「The final piece was you(私にとって最後のピースはあなたでした)」。
このうえなくロマンチックで幸福感にあふれたフレーズが耳に残る「FINAL PIECE」は、HYDEが今年6月から9月にかけて行ったオーケストラツアー「20th Orchestra Tour HYDE ROENTGEN 2021」ですでに披露していた新曲のうちの1曲。フルオーケストラの豊かで繊細なアンサンブルに、甘くたおやかなボーカルが溶け合うナンバーで、ツアー開幕時よりファンから高い人気を誇っていた。
HYDEがそんな1曲を収録したシングルを、2021年最後の作品としてリリースした。愛する者と出会えた喜びと、同じ景色を分かち合える幸せを歌った、新たなウエディングソングの決定版とも言える「FINAL PIECE」。この曲はどんな経緯で生まれたのか、またHYDEが幸せを感じる瞬間はどんなときなのか。率直にぶつけてみたところ、興味深い答えが次々と飛び出した。
取材・文 / 中野明子
今年はちょっとやりすぎ?
──少し前になりますが、9月に終幕したオーケストラツアー「20th Orchestra Tour HYDE ROENTGEN 2021」はいかがでしたか?
本来は今年もロックで攻めるつもりだったのでやりたかったこととは違ったんですけど、コロナ禍の中でルールに則って自分が今できることを追求していくと、オーケストラツアーがベストでしたし、改めてタイミング的にすごくよかったなと。オーケストラのメンバーは子供の頃からずっと楽器の練習を努力してきている人たちなので、その人たちの前で僕も下手な歌は歌えないし、一緒にやっていると気が引き締まるというか意識が高まって。それとオーケストラコンサートだとコロナ禍の中でも100%お客さんを入れられるし、来た人も着席してゆっくり集中して音楽を堪能できるんですよ。そんなツアーを素晴らしい面々と回れたのはよかったです。
──「ROENTGEN」リリース時に開催されたライブとは違う感触でしたか?
そうですね。確か当時はピアノとギター……少人数の編成だったんですよね。ライブをやるために作ったアルバムではなかったのでライブはほとんどやらなかったんです。それが時を経て、今回はアルバムを再現する気持ちでやっていて、MCでも話したんですが、今披露するために20年前に作った作品だったのかもしれないなと感じていました。
──思い出深い公演はありますか?
やっぱりファイナルの広島公演かな。バンマスのhicoの故郷だったこともあって集大成的な感じでしたね。彼の両親もコンサートに来ていたので、僕としては彼がどれだけ素敵なミュージシャンかを広島の人に伝えたいという気持ちがありました。ツアーの最後というのもあったし、完璧なコンサートにしたかったんです。終演後にスタッフが「ツアー完走おめでとう」と薬玉を用意してくれていて、それも印象深かったですね。
──ところで、前回のインタビュー(参照:HYDEソロ20周年記念インタビュー)でHYDEさんが「僕は楽しいと思いながら歌っていない」とおっしゃっていたのが意外だったんです。ただステージに立って歌っている姿を拝見すると、とても伸びやかに、曲によっては楽しそうにパフォーマンスをされていて……実際のところはどうでしたか?
楽しさも喜びもありましたね。オーケストラが奏でる音を聴きながら、音楽の素晴らしさを実感する瞬間もあったし、平安神宮公演では変化していく空の動きや建物の美しさを感じながら歌う中でいろいろ思うところもありました。テクニック的にがんばらないといけない部分や緊張感もまだありますけど、ツアー中は感動できることを無理なくやれている実感があった。必然的に美しい環境でやりたいことがやれてるので、今年は有意義な1年になりそうです。僕、今年は50本もライブをやるらしいんですよ。
──このご時世ではかなりの数ですよね。今だとL'Arc-en-Cielのツアーと「黑ミサ」が同時進行ですし(取材は10月中旬に実施)。
ちょっとやりすぎましたね(笑)。
結婚式で歌えるような曲があってもいいな
──今回、オーケストラツアーでも披露していた「FINAL PIECE」がシングル化されますが、「NOSTALGIC」(2021年10月リリースのシングル)に続き、オーケストラのアンサンブルが堪能できる1曲で、幸せな思いをストレートに表現した歌詞も特長です。ツアーでは「THE ABYSS」「SMILING」といった新曲も披露されていましたが、その中で「FINAL PIECE」をシングルに選んだのは?
ファンから評判がよかったのと、タイミングですね。
──タイミングというと?
曲の雰囲気を踏まえて、年末に出したいと思ってたんです。12月のクリスマス商戦を考えたときに、「THE ABYSS」や「SMILING」はちょっとダウナーで悲しい曲なので、この時期にリリースすることを考えたときに「FINAL PIECE」しか頭に浮かばなかった。
──HYDEさんからクリスマス商戦という言葉が出るとは……。
(笑)。聖なる感じというかね、この曲には心が洗われるようなイメージがあって、クリスマスに合うかなと。
──ファンから評判がよかったとおっしゃってましたが、反響はリリースに影響するものですか?
次に出すならどの曲がいいかなと思っているときに、そういう声が入ってくると気持ちが傾いていきますね。
──「NOSTALGIC」では別離が歌われていましたが、「FINAL PIECE」ではその逆とも言える愛する者との出会いとその喜びが歌われています。長いキャリアを誇るHYDEさんなので、もちろん過去にハッピーなラブソングが存在しなかったわけではないと思うのですが、これほどまでにまっすぐに幸せな感情を表現しているのはリスナーとして新鮮でした。
これまで結婚式とかで歌ってと言われたときに、案外ウエディングソングと呼べる曲がなくて。「flower」とか「『かなわぬ想いなら せめて枯れたい』とかちょっと悲しいけど、まあいいか」と思いながら歌ってたんです。声をかけてもらう中で自分にも結婚式で歌えるような曲があってもいいなと思い始めて。そんなときに、hicoが「FINAL PIECE」の原型を持ってきたんです。
──HYDEさんの思惑と合ったわけですね。
でも、もとの曲は少し暗かったんですよ。ただ神聖な雰囲気がサビにあって、Aメロを変えたら結婚式で聴きたくなるような曲になりそうだったんで、アレンジしていった結果いい感じになったんです。
──レコーディング時で記憶に残ってる出来事はありますか?
hicoも作詞を一緒にしたAliも歌については本当にうるさいんですよ(笑)。特にhicoは自分が作った曲だから、歌い方のイメージが決まっていて。特に僕の癖のある部分について「それはなし」って言ってくるから、僕もたまにムカッとくるときもあるくらい(笑)。でも、それに対してあえて僕は何も言わない。癖ってアーティストの特徴でもあるじゃない? それを取ったら僕の歌じゃないと心ではちょっと思うんだけど、それを取り払って聴いたときに新鮮だと思えるかどうかのほうが大事。自分のやりたいように歌ってると、癖だらけになっちゃうから、歌を進化させていくうえであまりよくないと思ってるんです。だからhicoの言うことに「わかりました」って、その通りに歌ってる(笑)。
HYDEのウエディングソング論
──HYDEさんが以前からおっしゃっていることですが、客観的な視点や意見が入ることで、自分でも思ってもみなかった一面が引き出されることもありますよね。そういう意味で言うと、「FINAL PIECE」のボーカルは歌詞に寄り添うように、今までにない甘く穏やかなHYDEさんの一面が前面に出ていると感じました。
なるほど。
──歌詞の話に戻りますが、個人的にジェジュンさんに提供された「BREAKING DAWN」(2020年10月発表)でストレートかつ幸せな感情に振り切った歌詞を書かれていたので、そういった影響もあったのかなと想像していたんですが……お話を聞いている限り、HYDEさんとしては純粋にウエディングソングと向き合われた結果が「FINAL PIECE」だと。
はい。
──実際に結婚式で歌う機会はありましたか?
まだないです。自分が歌わなくても、ファンの子が結婚式とかで流してくれたらうれしいですね。
──大切な場面で流したいと思われている方はいっぱいいると思います。結婚式で流れることも想定したんですか?
それであえて歌詞を英語にしたんです。どんな場面でも使いやすいかなと思って。
──そんな汎用性まで考えて!?
使いやすいという言い方はあれかもしれないけどね(笑)。言葉の意味が直接伝わらないほうがいい場合もあると思うんです。例えば結婚式の披露宴で日本語の曲ばかり流すことはあまりないでしょ? 洋楽のウエディングソングの定番曲もよく使われているし。それって歌詞の意味がわかりすぎないからなんじゃないかな。「なんとなく幸せなこと言ってるんだろうな」みたいな感じ。そこにどうぞ「FINAL PIECE」も入れてくださいという。そういう意図で全編英語にしました。
──細かな意味がわからなくても、聴いたときに幸せな空気が作れるように。
そうそう。
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HYDEの一番幸せな瞬間は