ナタリー PowerPush - hideトリビュート特集
東海林のり子×木村世治対談
Xに出会わなかったら、人生の後半は暗いものだったわ
木村 東海林さんがhideさんに最初に会ったのはいつ頃だったんですか?
東海林 1991年だったかな。Xにまだ“JAPAN”が付いてない頃だったんだけど、TOSHIくんがやってたラジオ番組で「東海林さんが取材に来てくれないかな」って言ったらしいんですよ。そのことを知り合いのラジオのスタッフが教えてくれて、「“X”って知ってる? すごい格好してるのよ」って言うもんだから、「面白そうだから、行ってみる」って。実際に会ったときは、そんなにすごい格好はしてなかったんだけど(笑)。
木村 ラジオですからね(笑)。
東海林 すごくお行儀もいいしね。そのときね、「1年間ライブを休んでる」って言ってたんですよ。「バンドがライブをやらないって、どういうこと? 1年間もファンを放っておくわけ?」って聞いたら、「みんな、ちゃんと待ってるから」って言うのよ。で、ライブをやったら、本当にすごくたくさんのファンが来る。まず、そこに惹かれたんですよね。
──ファンとのつながりが本当に強いバンドですからね。
東海林 そうそう。その後、ワイドショーで取り上げようと思ったんだけど、ディレクターにさんざん怒られたんです。「ワイドショーを観てる奥さんはロックなんて聴かない」って。当時のXのメンバーは真っ黒な格好だったし、髪もこんなに立ててたでしょ? でも、私はグリグリ押したんです。とにかくすごいパワーだし、ファンの子もいっぱいいる。「このバンドを取り上げないと、遅れるぞ!」って。で、15分くらい時間をもらったのかな。
木村 すごい!
東海林 無理やりだけどね。でも、あれがなかったら世ちゃんとも会わなかっただろうし、ロックもここまで聴かなかったと思うわ。
木村 ロックにハマったきっかけが“X”だったと言っても過言じゃないんですね。
東海林 そうね。だって、その前はプレスリーだから。
木村 ハハハハハ(笑)。
東海林 でも、ホントなのよ。あの出会いがなかったら、私の人生の後半は暗いものだったわ(笑)。そこからどんどん楽しくなったから。
──出会った頃のhideさんはどんな感じだったんですか?
東海林 hideちゃんはとにかく優しい人なんですよ。例えば取材でロスなんか行くでしょ? そうするとね、とにかく待たせるのよ。しょっちゅうミーティングをやっていて、なかなか出てこないの。私たちだけじゃなくて、雑誌の人なんかも「まだか?」って待ってるんだけど、hideちゃんはトイレに行くフリをして出てきて、「もうちょっと待っててね。もうすぐ終わるから」って。
木村 優しい!
東海林 あとね、ファンレターをちゃんと読む人だった。そのときも「日本でガチャガチャ活動しているとそこまで感じられないんだけど、ロスでファンレターを読むと、ファンのみんなの気持ちがすごく伝わってくる」って。
木村 ファンレターの中に返信用のハガキが入ってたら、サインを書いて送り返してましたね。俺もそれはやってました、hideさんを見習って。
立派な広報みたいな人でもあったのかな
──木村さんとhideさんの出会いは1995年ですか?
木村 そうですね、確か。インディーズで出したアルバムをhideさんが気に入ってくれて。英語でやってたから、アメリカのバンドだと思ってたらしいんですよね。
東海林 そうそう。カッコよかったのよ。
木村 ありがとうございます(笑)。僕らが下北沢あたりで地味にやってるバンドだと知って、「これは俺がなんとかしなくちゃ」って思ってくれたらしくて。
──hideさんのレーベル「LEMONed」はもともと、ZEPPET STOREのために設立されたんですよね。
東海林 インスピレーションでしょうね。ZEPPETのCDを聴いて「このバンドをこのままにしてちゃいけない」っていう。だから、世ちゃんはよっぽどすごい人なのよ。
木村 いえいえいえ……。僕も半信半疑だったんですよ、最初は。Xのことは「髪を立ててる」とか「紅」くらいしか知らなかったし、やってることも自分たちとは全然違うんじゃないかなって。でも、実際に会ってみるとすごく気さくなお兄ちゃんみたいな人で。
東海林 そうよね。
木村 事務所に行くと、いきなり「よう!」みたいに話しかけてくれて。で、やたら褒めてくれるんですよね。「あの曲はこういうふうになってるんだろ?」とかいろいろ聞いてくれたんだけど、うまく答えられなくて(笑)。
東海林 もちろん自分の音楽もあるんだけど、いろんなことをやりたかったんでしょうね。
木村 「俺が伝えれば、もっとたくさんの人に広まる」という意識もあったと思うんですよ。ファンクラブの会報にも、おすすめの洋楽をよく紹介してたんですよ。たとえばNine Inch Nailsもそうだけど、hideさんをきっかけにいろんな音楽に触れた人も多いだろうし。
東海林 後進というか、若い人を引き上げてあげようという気持ちもずいぶんあったみたいね。気になるバンドを見つけると、小さいライブハウスにも行ってたんですよ。
木村 僕が初めてDJをやったときも来てくれましたよ。150人くらいしか入れない場所だったんですけど。
東海林 それはきっと、励まそうとしてたのよ。「がんばれよ」みたいなシーンもよく見たしね。そういう意味では立派な広報みたいな人でもあったのかな。ファンと自分の好きなバンドを結びつけるっていう。
まだインターネットが普及してない時代だったのに
──hideさんの活動に対しては、どんな印象を持ってたんですか?
東海林 ソロになったときね、hideちゃんに「ソロってことは、歌うわけだ?」って言ったの。
木村 確かにそうですよね。今となってはボーカリストのイメージだけど、ソロの前はギタリストだったわけだから。
東海林 私もまさか歌うとは思ってなかったしね(笑)。hideちゃんも「それが大変なんだよ」って言ってたし。だからね、最初のアルバム(「HIDE YOUR FACE」 / 1994年)のときはものすごく歌の練習をしたみたいね。でも、ソロになって自分の好きなことができるのは楽しかったんだと思う。
木村 そうでしょうね。
東海林 hideちゃんの頭の中には(やりたいことが)いっぱいあったのよ。まだインターネットが普及してないときに、いろんなライブハウスをネットで結んだり。
──1997年に行われた「hide presents MIX LEMONed JELLY」ですね。
木村 あれはホントに早かった。「メールって何?」っていう時代ですからね。
東海林 いくら説明されても全然わからなかったわね(笑)。
──音楽性自体もどんどん進化してましたよね。
木村 そうですね。僕が出会った頃はちょうど2ndアルバム(「PSYENCE」 / 1996年)に取り掛かってたんですけど、デジタルな要素が加わったり、英語の曲が増えたり、かと思えば「Beauty & Stupid」みたいなかわいらしい曲もあって。いろんなアーティストから刺激を受けながら生まれたアルバムだと思いますね。制作中もお互いに音源を送り合ったりしてたんですよ。
──すごくフェアな関係だったんですね。
木村 ありがたいですよね。ZEPPETに関しても、「俺はプロデューサーじゃないから、好きにやってほしい。おまえらが作ったものを楽しみにしてるだけだから」って言ってくれてて。本当にファンでいてくれたんですよ。雑誌のインタビューなんかでも「(ZEPPET STOREの曲を聴いて)100回泣いた」とか「彼らには背中を押してもらってる」って言ってたり……。直接言ってくれなかったのは、ちょっと残念ですけど(笑)。
- V.A「hide TRIBUTE VII -Rock SPIRITS-」/ 2013年12月18日発売 / 徳間ジャパンコミュニケーションズ / TKCA-74018
- V.A「hide TRIBUTE VII -Rock SPIRITS-」ジャケット
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収録曲()内はカバーしたアーティスト
- ROCKET DIVE(氣志團)
- 限界破裂(D'ERLANGER)
- FLAME(J)
- DICE(筋肉少女帯)
- MISERY Remixed by INA(GLAY)
- POSE(CUTT)
- D.O.D.[DRINK OR DIE](THE CHERRY COKE$)
- DOUBT(THE NOVEMBERS)
- GOOD BYE(ZEPPET STORE)
- EYES LOVE YOU~Ver.2013(森雪之丞 with 今井寿(BUCK-TICK))
- ピンク スパイダー(THE PINK SPIDERS [Shame, PATA, CHIROLYN, JOE, INA])
- V.A「hide TRIBUTE VI -Female SPIRITS-」/ 2013年12月18日発売 / 徳間ジャパンコミュニケーションズ / TKCA-74017
- V.A「hide TRIBUTE VI -Female SPIRITS-」ジャケット
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収録曲()内はカバーしたアーティスト
- ROCKET DIVE(AMIAYA)
- In Motion(mini)
- FLAME(chay)
- Beauty & Stupid(分島花音)
- HURRY GO ROUND(詩音)
- TELL ME(青山テルマ)
- MISERY(MAY'S)
- GOOD BYE(JAMOSA)
- ever free(小柳ゆき)
- ピンク スパイダー(倖田來未)
東海林のり子(しょうじのりこ)
大学卒業後の1957年にニッポン放送に入社し、1971年に退社。その後はフリーの芸能レポーターとしてテレビのワイドショーなどを中心に活躍し、レギュラー出演したフジテレビ系「3時のあなた」での「現場の東海林です」という決まり文句で一躍有名になる。その後X JAPANを知ったことをきっかけに、60歳近い年齢にしてヴィジュアル系を中心としたロックバンドの熱烈なファンに。「ヴィジュアルロックの母」の異名を持ち、ロックシーンと深く交流を持つようになる。
ZEPPET STORE(ぜぺっとすとあ)
1989年、木村世治(Vo, G)、五味誠(G)、YANA(Dr)の3人が中心となって結成したロックバンド。1994年に1stアルバム「Swing, Slide, Sandpit」をリリース。このアルバムがhide(X JAPAN)の目に留まり、彼の設立したレーベルLEMONedから1996年に2ndアルバム「716」をリリースした。同時期に中村雄一(B)が加入し、1996年にアルバム「CUE」でメジャーデビュー。1997年には五味が脱退し、翌年春に赤羽根謙二(G)が加入する。その後もライブやリリースなどの活動を精力的に展開するが、2005年に解散。6年後の2011年、東日本大震災を受けて楽曲配信でのチャリティを目的に再結成を果たす。再結成時より初代ギタリストの五味も加わり、5人編成で活動を行う。8月には新曲「SMILE」を配信およびライブ会場限定CDでリリース。2012年5月、hideのメモリアルイベント「hide FILM ALIVE!! ~hide Memorial Day 2012~」にて再結成後初のライブを開催。同年12月に約8年ぶりのオリジナルフルアルバム「SHAPE 5」を発表した。2014年1月には10thアルバムであり、5人編成での2ndアルバムともなる「SPICE」をリリース。3月にはトリプルギター5人編成でのライブツアー「Tour 2014 “GREAT DELIGHT”」の開催が決定している。