ナタリー PowerPush - 栄喜(hideki ex.SIAM SHADE)

「元気になれる音楽を」ソロ再始動を飾る新シングル

「ベロベロバー」のテーマは東京電力

インタビュー写真

──制作は基本、1人でやってたんですか?

はい。ミックスやマスタリングは無理ですけどね。バンドが解散した時点では、パソコンすら使えなかったんですよ。でも今はCDも売れないし、「いかにクオリティの高い作品を自分で作れるか?」ということが大事なので。1人でやってれば、たくましくなりますよね(笑)。

──今回のレコーディングはどうでした?

楽しかったですね! スタッフもメジャーの第一線でやってる方々だったし、あとはもう思い切りやるだけだなって。バンドが解散したあとって、レコーディングもミックスも思いどおりにいかないことが多かったんです。鼻をへし折られたし、ちょっとした人間不信というか、「他人に任せてたら、いい作品ができない。自分でやるしかない」って思っていたこともあって……。あと、今回は曲のことについてもディレクターといろいろ話ができたんですよね。例えば歌詞にしても、1人で突き詰めてるうちにわかんなくなることがあるんですよ。そういうときに冷静な目でアドバイスをくれる人がいるっていうのは、すごくいいですよね。

──3曲目のタイトルは「ベロベロバー」。サビの頭が「ベロベロバー」っていうのもすごいし、栄喜さんらしいブッ飛び方だなと。

仮歌で「ベロベロバー」って歌ってたんですけど、それに勝る言葉が出てこなかったんです。「うわ、まいったなー」と思って、ディレクターとも相談したんですよ。「ベロベロバーしか思いつかないんですよ」って。2人でベロベロ言いながら悩んだ挙句(笑)、最後は「このままで行こう」ってことになって。考えて、悩んだ結果「ベロベロバー」になったのが男らしいなって思いますけどね! 歌詞って、引っかかりも大事なんですよね。特に「これって、歌詞ではあんまり使わないよな」っていう言葉がハマった場合、それにはなかなか勝てないというか。

──歌詞全体のテーマはなんだったんですか?

これはもう、東京電力ですよ。「いつの間にか償わされてる」とか、まさにそうですよね。この前、メーターを上げに来た職員の人に直接言いましたから。「値上げしたら、絶対払わねえ!」って。粘りますよ、俺は。どこまで通用するかわかんないし、電気止められたら何もできないんですけど(笑)。でも、できる限り抵抗はしたいなっていう……だって、こっちは間違ってないと思うんですよ。儲かってるときはなんの還元もしないのに、今回みたいなことが起きたときだけ、なんで俺らがそっちのケツ持ちしなくちゃいけないんだっていう。

──確かにそうですよね。

筋が通ってないんですよ。俺のCDが売れなかったら、お前ら買ってくれるのか?ってことでしょ。まあ、あんまり言い過ぎると叩かれちゃうから、ギリギリのところを攻めてる感じなんですけどね。ちょっと前まで、金曜日になるとすごいデモをやってたじゃないですか。俺は制作中で参加できなかったら、せめて曲で援護射撃だな、と。

曲を聴けばそのときの記憶がよみがえる

──4曲目の「明日が見えずに」はバラードですが、これはいつくらいに書いた曲なんですか?

だいぶ前ですね、これも。ある出来事が起きて……友達が自殺してしまったんですけど、その子の親友を励ますために作った曲で。

──プライベートな動機で生まれた曲なんですね。

はい。曲は全部プライベートなものですね、元々は。そのときに感じたことだったり、自分自身の感情から生まれるものなので。怒りとか悲しみとか喜びとか、そういうことですよね、曲を書こうと思うきっかけは。そうすることによって、自分自身も保てるし……。だから、日記みたいなもんですよ。曲を聴くと「このときはこんな感じだったな」って思い出す。どんどん記憶力は低下してるんですけど(笑)、曲を聴けば記憶がよみがえりますからね。

──それが曲を量産できる理由なのかも。

例えばピカソにしても、ものすごい枚数を描いてるじゃないですか。作品の数を増やしていくことで、たどり着けることって絶対あると思うんですよね。1曲作る度に発見があるし、自分の中の方程式も確立できるというか…。だから、1日1曲は作るようにしてるんですよね。

──特に「明日が見えずに」には強い思いが込められている、と。

この曲を収録したのは、実はディレクターの判断なんですよ。「バラードも1曲入れたいね」ってことになったときに、ディレクターがこの曲を選んでくれて。自分としてはどの曲が入っても恥ずかしくないので、逆に人に選んでもらったほうがいいかもしれない。客観的じゃないですか、やっぱり。

栄喜e.p. ワンマンツアー ~Start~

2012年12月10日(月)東京都 LIQUIDROOM ebisu
OPEN 18:00 / START 19:00

2012年12月19日(水)大阪府 梅田Shangri-La
OPEN 18:30 / START 19:00

2012年12月20日(木)愛知県 名古屋ell FITS ALL
OPEN 18:30 / START 19:00

栄喜 (ひでき)

栄喜

1972年生まれ、東京都出身の男性シンガーソングライター。1993年にロックバンドSIAM SHADEを結成し、1995年にメジャーデビューを果たす。1997年リリースの「1/3の純情な感情」をはじめ、さまざまなヒット曲を発表しアリーナクラスを中心としたライブ活動を展開するが、2002年3月の日本武道館ライブを最後に解散。その後はソロ活動を行い、2007年にはハードコアバンドDETROXを結成する。2011年には東日本大震災被災地復興支援活動の一環としてSIAM SHADEの再結成ライブを行い、大きな話題を呼んだ。2012年4月にDETROXの活動を休止し、再びソロでの活動に専念する。2012年11月、ニューシングル「栄喜e.p.」をリリース。