INORAN、コロナ禍に生まれたアルバム3部作が完成。動乱の時代に彼は何を想う?

LUNA SEAのギタリスト、そしてソロアーティストとして長年のキャリアを誇り、日本国内外を全身全霊で駆け回ってきたINORAN。コロナ禍でもその熱量は衰えることなく、2020年9月から2021年10月までに3枚のソロアルバムをリリースした。

本特集では、彼と長きにわたり親交を持つライター・ジョー横溝が、コロナ禍に3部作「Libertine Dreams」「Between The World And Me」「ANY DAY NOW」を完成させたINORANへインタビュー。先日リリースされた3部作の最終章「ANY DAY NOW」をフックに、コロナ禍における音楽活動への思いを聞いた。東日本大震災からの10年、社会情勢、政治、哲学などの話をからめつつ、INORANがアーティスト活動をする理由や、「幸せとは何か?」といった根源的な話題にも触れている。

取材・文 / ジョー横溝

震災で変わった価値観、コロナ禍にも生きる

──コロナ禍でいろんなアーティストが翼をもがれて苦しんでいる中、アルバム3作を出せる体力、エネルギーがすごいなと思います。そもそも最初から3部作のイメージだったんですか?

3部作にするイメージはなくて、最初は2枚同時にアルバム(2020年9月発表の「Libertine Dreams」、2021年2月発表の「Between The World And Me」)を作って、ある程度形になったと思ったんです。で、今年に入ってまた緊急事態宣言が出たときに、あれ?と思って。人生は想像するようにはいかないなあ、だからまたアルバムを作るかな、という感じで、もう1枚作りました。それも「作らなきゃ」ではなくて、「作るしかないでしょ」みたいな気持ちになって、(1月に発出された緊急事態宣言を受けて)2、3月あたりにまた作り始めました。

──前の2作は意識しましたか?

過去のアルバムは当然、無意識でもそうじゃなくてもつながるものですね。しかもコロナ禍だからできたと言える作品なので、「ANY DAY NOW」はそういう意味でも過去2作品を意識しました。ドラマで言うと、過去2作品が「シーズン1、2」で、今回の作品が「シーズン3」です。

──では完結編ということ?

完結するかどうかはまだ……未来はわからないので。

──つまりまた緊急事態宣言が出たら……。

でも今年の初めと明らかに違うのは、今って“with コロナ”と“after コロナ”の間ぐらいになってると思うんです。今この時点では、当初のような、心がもがれるような気持ちではないと思うんですよ、皆さんも。俺もそうだし。実際ライブ活動もしてるから、そこまでではないんですよね。

──五里霧中だった去年からの1年半と今は確かに違いますね。でもその1年半で社会の空気もアーティストのマインドもネガティブなほうに向かってしまった感はあります。その中でもINORANさんは動きを止めずポジティブなメッセージを出し続けたし、むしろコロナ禍で3枚もアルバムを完成させた。この原動力はどこにあるかを探ったら、過去のインタビュー(参照:INORAN「INTENSE / MELLOW」インタビュー)にその答えを見つけました。

過去のインタビュー?

──はい。過去のインタビューを読み返していたら「震災で何もできない自分を無力だと感じ、そこから後悔のないように全身全霊で音楽をやるようになった」みたいなことを言っていて。

確かに震災で価値観が変わり、そういう思いでこの10年を過ごしてきましたね。

──ええ。その10年、全身全霊で音楽をやってきた蓄積がこの3枚のアルバム制作の原動力になっているのかなと。改めて震災からの10年を振り返っていかがですか?

たくさんの経験をしたし、いろいろ知ることも勉強もできた10年だと思います。新しくいろんなものに興味が湧いたし。たくさんの大切にしなきゃいけないものが生まれたし、見ているだけで何もできない歯がゆい自分もたくさんいました。だからこそ自分の音楽活動におけるフォーカスが若い頃よりは合っている気がするんです。

──何をやるべきかのフォーカスがはっきりしたと?

うん。だから変なシリアスさと、変なストイックさは抜けましたね。例えばコロナ禍の影響でミュージシャンを含め、食えなくなるみたいな話題がありましたが、なんとか食えればいいわけじゃないですか。このたとえはおかしいかもしれないけど、すっごく安い値段で出してる中華屋のおばちゃんがいて「本当に儲かんの?」って聞いたら、「笑顔が見たいんだよ」って。でも彼らは絶対、それで食べられているわけですよ。ただ必要以上の欲を言ってない。でもお客さんの笑顔に囲まれるという生きがいを見つけて、それが幸せなんです。ミュージシャンもそう。基本はそう思っていたほうが俺はいいと思ってるんです。だからこそ動かないと、店を開けないと笑顔にも会えないですからね。

──たくさんの笑顔に会うことを震災後の10年では意識していた?

そうかもしれません。そういう中で、いろんな人と会って、細美(武士)くんや、SUGIZOや、(佐藤)タイジさんとか全方位で考えていることや主張をしている人もいて、すごく尊敬してます。だけど彼らがやってない、違うところで情熱を燃やすことが自分の役目なんだろうなと思う。もちろん彼らがやってることを僕はすごく応援してますよ。結果は彼らと一緒なのかもしれない。でも僕は僕の位置で、笑顔にするとか、言葉にするとフワッとしちゃうけど、そういうことをやってるつもりなんです。

コロナ禍で気付いたこと

──これまでの話からもわかる通り、INORANさんはブレないですよね。

ブレないというか、俺にはこれしかないんですよね。並外れたものがここしかないんです。

──―震災がフォーカスをはっきりさせてくれたんだとしたら、コロナ禍はINORANさんにどんな影響を与えましたか?

再生するという意味では震災とすごく近いですけど、震災のときは、僕は実際に東北で過ごしていたわけではなかった。コロナ禍はもっと自分の身近なところで起きた事実として、再生、復活というかイノベーションという感じです。もちろん犠牲のうえに僕は生きているので心がすごく痛いけれど、ポジティブに言うと断捨離させられた感じがあります。でもそれはいいことだと思っています。コロナ禍前だって、気持ちがとっ散らかってた人がたくさんいたと思うし。俺も自分という部屋があるなら、そこはかなりとっ散らかってたと思う。

──わかります。

だけどコロナ禍でいらないものを捨て、残ったものを並べて、自分の生きやすいようにできることを今やっている気がします。なので、ネガティブに引っ張られてはいないですね。同調圧力とか、そこに落ちていくとよくないものも出てきちゃいますよね。だからと言って好き勝手やるつもりもないんです。そんなふうに自分の置かれた立場で豊かに生きること、それが大切なんだろうと思います。

──コロナ禍で断捨離して、むしろそれを豊かに感じるのもすごくわかります。

断捨離も最初は不安ですよね。でもよく考えたらときめかないのに抱え込んでいたものがいっぱいあったわけですよ。まあそれがたぶん資本主義だと思うし。資本主義の原理は崩壊しないようにやってはいるとは言え、ちょっと崩壊しつつある感じもありますけどね。

──断捨離のあと、残っていたものはどんなものですか?

真っ先にあるものは、やっぱり人を思うこと、人とつながっていたこと、ですね。それは人生の中でなくなってはいない。でも当たり前のようにあったもの、定期的にあったものは半分なくなって、半分残っている感じです。結局そこにあったものが重複してたんでしょうね。スマートだからいいというわけではないけれど、一番尊いと思えるようなものが残ってます。

──この3部作は基本1人で制作した作品だそうですが、それも断捨離的な意味があるんですか?

それはまったくないですね(笑)。3部作もその前と同じスタッフと作っていて、規模が小さかろうと大きかろうとそこのファミリーで作っています。ソロでやってもMuddy Apesであっても、TourbillonであってもLUNA SEAであっても、それぞれのファミリー、チームでやってますし、そのチームで動くために作ってます。

「触れること」を大事にしたい

──さて、このたびリリースされた「ANY DAY NOW」ですが、前作2作はほぼ曲ができた順に曲を並べたというお話でしたけど、今作は?

だいたいできた順に曲が並びました。

──そうなんですね。でも、アルバム全体として物語性をはっきりと感じます。1曲目は「See the Light」で最後の曲は「Dancin' in the Moonlight」と、どちらも“Light”=光を示す曲です。

いろいろな難関をクリアしたり、旅に行こうよっていう思いが詰まっています。「行きたいなあ」とかじゃなくて、「行くでしょ!」っていう目標ですね。それがあるからがんばれるというのがまずは気持ちのうえでありました。“Light”をキーワードとすると、ある1日の描写というか、いろんなところに旅してそれがダイジェストになっている感じです。

──このアルバム自体が?

そうです。YouTubeで観られるドキュメンタリー的な「世界のある1日」みたいなものかもしれないです。で、やっぱり外に出るなら「自分の好きな人と行くよね」って。誰かをハグしたいし、一生ソーシャルディスタンスは嫌じゃないですか。やっぱり「触れること」を大事にしたい。心で触れるのと実際に触れるのはまた違うんですよ。そういうものをイメージしながら「ANY DAY NOW」のジャケットを作りました。キスをしているイラストのジャケットなんですが、別にキスしたいわけじゃなくて(笑)。

INORAN「ANY DAY NOW」ジャケット

INORAN「ANY DAY NOW」ジャケット

──(笑)。

やはり人に触れたいですよね。コロナ禍によって結局1人では生きていない、生きられないってことが皆さんわかったはずですし。