イナメトオルとしての成功とは

──9月にイナメトオルとしての初のワンマンツアーを行いましたが、フロントマンとしてステージに立った感想はどうでした？

思った以上に楽しめました。バックバンドが信頼できるメンバーだったからっていうのが一番大きいと思うんですけど、お客さんも自分のことを知り尽くしてる人たちばかりだったので、何も隠したり取り繕ったりする必要もないし、変に気負うことなく「今できることを精一杯やろう」って気持ちになれました。

──そしてイナメトオルと並行して、40mPとしての活動も続けていくとのことですが。

はい。自分がフロントに立って歌うときはイナメトオルですけど、ボカロで曲を作るときは当然40mPですし、楽曲提供とかも40mPとしてやっていこうかなと。

──その2つの名義で作風を変えていこうという気持ちはないんですか？

それはないですね。自分にとってのボカロの魅力って、自分が作りたいと思ったタイミングで曲を作って、聴いてほしいタイミングで公開できるっていう自由度の高さが大きかったんですけど、イナメトオルでも同じく作りたいときに作りたいものを発信できるので、あくまで自分の中では「ボカロじゃない声という選択肢ができた」というだけのことなんです。ただ、作家的な活動をしているとどうしても「このタイミングでこれを作らなきゃいけない」みたいなことがあるんですよね。作りたいものを自由に作っていける場としてイナメトオルがあると、気持ちがリフレッシュできて、40mPの活動にいい影響を与えていけるんじゃないかと思ってます。

──自分で歌えるなら、これまでよりもフットワークが軽くなりそうですよね。例えばほかのアーティストとの対バンみたいなことも今まで以上に気軽にできるだろうし、やれることも増えてくると思います。

あー、そうですね。確かに、ボカロPとして活動してると表に出てくことに対してのハードルがけっこう高かったんですけど、イナメトオルとしていろいろ経験させてもらって、表に出ることに対するハードルが自分の中で徐々に小さくなっていってるなっていうのは感じますね。

──ワンマンツアーの東京・LIQUIDROOM公演で、事務員Gさんと一緒に冗談めかした感じで「新国立競技場で将来ライブをやろう」って言ってましたけど。

ははは（笑）。

──実際のところ、ソロアーティストとしてそういう大きいステージに立ちたいっていう気持ちはあるんですか？

もちろんそうなるのに越したことはないと思うんですけど。ただなんかあんまり「メジャーの階段を上がっていきたい」みたいな欲求は、実はなくて。それよりも、曲作りが大好きな人間なので、ずっと長く曲を作り続けたいっていう欲求のほうが強いです。イナメトオルとしての成功っていうのは結局、自分の声でこれから10年後も20年後も曲を作れて、好きなときに作品を披露してそれを聴いてくれる人がいて、というのを生活の基盤があった上でできることなのかなって思ってます。

──そうなんですね。

表に出ようとした理由も根本を掘り下げると、自分を見てくれっていうことじゃなくて、もっといろんな曲を聴いてほしいっていう気持ちからなので。歌うのはそこに付随してやっていること、っていうイメージかもしれないですね。

──やっぱり曲を作るのは楽しいですか？

ホントに楽しいです。曲作りの息抜きが曲作りみたいになってて。それがずーっと何年も続いてきてるので、これは天職なんだろうなって実感してます。なかなか難しいとは思うんですけどね、音楽でずっと生活していくっていうのは。

──とはいえ、もう何年もこれでやってますもんね。

ボカロPとしては8年目になりました。イナメトオルとしてはまだ半年くらいですけど。

──イナメトオルも40mPも、今後どうなっていくのかますます楽しみにしてます。

ありがとうございます。曲を作り続けるっていうことは大前提としてずっと変わらないはずなので、これからもそこに期待していただけるとうれしいです。