ヒトリエ「NOTOK」インタビュー|wowakaの未発表曲をシングル化「ひさしぶりに彼の人間性に触れた」レコーディングを振り返る (2/2)

「この曲なら歌っていいよ」って言われている感覚

──シングルに収録された「ワールズエンド・ダンスホール」「テノヒラ」はすでにライブでも演奏されていますね。

シノダ そうですね。3人体制のライブで「ワールズエンド・ダンスホール」をやり始めたのはいつ頃だっけ?

イガラシ 今年の1月。

ゆーまお そうか、それまではやってなかったんだ。

シノダ イガラシがセットリストに「ワールズエンド・ダンスホール」を書いてきたんですよ。

イガラシ ちょっと書いてみたんですけど、書いたら演奏するしかないので。

シノダ やらざるを得ないよね(笑)。4人の頃からやってましたからね、この曲。

イガラシ wowakaのボーカロイド曲の中では、もしかしたら一番たくさんやってたかも。

ゆーまお そうだね。

──4人で演奏していた「ワールズエンド・ダンスホール」に比べると、今回のバージョンはかなりテンポが速いですね。

イガラシ 以前は原曲よりも遅いテンポでやってました。

ゆーまお 「この曲はちょっと遅めにやってもいいよね」って本人が言ってたんです。俺らも「そうだよね。大変だもんね」って(笑)。

ゆーまお(Dr)

ゆーまお(Dr)

イガラシ 原曲の速さでは演奏できなかっただけなんですけど。

シノダ そう。ひさびさにライブでやることになったときに、以前の感じでやってもパンチがない気がして。「今のお前だったら、原曲のBPMでも16(ビート)叩けるんじゃない?」っていう話をしたよね?

ゆーまお したね。原曲のBPMは171なのに、今年の1月にライブでやることになったとき、俺が間違えて172で叩いてしまって(笑)。

シノダ ボーカル録りのとき、Bメロが全然歌えなかったんですよ(笑)。テンポが速すぎて。収録されてる「ワールズエンド・ダンスホール」は史上最速でしょうね。

──(笑)。「テノヒラ」は野音でも演奏されましたが、観客が集中して聴いているのが印象的でした。有観客で披露したのはあのときが初めてですよね。

イガラシ そうですね。

ゆーまお 2021年の配信ライブでやったんですけど、人前でやったのは初めてです。wowakaが歌ってもシノダが歌ってもうれしい曲じゃないですかね、「テノヒラ」は。

シノダ これをどうして収録しようと思ったか、というストーリーもけっこう長くて。ヒトリエを始めた当初は、ライブのときに1曲だけ僕が歌う箇所があったんですよ。その頃に弾き語りで歌っていたのが「テノヒラ」で。そんなに回数は歌ってないんですけど。

ゆーまお 10回も歌ってないよね。

シノダ そうだね。あとは5周年のとき、ちょうど「HOWLS」を出した年の1月に下北沢ERAを7日間借りてライブをやりまして、その中に弾き語りの日を設けたんですよ。僕とwowakaのツーマンみたいな形で、そのときに2人で「テノヒラ」を歌って。自分としても思い出が深いし、あとは「この曲なら歌っていいよ」って……。

ゆーまお 言われたの?

シノダ 言われてない。

ゆーまお (笑)。じゃあ何?

シノダ 言われてないんだけど、なんか言われてるような感覚があるというか。

イガラシ 自分の感覚か。

ゆーまお 勝手に許されたと思ってるんだ。

シノダ そう(笑)。「テノヒラ」はちょっと距離感が近い気がするし、今一度この曲をバンドでやったらどうなるのか、ヒトリエで音像を広げてみたいという興味もありました。

「daybreak seeker」のギターソロ1000本ノック

──「daybreak seeker」も「HOWL」の時期に制作されていた曲ということですが、冒頭のベースがめちゃくちゃカッコいいですね。

イガラシ ありがとうございます。これは確か、スタジオで適当に弾いてたら「それで何か作りましょう」とwowakaが言い出したんですよ。で、その場で構成を考えて。オケも録り終えてたし、メロディラインもあったけど、歌詞だけがなかった。今回収録するにあたって、シノダが歌詞を書き足して歌いました。

イガラシ(B)

イガラシ(B)

シノダ “ありもの”のメロディに歌詞を乗せるのはよくやってるんですけど、今回は相手がwowakaですからね。どうしたもんかな?と悩んだ部分もいっぱいあるし、結果的にけっこうな文字数になってしまいました。wowakaの曲に歌詞を付けるとこれくらいの文字数になっちゃうんだな、という謎の気付きもあって。前々から「すげえ文字数だな」って思ってたんですけどね。

──文字を詰めたくなるメロディなんでしょうね。

シノダ それもあるし、展開させたくなるんですよ、話を。1番と2番で同じメロディであっても、違う言葉を置きたくなるし、そうしないとwowakaらしい曲の質量が生まれなくて。歌詞の内容としては、ヒトリエというバンドと聴いてくれる人たち、それを取り巻く環境、そういうものを俯瞰して書いてみようと。「ヒトリエってどういうバンドなんだっけ?」みたいなことを考えながら書いてると頭がこんがらがるわけですけど、それも含めてヒトリエなのかなと。うまく説明できないけど、とにかく大変でした。あと、荷が重かったです。

──ゆーまおさんは「daybreak seeker」の制作時、どういうアプローチをしましたか?

ゆーまお wowakaが作ったデモに沿っていたというか、ほぼ変更点はなかったんです。シングルに入っている音源も6年前に演奏したものなので。今改めて聴き返して思うのは「尺が6年前だな」っていう(笑)。今wowakaがいたら、構成をめちゃくちゃ変更していたと思います。

イガラシ そこはもうしょうがないよね、全部できてるんだから。

ゆーまお 「HOWLS」に収録される可能性もあったからね。6年を経てようやく出せました。

イガラシ 俺らが出している音もだいぶ違うしね。

ゆーまお そうだね。音像もかなり違うんですよ。ほかの3曲は「下(低音域)も上(高音域)も出しましょう」という感じの作りになっているんだけど、「daybreak seeker」はギュッと真ん中に寄ってるというか。

シノダ サウンドの重心がちょっと高いんだよね。

ゆーまお その頃の流行もあったと思うし、自分たちのプレイやエンジニアさんも含めて変化しているので。そういう意味でも、記録物として貴重なのかと。

──録り直さず、そのまま収録したほうがいいと。

イガラシ この曲に関してはそうですね。

シノダ もう1つびっくりしたことがあって。ミックスの段階でエンジニアさんに「シノダくん、この曲のファイルを見たら、ギターソロが100パターンくらい入ってるんだけど」って言われたんですよ。そんなわけないでしょと思ったら、本当に入ってた。

イガラシ 1000本ノックだね、ギターソロの。

シノダ そう。「ここにギターソロを入れます。では、弾いてください」みたいな感じでいろんなパターンのソロを弾いて。曲のデータの中にその痕跡が全部残っていて、戦慄しました。

ゆーまお 結局、100分の1に絞ったの?

シノダ 順番に聴いて、「これはダメだな」「これだったらいいかも」みたいなことをエンジニアさんと話して。最終的に今の状態になりました。あと、シンセとかシーケンスもけっこう入ってたんですよ。中には「なんのためにこれを入れたんだ?」というものもあって。

イガラシ アイデアのラフスケッチみたいなものだろうね。

ヒトリエ

ヒトリエ

「wowaka、参加できなくて残念だったな」

──ジャケットのアートワークについても聞かせてもらえますか?

ゆーまお ジャケットは古川本舗さんにお願いしました。古川さんはwowakaにとってボカロP時代の仲間であり、ライバルみたいな存在だったんですよ。古川さんはデザインの仕事もしているし、wowakaの「アンハッピーリフレイン」のアートワークもやってて。wowakaはとにかくこだわりが強い人で、どういうデザインだとOKが出るかわからない。なので「ここは“人”でいこう」と思いました。

ヒトリエ「NOTOK」ジャケット

ヒトリエ「NOTOK」ジャケット

──古川本舗さんにお願いすれば、wowakaさんも納得するだろうと。

ゆーまお 今回のシングルにはボカロの曲も入ってるし、古川さんはwowakaの人となりも知っているので、「なるほどね、古川さんとやったんだ」と言ってくれる気がして。あと、古川さんは「悔しがらせてやろうぜ」みたいなことをおっしゃってたんです。「『wowaka、参加できなくて残念だったな』というものを作ろうと思う」と言ってくれて、すごく心強かった。

イガラシ そういう言葉が楽にしてくれた部分もありましたね、こちらとしても。

シノダ そうだね。

ゆーまお ただ、古川さんがwowakaのテレキャスターを借りパクしてるのは知らなかったです(笑)。

──リリース情報が発表されたときの古川本舗さんの「借りパクしてテレキャス返さないけどいいよね」というコメントですね(参照:ヒトリエ新曲「NOTOK」をwowakaボーカルでリリース、未発表曲追加したシングルCDも)。

ゆーまお シノダみたいな人がここにもいた!ってびっくりしました。

シノダ ハハハ。

イガラシ いろんな人に貸してたのかな。何本ギター持ってたんだ。

──このシングルを経て、2025年1月22日にはデビュー10周年を記念したオリジナルアルバムのリリースも控えていますね。制作はいかがですか?

イガラシ 楽器はもう録り終えました。

ゆーまお あとは歌録りだけですね。

シノダ うん。今ちょっと壁にぶち当たってるんですけど、がんばります。

公演情報

HITORIE 10-NEN-SAI FINALE TOUR

  • 2025年1月11日(土)愛知県 名古屋CLUB QUATTRO
  • 2025年1月12日(日)大阪府 梅田CLUB QUATTRO
  • 2025年1月19日(日)東京都 Zepp Shinjuku(TOKYO)

2024年12月1日(日)23:59までオフィシャル3次先行予約受付中

プロフィール

ヒトリエ

wowaka(Vo, G)、シノダ(G, Cho)、イガラシ(B)、ゆーまお(Dr)の4人により結成されたバンド。ボカロPとして高い評価を集めていたwowakaがネットシーンで交流のあったシノダ、イガラシ、ゆーまおに声をかけ、2012年に活動をスタートさせた。2013年11月に開催したワンマンライブ「hitori-escape:11.4 -非日常渋谷篇-」にて、ソニー・ミュージックグループ傘下に自主レーベル「非日常レコーズ」を立ち上げることを宣言。2014年1月にメジャーデビューシングル「センスレス・ワンダー」を発表した。その後も精力的なリリースとライブ活動を展開するが、2019年4月にwowakaが急逝。残るメンバーは3名体制で同年9月より全国ツアーを行った。2021年2月に新体制で初のフルアルバム「REAMP」を発表し、2022年6月には新体制アルバム第2弾「PHARMACY」をリリース。2024年6月にメンバー4人それぞれが作曲を手がけた楽曲を収録したシングル「オン・ザ・フロントライン / センスレス・ワンダー[ReREC]」をリリースし、9月に東京・日比谷公園大音楽堂(日比谷野音)でワンマンライブを行った。11月にwowakaが作曲した楽曲4曲を収録したシングル「NOTOK」をリリース。2025年1月には東名阪ツアーの開催とニューアルバム(タイトル未定)のリリースを控えている。