ナタリー PowerPush - ヒルクライム

2ndアルバムは原点回帰の意欲作!新曲に込められた“MESSAGE”とは

「ひさびさにやるか」って感覚

──「No.109」では「さんピンで Camping」なんてルーツを匂わせるフレーズもモロに出てきますが、やはり「さんピンCAMP」(1996年7月7日に日比谷野外大音楽堂で開催されたヒップホップイベント。ECD、BUDDHA BRAND、SHAKKAZOMBIE、RHYMESTER、キングギドラ、四街道ネイチャーらが出演した)は2人にとって大きかったですか?

TOC そうですね。俺らは当時田舎の学生だったからビデオで観たんですけど。やっぱり地方のB-BOYは「さんピンCAMP」で目覚めた人が多いんじゃないかな。ラップをやる上でのバイブル、教科書みたいな存在だったので。

──シングル曲を目当てに聴いたら、この中盤の流れにハマッてしまった、という人も出てくるんじゃないでしょうか。

TOC そうなってくれたら最高ですね。この中盤の曲はライブで映える曲ばかりだと思ってて。歌詞もそれを意識してるし、正直自信はあります。お目当てじゃない曲で引き込ませるっていう。ってかむしろ、ライブってそういうもんなのかなって思いますけど。キレイな曲よりも、こういう熱を届けやすい曲のほうが伝わるんじゃないかな。それはライブの醍醐味ッスね。

──「MESSAGE」はヒルクライムのルーツやポリシーがハッキリ出たアルバムだと思いますが、それは大きなシングルヒットがあったからこそ、あえてここでキッチリ出しておきたいという意識があったんでしょうか。

TOC うーん、もっと純粋に「ひさびさにやるか」って感覚ですね(笑)。ここしばらくはメロディ重視で作ってきましたけど、もう一切の縛りを無視して作ったのがこれなので、あんまりタイミングは関係ないかな。今やりたいことをやるのが、たぶん音楽の一番正しい姿だと思うから。

──ヒルクライムは、今のJ-POPシーンの中でも最も注目されているアーティストの1組ですし、次の一手に対する注目度も非常に高いですが、そんな中でこれだけ“攻め”に徹底したアルバムを制作したのはどういう意識からなのでしょうか。

TOC たぶんこうじゃない方向にも全然できたんスよ。みんなのことを思って歌う、みたいなアルバムにもできたと思うんですけど、それだと自分たちの通ってきた道を外れてしまうなと思って。もちろん万人への共感は一番大事にしてる部分なんですけども、それだけではない自分たちの持ち味も提示したい、というのは2ndアルバムを作る上ですごく気をつけたところです。

「こう見られたい」よりも「こうありたい」

──ヒルクライムの特徴として、ヒップホップながら「着うた」でも高い支持を集めていることが挙げられると思います。クラブの大きなスピーカーで爆音で鳴らすのとは違う「ケータイで聴くヒップホップ」の音作りは、根本的に違うもの?

TOC 音作り的には今のところ意識してないです。有線で流すにはこのマスタリング、ケータイにはこれ、っていうミックスも何度か試してみたんですけどね。やっぱり一番届いてほしいのはCDの音、圧縮されてない音なんです。でも、身近に音楽を感じるツールとして、着うたがダウンロードされるのはすごくうれしいですよ。

──このアルバムは“着うた世代”にも受け入れられると思いますか?

TOC 受け入れられなかったら、それは単純に自分たちの力量不足だと思います。もっとうまく聴かせるやりかたがあるかもしれない。だからといって全部に聴きやすいメロディを付けるのは、それもまた違うと思ってて。

──KATSUさんはトラックを作る立場としてどうですか?

DJ KATSU 僕はもう純粋に自分が良いと思ったものを作ることしかできないんで。「こういうのが求められてるから、こういうのを作りなさい」って言われてもたぶんできないんじゃないかなと。いろんなアナログレコードを毎週買ってクラブでDJやってて、その中で得たものを出しているだけだから。

──では、どういうユニットだと見られるのが理想ですか?

TOC 「こう見られたい」はそもそも自分の人生のテーマとしてないですね。「こう見られたい」って思うよりも「こうありたい」っていう、そういう自分でいたいので。あんまり他人からの見られ方は意識してないッスね。俺らはバイオグラフィにあえて「ヒップホップユニット」って書いてないんですよ。だからジャンルで言ったらなんなのか、よくわかんないですね。それは人それぞれのとらえ方でいいかなと思ってます。

──確かに、ヒルクライムは音楽的にもそうですけど、ファッション面でもいわゆるB-BOYファッションではないですし、典型的なヒップホップのスタイルとは大きく違いますね。

TOC ヒップホップへのこだわりはあるんですよ。ただ、囚われてはいない。

「春夏秋冬」続編の話もあったけど……

──しかし1stアルバム出してツアーを回ってテレビにも出て……という中でこれだけ新曲を作るというのは、単純に疲れないですか?

TOC 疲れはするんですけど(笑)、でもGLAYのTAKUROさんは1日1曲作ってるって聞いて、身の引き締まる思いがしました。そういう方々が周りにいらっしゃるから、自分たちはまだまだだなと思ってやってます。

──下世話な言い方ですが……「この曲が売れたから、同じような曲をもっと作れ」みたいな、そういう上からの指示はないですか?

TOC 上から(笑)。アハハハハ。もし「上」ってのが事務所の社長だとしたら、俺らの社長は真逆のことを言ってますね。「もっと濃いものを聴かせてよ」みたいな。

──そうですよね。わざわざ「押韻見聞録」を入れるように指示したぐらいですから。

TOC 正直、今のJ-POPシーンには似たり寄ったりの音楽が氾濫してるなと俺は思ってます。でも、それはきっと正しい姿じゃない。実は「春夏秋冬」の続編、アンサーソングを作らないかという話はあったんですよ。でも、俺らの中であの物語は完結してしまってるから、続編はちょっとどうやっても書けないっていうことで丁重にお断りさせていただきました(笑)。

──デビューしてこれまでの間に、自分たちの中で「ここは成長したな」という部分は?

DJ KATSU 俺はもともと知らないことだらけだったんで、メジャーの環境でプロフェッショナルな世界に囲まれて、初めて知ることがたくさんありました。コードの重なり具合とか、アマチュアの頃は今思うとすごく粗かったなと。

──ヒップホップは特に初期衝動で始めちゃうみたいなところがあるだろうから、プロの現場だとまた全然違うものが見えてくるんでしょうね。そもそもトラックメイキングは独学で始めたんですか?

DJ KATSU 完全に独学です。コードのCもDも何もわかんない、ただ聴いてみて良いと思うものを作ってた感じで。そこはプロの現場を経験することでかなりブラッシュアップできた部分です。日々勉強させてもらっているので、これからもどんどん新しいものを作っていきたいなと思ってます。

──ライブ会場もだんだん大きくなってきて、クラブでやってた頃とは音響なども違うでしょうし、ライブを重ねることで得たものも多いのでは?

TOC ライブで得ることが、すべてなんじゃないですかね。だから俺、歌をがんばってる後輩には「ほかになにもやんなくていいから、ライブだけをとにかくやりなさい」って言ってるんですよ。現場で学ぶことのほうが100倍経験値になるから。

ニューアルバム「MESSAGE」 / 2010年11月24日発売 / UNIVERSAL J

  • 初回限定盤[CD+DVD] / 3300円(税込) / UPCH-9606 / Amazon.co.jpへ
  • 通常盤[CD] / 2800円(税込) / UPCH-1809 / Amazon.co.jpへ
CD収録曲
  1. ルーズリーフ
  2. BOYHOOD
  3. SKYDRIVE
  4. トラヴェルマシン
  5. 押韻見聞録
  6. No.109
  7. デタミネーション
  8. Moon Rise
  9. SH704i
  10. Shampoo
  11. X Y Z
  12. 大丈夫
  13. MESSAGE BOX
初回盤DVD収録内容
  • 「大丈夫」Music Video
  • 「ルーズリーフ」Music Video
  • 「トラヴェルマシン」Music Video
  • 着うた®着うたフル®配信中!
  • iTunes Store
ヒルクライム

TOC(MC)とDJ KATSU(DJ)からなるラップユニット。それぞれ地元・新潟で音楽活動を続けてきた2人が、「熱帯夜」というイベントを通じて2001年に出会い、イベント終幕後の2005年にユニットを結成する。ピアノやストリングスの柔らかな音像に、アクの強いビート用いたトラック、メロウなフロウといった、クラブにもJ-POPにも寄りすぎることのない新たなスタイルを追求。インディーズでの活動を経て、2009年7月にシングル「純也と真菜実」でメジャーデビューを果たす。続く2ndシングル「春夏秋冬」がチャートTOP10ヒットなど、ロングセールスを記録。2010年1月にはメジャー1stアルバム「リサイタル」をリリースし、大ヒットとなった。