堀内まり菜|やっと出会えた本当の自分

自分が書いた言葉と歌に向き合って

──ストーリー仕立てであることを踏まえたうえで、3曲目の「ねぇ星よ」を聞くと、妖精さんに連れて行ってもらった先での出来事が書かれているのかなと思いました。感情の込められた歌い方も印象的でした。

心の奥の声にフィーチャーした曲で、由衣さんと何度もやり取りをして歌詞を完成させました。最初に書いた歌詞の時点で私はかなり自分の心の内を書いたつもりだったんですが、由衣さんは鋭くて、「この言葉の奥にある意味は?」と掘り下げてくれて。

──リボンの比喩がなんだかロマンチックだなと思いました。大好きだからこそ丁寧に結んできたのに、いつの間にかそれが自分自身を苦しめていたというようなことかなと想像したんですが。

はい。アニメや歌が大好きでそれを表現したくてがんばっていたはずなのに、それによってだんだん心も体も苦しくなっていた時期があって。

──苦しくなるというのは、好きだから表現しているのではなく、「人気が出るためにはこうしなくちゃいけない」というような感覚からですかね?

そうです。もっと自由にやっていいはずなのに、気付いたらファンの方に喜んでもらいたいという思いだったり、スタッフさんのためにがんばらなきゃいけないみたいな気持ちに勝手になって自分自身を苦しめていたんですよね。

──「“好き”って 想い消えちゃった」という歌詞もありますが、それぐらい思い詰めていた時期もあったんでしょうか? それはさっきお話してもらった芸能活動を続けるか辞めるかという話とも通ずるかなと思いますが。

堀内まり菜

はい。好きという気持ちだけでやっていた頃はもっと自分の心が満たされていたんですけど、それがいつの間にか空っぽになってしまって。「ねぇ星よ」という言葉はもう助けてほしくて出た言葉。SOSですね。

──歌っていてすごく苦しかったのでは?と思いました。

それはまた違う意味で苦しかったです。というのも、歌詞と同じように由衣さんのボーカルディレクションが厳しくて(笑)。「まり菜ちゃんが伝えたい気持ちが伝わってこないよ」って、たくさん歌ったんです。

──堀内さんのYouTubeチャンネルに上がっている対談の動画を観て、新津さんって穏やかそうだなと思ったんですけど、けっこうスパルタなんですね(笑)。

そうですね(笑)。がんばったからこそ自信を持って聴いてもらえる曲になったと思います。自分が書いた言葉と歌に向き合って完成させた1曲なので。こういう気持ちに共感してもらえる人がいたらうれしいです。

空想の世界からお部屋に帰ってきて

──「空っぽの私」はすごく元気いっぱいでポジティブな曲ですよね。「だから靴紐のリボン結び直して 飛べ!」という歌詞から想像するに、「ねぇ星よ」で落ち込んだところから、立ち上がっていくさまが描かれているように感じました。

「ねぇ星よ」で力尽きてしまったけど、ずっとこの状態でいるわけにもいかないから、空っぽの私でもいいから一歩踏み出そうという曲です。底まで落ち込んだら変なスイッチが入って、もうこのままで大丈夫だって吹っ切れた感じというか。Dメロの「空っぽのメロディーは“ほんとう”を歌ってる」という部分は歌詞を書きながらようやく気付いたことなんですけどね。強がりとかプライドとかそういうのを捨てた、空っぽの私が書いた言葉が私の本当の気持ちなんだって。それに気付いて今の私を信じ続けたいという思いにもなりました。

──「空っぽの私」から「優しい人」に入る前に「ふう」というインタールードが入ります。

「空っぽの私」で空っぽになったと思ったのに、まだ奥にモヤモヤを見つけたことを表現するために由衣さんが入れようと提案してくれて。家に帰って1人になった瞬間に“空っぽの私”と改めて向き合ったら、さらにその奥にあったモヤモヤが見つかった……という感じを表現しています。だからドアが開く音とか書く音とか生活音が入っていて。空想の世界から1回お部屋に帰ってきたんだなと思ってもらえたらと。

──「優しい人」はギターとピアノがメインのかなりシンプルなアレンジの曲ですね。

友達と話していてあんまり会話が弾んでないときに、楽しいと思ってほしいという気持ちが先行して、全然似てもないのに「私たち似てるね」って言っちゃうみたいな、そういう経験を歌にしました。

──あー、そういう経験は私にもあります。

ありますよねえ(笑)。そういうその場しのぎの言葉ってあとあと後悔するというか。なんでもっとちゃんと人のことを愛せないんだろうって自問自答してしまうんですよね。

──曲を聴いていて「味噌汁 何杯飲んできたのさ」ってすごくインパクトがある歌詞だなと思いました。

私は毎朝味噌汁を飲むので、1日を味噌汁1杯に例えたんです。あれだけ飲んできた、日々を重ねてきたのに何も変わってないねっていう。

──なるほど。話は戻りますけど、この曲では「優しいとは何か」を突き詰めたってことですよね。

そうですね。自分が人から優しさをもらったら、やっぱり返したいと思うんですけど、その人が今欲しい優しさってなかなかわからないんですよね。この曲に関してはストーリーがあるというより、優しさってなんだろうと考えた日の日記みたいな感じの歌詞になっています。

自分への応援歌と夢を叶えるための曲

──冒頭で「ココロインク」の話は少ししましたが、改めてこの曲の話もさせてください。葛藤している歌だということでしたけど、自分を鼓舞する歌詞の中でも「今この場所はゴールじゃないじゃん」という部分がすごくいいなと思いました。

うれしい!

──いつでもここに立ち返れば始められるぞという強い思いを感じました。

本当にそうなんですよね。悔しいことがあった日に自分の曲を聴いて励まされることが増えて。それは自分の言葉に嘘がないからだし、今聴くとこの歌詞を書いた頃の自分がここで励ましてくれてるからがんばろうと思えるんです。

──「ココロインク」はこれからも堀内さんの応援歌としてあり続けるんでしょうね。

そうだと思います。

──そんな応援歌のあとは「Welcome to Nanoland」というテーマパーク感のある1曲に続いていきます。

堀内まり菜

「ココロインク」で「前を向け!」って励ましてめちゃくちゃ燃えてたけど、それ以上突き詰めちゃうと燃え尽きちゃうから、このへんで1回思いっきり遊ぼうよという流れにしたかったんです。いつかライブで音楽のテーマパークみたいな感じの表現をしたいなと思っていたので、この曲ができてやっとその夢が実現できそうです。

──導入部分の「Ladies and gentlemen, Welcome to Nanoland.」というセリフはもちろん……?

ディズニーランドのアナウンスを意識しています。

──ですよね(笑)。このテーマパーク感あふれる曲で改めて自己紹介をして、「Midnight Rail」に続いていくという流れで。「Midnight Rail」は「固定概念には大変お世話になりました」というパンチのある歌詞で始まります。

この曲は“Nanoland”で思いっきり遊んだけど、まだ遊び足りないなと夜の道を歩いてたらぴかぴか光るモノレールを見つけた、みたいなイメージでここに入りました。

──モノレール?

私はモノレールが大好きなんですよ。

──そうなんですね。このアルバムの中では一番ロックテイストな楽曲です。聴いていて爽快感がありますし、歌のスキルも一番感じられるような気がします。

この曲は終盤に録った曲で、由衣さんに教えていただいたことが馴染んできたタイミングで歌えたので、学んだことを一番発揮できたと思います。複雑なメロディはうねるレールをイメージしています。「合言葉は Monster&Crazy」という歌詞は書き始めてすぐに思い浮かんだんですよね。「自分も周りもみんなモンスターになってクレイジーに生きようぜ」っていうメッセージなんですけど、これはきっと自分の心の奥の奥のほうにあった思いで。ライブでもみんなで「Monster&Crazy!」って叫びたいです。

──「1番真ん中にある気持ちはどれだ? 出ておいで」はきっと堀内さんが新津さんからもらった言葉と同じような意味ですよね。

そうですね。私がそうしたように、みんなも自由にはみだしちゃえばいいよって。そういう思いを込めています。