HYDEインタビュー|このうえない幸せを歌った「FINAL PIECE」はどうやって生まれたのか、幸福論を交えて語る (2/2)

HYDEの一番幸せな瞬間は

──歌詞はAliさんとの共同クレジットですが、どんな形で書き上げていったんですか?

いつものように、僕が日本語で書いた歌詞に英語を付けてもらった感じです。ただ、サビのパートではこれまでにないパターンを試しました。言葉はほぼ一緒なんだけど、途中で意味が逆になるようにしていて。「I am here with you To stand by your side It's a lovely view(僕は君とここにいる。君のそばにいる。なんて素敵な眺めだろう)」というフレーズが、次に「You」の位置が変わることで「You are here with me To stand by my side Is it lovely too?(君は僕とここにいる。僕のそばにいる。僕と同じ気持ちかな?)」と問いかける形になる。そういった仕掛けが歌詞の肝かな。一番キャッチーなのはやっぱり「The final piece was you」ですけどね。

──そこはもうキラーフレーズですね。「FINAL PIECE」の歌詞の内容にちなんで、HYDEさんが今幸せを感じる瞬間ってどんなときですか?

日本酒を飲みながら、お寿司を食べてるときかな。

──あれ? HYDEさんは以前音楽活動のために炭水化物を絶って、お酒も蒸留酒にこだわっているとおっしゃっていたような。

そうなんです。節制してるので、お寿司はご褒美。ご褒美の日は遠慮しないで日本酒も飲む。その瞬間が一番幸せですね。「うまい!」って(笑)。

──節制しているからこそおいしさも幸福度も増すと。では音楽家としての幸せはどんな瞬間ですか?

例えばラルクのライブで歌っているときに、ファンの子が感激してるのが伝わってくるとすごくやりがいがある。あとオーケストラツアーをやってる中で感じたのは、素晴らしい演奏に自分の声を乗せていく瞬間。歓声は上げられないけど、それがファンに響いてることがわかると感無量ですね。僕は前から言っているように自分はミュージシャンというよりアーティストだと思っていて、例えば音大を出て練習してきた人たちには敵わないと思ってるんです。でも、そういう人たちの演奏に自分の歌声が乗れてると感じられたときは幸せですね。

「20th Orchestra Tour HYDE ROENTGEN 2021」神奈川・パシフィコ横浜 国立大ホール公演の様子。(撮影:緒車寿一)

「20th Orchestra Tour HYDE ROENTGEN 2021」神奈川・パシフィコ横浜 国立大ホール公演の様子。(撮影:緒車寿一)

──HYDEさんの書かれる歌詞はあまり時代に左右されすぎないと常々感じているんですが、英語で書かれるものも一貫してその印象が変わらないんです。作詞において意識していることや具体的な方針はあるんですか?

意識してるというより、時代に合わせた言葉を使うのが苦手なんですよ。例えばスマホとか。嫌いではないけど、使うのが下手。昔はあえて使ってなかったんだけど、その頃の癖が残っているんでしょうね。

──昔使っていなかった理由は?

当時は、そういう言葉を使うと歌詞の品を下げるような気がしてて。例えば、格式高い舞台とかオペラとかあるじゃない? そこにはスマホが入った歌詞は似合わないなとか。ずっとそれまでそうやってきたから、俺が下手に使うと付け焼き刃になっちゃう。「FINAL PIECE」みたいな真面目で神聖な曲だとまた使いにくいし。だって、この曲にポケベルは合わないでしょ? スマホだって5年後には使ってないかもしれないし。

──そうですね。時代に左右されず長く歌うことも意識している?

昔はね。ただその意識がなくなった今も避けちゃうし、選択肢に入ってこない。

──ちなみに言葉のインプットはどうされてるんですか? 手法や心がけていることなど。

僕はボキャブラリーが全然ないので、普段ネットとかで情報をインプットしているときに気になる単語があったらメモをして、それを歌詞に反映させていますね。「こんな言葉があったんだな」とかメモをなるべくするようにはしてるけど、日常ではついつい面倒臭くてできてないな。でもアーティストとしては、なるべく普段からいろんなボキャブラリーを収集したほうがいいとは思ってます。僕は苦手なんだけどね。

「20th Orchestra Tour HYDE ROENTGEN 2021」東京・中野サンプラザホール公演の様子。(撮影:岡田貴之)

「20th Orchestra Tour HYDE ROENTGEN 2021」東京・中野サンプラザホール公演の様子。(撮影:岡田貴之)

歌は唯一僕ができること

──「NOSTALGIC」に続いて、「FINAL PIECE」のミュージックビデオも故郷の和歌山で撮影されたそうですね。映像を拝見したとき、ロケ地がヨーロッパなのかと思ったほど、幻想的かつ神秘的なシチュエーションでした。

「NOSTALGIC」のMV撮影を終えて帰るときから、構想は浮かんでいたんです。次は教会で撮ろう、と。撮るなら僕の両親や恩師が結婚式を挙げたところでと思ってすぐオファーしたけど、ちょうど工事中で……それで和歌山県内の教会を探したんですけど、理想的なところがなくて。教会にこだわらず、イメージに合う建物を探していたときに、白浜にあるお城のようなホテルが雰囲気がピッタリだなと思って、そこで撮りました。

──ストーリーが「NOSTALGIC」とつながっているんですよね。

はい。「FINAL PIECE」に出てくる白いHYDEが、「NOSTALGIC」の黒いHYDEを殺しているという話なんです。だから「FINAL PIECE」のMVは罪を負った人の懺悔から始まっているんです。白いHYDEが懺悔をして、歌うことを通して自分の存在意義を見つけていくという。例えば僕が罪を犯したとして、できることは何もないけど、歌だけは唯一僕ができることで、少なからず人に幸せを与えられるものだと思っているんです。そういうことを踏まえて、歌うことでお駄賃をもらって、幸せを少しずつ交換して、最後はそれを放って幸せな夢を見る……という内容です。幸せなシーンで終わると思わせておきながら、悲しみの中で幸せな夢を見ているんですけどね。

──なかなか入り組んだ構成で、曲の内容に完全に寄り添っているわけではない。

映画の「ダンサー・イン・ザ・ダーク」がMVのテーマになっていて。あの映画はものすごく悲しい話だけど、ビョークが演じる主人公のセルマが空想の中で歌っているミュージカルシーンは、本当に美しくて、幸せそうなんですよね。そのシーンがあるから逆に、現実の場面での悲しさが増す。「ダンサー・イン・ザ・ダーク」はミュージカルの場面だけを観ると、めちゃくちゃハッピーな映画だけど、トータルではものすごく悲しい。そういった二面性をこのMVにも持たせたかったんです。

「20th Orchestra Tour HYDE ROENTGEN 2021」東京・中野サンプラザホール公演の様子。(撮影:岡田貴之)

「20th Orchestra Tour HYDE ROENTGEN 2021」東京・中野サンプラザホール公演の様子。(撮影:岡田貴之)

2022年のスケジュールは……

──カップリング曲の「DEPARTURES」はもともと、2015年リリースのglobeのトリビュートアルバム「#globe20th -SPECIAL COVER BEST-」でカバーされていた曲ですね。トリビュート盤では小室哲哉さんのアレンジで歌われていました。

小室さんから「DEPARTURES」を僕に歌ってほしいとオファーがあって。当時忙しくてなかなかスケジュール的には厳しかったんですけど、globeの代表曲ですし、好きな曲だったので二つ返事でお受けしたんです。その後、2017年にオーケストラコンサートを開催することになったときに、この曲をしっとりしたバラードにして歌いたいなと思ってアレンジしたバージョンがものすごく素敵で。機会があるたびに歌っていたんですけど、クリスマスシーズンに「FINAL PIECE」をリリースすることも決まったところで、この曲もレコーディングしちゃえと。僕自身、このオーケストラバージョンが大好きで、ぜひたくさんの方に聴いていただきたいです。

──小室さんは10月から本格的に音楽活動を再開されたので、リリースされるタイミングとしてもぴったりですね。初めて小室さんにお会いになったときの印象は覚えていますか?

軽くお話したくらいですが、すごく優しい温和な雰囲気の方でしたね。1990年代に量産と言われるほどたくさんの曲を発表されていましたけど、その中でも輝くような曲を作られていたわけで。そういう意味でズバ抜けた才能がある方だと思います。短期間であんなにたくさん名曲を作れないですよ。僕なんて1カ月で1曲できればいいほうだから、とてもじゃないけど敵わないです。

──このシングルが年内最後のリリースになると思うので、最後に2022年の展望についてお聞きしたいのですが。

もうそういう時期なのか(笑)。実は、決まっていた来年のスケジュールは全部キャンセルしたんです。年明けからソロツアーが入ってたんですけど、少し疲れちゃったので一度リセットして制作期間を作りたいと思って。

──確かに今年はご多忙でしたからね。リセット後に生まれる作品やライブをお待ちしてます。

表立っての活動は控えようと思っていますが、水面下で曲作りなどは進めるつもりです。

「20th Orchestra Tour HYDE ROENTGEN 2021」広島・上野学園ホール公演の様子。

「20th Orchestra Tour HYDE ROENTGEN 2021」広島・上野学園ホール公演の様子。

プロフィール

HYDE(ハイド)

L'Arc-en-Ciel、VAMPSのボーカリスト。2001年からソロ活動をスタートし、日本のみならずワールドワイドに活動している。ツアーの一環でアメリカ・Madison Square Gardenや東京・国立競技場などで単独ライブを行い成功を収めている。2021年5月に、コロナ禍の中で行われたアコースティックツアー「HYDE LIVE 2020-2021 ANTI WIRE」の模様を収録した映像作品を発表した。6月よりソロ1stアルバム「ROENTGEN」を再現するツアー「20th Orchestra Tour HYDE ROENTGEN 2021」を開催した。ツアーに合わせて先行配信した「NOSTALGIC」を10月6日にシングルCDとしてリリースした。11月にニューシングル「FINAL PIECE」を発表。