美しい声と美しい演奏で100%の歌を届ける
──話をオーケストラツアーに戻しまして、HYDEさんが感じるオーケストラ公演における醍醐味は?
歌に集中できることですね。それはホントにありがたい。コロナ禍くらいから「やっぱり自分はボーカリストなんだ」と自覚するようになって、オーケストラと共演をしているときはそれを再認識できる。激しいライブをするときは、体全体で表現したくなるし、作る曲もそれを想定したものになっていく。ライブでもお客さんが盛り上がっているかどうかが重要で。もちろん、そのよさも面白さもあるんですけど、オーケストラ公演では美しい声と美しい演奏を聞かせることに振り切れる。
──激しいライブはアスリート的な瞬発力とマルチタスクが求められるけど、オーケストラ公演ではじっくり歌に向き合える感じでしょうか?
そうですね。どうしても激しいライブはパフォーマンスを意識する分、歌が疎かになってしまう部分があって、100%の歌を聞かせることができない。一方でオーケストラ公演では100%歌に集中できる。
──自分の中で切り替えはすぐできるものなんですか? 例えば俳優さんだと、演じた役が抜けるまで時間がかかる人もいると聞きますが。
僕の場合、切り替えは早いですね。
──ここまでお話を聞いていて感じたのですが、今は「ジキル博士とハイド氏」の物語のように、HYDEとしての側面とJEKYLLとしての側面が融合されるタイミングでもある?
そうそう! 自然とクロスオーバーする部分はありますね。面白いことに、ライブハウス公演で得たスキルが生かされるんですよ。「こうしたほうがいい声が出るんだな」とか、相互作用が働く。
──この5年間で培った技術が反映されると。そういったことを踏まえて、今のご自身の歌における強み、武器というのは?
声色での表現じゃないかな。激しいライブでもただ叫んでいるわけじゃなくて、押し引きが難しいんですよね。その表現を経験したことによって、デスボイスとクリーンボイスを切り替えながら出せるようになった。以前は、声が荒れちゃってシャウトしたあとにクリーンボイスで歌うことができないこともあったんです。どうやったらうまく切り替えられるのか、いろいろ試行錯誤した結果、声を出すうえでの理屈を理解した。5年前までは、どんなに歌に集中していてもオーケストラコンサートで声が割れるのは仕方がないことだとあきらめていたんです。
──HYDEというボーカリストの特性の1つと認識していた。
これまではね。でも、単に自分の経験やテクニックが足りてなかったことに、この5年間で気付いた。オーケストラツアーではそういう気付きが生かされるでしょうし、自分としてもステージで試したい。やり直しができないライブという場において、何曲も歌う中で発揮できるものがあるので。玉置浩二さんやMISIAさんといったオーケストラライブでいい歌を聴かせてくれるアーティストがたくさんいると思うんですが、自分もそういう人たちと肩を並べられるようなボーカリストになりたいなと思いますね。
──こと歌だけにフィーチャーしたときに、HYDEさんが目指すアーティスト像というのは?
「ROENTGEN」を作っていたときは、デヴィッド・シルヴィアンとか、その当時好きだったアーティストをイメージしていましたが、今はMORRIEさんや自分が憧れているアーティストの影響も受けつつ、あくまでもHYDEとしての表現を目指しています。
カラオケで歌がうまい人はモテるらしい
──この5年間、HYDEさんはライブハウス公演に加えて、さまざまなフェスに出演する中で新しいファンを獲得されてきました。となると、“静のHYDE”を知らない人も多いと思うんです。特に若い人たちは、L'Arc-en-CielのボーカルとしてのHYDEさんのことも知らないケースもあり、そういった新規のリスナーに向けてオーケストラツアーをアピールするとしたら?
カラオケで歌がうまい人ってモテるらしいんですよね。
──どうしました? 急に。
僕ね、10年くらい前までそのことを知らなかったんです。
──大変差し出がましいのですが、昭和時代から続く風習的なものだと思っておりました。
これまでそういう文化に触れていなかったし、例えばカラオケに行って歌がうまい女の子がいても、その子のことを好きになったりは自分はしないので。僕もモテたくて歌っていたわけでもないし。だから「歌が上手な人が好き」「歌がうまいと好きになる」という人に会ったとき、「そういうことあるの?」と思ってた。でも、上手だとモテると知ったからには、モテたい人にアピールしたい。ぜひ何かつかんでいってください(笑)。というのは冗談として、歌ってこうやって歌うんだとか、こう歌ったらカッコいいんだというのを感じていただけるかなと。あと、僕のようなロックボーカリストがオーケストラ公演をするという意外性も面白がってもらえると思います。
──個人的にはアレンジがとても楽しみで。もちろんオーケストラと作った曲がメインになると思いますが、いわゆる“激しいライブ”で披露してきた曲も新しい形で届けられるんじゃないかと期待してるんです。そうすることで曲の違う表情、魅力を知ることができる。
そういう構想もありますし、生で聴いたらヤバいと思いますよ。
テクノロジーが進化しても変わらないもの
──オーケストラ公演は静かなイメージがありますが、ライブハウスでのライブと同様に人力でパフォーマンスが作られますし、HYDEさんは肉体を使って歌い、楽器隊の皆さんも体を駆使して音を奏でるわけです。PCや生成AIを使えば気軽に音楽を作れる今の時代において、効率性とは真逆の位置にあるエンタテインメントですよね。HYDEさんは日常生活で生成AIを使う場面はありますか?
ChatGPTを調べ物なんかに活用したりはしてるけど、制作的なところでは使ってないですね。ただ効率化という意味では素晴らしいですよね。取り入れられるところは取り入れないと、時代に乗り遅れてしまうとは思っています。でも、そうなってくると何が本物なのかわからなくなってくる怖さもある。例えば、今は映像も写真もどれがCGや生成AIで作ったものなのかわからないくらい、クオリティが高くなっている。昔は心霊写真って本当に怖かったですよね。でも、今はそういう写真を見ても「どうせ作ったんでしょ?」って思っちゃう。僕らが若い頃はCGが使われ始めた時代で、映画でCGシーンが出てきたら「これCGじゃないか?」とか気にしながら観てたんだけど(笑)。今の子たちはCGや生成AIが当たり前だから、そういうことは考えずに触れている。生成AIで作られたものって今はまだちょっと血が通ってない感じがするけど、近いうちにさらに改善していきますよね。そうなってくると、人間が考えることがなくなってしまう怖さがある。今だってスマホの中に、僕の記憶のほとんどが入ってるし(笑)。
──ますます人間が表現活動をする意義が問われますよね。
そうですね。ただエンタメでもスポーツでも、人が卓越した技術を持って本気でぶつかっていくのだけは、今も昔も変わらず観ていて燃えますよね。やっぱり、どんなにテクノロジーが進化してもそういうのは変わらない。
──スポーツ観戦やライブ観賞などは、今も昔も盛況ですよね。再現性のないライブがますます重要視されるというか。
そこだけはコンピュータでも敵わないんじゃないかな。そういった意味でも1月にスタートするオーケストラ公演は、僕を含めミュージシャンたちが本気で音楽と向き合って作っていくので、見応えがあると思います。
来年こそはちょっとのんびり?
──年末が近付いておりますので、恐縮ですが恒例の質問をさせてください。2025年を振り返ってどんな1年でしたか?
いやあ、恐ろしいくらい早かったね。なんか今、アメリカで野球のワールドシリーズとかやってるじゃない? それを観ながら「あれ、まだ春じゃなかったっけ?」って一瞬思って。それくらいの感覚。「うわ、もう年末?」って驚くみたいな。海にも行ったし、砂浜にも行ったし……でも、がんばって思い返さないとエピソードが出てこないですね(笑)。
──過去はあんまり振り返らない?
というより、記憶がどんどん抜けていくんです(笑)。でも充実した1年だったと思います。ライブも限界までやれたし。思い残すことがないですね、2025年は。大阪・関西万博でサークルピット作って、ウォールオブデスもやって(参照:HYDEが大阪・関西万博「和歌山DAY」ライブで会場を熱狂の渦に、同郷・玉置成実とデュエットも)。まさか万博の関係者の方は、人が転がるようなライブをやるとは思わなかったでしょうけど。
──あと、今年の活動で言うと、TOMORROW X TOGETHERに「SSS (Sending Secret Signals)」を提供したことも大きなトピックです。この曲はどのような経緯で生まれたんですか?
もともと、「JEKYLL」用に作った曲だったんです。ただ、リリースまでまだ時間があるから、誰かに歌ってもらえないかな?とスタッフに相談したら、TXTとの話を提案してもらったという感じです。彼らが歌ってくれることになった段階ではまだ歌詞はできてなくて、そこからTXTのイメージで歌詞を書き下ろしました。
──TXTの最新アルバムの中でも異質な曲ですよね。ほかの収録曲に比べて、すごく大人っぽい。
そうですね。レコーディングされたものをチェックするときに何回も「セクシーに、セクシーに」って伝えました。
──怒涛の2025年を経て、間もなく2026年を迎えるわけですが、このあとの展望は?
もうちょっと精神的に落ち着きたいですね。のんびりしたい。
──去年のインタビューでも確かそのようなことをおっしゃってましたが。
そうなんですよね(笑)。のんびりしようとしても、何かの締切が近付いてきちゃう。来年こそはちょっと……。
──その「のんびり」のイメージは?
山小屋に滞在して、「ああ、今日はちょっと弾いてみるか」という感じでギターを弾いて、できなかったら「また明日やろう」みたいな。でも、なんかそうしてても締切が来ちゃうんですよね。「今年はなんかめっちゃ余裕あるな」と前半は思っていたのに、今では締切に追われてます(笑)。
──となると、2026年も2025年と変わらず多忙を極めそうですね。
はい(笑)。
公演情報
HYDE Orchestra Tour 2026 JEKYLL
- 2026年1月17日(土)福島県 けんしん郡山文化センター(郡山市民文化センター) 大ホール
- 2026年1月18日(日)宮城県 東京エレクトロンホール宮城
- 2026年1月20日(火)大阪府 フェスティバルホール
- 2026年1月21日(水)大阪府 フェスティバルホール
- 2026年1月23日(金)北海道 札幌文化芸術劇場 hitaru
- 2026年1月25日(日)埼玉県 大宮ソニックシティ 大ホール
- 2026年1月29日(木)東京都 東京ガーデンシアター
- 2026年3月1日(日)香川県 レクザムホール(香川県県民ホール)
- 2026年3月13日(金)広島県 広島上野学園ホール
- 2026年3月14日(土)山口県 山口KDDI維新ホール
- 2026年3月21日(土)愛知県 愛知県芸術劇場 大ホール
- 2026年3月22日(日)愛知県 愛知県芸術劇場 大ホール
- 2026年3月24日(火)福岡県 福岡サンパレス
- 2026年3月31日(火)神奈川県 ぴあアリーナMM
- 2026年4月1日(水)神奈川県 ぴあアリーナMM
チケット料金
全席指定:税込12000円
車いす席:税込12000円
FC限定 アップグレードシート:税込30000円(※チケット料金 12000円+アップグレード料金 18000円。各会場の前方席を保証するチケット)
チケット先行予約期間
プレイガイド最速先行 チケットぴあ(抽選)
申込期間:2025年11月27日(木)18:00~12月7日(日)23:59
チケット一般発売
2025年12月21日(日)10:00~
Overseas Ticket Sales (Lottery)
Application Period: November 27th (Thu) 6:00pm (JST) - December 7th (Sun) 11:59pm (JST)
※This is a raffle for fans residing OUTSIDE of Japan.
※Credit Card ONLY
プロフィール
HYDE(ハイド)
L'Arc-en-Ciel、VAMPS、THE LAST ROCKSTARSのボーカリスト。2001年にソロ活動をスタートさせ、日本のみならずワールドワイドに活動している。ツアーの一環でニューヨーク・Madison Square Gardenや東京・国立競技場などで単独ライブを行い成功を収めている。2024年秋に約5年ぶりとなるアルバム「HYDE [INSIDE]」をリリース。2024年から2025年にかけて、国内外を巡るライブツアー「HYDE [INSIDE] LIVE WORLD TOUR」を行った。2026年1月より5年ぶりとなるオーケストラツアー「HYDE Orchestra Tour 2026 JEKYLL」を開催。2026年春にニューアルバム「JEKYLL」をリリース予定。




