平井堅|密室のラブソング

ヒゲダンとKing Gnuを歌いました

──「#302」は、すごく引き算されたアレンジですよね。全編ほぼアコースティックギターで、ほんの少しシンセが入って、最後のヴァースだけにストリングスが出てくる。超シンプルです。

最近、音数が少ないミニマムなものが好きなんですよ。「ノンフィクション」も1コーラスはギター1本で、2コーラス目のサビからベースとドラムが入ってきて……とか。「魔法って言っていいかな?」も「half of me」もピアノ1本だし。ここ数年、ほぼ楽器1本のバラードが続いていて、それは意図的にやっているんですが、そろそろやめようかなと思ったんですよね、今回。それで、4リズムがドーンと入ってくるアレンジも考えたんだけど、この「#302」という曲の性質を考えると、やっぱり削ぎ落としたほうがいいんじゃないかと。アレンジャーのトオミヨウさんと話していたら、とにかく歌詞が聴こえるものにすべきだということになり、今回もこういう感じになりました。

──なるほど。

また変わっていくとは思うんですけど、今はそういうモードなんでしょうね。もともと音数が少ないものが好きなんですが、ここ数年は重くならないものを意識してます。バラードだけど軽く聴けるもので、あんまり長くない、5分を超えないもの。

──それはいわゆる、サブスク時代のリスナーの聴き方に合わせるというか。

そうですね。時代に迎合するわけじゃないけど、それはなんとなく意識しています。サブスク時代になってからはすごく楽しいですよ。僕のカラオケ人生は。

──ああ。歌う側としては。

最近だと、サブスクで聴いたものをそのまま近所のスナックに行ってワーッと歌うことが多いです。チャートのトップ100みたいなものを歌うときもあるし、1人のアーティストを聴いて「やっぱりいいな」と思って歌うときもある。新しい曲を歌うようになったのはサブスクのおかげだと思います。この間もヒゲダン(Official髭男dism)とKing Gnuを歌いました。

──おお、それは聴いてみたい。

僕のディレクターがKing Gnuも担当しているんで、動画を撮って見せました。喜ぶかなあと思って(笑)。

孤独と隣り合わせの都会の女性をイメージ

──カップリング曲「かわいそうだよね」は去年JUJUさんのために書いた曲のセルフカバーですね。

はい。楽曲提供のお話をいただいて。最初はお断りしたんですよ。そもそも曲を書くのが苦手なので、ありがたいことながら生意気なんですけど、提供曲は基本お断りしているんです。JUJUちゃんと飲んでるときに直接そのお話をもらったあと、正式にオファーが来て「いや、本当に書けないから」と言ってお断りしたんですが、パッと思い付いたんですよ。それで「気に入らなかったら自分で歌うんで」という但し書きを付けて送ったら歌ってくださるということで、この曲ができました。プロである以上、オファーが来たらいい曲をちゃんと作るべきなんですが、こればっかりは意図してできるものじゃないからできてよかったです。

──素晴らしい曲です。JUJUさんにもぴったりでしたし、平井さんが歌うとさらに趣があって。

そう言っていただけるとうれしいです。彼女の持っている都会的な、自立した女性なんだけど、ヒールの音が虚しく響くイメージというか……1人で社会に出て戦っているんだけど、部屋のクローゼットの中には吐き出せないものがどんどんたまっていくみたいなイメージです。一緒に飲んで話すときのイメージと、孤独と隣り合わせの都会の女性をイメージして書きました。

──ぴったりです。

当り前ですけど、自分が書いた曲はいつも自分の声で歌うので。他人の声で、しかもJUJUさんの声で聴けてすごくうれしかったですね。できあがりを聴いて「ああ、よかった」と思ったし、当初は「平井堅より全然いいな」と思いました。今は自分で歌うようになって、どっちが好きとかはないですけど、キー設定も含め、人に歌ってもらうってこんなに有意義なことなんだと思いましたね。奇しくも去年出した「トドカナイカラ」という曲を春茶さんという女性が歌ってYouTubeでバズってるみたいなんですけど、あれも平井堅より全然いいなと思って聴いています。自分で作って自分で歌うとあまり新鮮味はないけど、ほかの方が歌ってくださると違う景色になるからいいですよね。