平井堅|25周年イヤー締めくくるアルバム完成 シングル曲から新曲まで全曲を解説

02.怪物さん feat. あいみょん

──2曲目は最新シングル曲「怪物さん feat. あいみょん」(2020年3月リリース)。あいみょんさんの歌のうまさに圧倒されました。

うまいですよねー。うまいっていうか、カッコいいんですよ。

──滑舌というか歯切れがものすごくいい。

あれは天性なんでしょうね。やっぱり天下を獲る人って必ず、どこかに何かさりげなくとんでもなく素晴らしいものを持ってるんだけど、彼女もふわっと聴いて歌詞がストーンと入ってくるというか、あの訴求力みたいなものはすごいです。彼女の曲を聴いていてもそう思うし、レコーディングに立ち合ったときも素晴らしいって思いました。けっこう前に書いた曲で、デモはいつもコーラスをやってくださってる女性に仮歌を歌ってもらって作ったので、彼女の声が乗ってどうなるかは最後の最後までわかんなかったんだけど、想像以上によかったですね。太陽みたいな人で、ケラケラ笑いながらぴゃぴゃっと……というほどでもないか。でも早々に歌い終えていなくなったような気がします。

──歌詞に「穴の空いた顔見たくない」という一節がありますが、これはジャケットと関係があったりしますか?

それは今気付きましたけど、確かに「穴の空いた顔」は書いてるときはのっぺらぼうみたいなイメージでした。ホストとキャバ嬢の恋愛を思い描いて書いた曲なんですけど、まったく心を開いてくれないホストがふとしたときに見せた冷たい顔、みたいなイメージかな。1行目は「私をそこらの女と同じ様に扱ってよ」、最後には「私がそこらの女と何が違うか教えてよ」と、主人公の言ってることが逆になってますけど、いわゆる男ウケのいい没個性な女の子に見られたいという気持ちと、やっぱり特別な女の子として見てほしいという気持ち、その両極の間で揺れる姿を書きたかったんです。

──矛盾あっての人間ですもんね。わかってほしい、でもわかられたくない、みたいな。

自分もそうなのかもしれないですね。特別に思われたいのに「全然、僕なんて普通です」って言ってみたり(笑)。

03.#302

──TBS系ドラマ「4分間のマリーゴールド」の主題歌だった「#302」(2019年12月シングルリリース)は、平井さんの得意な密室を舞台にした片思いの歌ですね(参照:平井堅「#302」インタビュー)。

得意なわけではないけど、「密室片思い系」と呼んでいますね(笑)。カラオケをシチュエーションに使ってるあたり、僕の当時の日常が思いっきり生かされた楽曲です。今はできなくなっちゃいましたけどね。

──この曲に限りませんが、極限まで切り詰めたアレンジで成り立っているのがすごいです。アコギとトライアングルですもんね。途中から少し増えますが……。

かつての分厚くて壮大なバラードから、いかに音数を減らしてミニマルにしていくかっていう作業にここ10年ぐらいずっと取り組んでますね。ちょっとやりすぎかなと思って、アルバムの新録曲はピアノ1本とかではないものにしたけど、「歌を聴かせる」というところに特化してるのは近年の傾向です。

──「ノンフィクション」はアコギとハーモニカ主体、「half of me」なんてほぼピアノ1本ですし。

最近はもうちょっと冷静にというか客観的にというか「どっちもありだな」と思って見てるけど、本当にこの10年ぐらいはサビで流麗なストリングスがドーン! 瞳をとじてー! みたいな展開は完全に避けてますね。また巡り巡って、ああいうアレンジがいいなって思うようになるかもしれませんけど。

04.1995

──4曲目は作編曲をケンモチヒデフミさんが担当して、平井さんは作詞だけした新曲「1995」ですが、この曲名はデビュー年と関係ありますか?

はい、あります。25周年だから自分がデビューした1995年をテーマに書いたんですけど、お聴きの通り、自分のことは一切関係なく1995年のことをただ歌ってますね。阪神・淡路大震災が起きた1月17日は僕の誕生日だったんです。3月には地下鉄サリン事件があって、僕はその後にデビューしたんですけど、歴史に残る大きな事件が立て続けに起きた一方で、アムラーとかギャル文化全盛で、Windows 95が発売されたりとか、負の出来事と逆の出来事がないまぜになって混沌としたこの年を、肩パッド入れた白い衣装を着せられて砂漠で「なんでデビューできたんだろう?」とか思いながら歌っていた僕自身のことも感じながら書きました(笑)(参照:平井 堅 『Precious Junk』MUSIC VIDEO)。サビで「あの世のリズムとこの世のリズムで踊らせてよ」と歌ってますけど、生と死というものを強く感じた年でしたね。

──ケンモチさんが平井さんの楽曲に参加するのは今回が初めてですよね。

初めてです。今回、自分で曲を書いてないのがこれと「ポリエステルの女」の2曲で、「ポリエステルの女」はいろいろいただいた中から選んだんですけど、唯一ケンモチさんとはお会いして打ち合わせをして曲を作っていただきました。既発のシングルがわりときちんとした曲が多かったので、「新録曲はちょっとブッ飛んだものを作りたい」とお伝えしたんですけど、レバノンのダブケとかアフリカのゴムとかシンゲリとか、エスニックなリズムにハマってるって話をされていて、それを踏まえてこの曲が上がってきたのかな。世間話をしていたときに、思いっきりTK世代だっておっしゃっていて、それがなんとなく頭に残っててこの歌詞を書いたのかも。ちょっと記憶が曖昧なんですが、とにかくビックリするくらい音とギャップのある人でした。「新進気鋭だぜ、フン」みたいな感じの人が来ると思ってたら、「あれ? マネージャーさんですよね」みたいな(笑)。物腰もえらく落ち着いてるし、10歳くらい下だと思うんですけど、同い年くらいに見えましたね。

05.僕の心をつくってよ

──「僕の心をつくってよ」(2017年3月シングルリリース)は平井さんのタイアップ巧者ぶりが現れた曲の好例で、映画「ドラえもん のび太の南極カチコチ大冒険」の主題歌として、のび太とドラえもんの関係を踏まえつつ、ご自身のお人柄もとてもよく出ているなと思いました。

もうかなり前のことなんで忘れちゃったんですけど、のび太とドラえもんの関係、どっちがどっちとも取れるように固めないで書きました。お互いがお互いの心を作るという、2人の強い強い関係性を歌っているけども、やっぱり自分のことを歌っているような気もしますね(笑)。「自分がない」という話にも通じるけど、自分という人間は周りの人間に作られている部分ってあると思うんです。それは僕だけじゃなくて皆さんそうだと思うんですけど、心って厄介なもので、自分がどうしてこんな気持ちになるのかわからないこともよくあるじゃないですか。「なんでかわかんないけどすっごく気が重い」とか。あまりにもアンコントローラブルだから、自分で作ってる感じがしないんですよ。

──わかりますよ。僕自身が受け身だからか、内発的な動機や主張ってそんなにみんなあるのかな、入力あっての出力じゃないのかな、と思うこともあります。

ね。でも、それこそ他者は自分より優れてると思っちゃうから、みんなすごいな、うらやましいなって思うことはあるけど……。

──毎回おっしゃるので本気であることは疑っていませんが、客観的には大スターである平井さんの口から聞くと、微妙な気分になりますね(笑)。

ひと言で言うとメンヘラなんだと思います(笑)。中二病っていうか。

──こんな優しい歌は大人じゃないと書けませんよ。

「ドラえもん」って映画はわりとシリアスだったりするけど、アイコンとしてはすごくカラフルでポップなイメージがあったので、「こんなしんみりジメッとした曲でいいのかな、ちびっ子が観るのに」と心配になったのを覚えてます。当時、公園でちびっ子がジャングルジムに登りながらこの曲を歌ってるのを1回だけ見たことがあるんですよ。すごくうれしかったけど、たぶん意味はわからずに「君の弱さを晒してよ」と歌ってて、やっぱり不適切だなって思いました(笑)。

──歌ってそういうものなんじゃないですか? 平井さんも子供の頃、大人の歌を意味もわからずに歌っていたでしょう。

そうそう。後で気付くこともいっぱいあるので、そうなるといいなと思います。