音楽ナタリー PowerPush - 石崎ひゅーい×丸尾丸一郎(劇団鹿殺し)

舞台「彼女の起源」出演記念対談 未知なる世界で奮闘中

鬱屈したものをポップなものに昇華させるパワー

──石崎さんは、鹿殺しの舞台を観たことは?

石崎 昔観たことがあって、確か(劇団員の)オレノグラフィティさんがメインの侍の話だったかな……。

丸尾 「田舎の侍」かな?

石崎 あと最近だと去年「山犬」を観に高円寺に行きました。そしたら、(小山田)壮平が目の前の席に座ってて。

左から、丸尾丸一郎、石崎ひゅーい。

丸尾 ちょうど前日一緒に飲んでたって言ってたよね?

石崎 そうそう。そのまま一緒に行けばよかったなって(笑)。

──鹿殺しの舞台にどんな印象を持ってますか?

石崎 鹿殺しはダラダラやらないんですよ。やらないですよね?

丸尾 うん、やらないね。

石崎 3時間とかやらないんですよ。だいたい2時間弱くらいでスパッて終わるんですけど、最後は光が差し込んでるようなイメージがあって、そこが好きですね。必要悪が描かれているんだけど、すごくポップなところも好きです。

──描かれるのは決して人生の勝ち組ではなくて、夢は叶わないし生活も苦しい人々なんだけど、観終わったときに不思議と温かい気持ちになりますよね。

石崎 暗い物語を観てる感じはしないですよね。そういうドロドロと鬱屈したものをグイッと持ち上げてポップなものに昇華させるのって、ものすごいパワーがないとできないことだと思うんですけど、それをやってる劇団の方たちだなっていう印象があって。僕も同じことを歌でしたいと思ってるんで共感しますね。

初舞台の不安は酒が飲めなくなること

──石崎さんは鹿殺しから出演オファーが来たときはどんな心境でした?

石崎 「来たー!」って心の中でガッツポーズしました(笑)。今グングン来てる劇団だから「俺でいいのかな……」とは思ったんですけど、丸尾さんに「1カ月稽古がある」って言われた瞬間にやろうと決めました。10日間とかだったら絶対できないと思うんですけど、1カ月あればなんとかできるんじゃないかなと思って。

丸尾 そう思ってもらえるのがうれしいですね。普通「1カ月もあるの?」って敬遠されるところなのに、むしろポジティブに考えてもらえて。不安はなかった?

石崎 不安は物理的なことだけですね。例えば酒があまり飲めなくなるとか。

丸尾 ははは(笑)。

──出演を発表したあとの周囲の反応はいかがでした?

石崎 それが、ありがたいことに「(お前なら)やれるよ!」っていう人が多くて。それで僕も調子に乗ってますますイケるかもって思いました(笑)。

丸尾 うん、器用か不器用かっていうのはもちろん稽古をやってないからわからなかったけど、でも不器用さも含めてひゅーいくんらしいだろうなって思う。そういう人間力があるから心配はしてないです。

ガラパゴス諸島にやって来た

──丸尾さんはどういうところから「彼女の起源」の物語を着想して、膨らませていったんでしょう?

丸尾丸一郎

丸尾 最近鹿殺しは男性メインの舞台が多かったんですけど、チョビが主役の舞台をやりたいなと思ったんです。そしたらパッとひゅーいくんの顔が浮かんで、ひゅーいくんと一緒にやりたいと思ったんですね。それで、実際にひゅーいくんにオファーして2人の舞台をやるって決まったときに、僕としても何かチャレンジしたいなと思って。例えば日本家屋にちゃぶ台があって、チョビとひゅーいくんが会話してる、みたいな設定のほうが舞台初挑戦のひゅーいくんにとってはやりやすいと思うんですけど、そこから1歩踏み込んでみようと。それで、僕らくらいの規模の劇団が生バンドを取り入れて成功している例をなかなか観たことがなかったので、せっかくひゅーいくんが参加してくれるんだったらやってみようと思いました。

──なるほど。

丸尾 あとひゅーいくんもチョビも、何かドロドロした黒いものを抱えている気がするんですよね。だから、決して2人で遠足に行くような話ではないというか。そう思ったときに、2人の関係が離ればなれになっている姉弟に見えてきて、今回の話の筋であるカセットテープによる“往復書簡”という設定が浮かんできました。生バンドがあると当然歌い手はマイクで歌う必要があると思うんですけど、舞台でマイクでしゃべるのは不自然じゃないですか。でもこの設定ならマイクを使う必然が出てくるからいいんじゃないかなと。

──途中までの台本を拝見したところ、いつもの鹿殺しの舞台よりも歌のパートが多い印象を受けました。

丸尾 そうですね、中途半端にはしたくないと思って。“ここからお芝居です”“ここから歌のパートです”っていうふうに分けたくなくて、ラジカセのスイッチをポンって押したら、ひゅーいくんとチョビのやりとりがずっと流れていくようなイメージですね。

石崎 ストーリーを聞いて、僕が想像していたのと近いと思いました。もちろん丸尾さんが僕にとってやりやすい台本を書いてくれてるんだろうと思うんですけど。きっと僕は歌うんだろうなと思っていたし、あとは“少年感”みたいなものもあるのかなって思っていたんです。僕の曲で言うと「夜間飛行」の主人公のイメージですね。夜中に大声で叫んで疾走してる役っていうか、そういう感覚があります。

丸尾 ちなみにひゅーいくんは他人が作った曲を歌うことに関しては違和感はない? 今回の作品では劇団員のオレノや入交(星士)が作ってるけど。

石崎 けっこう好きですよ。ただ、オレノさんの作る曲は変わってて、ありえないコードとか使うんですよ。それが鹿殺しの独特の世界観を作り出してると思うんですけど、僕が歌ってその世界観を崩さないようにすることに苦戦してます。そこのバランスが難しくて。

──“歌手・石崎ひゅーい”の色が出過ぎないように?

石崎 そうですね。節回しとか勝手に自分っぽく歌っちゃうんですけど、今回は“三樹夫”という役だから。鹿殺しの方たちって、本当にオリジナリティに満ちた人ばっかりなんです。前にチョビさんに「ガラパゴス諸島に来たって思えばいいよ」って言われたんですけど、その意味が少しずつわかってきました(笑)。

劇団鹿殺しロックオペラ「彼女の起源」2015年6月3日(水)~8日(月)東京都 CBGKシブゲキ!! / 2015年6月11日(木)~14日(日)兵庫県 AI・HALL
「彼女の起源」

<作>丸尾丸一郎

<演出>菜月チョビ

<出演>
菜月チョビ / 石崎ひゅーい / 丸尾丸一郎 / オレノグラフィティ / 山岸門人 / 橘輝 / 傅田うに / piggy(ex. pocketlife) / 辰巳裕二郎(ex. 花団) / and more

ストーリー

幼い頃から父親に監禁して育てられた金子陶子(菜月チョビ)のもとに、ある日1本のカセットテープが差し入れられる。差出人は彼女の弟の金子三樹夫(石崎ひゅーい)。テープを再生すると、そこには陶子の知らない世界の様子を伝える三樹夫の歌が吹き込まれていた。その日から陶子と三樹夫のテープを通じた交流が始まる。だが、しばらくして三樹夫からのテープが途絶えてしまう。

凱旋LIVE「彼女の起源FINAL」

2015年6月16日(火)東京都 TSUTAYA O-WEST
2015年6月18日(木)宮城県 darwin

※東京公演にはジョニー大蔵大臣(水中、それは苦しい)、鳥肌実、masato(SuG)がゲストミュージシャンとして参加。

石崎ひゅーい(イシザキヒューイ)
石崎ひゅーい

1984年3月7日生まれ、茨城県水戸市出身のシンガーソングライター。風変わりな名前は本名で、デヴィッド・ボウイのファンだった彼の母親が、ボウイの息子・ゾーイ(Zowie)をもじってひゅーい(Huwie)と名付けた。高校卒業後、大学で結成したバンドにてオリジナル曲でのライブ活動を本格化させる。その後は音楽プロデューサーの須藤晃との出会いをきっかけにソロシンガーに転向し、精力的なライブ活動を展開。2012年7月、ミニアルバム「第三惑星交響曲」でメジャーデビューし、2013年2月から5月にかけて全国47都道府県を回るライブツアー「全国!ひゅーい博覧会」を実施した。同年6月にテレビ東京系ドラマ「みんな!エスパーだよ!」のエンディング曲「夜間飛行」を、7月に1stフルアルバム「独立前夜」をリリース。2014年4月に、自身の亡き母をテーマにしたコンセプトアルバム「だからカーネーションは好きじゃない」を発表した。2015年6月3日より上演される劇団鹿殺しの舞台「彼女の起源」に出演する。

劇団鹿殺し(ゲキダンシカゴロシ)
劇団鹿殺し

2000年、関西学院大学在学中に菜月チョビと丸尾丸一郎によって旗揚げされた劇団。2005年に活動の拠点を大阪から東京に移し、年間1000回以上の路上パフォーマンスを敢行する。あわせてコンスタントに公演を実施し、2010年発表の「スーパースター」は、第55回岸田國士戯曲賞の最終候補にノミネートされた。2013年6月、文化庁新進芸術家海外派遣制度により菜月チョビが海外留学すること、それに伴い1年間の充電期間へ突入することを発表。充電前最後の舞台「無休電車」は東京・大阪ともに全ステージ完売となった。2014年1月にはCoccoを主演に迎え、初プロデュース作品として「ジルゼの事情」を手がける。この公演は演劇界のみならず音楽界でも大きな話題を呼び、同年9月に再演された。2015年6月、菜月チョビの復帰後初出演作として石崎ひゅーいを招いた「彼女の起源」を上演する。