音楽ナタリー Power Push - 布袋寅泰

津田大介が聞く、35年間の“Emotions”

ヒットチャートに挑まないと見えないものがある

──「スリル」のあたりから、布袋さんの印象は「ポップスター」という側面が色濃くなっていきました。それによって布袋さんに対してギタリストとしてのイメージを強く抱いていた人の一部──特にコアなファンは「こういう方向に行くのはどうなんだろう」と考えていたと思うんです。僕個人もそういう複雑な思いはちょっとありました。「好きなアーティストが売れるのはうれしいけど、売れてる曲がこのアーティストの全てじゃない」みたいな。でも、当時布袋さんのライブに行って気付いたことなんですが、あのころの布袋さんのヒットソングって、テレビ番組やCMで流れているものを聴くと「ポップス」なんだけど、ライブで聴くとちゃんと全部“布袋の音楽”になるんですよね。それがとても印象的だったことを覚えています。

僕はヒットチャートに挑んでいったつもりだけど、それを否定的に感じた人もいただろうし、その気持ちもわからなかったわけじゃない。ただやっぱりそこに行かないと見えないものも、伝えられないものも絶対あると思っていましたからね。ただ、そういうシーンでの戦いをずっと続けるつもりもなかったから。

──実際に布袋さんが「ヒットチャート」という高い山に挑んで、実際に高みに立って見えたものって何でしたか?

布袋寅泰

僕は「やっぱりロックンロールってカッコいいでしょ?」ってことを伝えたくてテレビに飛び込んでいったわけだから、「スリル」も「バンビーナ」も「POISON」も今でも名曲だと思っているしね。でも、例えばデヴィッド・ボウイが「Let's Dance」を、The Rolling Stonesが「Miss You」を作ったとき、彼らのファンが「ディスコになった」とか「こんなのは違う」と言っていたのを思い出して、やっぱりそういうことじゃないんだよなと改めて思ったんですよね。ミュージシャンは大衆に近付いたり離れたり、自分の中で迷ったりトライしたりしながら、変化していくものなんだなと気付きました。

──ベストアルバムを作ってみて、改めて過去の楽曲のよさに気付いた部分もありましたか。

うん、全曲そう思いながら聴いてましたね。「『ラストシーン』いいなあ」とか。「DREAMIN'」だって、今回入ってるのはライブバージョンですけど、作ったのは20歳のときだからずいぶん前なわけですよ。でも完成された曲だなと思うし。「Battle Without Honor or Humanity」(映画「新・仁義なき戦い」「キル・ビル」のテーマ曲)にしたって、今こうやって世界に向けて活動しているわけだけど、あの曲があるのとないのとじゃ全然違うしね。「キル・ビル」の話が来たときはすごく迷ったけど、今では世界中の人があの曲を知ってくれてるし。1曲1曲にストーリーがあるから、ファンの人もそのときの自分を思い起こしながら聴いてくれると思うとうれしいですよね。

ギタリストであるがゆえに大きな可能性と出会える

──布袋さんはロンドンに移住されてから、意識的にいろいろなミュージシャンとコラボレーションされているように見受けられます。それもご自分で歌うのではなく、ギタリストという立場で。そのあたりは気持ちの変化のようなものはあるんでしょうか。

まず、やっぱり自分が英語で歌を歌うっていうのは不可能だなと思って。しかもCDだけの時代じゃなくて、よりパフォーマンスが重視される時代の中で歌いながら弾くのはかなり難しい。そこで自分に何かを課すよりも、ギタリストに戻るほうが伝えやすいという思いもありましたね。

──言葉の問題だけじゃなくて、ギターだから世界とつながれるという実感もありますか?

もちろん僕というギタリストのスタイルは僕にしかないし、それを武器に勝負すべきだとは思ってます。あと、ギタリストであるがゆえに大きな可能性と出会えますしね。イギー・ポップもそうだしThe Rolling Stonesもそう、国内なら嵐もももいろクローバーZもそうだし。ギタリストだからこそできるコラボレーションですよね。ボーカリスト同士だとどうしてもデュエットみたいな形になるけど、ギタリストはサックスプレイヤーとも、オーケストラともコラボレーションできる。

──テクノロジーや環境の変化についてはどうお考えでしょうか。当時の最先端の表現であった「GUITARHYTHM」を作り上げた布袋さんに、ぜひそのへんのお話も聞きたいのですが。

常に新しいものに対しては敏感でありたいと思ってきたし、ロックは新しくあるべきだとずっと考えていますね。「GUITARHYTHM」を作った当時はコンピュータも不便なものだったというか、暴走するコンピュータにこちらが付いていくみたいな感じでしたけど(笑)。そのあともいろいろなサンプラーとか、面白いツールが出てきたからそれをどんどん取り入れて。スリリングで楽しかったけど、最近は便利になりすぎてつまらないというか、思い通りになりすぎるという印象はありますね。

──機材もそうですし、インターネットで発信もしやすくなって、例えばYouTubeでトップレベルのプレイヤーの動画が観られる時代にもなりましたよね。アマチュアにとっては参考書が山ほどある、という状況です。

出会うスリルや探す楽しみがなくなってしまったのは、かわいそうだなとも思いますけどね。でも35年のキャリアを持った人間がそんな話をしたら、単に「昔はよかった」ってことになっちゃうし、だからと言って今の若者を肯定するだけの言葉を発するのも違う気がするし。YouTubeの再生回数が多ければ、Facebookの「いいね!」がたくさん付いていればCDがたくさん売れるというわけでもないでしょう? その一瞬だけで判断するのは寂しすぎる。表現する人はそういうところに気を付けないととも思いますね。

ベストアルバム「51 Emotions -the best for the future-」 2016年6月22日発売 / Virgin Music
初回限定盤 [CD3枚組+DVD] 5400円 / TYCT-69103
通常盤 [CD3枚組] 3780円 / TYCT-60081~3
DISC 1 Beat
  1. バンビーナ
  2. 8 BEATのシルエット
  3. BEAT EMOTION
  4. サイバーシティーは眠らない
  5. POISON
  6. STILL ALIVE
  7. DIVING WITH MY CAR
  8. NOCTURNE No.9
  9. スリル
  10. CAPTAIN ROCK
  11. CHANGE YOURSELF!
  12. 風の銀河へ
  13. CIRCUS
  14. Don't Give Up!
  15. RUSSIAN ROULETTE
  16. IDENTITY
  17. 嵐が丘
DISC 2 Heart
  1. LONELY★WILD
  2. さらば青春の光
  3. YOU
  4. ラストシーン
  5. PROMISE
  6. SURRENDER
  7. NOBODY IS PERFECT
  8. Come Rain Come Shine
  9. DANCING WITH THE MOONLIGHT
  10. 命は燃やしつくすためのもの
  11. BORN TO BE FREE
  12. ESCAPE
  13. GLORIOUS DAYS
  14. FLY INTO YOUR DREAM
  15. DEAR MY LOVE
DISC 3 Dream
  1. Battle Without Honor or Humanity
  2. STARMAN
  3. テレグラム・サム
  4. C'MON EVERYBODY
  5. ミッション:インポッシブルのテーマ
  6. IMMIGRANT SONG
  7. MATERIALS
  8. How the Cookie Crumbles(Feat.Iggy Pop)
  9. BACK STREETS OF TOKYO
  10. TRICK ATTACK -Theme of Lupin The Third-
  11. HOWLING
  12. MIRROR BALL
  13. Departure
  14. VELVET KISS
  15. BE MY BABY(Live from Budokan 2011.02.01)
  16. BAD FEELING(Live from London at Roundhouse 2012.12.18)
  17. NO.NEW YORK(Live from Takasaki clubFleez 2016.03.05)
  18. Dreamin'(Live from Guitarhythm Live 2016.04.07)
  19. GUITAR LOVES YOU
初回限定盤付属DVD
【BEAT 1】~すべてはライブハウスから~
  • IMAGE DOWN(高崎clubFLEEZ)
  • BAD FEELING(高崎clubFLEEZ)
  • New Chemical(名古屋E.L.L.)
  • SPHINX(名古屋E.L.L.)
  • HOWLING(京都磔磔)
  • やるだけやっちまえ!(京都磔磔)
  • バンビーナ(京都磔磔)
  • RUSSIAN ROULETTE(京都磔磔)
  • DANCE CRAZE(高崎clubFLEEZ)
初回限定盤付属DVD
ミュージックビデオ
  • 8 BEATのシルエット
布袋寅泰(ホテイトモヤス)

布袋寅泰

1962年2月生まれ。1982年にBOØWYのギタリストとしてアルバム「MORAL」でデビュー。1988年のバンド解散を機にソロアーティストとしてのキャリアをスタートさせる。また同時に他アーティストへの楽曲提供、映画やCMへの出演などさまざまなシーンで活躍。海外での活動にも積極的で、映画「キル・ビル」に提供した「BATTLE WITHOUT HONOR OR HUMANITY」は各国で高い評価を得ている。2006年のアルバム「SOUL SESSIONS」では国内外の豪華アーティストとの共演を果たし、翌2007年1月には日本武道館でChar、ブライアン・セッツァーとともにスペシャルライブも行っている。50歳を迎えた2012年夏にはロンドンに移住。日本とイギリスの2カ国を拠点に、これまで以上にワールドワイドな活動を行っている。2016年にはアーティスト活動35周年を記念したアニバーサリープロジェクト「8 BEATのシルエット」を始動し、その第1弾として3月に全国ライブハウスツアーを開催。6月22日にベストアルバム「51 Emotions -the best for the future-」をリリースし、7月3日には地元・群馬県高崎市でフリーライブを行う。