星屑スキャット+中塚武|異端の星屑が放つ光のハーモニー

リリー・フランキーのファンタジーにすべてを委ねた
「新宿シャンソン」

──星屑スキャットの音楽スタイルにあっては「新宿シャンソン」ってちょっと異色ですよね。

ミッツ そうですね。私が意識的に避けていた、世間的に見るところのオカマ3人衆の王道みたいなところが「新宿シャンソン」にはあると思います。こういう曲、歌いそうじゃない。この曲は5年前にリリーさんが「星屑スキャットにこの曲を歌ってほしい」と持ってきてくださったんです。ここまでしてくれる人もいないので歌ったんですけど、そういう意味では、自分たちからは発信できない音楽です。恥ずかしいと言うか、おこがましいと言うか。これはリリー・フランキーのファンタジーでもあるので、私らはそれを演じるある種の役者みたいなスタンスで、この曲にはのめり込めるので。

──ミュージックビデオはそういったファンタジーを感じさせる短編映画のような物語になっていて、星屑スキャットのお三方はまさに演じる側として参加されていますよね。

ミッツ 私の中ではもはや自分の曲ではないんですよね。星屑スキャットの曲なんだけど、カッコ付けた言い方をすれば「みんなの曲だよね」みたいな。

メイリー うん。私たちは曲も歌詞も絶対に3人の意見を優先するんですけど、「新宿シャンソン」に関しては、現場に入ったらもうメイクさんがいて衣装もできていてステージもあって、と全部リリーさんのお膳立てがあるところに……なんて言うんでしょう、初めて思い入れなく乗っかれる。そういう意味では、これが一番歌謡曲っぽいのかもしれないですね。

和恵 ミッツさんと私は特にセルフプロデュース癖があって、どうしても人の意見を聞かなかったり、自分たちがやりたいことを押してしまうんですけど、リリーさんが用意してくれたものに乗っかってみたら意外と心地よかったみたいな。リリーさんだったからこそ、安心して乗っかれたところもあるのかな。

「化粧室」は中塚さんを含めた4人のアルバム

──アルバムでは「新宿シャンソン」はDISC 2に1曲のみ分けて収録されています。またシングルの「ご乱心」(参照:星屑スキャット、森雪之丞との初タッグで「ご乱心」)はDISC 1のボーナストラックとして収められていますが、どうしてこういう構成になったのでしょうか。

ミッツ 「化粧室」は中塚さんを含めた4人のアルバムなんです。「ご乱心」は唯一中塚さんの曲ではないですが、シングルだし、人気もある曲なんです。入れたいんだけど、どこに置くべきかと悩んでボーナストラックにしました。そこが私のすごく意固地なところで……今日はお蕎麦、と思ったら絶対にラーメンは食べられないんです。3年、4年前の想定から「星屑スキャットのアルバムは中塚さんのサウンドで」というのがあったので、途中で「ご乱心」を挟まれたときは、とてつもないバトルでしたね。

中塚 ご乱闘。

星屑スキャット あははははは!(笑)

──確かに「ご乱心」が出たときは音楽性をシフトチェンジしたのかな?と思いました。

ミッツ レコード会社や事務所が私たちのことを考えてくれてのことでした。「一度人様のまな板に乗ることを経験しないと、息切れしちゃうよこれから」って。その説明が当時ヘタだったんでご乱闘でしたけど(笑)。でも、そういう意味ですごく思い入れの強い曲なんです。この曲の中に出てくる「澄まして駆け込んだ 化粧室の鏡」というフレーズがずっと頭の中に残っていて、そこからアルバムタイトルが出てきたんです。だから、これはこれで特別だけど、やっぱり中塚さんのサウンドで統一されたアルバムじゃなきゃいけなかったし、最後は「HANA-MICHI」だって決まっていました。この数年の中塚ワールドを完結させる意味でも、アルバムはこうするしかなかった。

──じゃあ、ほぼほぼ青写真通りのアルバムができたわけですね。プラス、思いもよらなかった実りも記録として収まっていると。

ミッツ そうです。これがあと3年早かったら、また違ったものになっていたでしょうね。「ニュースな夜」(2013年5月発売の2ndシングル「コスメティック・サイレン」カップリング曲)なんて、泣く泣く削りました。

中塚 それがいいなと思って。とにかくアイデアはどんどん出てくる人たちなので、いっぱい作って泣く泣くカットするようなやり方が星屑には合ってるんじゃないかなと。さっき話を聞いていてすごく面白かったけど、役者としてまな板に乗っかるようなことは、これからきっと増えるでしょ。

ミッツ そうでしょうね。聴き手が増えると、絶対そうなっていくから。

女装家の本質“ごっこ遊び”への固執から生まれた音楽

──今日ミッツさんが最初におっしゃっていたことは、まさにそこですよね。やりたいことがはっきりしすぎていてマニアックであることが、もしかしたらネックかもしれないと。あえてまな板に乗っかったことで可能性が広がってきているのは確かで、星屑スキャットは完全なる大衆音楽としての歌謡曲グループになる可能性も秘めていると言うか。

中塚 役者的なスタンスの楽曲が増えれば増えるほど世界が広がると思います。星屑の世界が広がると言うよりは、星屑と世間のコンタクトの数が増えるから。

ミッツ そうですね。コンタクトが増えたら必然的に、おのずとそういう存在にならざるを得ない。でも私たち、女装もそうなんですが、“ごっこ遊び”なんです。星屑スキャットも“歌謡グループごっこ”。たぶん女装をやるような人間は、本質的にそういう妄想癖があって。で、いろんな役柄になってきた分、そのごっこ遊びに関しては人の言うことを聞けないんです。

メイリー・ムー

和恵メイリー うふふふふ(笑)。

ミッツ その設定がブレると、まったく意味をなさなくなっちゃうから。そういう意味ですごく意固地な部分があるんですが、ある意味このアルバムも“100万枚売れるアルバムごっこ”をしてるんです、私は。「100万枚売れそうなアルバムの曲順ってこうあるべき」とか。歌詞を書くときも「これは松本隆になったつもりで書こう」とか「康珍化になったつもりで」とか……自分の個性やメッセージ性を出すことはむしろ恥ずかしい。ごっこ遊びをしたほうが、本当に自分の心の底にある本音が出てきたりするんです。てにをはをどれにするかで変わってくるみたいな。

──なるほど。ごっこ遊びに対する固執が資質としてある、というのは、星屑スキャットのすべてを紐解く鍵のような気がします。ものすごく腑に落ちました。

ミッツ レコード会社の人にとっては「知るかよ!」みたいな話ですけど。「お前らが今日どの設定で来てるかなんて知らねえよ! こっちはミッツ・マングローブと契約してんのに」っていう(笑)。「いや、今日は私、浅野温子だからさ」みたいな。病なんです、これは(笑)。

──(笑)。その根っこにある資質をとことん突き詰めたこのアルバムを経て、これからどうしていこうかというビジョンは見えていますか?

ミッツ このアルバムができたことで、私はすごくドライになれた気がしていて。「こうありたいよね3人は」とかよりも、「今与えられた課題をちゃんとやりましょう」とか「今お客さんが求めているものを届けましょう」という気持ちが強いです。ありがたいことに最近は大きい会場でライブができるようになってきたので、自我はより捨てる段階に来ている分……そういうときに限って自我が出るんです。それは自分でも予測できないからちょっと怖いんです。

──皆さんの場合、そのへんのバランスを、ときには行きどころのない思いをソロに逃がしたりしながら、グループでやれることを模索していくという方法もとれますよね。

中塚 3人共本当にセンスがいいから、この3人でいる限り、何をやっても大丈夫だと思いますよ。

星屑スキャット「化粧室」
2018年4月25日発売 / 日本コロムビア
星屑スキャット「化粧室」

[CD2枚組]
3500円 / COCP-40302

Amazon.co.jp

DISC 1
  1. Knock Me In The Middle Of The Night
  2. 愛のミスタッチ
  3. ANIMALIZER(2018 new mix)
  4. 半蔵門シェリ
  5. 波の数だけターコイズ
  6. 降水確率
  7. 星屑スキャットのテーマ(2018 new mix)
  8. マグネット・ジョーに気をつけろ(シングル・バージョン)
  9. Interlude - Cosmetic
  10. コスメティック・サイレン
  11. REMEMBER THE NIGHT(2018 new mix)
  12. HANA-MICHI

<Bonus Track>

  1. ご乱心(2018 extended mix)
DISC 2
  1. 新宿シャンソン

公演情報

星屑スキャットLIVE2018
「惑星たちのダンステリア」

2018年9月29日(土)東京都 クラブeX
OPEN 17:30 / START 18:15

2018年9月30日(日)東京都 クラブeX
[1回目]OPEN 13:30 / START 14:15
[2回目]OPEN 17:15 / START 18:00

星屑スキャット(ホシクズスキャット)
星屑スキャット
女装家のミッツ・マングローブ、ギャランティーク和恵、メイリー・ムーの3人からなる音楽ユニット。2005年にミッツとギャランティークが始めたイベント「星屑スキャット」に端を発し、メイリーを加えた3人組ユニットとして活動を始め、2012年6月にシングル「マグネット・ジョーに気をつけろ」で日本コロムビアよりメジャーデビューを果たす。洗練されたハーモニーと個性豊かな歌声、歌謡曲のエッセンスを継承した音楽性で徐々に注目を集め、NHK BS「The Covers」へのレギュラー出演など活躍の場を広げている。2018年4月に初のフルアルバム「化粧室」をリリース。同年6月には東京・COTTON CLUBで2DAYSワンマンライブ「星屑スキャット LIVE2018 化粧室で逢いましょう」を開催し大成功のうちに収めた。9月には東京・クラブeXで再び2DAYSワンマンライブ「星屑スキャットLIVE2018『惑星たちのダンステリア』」を行う。