音楽ナタリー PowerPush - 日笠陽子

ただひたすらに“カッコいい”ハードロックアルバム

深夜叫びたくなる不安と焦りを救う歌

──その「あいつはクズだ」に代表されるように今作の歌詞には強い言葉が目立ちますよね。「Pollution」には「虫ケラだとしても僕の本能」なんてフレーズもあるし。そしてもう1つ「憂冥」の「Everybody~」なんかが象徴的なんですけど、最近の日本のロックには珍しく英語詞部分が多い。その英語の歌いっぷりにも、みんなが思うカッコいいロックをカッコよくやりきる日笠さんの態度が見られる気がします。

なんていうか「このくらい攻めてもよかろ?」っていう気持ちではいました(笑)。

──「よかろ?」なんて付加疑問文じゃ済まないレベルですよ、これ。リスナーにガチンコを仕掛けにいっている(笑)。

もうそのくらいの勢いじゃないとカッコいいロック、カッコいいバンドサウンドを生み出せない気がして(笑)。前回のアルバムを超えなきゃいけないっていうプレッシャーもありましたし。だからガチンコを仕掛けたというか、「いくぞ!」っていう気持ちではいました。でもホントにどの曲も最近あんまり見ないタイプの詞になりましたよね。

──ええ。実際、作詞家の皆さんとはどういう打ち合わせを?

日笠陽子

生々しいことをしっかりと歌いたいっていうお話をさせていただきました。私には広い世界の希望や平和を歌うことはちょっと難しいと思っていて。もちろん世界は平和であるべきだとは思うんですけど、対象が広すぎて、私にはそのすべてを守れない気がするんです。でも自分の手に余らない世界のことなら歌える気がしたし、歌いたかった。狭いこと、小さいことを歌っていると思われるかもしれないけど、自分と同じような不安や焦りを抱えている人にしっかり寄り添って、しっかり守るための歌を歌いたいなって思ったので。

──その不安や焦りって具体的には?

例えば、夜中に何か過去のことをふと思い出してウワーッてなる、あの感じとか。ああいう不安や焦りって私だけが抱えているものじゃないはずだと思っていて。

──すごく心当たりがあります。真夜中、漠然と不安が頭をもたげたり、過去のイヤな思い出がフラッシュバックしたりして、横でヨメが寝ているにもかかわらず、大声で叫んじゃうことってけっこうありますし(笑)。

あはははは(笑)。でもそのウワーッて結局のところごく個人的な話、自分の気持ちや過去と1人で向き合ったからこそ出てきてしまったウワーッじゃないですか。だから誰かと共有することは難しいのかもしれないんだけど、それでも今自分が抱えている漠然とした不安や焦りの正体はなんなのか? しっかり向き合って言葉や形を与えることができれば、その言葉を聴いた誰かがちょっとラクになれるんじゃないかなって思ってるんです。

──病名がわかれば治療法もわかるのと同じで、漠然とした不安や焦りだから余計に不安になったり焦ったりするのであって、名状できれば解消法が見つかるかもしれないですしね。

だから「あいつはクズだ」とか「虫ケラだとしても」みたいなフワフワしていない、ある意味現実的な言葉を突きつけてみたかったんです。すごく厳しいことを言っているように見えるかもしれないし、すごくトンガって聞こえるかもしれないけど、この言葉が不安や焦りの正体を知るきっかけになったり、誰かを救う手助けになったりすることもきっとあるはずなので。

「日笠さんには普通の花は似合わないです」

──なぜ漠たる不安からリスナーを救いたかったんでしょう? 当然なんですけど「私は世界平和を歌うタイプではないから」という消去法でテーマを見つけたわけでは……。

ないですね。たぶんもともとそういう音楽が好きなんでしょうね。学生の頃、ウワーッてなったときに聴いていたものも、今回私がやりたかったような、聴き手に寄り添って、その気持ちに言葉や形を与えてくれる音楽でしたし。

──例えば誰の曲?

川嶋あいさんや鬼束ちひろさんですね。ご自身の経験や、一個人としての生き方や生き様をすごく優しかったり、キレイだったり、詩的だったりする言葉でたくさん歌っている印象があるんですよ。

──確かにそうですね。ただ日笠さんは川嶋さんや鬼束さんのようにリリカルな言葉は選ばなかった。

「もうストレートに言っちゃおう」っていう性格だから、お2人のような詩的な世界を歌うのが向いてなくて(笑)。

──あはははは(笑)。でもそのストレートに強い言葉を並べられたのも、チーム力ゆえですよね。どの曲も日笠さんではなく作詞家さんが書いているのに、ちゃんと日笠さんによく似合う言葉で、日笠さんの抱えている不安や焦りをつづっているわけですから。

そうなんですよね。私は役者であり歌手ではあるから、言葉を操ったり、言葉の描く世界を表現することは得意、できると思ってるんですけど、作詞家ではない。言葉を生み出すことや自分の心の中を語り尽くすことはやっぱりできないんです。ヘタに言葉を生もうとすると、意図したいこととは全然違う言葉を使ってしまいそうで。でも私の周り、チームの中には信頼できる作詞家さん、私には思いも付かない言葉、それこそ「クズ」とか「虫ケラ」っていう言葉で私の気持ちを代弁してくれる作詞家さんがいっぱいいて。それなら、その方々にお願いするのが正解なんだと思ってます。

──いかがですか? 13の歌詞を改めて眺めてみて。

面白いですよね。皆さん全然違う言葉を使っているのに、言っていることは実は全部同じ。「漠然とした不安や焦りを振り切って、ここからスタートしよう」と思っている私のことを書いてくれているわけですから。ホントに私は幸運というか人に恵まれているなって思ってます。それは作詞家さんについても作曲家さんについてもそうですし、ジャケットのデザイナーさんについてもそうなんですけど。

──「Couleur」のアートワークってちょっとエグいですよね。ジャケット、裏ジャケ、中ジャケ、全編にわたって多肉植物やシダ植物が大量にあしらわれていて。

そのデザイナーさんに「日笠さんには普通の花は似合わないです」って言われたので(笑)。

──失礼な(笑)。

ホントですよね!(笑) でも言われてみると確かに自分には普通の花のイメージがなかったというか、普通のキレイな花束を抱えている自分みたいな光景が上手に想像できなくて。私の中にある不安や焦りや恐怖を表現するなら、この毒々しいんだけど、どこか美しい色味や佇まいをもつ多肉植物なんですよね。だからこのジャケットって実はアルバム制作自体の大きなキーの1つになってるんですよ。最後の「FLOWERS」はCHI-MEYさんにこのジャケットをお見せしながら「この写真をテーマに曲を書いてください」ってお願いした曲ですから。

1stアルバム「Couleur」 / 2014年9月3日発売 / ポニーキャニオン
初回限定盤 [CD+Blu-ray] 3780円 / PCCG-01417 / Amazon.co.jp
初回限定盤 [CD+DVD] 3240円 / PCCG-01418 / Amazon.co.jp
通常盤 [CD] 2700円 / PCCG-01419 / Amazon.co.jp
CD収録曲
  1. 新世界システム
    [作詞・作曲:CHI-MEY / 編曲:大久保友裕]
  2. ENVY DICE
    [作詞・作曲:渡辺翔 / 編曲:渡辺和紀]
  3. Brighter day
    [作詞:KAORU / 作曲・編曲:HearTribe]
  4. Crazy you
    [作詞:YADAKO / 作曲・編曲:Masse]
  5. 美しき残酷な世界
    [作詞:マイクスギヤマ / 作曲:石塚玲依 / 編曲:根岸貴幸]
  6. 憂冥
    [作詞・作曲:HISASHI / 編曲:小森茂生]
  7. 風と散り、空に舞い
    [作詞:こだまさおり / 作曲・編曲:藤井雄大]
  8. 終わらない詩
    [作詞:yamazo、稲葉エミ / 作曲・編曲:yamazo]
  9. EX:FUTURIZE
    [作詞:hataru / 作曲:奥井康介 / 編曲:中山真斗]
  10. Pollution
    [作詞:YADAKO / 作曲・編曲:Masse]
  11. Sleepy Hungry Minds
    [作詞:nadia / 作曲:前澤寛之 / 編曲:中山真斗]
  12. Seek Diamonds
    [作詞:大森祥子 / 作曲・編曲:中山真斗]
  13. FLOWERS
    [作詞・作曲:CHI-MEY / 編曲:大久保友裕]
初回限定盤 BD / DVD収録内容
  • 「新世界システム」ミュージックビデオ
  • 「美しき残酷な世界」ミュージックビデオメイキングクリップ
  • 「終わらない詩」ミュージックビデオメイキングクリップ
  • 「Seek Diamonds」ミュージックビデオメイキングクリップ
  • 「EX:FUTURIZE」ミュージックビデオメイキングクリップ
  • 「新世界システム」ミュージックビデオメイキングクリップ
日笠陽子(ヒカサヨウコ)

日笠陽子神奈川県出身の女性声優、ボーカリスト。テレビアニメ「けいおん!」の秋山澪役など、数多くの人気作で主役級のキャラクターの声を多数担当。また、メインボーカルを務めた「けいおん!」のエンディング曲「Don' t say "lazy"」がゴールドディスクを獲得し、自ら考案したギャグ「てへぺろ(・ω<)」が流行語となるなど、アニメ業界外でも注目を集める。2013年5月「日笠陽子ソロプロジェクト」を立ち上げ、デビューシングル「美しき残酷な世界」をリリース。6月には2ndシングル「終わらない詩」を、7月には小室哲哉らが参加するコラボレーションアルバム「Glamorous Songs」を発表する。その後もアニメ「ダイヤのA」のエンディングテーマ「Seek Diamonds」や、「Z/X IGNITION」のオープニング曲「EX:FUTURIZE」といった話題作を立て続けにリリースし、2014年9月、初のオリジナルフルアルバム「Couleur」を発表した。