニーに憧れているのは大きいかもしれないです。やっぱり一緒にやったから生まれたものってあるんですよね。牧さんが提案してくれるアイデアは、最初はピンと来ないものもあるんですけど、何回か聴いていくうちに「これかも!」と思えてくる。そういう感覚的な部分での天秤のように振れ幅を感じられるのが、バンドの楽しさだと思うんですよね。
JASRACはアーティストを守ってくれるシステム
──バンドが夢を見続けるうえで、それを下支えするものの1つが著作権やその使用料だったりするわけですが、それを実感したことはありますか?
柳沢 僕は明確にありますね。初めて僕の曲がアルバムに収録されることになって、その印税が支払われたときに、金額がいつもと違ったんですよ。あのときは「JASRACさん、ありがとうございます!」と思いました(笑)。送られてくる明細に詳細が載っていたので「こんなにカラオケで歌ってもらってるのか」と実感できました。僕にとっては如実に変わった瞬間でしたね。
──ちなみに、JASRACにはどういったイメージを持たれていましたか?
牧 よく言われる嫌悪感とかはまったくないですね。ほとんど無料で好きな音楽を聴けるし流せる世の中になってますが、何もかもが無料だと作る側の権利もお金もなくなっちゃう。じゃあほかの仕事しながら音楽やるとなったら、制作活動に費やす時間も減って、新しい曲も作れなくなってしまう。アーティストを守ってくれるシステムとして大事だと思います。
柳沢 車を運転してると富ヶ谷の交差点付近に見えるビルがJASRACですよね? あのイメージがあるなあ。前を通るときは安全運転を心がけつつ、心の中で「ありがとうございます」とつぶやいています(笑)。
──最後に10月から開催されるツアーの意気込みを聞かせてください。
柳沢 EPの5曲はマストでやると思うんですけど、いい作品ができたあとのツアーは緊張感もその分あるというか。音源よりもいい演奏をしたいという気持ちがあるので。昔の楽曲とのクロスオーバーも起こると思いますし。「ツアー楽しみにしています」という声をめちゃくちゃいただくので、これだけの人が楽しみにしてくれているんだということを肝に銘じながら、丁寧にやれたらいいなと思います。
牧 お客さんと一緒になって歌うとか、そういうライブならではの一瞬のエネルギーの輝きみたいなものをたくさん作りたいなと思いますね。「影」というテーマがあるので、コンプレックスや悩みを光で照らすというよりも、僕の影の部分を見せることで居場所を感じてもらえるような、そんなツアーにしたいです。
公演情報
go!go!vanillas SCARY MONSTERS TOUR 2025-2026
HALL TOUR
- 2025年10月14日(火)埼玉県 大宮ソニックシティ 大ホール
- 2025年10月23日(木)栃木県 宇都宮市文化会館 大ホール
- 2025年10月31日(金)愛知県 Niterra日本特殊陶業市民会館 フォレストホール
- 2025年11月1日(土)大阪府 オリックス劇場
- 2025年11月14日(金)長野県 長野市芸術館 メインホール
- 2025年11月24日(月・振休)宮城県 東京エレクトロンホール宮城
- 2025年11月28日(金)北海道 カナモトホール(札幌市民ホール)
- 2026年1月11日(日)広島県 上野学園ホール
- 2026年1月12日(月・祝)香川県 サンポートホール高松
- 2026年1月30日(金)福岡県 福岡市民ホール 大ホール
- 2026年2月1日(日)熊本県 熊本県立劇場 演劇ホール
ARENA TOUR
- 2026年3月22日(日)兵庫県 GLION ARENA KOBE
- 2026年4月19日(日)東京都 TOYOTA ARENA TOKYO
- 2026年4月29日(水・祝)愛知県 日本ガイシホール
プロフィール
go!go!vanillas(ゴーゴーバニラズ)
牧達弥(Vo, G)、柳沢進太郎(G)、長谷川プリティ敬祐(B)、ジェットセイヤ(Dr)からなるバンド。2013年7月に1stアルバム「SHAKE」をリリースし、2014年11月にはビクターエンタテインメント内のレーベル・Getting Betterよりアルバム「Magic Number」を発表した。2020年に開催されたツアー「ROAD TO AMAZING BUDOKAN TOUR 2020」の最終公演では初の東京・日本武道館公演を実施。2023年10月にはデビュー10周年記念アルバム「DREAMS」を発表し、2024年1月にポニーキャニオン内のレーベル・IRORI Recordsに移籍した。2025年9月に、テレビアニメ「SAKAMOTO DAYS」第2クールのエンディングテーマ「ダンデライオン」を収録したEP「SCARY MONSTERS EP」をリリース。本作を携えたホール&アリーナツアーを10月から2026年4月にかけて実施する。
「音楽と生きる、音楽で生きる」特集
- 音楽と生きる、音楽で生きる|アーティストたちが明かす“この道で生きる理由”