2018年6月にシングル「WHO’S GONNA SAVE US」でソロとしての活動を再開したHYDEが、ニューアルバム「ANTI」をリリースした。
本作は既発シングル5曲に加え、すでにライブで披露されている新曲やDuran Duran「ORDINARY WORLD」のカバーで構成されている。HYDEはそれぞれの楽曲において自身の理想を具現化すべくさまざまなクリエイターと積極的にタッグを組んだ。
今回音楽ナタリーでは、アルバムを完成させた彼に、再始動後のこの1年の変化、音楽に対する思いや目標を語ってもらった。
取材・文 / 中野明子 撮影 / 上山陽介
自分の人生で悔いを残したくない
──昨年はソロ再始動に始まり、「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」や「氣志團万博」といったフェスへの出演、国内外でのライブツアーの開催、YOSHIKIさんとのコラボなどトピックの多い1年でしたが、ご自身で振り返ってみていかがですか?
いったい何を生き急いでるんでしょうね(笑)。忙しいなとは思ってましたけど、すべては今回のアルバムに向けての活動で、気付いたら仕事が入ってくるという状況でした。
──個人的には新しいことに挑戦されているのが印象的でした。YOSHIKIさんとのコラボレーションシングル(YOSHIKI feat. HYDE名義で2018年10月に発売された「Red Swan」)のリリースや、「NHK紅白歌合戦」での共演などがあって。
バンドメンバー以外の誰かとテレビで共演するのはあまりないことだったし、いい刺激をもらいましたね。YOSHIKIさんには僕のシングル(2019年2月発売の「ZIPANG」)でもピアノを弾いてもらって、よりいい関係が築けたと思います。
──中でも異色だったのは、和歌山市ふるさと観光大使に就任されたり、誕生日に地元で「黑ミサ」を開催されたことでしょうか(参照:HYDE「和歌山市ふるさと観光大使」就任、地元の黑ミサ最終公演で任命式)。
これは“地元孝行”みたいなものですね。「紅白歌合戦」に出る感覚と似てるかな? 「紅白」に出ることが決まったときは「ああ、これで『黑ミサ』に来る親戚が喜ぶかな」と思ったり、観光大使に任命されたときは「和歌山の人が喜ぶかな」と考えたり。どこか地元への奉仕の気持ちでやってます。
──20代の頃にそういう気持ちになったりは?
ないです。初めて「紅白」に出たときは、ちょっと親孝行ができるかなと思いましたけどね。親に「息子は何をやってんのや?」と思われてるときに、すごくわかりやすいトピックになったので。でも、地元孝行をしようと思い始めたのはここ最近ですね。一昨年に「黑ミサ TOKYO」を大きな会場でやったことで、やっと人前で上手に歌えるようになってきた感覚があって。その「黑ミサ」を故郷の和歌山でも開催することで少しでも何か恩返しになればいいなと思って。今回「黑ミサ」を開催するタイミングで、僕の命の恩人を友人が探してくれて。その方はもう亡くなってしまってたんだけどお墓参りに行くことができたし。自分が死ぬ前の整理というか(笑)。人生で悔いを残したくないんで。
──それは前回のインタビュー(参照:HYDE「WHO'S GONNA SAVE US」インタビュー)でお話されていた、自分のリミットを意識して活動されていることとつながるんでしょうか?
かもしれませんね。そんな中で今回、地元での「黑ミサ」開催に付随して観光大使になった感じです。
──これまでのHYDEさんのイメージを考えると意外でした。
こういうのもアリ、という心境になったんです。今後もいろいろ解禁していくんじゃないですかね。ふふふ(笑)。
俺、こういうアルバムを作りたかったんだ
──そんな充実した1年を経て、いよいよアルバムが完成しました。
やっとですね……なんだかんだでずっと作ってたし、最後まで時間をかけてやり込みました。
──制作が始まった時期は1年半くらい前になるんでしょうか?
そうそう。
──完成したアルバムを聴いたとき、ご自身ではどんな感想を抱きましたか?
これは……やんちゃなアルバムだなと思いましたね。それと「俺、こういうアルバムを作りたかったんだ」と。ハードロックを聴いていた10代の頃に作りたいとイメージしていたアルバムですね。世の中にはもっと攻撃的な音楽はいっぱいあるし、激しいロックをやってるバンドもいるけど、自分のキャリアの中ではここまで振り切った表現をしたことがなかったんです。
──自分が求めていた表現ができた?
うん。ただ、今までのライブに来てた子にとっては新鮮味がないんじゃないかという不安もあるけど(笑)。
──確かにすでに全曲ライブで披露されていますからね。
聴いたことある曲ばっかりだからね。
──とおっしゃいますが、去年のインタビューではライブで新曲を披露しつつ、お客さんの反応次第でアップデートしていくと発言されていました。
うん。反応をみてちょこちょこ変えました。例えば、「TWO FACE」はキーを1音くらい下げたり、コーラスパートを加えたり。そのほかにもダビングを増やして、音に厚みを出しましたね。「OUT」はライブでの反応を見て、「もうちょっとみんなで歌えるパートが欲しいな」と思ってシンガロングできる部分を追加したし。
──よりライブで通用する曲にアップデートした。
そうそう。今回のアルバムはライブで盛り上がる曲しか作らなかった。いろんな作曲家に書いてもらってるんですけど、基本的なオーダーは「ライブで盛り上がる曲」のみ。今はそれ以外の曲は必要ないから。ノリがいい曲が中心の作品なので、統一感はあると思います。
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自分1人だけでは理想は形にできない