ナタリー PowerPush - HUSKING BEE

復活後初アルバム「SOMA」完成 磯部正文が今思うこと

10年後に聴いてもいい曲を作る

──そして完成した新作アルバム「SOMA」ですが、9年のブランクを経て、ハスキンを好きで聴いてきた以前からのファンもいれば、ハスキンを知らない若い世代もいる中で、どういった視点、どの地点からバンドを再開しようと思ったんですか?

磯部正文(Vo, G)

僕はハスキンの最初の段階から「老若男女が10年後に聴いたときにもすごいいい曲だなと感じられる曲を目指して作っていけば間違いない」と言ってきたんです。むっちゃくちゃ難しいけど、それを引き続きやりたい。そして実際10年後にそうなっているかどうかを確認したい。何年聴いてもいいなと思える曲を目指しながら、そのときの年齢、そのときの自分がわかるような要素が含まれていてもいいと思うし、どんな作品であっても「ここはこうしておけばよかった」ということにはなるにせよ、なるべくそのときの完璧な状態に近づけていきたいですね。あと昔ビョークが「今の自分の年齢における経験をちゃんと作品に詰めなければいけない。そう思って私は作品を作っている」と語っていた言葉に深く共感したんです。なるべく僕もそうありたいと思っていますね。

──聴かせていただいたアルバムは、HUSKING BEEとしてひさしぶりに音を出した喜びや新しいメンバーを交えた初期衝動性が強く感じられると同時に、この9年間で経た磯部くんの音楽的な深まりも反映されていて。その両方が鳴らされているという意味で、再始動のタイミングだからこそできたアルバムだと思いました。

今回は1曲1曲に集中してて、作品全体の構成を考えてなかったのが反省点なんですけど、このアルバムでは若いリズム隊にとってプレッシャーにならないよう、楽にやってもらうことを意識したんですよね。笑い話ですけど、最近の若い子はどの業界でも怒るとすぐ辞めちゃうっていうじゃないですか(笑)。でもそれじゃつまらない。HUSKING BEEはここからまた活動していくわけですから、持っている能力を発揮できる場を作っていきながら、4人が抱くバンドとしての目標を一致させていくのがいいんじゃないかな、と。

アルバムタイトルに意味はない

──かつてのハスキンは磯部くんが高い目標を掲げて、かなりスパルタなバンド運営をしてましたから、その点は大きな変化ですね。そして心境の変化は歌詞にも表れていると思います。

今回は「星降る昏い」をはじめとして、空や星にまつわる言葉の表現が多いんですけど、近所の公園でボケッとすることも多かったからなと思いつつ(笑)、正直言えば、震災後は海にまつわる表現を使うことにためらいがあって、それに代わる表現を空に求めているところがあったような気がします。

磯部正文(Vo, G)

──しかも「Feedback Loop」や「Cosmo」がそうであるように、肯定的な未来を描いているところも印象的ですね。

去年の秋、自分の子供が生まれそうな状況下での制作作業でしたから、曲や歌詞を書くにあたっては、精神的にギスギスするところはまったくなかったですね。だから今回のソリッドなサウンドに対して、パーソナルになりすぎることなく、大きく捉えたところで、親になる自分の心境を曲に込めようと思いました。そうすることで若いリスナーが親になったとき、この作品を聴いて、またグッと来る瞬間があるかもしれないですしね。

──そして「Put On Fresh Paint」と「Face The Sunflower」という初期作品のセルフカバーを収録しつつ、バンドサウンドも言葉と呼応するように気持ちよく突き抜けていますね。

コンピュータで細かい修正が可能な時代ですけど、そうやって突き詰めていくことが今のハスキンのやるべきことなのかなと思いますし、むしろ少し演奏がよれても、その生々しさこそが今の自分たちにフィットするんですよね。それはエンジニアをお願いした美濃(隆章 / toe)くんとも一致した意見でしたね。だから演奏に「やったぜ!」と思う気持ちいい瞬間があればその気持ちよさが聴く人に伝わるだろうな、と思いながら作業を進めていきました。

──そうやって作り上げた作品に対して、意味よりも語感で選んだ「SOMA」というアルバムタイトルが付いているところも今のハスキンらしい軽やかさですね。

意味ある言葉、再始動や生まれ変わったことを象徴するような言葉をかなり探したんですけど、ぜんぜん思いつかなかったんですよね。だったら1stアルバム「GRIP」のような短い、シンプルなタイトルにしようと。だから意味はまったくなく、響きの気持ちいい「SOMA」という言葉をアルバムタイトルにしたんです。そんな今回のアルバムからハスキンの活動はまた始まるんですけど、50歳くらいになったとき果たして「WALK」を歌っていられるんだろうかと考えると怖くなったりもして。まあ、健さんとかヒダカさんを参考にしつつ、極論をいえば、歳とって歌えなくなったら、1音下げて歌えばいいですし(笑)。ニール・ヤングがそうであるように、そのときどきで歌えることを歌っていけたらいいと思っているんですけどね。

磯部正文(Vo, G)
ニューアルバム「SOMA」 / 2013年2月20日発売 / 2500円 / High Wave / HICC-3432
ニューアルバム「SOMA」
収録曲
  1. Art Of Myself
  2. Put On Fresh Paint
  3. Feedback Loop
  4. Mingle With The Night
  5. 暖願コントロール
  6. らせんの夜
  7. Sun Pillar
  8. Taking In The View
  9. 星降る昏い
  10. Face The Sunflower
  11. 窓朗夢
  12. 萌弾タイムス
  13. Cosmo
HUSKING BEE(はすきんぐびー)

磯部正文(G, Vo)、平林一哉(G, Vo)、岸野一(B, Cho)、山崎聖之(Dr, Cho)による4人組バンド。1994年7月結成。1996年12月に横山健プロデュースで発表した1stアルバム「GRIP」が話題を集め、一躍メロディックパンクシーンを牽引する存在に。フェス出演や海外リリースなどを行いつつ計5枚のアルバムを発表するが、2005年3月に解散。2012年2月に行われたイベント「DEVILOCK NIGHT FINAL」のステージで再結成を果たし、同年9月の「AIR JAM 2012」にて本格的な活動再開を宣言した。2013年2月に9年ぶりのオリジナルアルバム「SOMA」をリリース。