五十嵐ハル×岡本信彦|2人の能力は“毒系”と“幻影系”?アニメ「デッドアカウント」で生まれた新たな出会い (2/2)

剥き身のノーガードで創作する人は、特大ホームランを打てる

──「曲を書くことはSNSに悪口を書くことと似ている」という話がありましたが、五十嵐さんは普段SNSをどのように使っていますか?

五十嵐 岡本さんはアカウントを1つしか持っていないとおっしゃっていましたが、僕は誰もフォローしてない鍵垢も持っていて。そこにひたすら思ったことを書き込んでいます。書いた内容をあとで曲を作るときに参考にすることもありますね。

岡本 今って鍵垢にいろいろ書いている方も多いみたいですね。ファンのみんなも「私、持ってます」と言っていて、僕はけっこうびっくりしたんです。僕、後輩たちからよく「心が荒んだときはどうしたらいいですか?」と相談されるんですよ。そういうときは「メモ帳に書き出して、自分の気持ちを整理してみたらどう?」と提案しているんですけど、鍵垢を持っている人たちは同じことをやっているんだろうし、その最たる例が歌詞だったりするんでしょうね。

五十嵐 そうですね。SNSのタイムラインってあとから見直しやすくて。僕の場合は、歌詞よりも重い芯の部分を鍵垢にバーッと書いています。「天国や奇跡を祈ったけど云々」とか、「あまりにも長い地獄が」とか。そういったものをちょっと形を変えながら、歌詞に落とし込んでいるんです。

五十嵐ハル

五十嵐ハル

──岡本さんの創作のモチベーションも気になります。ネガティブな感情をご自身の表現に落とし込むことはありますか?

岡本 あまりないですね。僕は、キャラクターを演じることによってほかの人の人生を歩めることが役者の楽しさだと思っていて。声優はゲームも含めると何万ものキャラクターを演じられるから、知識欲が満たされるんですよね。それが自分にとっては本当に楽しい。そして副産物としてファンの皆さんにも喜んでもらえる、という感覚に近いかもしれません。だからこそ、音楽活動のほうは自ら「ファンの皆さんに喜んでもらおう」という気持ちで活動しています。でも、僕の場合はけっこう特殊というか。五十嵐さんのように、ネガティブな感情も歌にするのが芸術家として一番正しい在り方だと僕は思います。

五十嵐 いやいやいや……。

岡本 僕のようなタイプのほうが心は守れる。だけど五十嵐さんのように剥き身のノーガードで創作する人は、代償は大きいけど特大ホームランを打てると思うんです。五十嵐さんにとってアウトプットは曲を書くことだと思うんですけど、インプットはどのようにすることが多いですか?

五十嵐 インプット……どうでしょう。自分の生活が充実しすぎていると、たぶん歌詞が書けなくなるだろうなと思っていて。だから本当にひどいときは、わざと夜中に起きて、昼夜逆転させながら部屋にこもって、心を孤独にさせたりしています。そうやって環境を作ることがインプットになっているとも言えるかもしれません。

岡本 なるほど。

五十嵐 岡本さんはポジティブで、前向きに物事を考えられている方だと思うのですが、もちろん挫折も経験されていると思うんです。そういったときは、どのように考えるようにしていますか?

岡本 痛みに慣れるって、よくも悪くも強いなと思っていて。声優業界ではオーディションが毎回あって、どんなに売れている声優でも8、9割は落ちるんですよ。だから否定されることの連続というか。最初の頃はそれが苦しかったけど、だんだんと日常になって麻痺していく。そういう経験もあって、僕は「将棋の王様をなくしちゃえばいいんじゃないか」と考えています。

五十嵐 というと?

岡本 将棋は王様を取られたら負けですけど、僕は将棋盤から王様をなくしちゃえばいいんじゃないかと考えたんです。自分にとっての心臓の部分、一番の弱点を逃がしたまま人生を送ればダメージを負うことはないんじゃないかと。否定されているのは僕自身ではなく、僕の中に作り上げた「声優・岡本信彦」なんだ、と切り離して考えています。

五十嵐 ……すごいですね。僕もそのマインドを取り入れてみたいです。

岡本 つらいときにはぜひ(笑)。でも、難しいですよね。守りの駒を全部抜いて、王様単身だけで攻めてボロボロになるからこそ、作品にものすごい輝きが宿る……五十嵐さんはそっちのタイプだと思うので。

五十嵐 確かに。

岡本 あと僕の場合は、運動とごはんで基本なんとかなってます。

五十嵐 いいですね、めっちゃ健康。

岡本 もうね、筋肉がなんとかしてくれる。あるキャラクターを演じるにあたって「叫び声をもっと強化したい」と思って筋トレをし始めたんです。その結果、「筋トレっていいな」「全部どうでもよくなってくるな」と気が付いて(笑)。

五十嵐 そうなんですね(笑)。

岡本信彦

岡本信彦

ファンは仲間のような存在になっていく

岡本 五十嵐さんは確か、去年初めてライブをされたんですよね?

五十嵐 はい、11月に初めてやりました。想像の100倍緊張しちゃいましたけど、すごく楽しめました。お客さんの熱を直接感じられたのがうれしかったですね。ネット上でいつも反応をもらっていたけど、直接対面するのは初めてだったので。

岡本 ファンの人たちの存在って自信や自己肯定感につながりますよね。僕の場合は普段声優として役を背負っているから、それを貫通して自分そのものを応援してくれる人はすごく貴重で。最初は「歌はあまり期待しないでほしい」と思っていたけど、だんだん「この人たちのために歌おう」という気持ちになってきて、今は応援してくれるみんなのことを一緒に盛り上げてくれる仲間のように感じています。五十嵐さんのファンは五十嵐さんの音楽性に惹かれて集まっているから、きっと急にいなくなったりしない。仲間のような存在になっていくと思います。

五十嵐 そうですね。3月には初めてのワンマンライブが東京と大阪であるんですけど、東京の会場は前回の倍くらいのキャパで。そのぶん緊張も増すだろうけど、もっと多くの人と会えると思うと本当に楽しみ。みんなのパワーをもらいながら、がんばっていいライブにしたいです。

──今日お二人で話してみて、いかがでしたか?

五十嵐 自分は最初すごく緊張してたんですけど、岡本さんが本当に素敵で、もう太陽みたいに輝いていて。

岡本 いやいやいや……。

五十嵐 緊張もちょっとずつほぐれて、優しい気持ちにさせてもらいました。自分はネガティブ、岡本さんはポジティブと、ある意味逆の考え方が中心になっていますが、岡本さんのような考え方を自分の中にも取り入れられたら、もっといろいろな曲が作れるだろうなと思いました。勉強になりましたし、「プロだな」「すごいな」とずっと感動していました。

左から五十嵐ハル、岡本信彦。

左から五十嵐ハル、岡本信彦。

岡本 鬱屈とした気持ちやネガティブな感情から生まれる五十嵐さんの楽曲は、きっとたくさんの人たちに刺さると思います。このまま突っ走ってほしいです!

五十嵐 ありがとうございます!

──では最後に、アニメ「デッドアカウント」の今後の展開を楽しみにしている方々へ、メッセージをお願いいたします。

岡本 縁城含め、弥電学園には個性豊かなキャラクターたちがそろっています。しかもみんな、SNSの使い方がちょっとブッ飛んでいる。「電能が心を表しているということは、この人実は性格ヤバいんじゃない?」「もしかして過去に何かあった?」というところも含めて、楽しみにしていただけたらと思います。

五十嵐 岡本さんもおっしゃっていた通り、面白いキャラクターがどんどん出てきて、ずっと飽きずに観続けられる作品だと思います。物語には今後さまざまな展開がありますが、それを踏まえてまた「デッドエンド」を聴いていただけたら、最初とは違った聴き方ができるんじゃないかなと。アニメと一緒に、「デッドエンド」も何度も聴いていただけたらうれしいです。

五十嵐ハル 公演情報

五十嵐ハル LIVE TOUR「Mr.Sentimental Vol.1」

  • 2026年3月5日(木)東京都 WWW X
  • 2026年3月13日(金)大阪府 Music Club JANUS

プロフィール

五十嵐ハル(イガラシハル)

元警察官という経歴を持つシンガーソングライター。楽曲制作からイラスト、ミュージックビデオ制作まですべてを行う。高校時代からバンド活動をスタート。バンド解散後、生活の中での憂鬱な気持ちを吐き出したいという思いからDTMで曲作りを始めた。2024年3月に1st EP「映画」をリリース。2025年11月に初のワンマンライブ「五十嵐ハル 1st LIVE『NO TITLE』」を開催する。2026年1月にテレビアニメ「デッドアカウント」のオープニングテーマ「デッドエンド」を配信リリース。3月にライブツアー「五十嵐ハル LIVE TOUR『Mr.Sentimental Vol.1』」を行う。

岡本信彦(オカモトノブヒコ)

声優 / アーティスト。声優プロダクション・ラクーンドッグの代表取締役。2009年に「第3回声優アワード」で新人男優賞、2011年に「第5回声優アワード」で助演男優賞を受賞。代表作に「僕のヒーローアカデミア」(爆豪勝己役)、「鬼滅の刃」(不死川玄弥役)、「ハイキュー!!」(西谷夕役)、「青の祓魔師」(奥村燐役)、「葬送のフリーレン」(ヒンメル役)など。2012年5月にKiramuneより1stミニアルバム「Palette」をリリースし、アーティストデビュー。2025年10月に7thシングル「綺羅桜」をリリースした。