2021年1月に礒部花凜、熊田茜音、堀内まり菜、吉武千颯の4人の声優によって結成されたコーラスユニット・ヒーラーガールズ。彼女たちはこれまでに2枚のアニソンカバーミニアルバムを発表し、美しい歌声を通してリスナーに“癒し”を届けてきた。そして2022年4月には4人が声優としてメインキャストを務めるオリジナルテレビアニメ「ヒーラー・ガール」の放送がTOKYO MXほかでスタート。“新感覚ミュージカルヒーリングアニメーション”というコピーが掲げられたこのアニメでは、歌で病気やケガを治す“音声医学”が浸透している世界を舞台に、歌うことで医療行為を行う”ヒーラー"たちの物語が描かれている。
ヒーラーガールズはアニメのオープニングテーマ「Feel You, Heal You」とエンディングテーマ「Believe like Singing.」も担当。さらに藤井かな(CV:礒部)、五城玲美(CV:堀内)、森嶋響(CV:熊田)、矢薙ソニア(CV:吉武)として数々の劇中歌を歌い上げている。音楽ナタリーでは5月25日にオープニングテーマとエンディングテーマを収めたシングル「Feel You, Heal You / Believe like Singing.」、6月22日に劇中歌を集約したアルバム「Singin' in a Tender Tone」がリリースされることを記念して、ヒーラーガールズのインタビュー特集を前後編にわたって展開。前編では声優コーラスユニットという新境地を開拓する彼女たちの結成当時のエピソードやそれぞれの歌声の魅力、シングルに関するエピソードをお届け。後編では劇中歌の話を軸に、アニメ「ヒーラー・ガール」への思いを語り合ってもらった。
取材・文 / 須藤輝撮影 / 星野耕作
【前編】
4人の歌声が重なって生まれる“癒し”の歌
初めて声を合わせた瞬間、体の芯がジーンと震えた
──ヒーラーガールズはBS11の番組「Anison Days」での活動をきっかけに、2021年1月にコーラスユニットとして結成されましたが、いわゆる声優ユニットの中で「コーラスユニット」って、わりと特殊な位置付けですよね。
一同 ……。
──あれ?
熊田茜音 あの、実は4人で取材を受けるのは今日が初めてで……。
──「誰からしゃべる? 誰からしゃべる?」みたいな?
堀内まり菜 それになりました(笑)。
──ヒーラーガールズのYouTubeチャンネルなどでは誰が先陣を切る感じなんですか?
吉武千颯 普段は、花凜ちゃん。
礒部花凜 はい。今おっしゃってくださったように、私もコーラスワークを聴かせる声優ユニットというのはあまり聞いたことがなくて。どんなふうになるんだろうと思ったんですけど、初めて声を合わせたときに「ああ、こういうことなんだ」って。
熊田・堀内・吉武 うんうん。
礒部 みんなそれぞれ好きなものや目指すところは違うかもしれないけれど、根本的なところで音楽に対する気持ちは同じというか。簡単に言えば「音楽が好き!」「歌いたい!」というのが声を合わせた瞬間にわかって「あ、これは楽しいことになりそうだ」と思ったのを覚えています。
──ちなみに初めて声を合わせた曲というのは?
一同 「God knows...」(2021年3月発売の1stミニアルバム「Voices vol.1 ~アニソンコーラスカバーアルバム~」収録曲)です。
堀内 4人で初めて「God knows...」で声を合わせたときのことは、今でも鮮明に覚えていて。お互いにほぼ「はじめまして」な状態だったので手探りではあったんですけど、やっぱり声が重なった瞬間の一体感は特別なものとして残っています。
吉武 私も、1曲の中でこんなにもハモリで上に行ったり下に行ったりしながらパフォーマンスするのは初めてで。とても新鮮でしたし、花凜ちゃんとまり菜ちゃんも言っていたように「God knows...」で初めて合わせた瞬間、体の芯がジーンと震えたんですよ。あれが今でも忘れられなくて、ライブの練習とかでも「God knows...」は一発で自然と合うので、初心に戻れる大事な曲になりました。
熊田 最初にコーラスユニットと聞いたとき、まず「何するんだろう?」と……いや、もちろんコーラスをするんですけど(笑)、ユニットとしてどういうものになるんだろうと思って。でも、メンバーの3人に対しては以前から「めちゃくちゃ歌が上手」という印象を持っていたので「この子たちと一緒に活動できるんだ!」という喜びも同時にありました。あと、ちーちゃん(吉武)と同じように私も今までコーラスを録る場合は自分の声に当てるだけで、誰かと一緒に合わせた経験がなくて。だから、最初はけっこうガタガタになっちゃうかなと心配したんですけど……。
──それも聞こうと思っていたんですよ。すぐに合ったんですか?
熊田 そう、自分でもびっくりするぐらい、最初からぴったり合ったんです。私は自分のハモリラインしか練習していないので、4人で合わせるまでハーモニーの全体像が見えなかったんですけど、実際にやってみて、こんなに音に厚みが出てキラキラするんだと感動して。「これからもこういうことを続けていけるんだ!」と、最初に感じたワクワクがさらに大きくなりました。
バラード担当とボンボンマスター
──ヒーラーガールズは現在までにアニソンカバーミニアルバムを2枚リリースし、ライブも配信と有観客で2回行っています。そのような活動をしていく中で、それぞれの役割分担みたいなものは生まれました? 例えば誰が上ハモで、誰が下ハモとか。
吉武 それは徐々に決まっていった……よね?
礒部 うん。アニソンカバーの全アレンジをしてくださった酒井ミキオさんがみんなの声を聴いて振り分けてくださったんですけど、最初はわりとランダムで。それがだんだんと、自然と各々の担当が固まってきたというか。
吉武 花凜ちゃんは、コーラスではハイトーンを担当してくれてるイメージ。たぶん、花凜ちゃんは4人の中だと一番、歌声と話し声の差が大きいというか……あ、いい意味で。
礒部 フォローしてくれたの?(笑)
吉武 普段はこんなふうに柔らかい感じなんですけど、曲によってはすごく大人っぽい歌声を聴かせてくれて。
堀内 花凜ちゃんの歌声はすごく透明感があって、特に高音の伸びやかな響きやビブラートが本当に素敵だし、リスペクトしています。
熊田 花凜ちゃんの歌声には力強さもあるんですけど、どちらかというと優しく包み込むような、ほわっとした歌い方が個人的にはすごく好きで。もちろんそのギャップ自体も魅力的だし、役割としては、やっぱり高いキーなのかな? それか、落ちサビで転調したあとのパートとか。
礒部 自分としては、どちらかというとバラード担当。
吉武 あ、そうだね。しっとり系。
──この流れで全員の歌声について伺っていいですか? 次は、堀内さんで。
吉武 まり菜ちゃんは、どちらかというと低い音を担当することが多いのかな。例えばまり菜ちゃん以外の3人が上で「ハア~」とか「フウ~」とかコーラスしている中で、まり菜ちゃんが下で「ボンボンボンボン」ってリズムを刻んでくれたりして。
熊田 「ボンボンマスター」って言われてるからね(笑)。
礒部 声がパーカッションみたいなイメージで、弾むような声色でみんなを支えつつニュアンスを出してくれる。そんな歌声です。
──僕は「もってけ!セーラーふく」(2021年7月発売の2ndミニアルバム「Voices vol.2 ~アニソンコーラスカバーアルバム~」収録曲)が高速ドゥーワップになっているのに感動したのですが、あの躍動感は堀内さんの歌声によるところが大きい?
堀内 いやいや! みんなの力です。みんなを支えられているならうれしいんですけど、私としては「バババババ!」って、車のエンジンみたいな気持ちで歌っていました。
熊田 まり菜ちゃんの歌は、母なる大地という感じがします。歌っているときはもちろん、普段からメンバーの様子をよく見てくれていて、例えば単純に「元気?」とか声をかけてくれたり、すごく気配りができる子で。だから私たちもまり菜ちゃんの歌に乗っかれるというか、まり菜ちゃんが支えてくれるからこそ、主旋を担当するときは自信を持って歌えたりするんです。あと、主旋のバトンタッチをするときも、すごく丁寧にバトンを渡してくれる。
堀内 ありがとう。私も4人でバトンを渡し合って歌えるということに、喜びを感じています。
胸キュン担当と熊田節
──続いて、吉武さんはどんな歌声ですか?
堀内 千颯ちゃんは、声の響きがすごくキラキラしていて。千颯ちゃんもメンバーのちょっとした変化とかに気付いて「大丈夫?」とか声をかけてくれるんですけど、そういう優しさが歌声にも表れていると思います。隣で歌っていても、例えば私がちょっと不安を感じたりするとすぐに気付いて、目を見て、一緒に呼吸を合わせて歌ってくれるので、すごく安心できるんですよ。
熊田 ちーちゃんは、キーとしてはどのへんなんだろうね?
吉武 ね。曲によるといえばそうなんだけど。
熊田 高いほうも低いほうも、オールマイティにきれいに出るなあと思っていて。役割としては、胸キュン担当というか、私はちーちゃんの歌声にいつもハートを射抜かれています(笑)。あと、YouTubeで「アニヒラ(Anison Days× Healer Girls)」とかを観ていただくとわかるんですけど、ちーちゃんは歌うときに独自の振りを付けるんですよ。
──米津玄師さんの「ピースサイン」のカバーで、歌詞の通りピースサインを掲げていましたよね。
吉武 あれも振りは決まっていなくて、「ピースサイン」のジャケ写がそうだったので「あ、私もやろう」って。
熊田 そういうふうに、全曲に対して自分のオリジナリティを出して向き合うタイプで。ステージに立つときはちーちゃんと私は端と端になることが多いんですけど、ちゃんと目を見合わせて思いを届けようとしてくれるというか。狭いところで歌っていなくて、いつも広いところにいる子だなと思います。
吉武 ひえええ。なんてうれしいの……。
礒部 千颯ちゃんは、4人の中で一番真面目というか、まとも。
吉武 そんなことないよ!?
礒部 そう? でも、いつも楽曲をしっかり聴き込んでいるし、それこそ「ピースサイン」のジャケ写とか細かいところまで把握しているので、研究熱心な子というイメージで。声も普段からすごくかわいいんですけど、いろんな曲に寄り添えるかわいさというか。アニソンらしいかわいさにもなれば、J-POP的なおしゃれなかわいさにもなるみたいな、七変化できるかわいい声の持ち主です。
──では最後に、熊田さん。
吉武 熊ちゃん(熊田)は、すごく感情を大事にして歌う子で。「熊田節」ってよく言われるんですけど、元気な曲ではつらつと、でもバラードになると優しく繊細に、曲によって全然違う歌い方をするので、そこが魅力的だなと思っています。
堀内 茜音ちゃんの歌声を聞いてると、自然と背中を押されるというか。茜音ちゃん自身が自分のやりたいこと、好きなことを発信してみんなを励ましてくれる子なので、その熱量を歌声からも感じていて。私もいちメンバーとして、いつも勇気をもらっています。
礒部 歌声も、歌うことに対する「楽しい!」という感情も、人一倍パワフルで。もともとロックを聴くのが好きだからなのかもしれないけど、本当に曲に対して感情をまっすぐに、惜しみなくぶつけるような歌声なんですよね。だから私たちもそのパワーを感じているんですけど、それはガツンと殴られる感じの力強さではないというか……。
吉武 すうっと入ってくるんだよね。
堀内 優しさがね。
礒部 そうそう。強く、でも優しく後押ししてくれるパワフルさだなって。
熊田 ありがとう。私は歌うときに「誰に届けたいか」をよく考えるんですけど、その結果、そういうふうに受け取ってもらえていたならうれしいです。その届け方にしても、思うようにできなくて悩んだときはよくメンバーに相談していて。そういう意味では、1人ではなし得なかったことがヒーラーガールズの活動ではできているし、お仕事だけじゃなくて、雑談しているときとか高校の教室みたいな感じで、好きなコスメとか髪色の話をしていたりするんですよ。そんな頼れる仲間がいて、私も幸せです。
ただの“急に歌う”アニメではない
──ここからはニューシングル「Feel You, Heal You / Believe like Singing.」について伺います。収録曲の2曲はアニメ「ヒーラー・ガール」のオープニングテーマとエンディングテーマですが、まず皆さんは「ヒーラー・ガール」をどんなふうにご覧になっています?
吉武 「ヒーラー・ガール」は歌で病気や怪我を治す“ヒーラー”を目指す女の子たちの物語なんですけど、まずヒーラーというお仕事自体がすごく素敵だと感じていて。それに加えて、“新感覚ミュージカルヒーリングアニメーション”と謳っているように、毎話まったく違う劇中歌が流れるんですよ。なので各話のエピソードと、それと結び付いた楽曲の両方面から身も心も癒してくれるアニメになっていると思います。
熊田 ヒーラーという職業は現実の世界にはないけれど、音楽を聴いて気持ちが楽になったという経験は誰しもあるんじゃないかと思うんです。私も学生時代、人間関係に悩んで落ち込んでしまったときにとあるアーティストのライブに行って、音楽の力で心の傷が癒えていくのを感じたんですよ。その現象が、アニメ化されたんだなって。
堀内 私自身も音楽が大好きで、憧れを抱いて歌手を目指していたんですけど、そういう音楽に対するキラキラした思いにあふれた作品で。監督の入江(泰浩)さんもすごく熱い思いを込めて制作してくださっていて、観終わったら「明日もがんばろう」という気持ちになりますね。特に今は1人になりがちというか、なかなか人に会いづらい状況でもあるので、誰かがそばにいてくれる温かさや、救い合える優しさを皆さんにも感じていただきたいです。
礒部 ヒーラーがやっているのは音声医学という医療行為で、熊ちゃんも言うようにフィクションなんですけど、「音楽を聴いて癒されるってことの延長だよね」という話をしたりしていて。今はまだ医療として確立されていないけれど、将来的にはありえそうに思えてくるんです。歌で治療するといっても魔法みたいな万能ではない分、リアリティがあるというか。だからこそ、歌の力というものを信じてもらえそうな気がするんですよ。それこそキャッチコピーの「歌の『癒し』を信じてる。」の通りに。
熊田・堀内・吉武 そう。
礒部 あと、千颯ちゃんも言っていたように毎回劇中歌が変わるんですけど、例えばある回で流れた劇中歌がまた別の回でも流れたりして。「あれ? この曲って、あのときの……」みたいな、そういうリプライズ的な使い方も上手で、だからただの“急に歌う”アニメではないんですよ。ミュージカルに対するリスペクトが感じられるというのも、ミュージカル好きとしてはオススメポイントです。
次のページ »
広大な草原にいるようなイメージでした