星屑スキャット+中塚武|異端の星屑が放つ光のハーモニー

「なんでデビューさせてくれないの?」

──デビュー曲「マグネット・ジョーに気をつけろ」をリリースするまでの7年は、ひたすらライブ活動を?

ミッツ 3人組グループという意識ができたのはイベント開始から1年、2年経った頃で、そこからはグループとしての活動を軸にしながら、それぞれソロでも歌うという形をずっと作ってきました。なんとなく3人の形が絵になってきたなと思った頃、私がコロムビアのディレクターに「なんでデビューさせてくれないの?」と超高圧的な態度で言ったんですが、一笑に付されちゃって(笑)。「まあまあまあ、いつかね」なんて。そこから4、5年はずっと「まあまあ」で。

和恵 ずっとライブを観に来てはくれてたのにね。レコード会社の人が来てくれているのに、一切デビューさせようなんて話はなかった。

ミッツ そうこうしているうちに、テレビによく出るようになって。オネエブームみたいなものが来ていたから、これならノーとは言わないだろうと。「今が稼ぎどきですよ!」って。全然稼げなかったけど(笑)。

──ゴーが出た段階で、すぐ中塚さんに相談を?

ミッツ その少し前、私がソロシングルを出したときにも中塚さんに1曲アレンジをお願いしたんです(2011年3月発売「若いってすばらしい」のカップリングに収録されたペドロ&カプリシャスのカバー「五番街のマリーへ」)。それ以前から中塚さんとは親交があったんです。

中塚武

中塚 一緒にラジオ番組もやってたしね。

ミッツ 中塚さんは私たちが重箱の隅をつついてクスクスやっているようなことを、説明なしにすぐ察知して、面白がってくれたんです。

中塚 ミッツはさっきマニアじゃないって言ってたけど、ホント詳しいんですよ。いまだに忘れられないんだけど、ある日新丸ビルの「来夢来人」というバーで星屑スキャットのみんなと一緒になったとき、ミッツに「あの曲歌ってほしいんだけど、なんだっけ……高田みづえさんかな? フフフーン♪(鼻歌で)みたいな」ってすごい無茶ぶりをしたんだけど、すぐ「ああ『花しぐれ』ね」って。

ミッツ たまたまですよ。好みが一緒だっただけで。私「花しぐれ」大好きなの。でも、そういうところで「あ、『花しぐれ』を選ぶんだ、この人も」という信頼感があるから。あれが「パープル・シャドウ」だったらお願いしてません。

中塚 あっはっは(笑)。

──そういうちょっとした共通言語って大事ですよね。

ミッツ 大事。すごく大事。

──星屑スキャットのお三方も、そのあたりの認識にズレがないからこそグループになったのかなと思いますけど、お話を聞いているとすべてにおいて共通しているというわけではないんですね。

ミッツ それぞれのカードを持っている感じ。競わずにカードを出し合えると言うか。

「星屑スキャットのテーマ」は綿密な解散コンサート妄想

──これだけハイレベルなコーラスが可能だと、楽曲を制作する側も楽しいですよね。

中塚 いや、僕はイタコみたいなもんで、ただの媒介です。3人にやりたい音楽のイメージがしっかりあるから、僕はそれを降ろしてくるだけ。

──中塚さんが最初に作編曲した「マグネット・ジョーに気をつけろ」のカップリング曲「星屑スキャットのテーマ」がとにかくカッコよくて驚いたんですよ。

ミッツ あのシングルはカバーがメインで、初めはカップリングの「気になる女の子(That's The Way A Woman Is)」(オリジナルはアメリカのバンド・The Messengersの楽曲。チャープスによる日本語カバーを元にしている)がA面になる予定だったんです。「マグネット・ジョーに気をつけろ」はずっとレパートリーとして歌ってた曲なんですが、私はあまり好きじゃなかったの(笑)。和恵さんが好きな曲だからこそ、私はあまり好きじゃなくて。この人が好きなものを私が好きなわけはない。

ギャランティーク和恵

和恵 どういう思考の順序なの(笑)。

ミッツ だけど中塚さんのアレンジでやったら「すごくいい」みたいな。俄然ノリノリになっちゃって、急遽A面を入れ替えました。プラスやっぱりオリジナル曲が欲しくて、それはもう夢ですよね。3人の。それで中塚さんに、私たちの積年の妄想を細かく伝えて(笑)。「ここでライトがこう当たったら3人がバン、バン、バン!と出てきて」みたいな。設定は日本武道館なんです。

──星屑スキャット日本武道館公演のテーマソングを作ってほしいと。

ミッツ そう。しかも解散コンサートの1曲目(笑)。ファンは南と東と西で3方向に分かれてて、それぞれの方向から出てきた3人が花道で一緒になってメインステージに向かう、みたいな。

中塚 だからあの曲はしばらく歌が出てこないんですよ(笑)。登場シーンだから。

──なるほど!

中塚 あの曲を作る頃には、だいぶ1人ひとりの好みがわかってきてたんだよね。僕の中では、星屑スキャットは1978年デビューのグループというイメージなんですよ。和恵さんは1978年以前の歌謡曲に詳しくて、ミッツさんは1978年から1985、6年あたりに強い。で、メイリーさんはその後ろで涅槃仏のようにいる(笑)。

ミッツ 言い得て妙ねえ。重いのよ(笑)。

──はははは(笑)。確かに星屑スキャットの初期のシングルは1978年感がすごくあります。

ミッツ そう。「ザ・ベストテン」(1978~89年にTBS系列で放送された国民的音楽番組)は始まってなきゃだめなんです。私の中で。

中塚 一緒に作り始めて5、6年かな。だから僕の中では今1983、4年あたりなんですよ。

──アルバム用の新曲「波の数だけターコイズ」や2017年のシングル「半蔵門シェリ」あたりはまさに80年代中期の雰囲気ですよね。同じく2017年のシングル「ANIMALIZER」のカップリングではSOAP(1980~81年に活動した4人組コーラスグループ)のカバーもありました。

和恵 わかります! そう。同じところにとどまっているだけじゃなく、あの時代が新しいものに刺激を受けて変化していたように、うちらも1978年起点から新しい時代に向かっているんです(笑)。

3つの恒星が放つ光

ミッツ 私の中でアルバムの曲順を決めるのはそこだったんです。中塚さんのサウンドも時代が進んでいるし、私たちの歌声ももう78年じゃないんでしょうね。でも、それを順番に入れるのも違うと思って、おのずとA面、B面に分かれた感じです。

中塚 曲順いいよね。あっという間。

ミッツ きょうびこんなに畳みかけるアルバムないです。行きどころがないって言うか、“踊り場のない階段”って言ってるんですが、私は。登った先に何もなくて、降りるしかないみたいな。

──(笑)。やっぱりここまで作ってきたものがアルバムという形にできたことは、うれしかったですか?

ミッツ はい。もっと早く実現する想定でやっていたので、時間がかかった分だけ、よりこねくり回して……この5、6年で付いてくれたお客さんもかなぐり捨てるぐらいのものを作りたいという気概が私にはありました。各々はまた違うかもしれませんが。

──この数年の広がりと言うと、リリー・フランキーさんが司会を務めるNHK BSの音楽番組「The Covers」や、同じくリリーさんが主催するライブイベント「ザンジバルナイト」が大きいでしょうか。

ミッツ・マングローブ

ミッツ 大きいですね。十何年やっていて“求められる”という実感を初めて覚えたのが「The Covers」だったので。それまでは圧倒的にこちらが提示する、もしくは押し付ける(笑)。そういう関係だったのが、「これを歌ってください!」とか「これを聴きに来ました!」とか「こういう3人が観たいんです」とか、奇特な人たちが増えてくれたので、感謝です。

──中塚さんやリリーさんというよき理解者にも恵まれていますよね。

ミッツ そうね。それは本当にラッキーです。

中塚 さっき「圧倒的にこちらが提示してる」と言ってましたけど、それはお客さんだけじゃなく僕たちに向けてもそうで、3人とも内側から発散しているんですよ。音楽に対する熱量を。なんと言うか……恒星みたいな(笑)。1人も惑星がいない(笑)。

メイリー あっはっは(笑)。

中塚 だから日の光を浴びてるぐらいのイメージで僕は星屑スキャットの音楽を作ってるんですよ。初めに媒介と言いましたけど、それはホントそうで、ただ光合成をして出してるだけなんです。たぶん僕がいなくても、誰かがその光を受け取って作ってますよ。だから音楽がそんなに好きじゃない人には、ちょっと鬱陶しいかもしれない(笑)。

ミッツ ホントにそう。「新宿シャンソン」のレコーディングが終わったあと、リリーさんに「お前ら本っ当にめんどくさいな」って言われました(笑)。想像をはるかに超えるめんどくささだったみたい。レコーディングが終わんない終わんない。

星屑スキャット「化粧室」
2018年4月25日発売 / 日本コロムビア
星屑スキャット「化粧室」

[CD2枚組]
3500円 / COCP-40302

Amazon.co.jp

DISC 1
  1. Knock Me In The Middle Of The Night
  2. 愛のミスタッチ
  3. ANIMALIZER(2018 new mix)
  4. 半蔵門シェリ
  5. 波の数だけターコイズ
  6. 降水確率
  7. 星屑スキャットのテーマ(2018 new mix)
  8. マグネット・ジョーに気をつけろ(シングル・バージョン)
  9. Interlude - Cosmetic
  10. コスメティック・サイレン
  11. REMEMBER THE NIGHT(2018 new mix)
  12. HANA-MICHI

<Bonus Track>

  1. ご乱心(2018 extended mix)
DISC 2
  1. 新宿シャンソン

公演情報

星屑スキャットLIVE2018
「惑星たちのダンステリア」

2018年9月29日(土)東京都 クラブeX
OPEN 17:30 / START 18:15

2018年9月30日(日)東京都 クラブeX
[1回目]OPEN 13:30 / START 14:15
[2回目]OPEN 17:15 / START 18:00

星屑スキャット(ホシクズスキャット)
星屑スキャット
女装家のミッツ・マングローブ、ギャランティーク和恵、メイリー・ムーの3人からなる音楽ユニット。2005年にミッツとギャランティークが始めたイベント「星屑スキャット」に端を発し、メイリーを加えた3人組ユニットとして活動を始め、2012年6月にシングル「マグネット・ジョーに気をつけろ」で日本コロムビアよりメジャーデビューを果たす。洗練されたハーモニーと個性豊かな歌声、歌謡曲のエッセンスを継承した音楽性で徐々に注目を集め、NHK BS「The Covers」へのレギュラー出演など活躍の場を広げている。2018年4月に初のフルアルバム「化粧室」をリリース。同年6月には東京・COTTON CLUBで2DAYSワンマンライブ「星屑スキャット LIVE2018 化粧室で逢いましょう」を開催し大成功のうちに収めた。9月には東京・クラブeXで再び2DAYSワンマンライブ「星屑スキャットLIVE2018『惑星たちのダンステリア』」を行う。