Hinanoメジャーデビュー作「nocturne」インタビュー|15歳の歌姫が世界に向けて放つ夜想曲 (2/2)

映画の「nocturne」を私の「nocturne」にするには

──デビュー曲でもあり、映画「DEEMO」の主題歌でもある「nocturne」のデモを初めて聴いたときどう感じましたか?

儚い、かなあ。「DEEMO」の中に出てくる曲は悲しい曲や登場人物の迷いを表現するようなちょっと儚い曲が多くて。作品と結び付いた儚さを感じました。「nocturne」という曲は私のデビュー曲だけど、どこか感覚的に「私の曲」という実感をまだ持てていない部分もあります。

──それは「nocturne」が映画の主題歌だからですか?

映画のための曲というのもあると思いますが、何よりも私がこれまでオリジナル曲を持っていなくて、ずっとカバーしか歌ってこなかったので、慣れていないというのが一番だと思います。

──そんな中でHinanoさんはどうやって「nocturne」という曲を自分のものにしたんでしょうか?

主題歌は映画が完成する前に作られていたので、私が映画のストーリーを想像できるのが資料と歌詞を通してだけだったんです。だから私は何よりも歌詞を読み込むことに時間を費やしました。梶浦先生と歌詞の解釈についてちょっと相談することもできましたし、映画の主題歌としての「nocturne」だけではなくて、私の「nocturne」にするにはどうしたらいいか、けっこう考えてレコーディングに臨みました。

Hinano

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──試写で完成した映画を観ていかがでしたか?

映画の完成版を観たときは感動しました。「DEEMO」に収録されている曲のことはよく知っていたから、あの曲がこういうふうに流れるんだという楽しみ方もできたし。もし映画を観たあとにレコーディングがあったらもうちょっと違う「nocturne」になっていたんだろうなあ。

──映画を観てからレコーディングがしたかった?

観れたほうがよかったかもしれないけど、あのときはあのときでイメージにとらわれていない状態で歌えたのがよかったのかもしれないです。だから今の「nocturne」がオリジナルとして正解なんだと思います(笑)。

──取材前に試写を観させていただきましたが、ちゃんと「nocturne」という曲が流れることに意味があるエンディングの入り方で感動しました。

そうなんです。これから映画を観る人が多いから細かいことは言えないんですが、エンディングまで楽しめる映画になっていると思います。

Hinano

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梶浦由記に驚かれた裸足でのレコーディング

──デビューシングルには「はじまり」というオリジナル曲がもう1曲収録されています。この曲にはタイアップがありませんから、完全にHinanoさんのためだけに用意された曲ですよね。

はい。この曲はいただいた瞬間から「自分がデビューするための曲だな」という実感がありました。カバーだったら歌詞の考察とかを調べられるんですけど、「はじまり」の歌詞はまだ私の手元にしかないから、自分で歌詞の意味を考えるしかないんですよ。それで自分なりに歌詞の意味を考えていたら、「DEEMO」のオーディションのときの受け答えをもとにしたような一節があって。それを見つけて「あ、本当に自分のための曲なんだ」ということが身に沁みました。

──カバーでもなければタイアップでもないこの曲をHinanoさんはどう自分のものにしましたか?

仮歌を聴くことはできたけど、仮歌はあえて抑揚を抑えていたりしますから、自分で解釈してレコーディングに挑まなきゃいけないのが難しくて。自分の解釈が本当に正しいのかも不安だったし、デビュー作品に収録されるからちゃんとしなきゃいけないという緊張もありました。でも、「はじまり」は「nocturne」よりもレコーディングがずっと早く終わったので、ちゃんと自分のものにできていたのかな。

──レコーディングの経験もこれまではあまりなかったですよね。プロとしてのレコーディングはいかがでしたか?

そこまで緊張せずにいつも通りの自分で歌えたと思います。これは「nocturne」のときのレコーディングの話なんですが、私が裸足で歌おうとしたら梶浦先生が驚いていて(笑)。

──なぜ裸足なんですか?

床にしっかり立ってる感覚がないと体幹がブレる感じがして。いつも歌う前に体幹トレーニングをしているから、本番もしっかり地に足に付けて歌わないと本気が出せないんですよね。いろいろ試した結果、一番歌いやすかったのが裸足でした。

──映画のドキュメンタリー映像には、Hinanoさんが体幹トレーニングをしている映像もありました。

苦手なんですがフィジカルのトレーニングも毎日するようにしています。レコーディング前にも欠かさずやってます。

──レコーディングで苦労したことはありましたか?

「nocturne」はコーラスを作品に合わせて別の方に歌ってもらっているんですが、「はじまり」のコーラスはレコーディングの日に「これも歌ってね」と急に言われて(笑)。私、コーラスがすごく苦手だから、これは無理かもしれないと思ったんですが、やってみたら意外にもすんなり歌えて。仮歌を聴いているときもコーラスのことを意識して聴いたことはなかったんですが、繰り返し聴くうちにおそらく擦り込まれていたんだと思います。

Hinano

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まだ遠いところにある“音楽”

──オーディションを勝ち抜き、いよいよデビューされましたが、Hinanoさんのアーティストとしての夢はなんですか?

これまでずっと「世界に通用する歌手になる」と書いていたんですが、最近はちょっと変わってきて、ミュージカルのような舞台にも立ってみたいと思い始めました。ボーカリストとして一人前になるのはもちろん、ミュージカルのステージに立てるようなアーティストになりたいです。

──これまで一貫して音楽の道を突き進んできたと思いますが、辞めたくなったことはないんですか?

たまに、いや、1週間に1回くらい「音楽なんて辞めてやる」と思いますよ(笑)。練習でうまくいかないときとか、同世代のすごい人に出会うと悔しくて不貞腐れてしまうこともあるので。でも歌から離れるとすぐ歌いたくなっちゃうんですよ。例えば旅行に行くと、ホテルの部屋とか外で思いっ切り歌えないじゃないですか。それが続くと無性に歌いたくて早く家に帰りたくなっちゃう(笑)。結局のところ私は歌が大好きだから、それ以外の人生は選べなかったと思います。

──最後に、Hinanoさんにとって音楽はどんな存在ですか?

ちょっと前までは「私の心を育ててくれたもの」と言っていたんですが、今は「もっと近付きたいもの」に変わってきた感覚があります。私にとって音楽って、まだ遠いところにあるものなんですよ。

──音楽を遠くにあるものと捉えているんですね。

はい。自分のものになんか全然ならなくて、近くにあるようでまだ遠くにあるのが音楽ですね。歳を取るにつれて、もっと近付けたらいいなと思っています。

プロフィール

Hinano(ヒナノ)

2006年3月8日生まれのボーカリスト。約1400人の応募者が集まった「DEEMO THE MOVIE 歌姫オーディション ~令和歌姫プロジェクト~」でグランプリを獲得し、2022年2月公開の映画「DEEMO サクラノオト -あなたの奏でた音が、今も響く-」の主題歌アーティストに抜擢された。同月に、梶浦由記が手がける同映画の主題歌「nocturne」を収録した音源をリリースし、メジャーデビューを果たした。