音楽生活50周年! “日本の歌手”石川さゆりが歌い、挑戦し続ける理由 (2/2)

被災者のための歌が欲しい……そんな願いに岸田繁と応えた「石巻復興節」

──人と人とのつながりという意味では、「X -Cross-」シリーズがスタートする前、くるり主催のライブイベント「京都音楽博覧会」に出演されたことも大きかったのではないでしょうか?

そうですね。最初にお話をいただいたときは「昼間の野外なんてちょっと私、場違いで変じゃない?」なんて言ってたんですけど、くるりの皆さんが「絶対楽しいから来てください」とおっしゃってくださって。それで行ってみたら、会場である梅小路公園には蒸気機関車がいっぱい走っているんですよね。何を隠そう、私はSLが大好きなので、「あら、いい場所じゃない! ここで歌えるんだ」って。しかも「津軽海峡・冬景色」を歌っていたら、間奏でSLがボーッと汽笛を鳴らしながら通り過ぎていったんです。あれがすごく忘れられないですね。

──これまで石川さんは「京都音楽博覧会」には2009年、2011年、2014年と3回出演されてらっしゃいます。

2014年は林檎さんが「さゆりさん、シークレットで一緒に歌ってください」とおっしゃってくれて、飛び入りで参加したんです。楽しそうだし、“シークレット”って響きがいいなって(笑)。

──岸田繁さんは過去に「X -Cross-」にも参加されましたが、どのような交流があったのでしょうか?

シゲ(岸田繁)には2011年の東日本大震災の直後にも、一緒に曲を作ってもらいましたね。石巻の仮設住宅をお訪ねしたとき、現地の皆さんが「自分たちの歌が欲しい」とおっしゃっていて、帰りのマイクロバスで「どうにかしてみんなの歌を作れないのかな」と考えていたんです。そこでシゲに電話して「先に言うからね? これは仕事ではありません。お金にもなりません。そんな歌作りだけど、まずやるかやらないかそこから決めてください」って、めちゃくちゃな相談をして(笑)。そしたら即答で「やります」とお返事してくれて、一生懸命石巻に通って、みんなの声を集めて「石巻復興節」という歌を作ってくれました。「音楽はみんなをつないでくれるんだな」と実感した、すごくうれしい思い出です。くるりの2人はとても素敵ですね。シゲはお父さんとよく似てらっしゃってね。どんどんそっくりになっていくんですよ(笑)。

石川さゆり

石川さゆりが歌う、さまざまな女性の姿

──石川さんはさまざまな女性像を歌われていますが、大野雄二さん作曲、つんく♂さん作詞によるアニメ「ルパン三世」のエンディングテーマ「ちゃんと言わなきゃ愛さない」も素晴らしかったです。

「ちゃんと言わなきゃ愛さない」は先に「ルパン三世」のエンディング曲にすると決まっていて、そこからお話をいただいたものでしたから、私の中の峰不二子ちゃん像をイメージして歌わせていただきました。

──サビのパンチのある歌い回しも、見事に不二子ちゃんらしさが表現されていました。

うふふ。そう言っていただけたらうれしいです。歌うときはいつも「この歌に出てくる主人公はこんな性格の人かな? こんなことを言う人かな?」とか、人物像を思い浮かべながら歌っているんです。俳優さんの役作りと似てるかもしれないですね。

──歌謡曲ファンの間では、「津軽海峡・冬景色」の主人公は「さよならあなた」という歌詞の通り、ある人物に自ら別れを告げる、自立した女性の歌の先駆けと言われています。それは石川さんの歌が、現代の若い女性にも支持されている理由の1つではないかと思います。

この歌が発表された1977年は自立した女性を題材にした歌、というのはあまりなかったですからね。ウーマンリブ……なんて言うと、最近の人には「何それ?」なんて言われちゃうけど(笑)、当時はそんな言葉が流行って、「これからは女性が自分自身でイエス / ノーを決めていく」という時代だと言われて。そういう意味でも、阿久悠先生がお書きになられた歌詞は時代の先を読んだ、とても前向きな内容だったなという気がします。

これからも新しい人に出会って、一緒に音楽を届けていかなきゃいけない

──石川さんはこれまでもカバーアルバム「二十世紀の名曲たち」シリーズ、日本の伝統を歌い継ぐことをコンセプトにしたアルバム「童~Warashi~」「民~Tami~」「粋~Iki~」など、さまざまな作品を発表されています。ここでなぜ、石川さんはジャンルを超えて歌に向き合ってこられたのか、という理由についても伺いたいです。

私のデビューした1970年代は今みたいにポップスとか演歌といったジャンル分けはなくて、すべて“流行歌”としてひとくくりにされていたんです。なので私も自分の声と向き合いながら、「これは歌えるけど、これは歌えません」なんて垣根を作るのはもったいないと考えていて。素敵なものはジャンルなんて関係ないし、素敵な出会いをたくさんの人に届けたい。そういうシンプルな気持ちで歌い続けてきました。いい出会いがあれば、いい歌が生まれる。中でも「X -Cross-」シリーズは、まさに新しい出会いの場所になっていますね。

──その一方で石川さんのデビュー曲「かくれんぼ」を今改めて聴くと、無性に郷愁に駆られるんですよね。

あの頃は新人さんが1年に700人近く出てくると言われていて、どの女の子もとてもかわいかったですね。テレビは歌番組がたくさんありましたし、バラエティ番組ではコントもやって歌も歌って、日本中が明るく笑っているような楽しい時代でした。“日本列島改造論”とか言いながら、ものすごい勢いで都市中にビルが建ち、高速道路もたくさんできて、いろんなものが目まぐるしく変わっていく中でデビューしたんです。そんな時代に生まれた「かくれんぼ」は、「谷内六郎さんが描く、温かい雰囲気の絵をそのまま歌にしたような楽曲ですね」なんて言われたこともありました。

石川さゆり

──ほかにも石川さんは浪曲や落語、ラップなど、次々と新しいことに挑戦されていらっしゃいますが、そうした表現方法の可能性についてはどのようにお考えですか?

「日本は深いぞ」と感じますね(笑)。音楽も話芸も面白いものがたくさんあるので、時代の空気を読みつつ、皆さんにどういうふうにご案内できるか、いろいろ試してみたいです。デビューしてしばらくの間は、いただいた曲をただただ夢中になって歌っていましたけれど、ある時期から自分を引っ張ってくださった先生方がどんどんお亡くなりになってしまって。そこから自分の歌をどう作っていくか、どのように届けていくか考えるようになりました。阿久悠先生をはじめ、吉岡治さん、なかにし礼さん……どの方も素敵でしたし、代わりになる人はいないんです。だから私はこれからも歌を届けたいと思ったし、今後は新しい人に出会ったり、探したりしなければいけない。一緒に作品を作って届けていかなきゃいけない。ですのでアルバム「粋~Iki~」に収録した「火事と喧嘩は江戸の華」で、若手のKREVAさんやMIYAVIさんと出会えたのは、本当にうれしいことでした。CDではKREVAさんだけがラップをやっていたんですけど、去年の「紅白歌合戦」では私も挑戦してみて、「こっちの道でも自立しなければいけないな」とか考えました(笑)。

──ラップは海外のものといったイメージをお持ちの方も多いでしょうけど、日本にも古くから早口の歌はありますからね。

そうですよ! 民謡にも早口の歌はいっぱいあるし、そもそもラップは言葉ありきですから。言葉がしっかりと聞こえてこなければいけないし、言葉で紡ぐ世界観もしっかりしていなければ、何も届けられないんです。そういう意味でも、ラップは日本の音楽の魅力、言葉で伝えていく活動にも通ずると思います。こんなことをずっとやり続けられたのは幸せなことですし、私の曲を聴いてくださる皆様には「どういうふうに作るの?」と興味を持っていただけたらうれしいです。

──10月には東京・NHKホール、11月には大阪・フェスティバルホールで50周年記念のリサイタルを開催されます。こちらの公演はどんな内容になるのでしょうか?

私と仲間たちがこれまでどういうことをやってきたか、皆様にご紹介できたらいいなと思っています。せっかく作っても、誰にも届かなかったら、やっぱり寂しいので。これからも皆様に楽しんでいただけることをいろいろ考えていきますし、素敵な歌を一生懸命作っていきますので、まずは「X -Cross Ⅳ-」をぜひ聴いていただきたいですね。

「X -Cross Ⅳ-」参加アーティスト コメント

NARGO、谷中敦(東京スカパラダイスオーケストラ)

阿木燿子

デビュー50周年と聞くと、大御所とかベテランとかいう言葉が思い浮かぶ。でも、さゆりさんにはまったく当てはまらない。未だにさゆりさんは初初しいのだ。瑞々しいのだ。それは歌手としてだけではなく、人としてきちんと生きていらっしゃるからこそに違いない。それゆえ、さゆりさんは共感力が優れている。相手が何を望んでいるかをキャッチする能力に長けている。もし私が愛する人を失ったら、真っ先にさゆりさんに慰めてもらいたい。そう思ったら「琥珀」という詞が自然に生まれた。

宇崎竜童

さゆりサン、50周年御芽出度う御座居ます!!
さゆりサンは挑戦し続ける人だ! いつも新しい歌の世界を旅する探検家だ!! 新作の打合せをする時「今まで歌った事のない様な曲を書いて欲しい」と口には出さず目がモノを言う! だから「そりゃあ、かなり難しい注文です」と私も目付きで返してみる! さゆりサンは、作り手に考えさせる人だ!! 頭の中が、さゆりサンで一杯になってしまう!! そして、いつの間にかメロディが、何処からともなくやってくる!! きっとパワーを送ってくれているのだろう! 100歳まで歌って下さい! 宜しく!

「虹が見えるでしょう」MVのオフショット。(撮影:箭内道彦)

「虹が見えるでしょう」MVのオフショット。(撮影:箭内道彦)

亀田誠治

さゆりさん50周年おめでとうございます。
さゆりさんの発想はいつも自由で、「こんなことやりたい!」という思いがまっすぐ伝わって来るから、みんな「よっしゃ!」と、全人生をかけてさゆりさんの歌に向き合います。「人生かぞえ歌」も、なかなか明けないコロナ禍の中、日本中を元気にする歌を作りたい!というさゆりさんの思いから始まりました。お話を聞いた瞬間、さゆりさんがたくさんの人の前で「人生かぞえ歌」を元気いっぱい心を込めて歌う姿が目に浮かびました。描かれているのは誰にもある日常、つまり人生の泣き笑いです。僕のメロディに、作詞家のいしわたり淳治さんがその人生の泣き笑いを描いてくれました。歌はいつも僕らの人生を明るく照らし、鳴り続けます。「さあ、これから50年まだまだ行くよ!」というさゆりさんの声が聞こえてきそうです。さゆりさん、これからもずっと愉快に誠実に一緒に歩ませてください。

布袋寅泰

50周年おめでとうございます。いつの時代にも常にチャレンジ精神と遊び心を忘れずに、日本の心を歌い続けてきたその姿勢に感服しております。日本を代表するシンガーとして、いつまでもお元気で、艶のある歌声を我々に聞かせてください。ずっと応援しています。

「本気で愛した」について

アップテンポやバラードなど多くの選択肢のある中、あえて王道の艶歌を書かせていただいたのは、情感をまとった歌とギターが同じ弧を描きながら舞うようなイメージを追求したかったからです。レコーディングでは語りかけるような始まりから、悲しみを燃やし尽くすようなクライマックスまで、圧巻のさゆり節を目の前で聴けて鳥肌が立ちました。この曲が50周年の歴史に華を添えられたら大変光栄に思います。

「虹が見えるでしょう」MVのオフショット。(撮影:箭内道彦)

「虹が見えるでしょう」MVのオフショット。(撮影:箭内道彦)

加藤登紀子

静かで、繊細で、激しい! そんな魔力の歌姫。
ずっと以前から石川さゆりさんの歌に注目してきました。
「津軽海峡・冬景色」がヒットした年には、年末の「ほろ酔いコンサート」で、私も彼女の真似をして歌ったことを楽しく思い出します。
その石川さゆりさんから、50周年の歌を、と依頼があった時は、嬉しくて飛び上がり、すぐに頭の中にいろんなアイデアが駆け巡りました。
演歌から民謡、ポップスまでどんな歌も大丈夫なさゆりさんですが、やっぱり、これぞ演歌の真髄、と言うような歌にたどり着けたら、と願い、数曲を作詞作曲しました。

「残雪」について

骨身に染みるような辛い状況、美しいけれど凍えそうな厳しい風景、それを粉雪のような優しい言葉でうたう…。「残雪」という歌を選んでいただきました。
故郷や家族から突き放された人が多い、今の時代。
故郷の風景には、孤独を支える力があることを、さゆりさんは見事に歌って下さっています。
たくさんの人の心に届く歌になることを祈って、さゆりさんに拍手を送ります。

「再会」について

石川さゆりさんのうっとりするような優しさと色っぽさが、歌の中で発揮されていて、本当に嬉しいです。
どう考えても、男の方が生きるのが下手です。笑
だから私は、いつも男の人たちが、愛しいのです。この歌にもその想いを込めました。さゆりさんの歌から、男の寂しさが、ドキドキするほど伝わって来て、グッと来ます。
寂しい男性の方には、さゆりさんの歌に抱かれて欲しいし、女性の方には、さゆりさんの胸の内の思いを感じて欲しいです。

神津善行

石川さゆり嬢とは非常に古い付き合いになる。
「家族そろって歌合戦」や「あなたのメロディー」などの番組で何度も旅をしてきた関係で、子供の頃からという記憶が多い。明るい子の思い出が多いので、明るい歌を作ってみた。
都会に敗れてふる里に帰るのではなく、ふる里の良さを思い出したいという歌である。

「虹が見えるでしょう」MVのオフショット。(撮影:箭内道彦)

「虹が見えるでしょう」MVのオフショット。(撮影:箭内道彦)

石川さゆりライブ情報

石川さゆり五十周年記念リサイタル~心おもむくままに~

  • 2022年10月29日(土)東京都 NHKホール
  • 2022年11月6日(日)大阪府 フェスティバルホール

プロフィール

石川さゆり(イシカワサユリ)

熊本県出身の日本を代表する女性歌手の1人。1973年3月にシングル「かくれんぼ」でデビュー。1977年にリリースしたシングル「津軽海峡・冬景色」が大ヒットを記録し、その年数々の音楽賞を受賞した。主な代表曲は「能登半島」「暖流」「天城越え」「夫婦善哉」「風の盆恋歌」など。年末恒例番組「NHK紅白歌合戦」の常連歌手であり、通算出場回数44回を誇る。2012年からはさまざまなミュージシャンを制作陣に迎えたコラボアルバム「X -Cross-」シリーズを定期的に発表。2022年にはデビュー50周年記念アルバムを連続リリースすることをアナウンスし、5月に第1弾となるコラボアルバム「X -Cross Ⅳ-」を発売した。