ナタリー PowerPush - HELクライム
HELなおじさん(BIKKE)×Dr.奴隷(TAICHI MASTER)対談
“ありがとう”の対極は“小学生レベルの地獄”
──関係者に「売れんの?」と聞かれれば「知らねえよ!」と答え、「オモロいかなあ」って理由で後輩アーティストのリミックスコンテストに応募する。ある意味ノンキな活動をしていた皆さんが、今回アルバムをリリースした理由って?
HELなおじさん なんかアルバムを作るお金を出してくれるっていう人がいたから?
Dr.奴隷 そうですね。「よっしゃ! 地獄へ道連れだ」と(笑)。
──あはははは(笑)。で、そのアルバム「地獄」なんですけど、ここまでいい意味で中身のないアッパーなことばかりを歌う、パーティアルバムって最近珍しいですよね。
Dr.奴隷 ちょっとマジメな話になっちゃうんですけど、確かに最近、震災以降の雰囲気もあるのか、ヒップホップに限らず、パーティチューンとかバカバカしい音楽がちょっと減っているような気がしていて。でも、当たり前なんだけど音楽にはもっとバカバカしい要素があってもいいはずなんですよね。だから“親に感謝ラップ”なんかに対する究極のカウンターみたいなヒップホップを作りたいっていう気持ちはありました。で、“ありがとう”の対極といえば“地獄”だろう、と(笑)。
HELなおじさん しかもその「地獄」っていうのは「小学生が考えた」みたいなレベルの地獄(笑)。
──歌ってることはといえば「三途で生まれ 針の山育ち 拷問するヤツだいたい友達」(「HELクライムのテーマ」)に、「地獄座薬 うまく入らなくて」(「地獄病棟24時 feat.ナマコプリ」)ですもんね(笑)。
Dr.奴隷 だから実はコンセプト通り、意図的に作られたアルバムなんですよ。
薄い知識で描く地獄絵図と、その限界
──確かに実はすごくコンセプチュアルなアルバムですよね。リミックスバージョンやコントを除けば、8曲30分以上にわたってリリックは“地獄あるある”の応酬になっている。「小学生レベルの地獄」という1テーマで、よくここまでいろんな言葉が生まれるもんだなあ、ってビックリしました。リリックはどうやって書いたんですか?
Dr.奴隷 まず僕がトラックを作ったらSoundCloudに「今度はこういう曲だから」って上げて、みんなに聴いてもらった上でテーマを決める話し合いをして。で、「地獄のディスコ」みたいなテーマが決まったら「じゃあみんな8小節ずつ、16小節ずつリリックを考えてきて」ってお願いする感じでしたよね。
HELなおじさん うん。曲を渡してテーマさえ決まれば、みんなレコーディングまでにはリリックを考えてきてくれてましたね。
──ただ黙示☆ROCKさん(奥野瑛太)とHELベロス(板橋駿谷)さんは本業は役者さんですよね。リリックを書いた経験は?
HELなおじさん 音源に残すためのリリックを書くのは初めてかもしれないですね。「SR」シリーズのときは伯周くん(HEL HEL COOL J)が書いてたわけですし。
──そう考えると、あのお2人ってすごくスキルフルですよね。
Dr.奴隷 制作期間中は全然気付いてなかったけど、確かにそうですね。ただ、最後のほうにできあがった曲のリリックはあの2人に限らず、みんなけっこう大変でしたよね。
HELなおじさん もう地獄ネタなんかねえよって(笑)。“地獄ハードコア”になるつもりはないから、なおのことキツかった……。地獄についてきちんと研究してラップするグループだったらいろんなボキャブラリーを蓄えられたんだろうけど、こっちはそんなにハードコアじゃない。小学生レベルの薄い知識でリリックを書くつもりだったから、限界がくるのが早かった(笑)。ただ、そのおかげで個々の考える地獄キーワードみたいなものが見えてきてちょっと面白かったかな。「あっこの人、違う曲でもこのフレーズ出してくるんだ!」「この人にとっては地獄っていったらこれなんだ!」みたいな(笑)。
“ヘルアウト”するしかないっスね
──その“地獄キーワード”のイメージにそんなに大きなズレってないですよね。メンバー間でちゃんと“地獄観”が統一されている印象を受けました。「地獄とはかくあるべき」って打ち合わせは?
HELなおじさん うーん……。個人を攻撃したりするのはナシっていうことくらいしか決めてなかった気がする。
Dr.奴隷 確かに言葉にしてたのは「ファンタジーとしての地獄にしよう」っていうことだけでしたよね。
HELなおじさん だから奧野くんは「どれがアリで、どれがナシなのか、ラインがさっぱりわかんねえっス」って言ってたし。その話し合いのために居酒屋でけっこうな時間呑んだ記憶がある(笑)。苦労したのはそのくらいかなあ。あとはサオリリスと録った曲のテーマくらい?
Dr.奴隷 「三途の川渡り隊 feat.サオリリス」はそうですね。最初は地獄中学校の地獄青春ソング、地獄の卒業式みたいなテーマだったんですけど、なんかしっくりこず……。
HELなおじさん 奧野くんと「ファンタジーとしての地獄」の線引きを決めるときと一緒。やっぱり居酒屋で長時間話し合って「地獄のアイドルユニットの曲にしよう」ってことになって。あっ、あとあれか。このアルバムって曲によってラッパーの参加人数が違うんですよ。オレとTAICHIくん以外、みんな役者をやってたり、昼間勤めをしてたり、別の仕事を持ってるから。レコーディングの日にちが決まったら、その日空いてるヤツを確認してスタジオに来れるヤツだけで録る。
Dr.奴隷 ライブもそうなりがちなんですけど、それは今後どうにかしたいですよね。
──どうすれば解消できるんですかね?
HELなおじさん “ヘルアウト”するしかないっスね。
──セルアウトならぬ“へルアウト”(笑)。
HELなおじさん とにかく売れてえっス。売れないことにはほかのメンバーがHELクライムのために時間を割いてくれないんで(笑)。
収録曲
- HELクライムのテーマ
- 地獄病棟24時 feat. ナマコプリ
- HELParty
- ライスとチューニング feat. BELLRING少女ハート(懺悔MIX)
- 墓場ディスコ
- マリア
- 三途の川渡り隊 feat. サオリリス
- 666
- 地獄病棟24時 feat. ナマコプリ(DJ JET BARON aka 高野政所 FUNKOT REMIX)
- HELクライムのテーマ(TOMOTH DELI HEL REMIX)
HELクライム(ヘルクライム)
HELなおじさん(BIKKE / TOKYO No.1 SOUL SET)、Dr.奴隷(TAICHI MASTER)、黙示☆ROCK(奥野瑛太)、HELベロス(板橋駿谷)、HEL HEL COOL J(上鈴木伯周 / P.O.P)、HELニア(上鈴木崇浩 / P.O.P)からなるヒップホップユニット。2012年、HELなおじさんを中心にメンバーが集結。黙示☆ROCKとHELベロスが出演し、HEL HEL COOL J、HELニアが音楽監修を務めた映画「SR サイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者」の監督公認ユニットとしてそのキャリアをスタートさせる。以来散発的ながら“地獄”をコンセプトにライブ活動やトラック制作、Ustream番組制作などを展開し、2013年にはアイドルグループ、BELLRING少女ハートの楽曲「ライスとチューニング」のリミックスコンテストに応募。最優秀賞を獲得する。そして2014年7月、1stアルバム「地獄」をリリースした。