畠中祐|連続リリース!「憂国のモリアーティ」&「ウルトラマンZ」の世界観に寄り添った2作

畠中祐が2カ月連続でシングルをリリースする。10月28日に発売される5thシングル「DYING WISH」は、テレビアニメ「憂国のモリアーティ」のオープニング主題歌を表題曲とした1枚。大英帝国全盛期のロンドンを舞台にシャーロック・ホームズの仇敵・モリアーティ教授を描くこのアニメを、畠中はゴシックな世界観を持つ楽曲で彩っている。そして11月25日には、自身がウルトラマンゼットの声として出演する特撮ドラマ「ウルトラマンZ」の後期エンディングテーマ「Promise for the future」をシングルリリース。幼い頃からウルトラマンになることが夢だったという畠中のこだわりを感じ取れる1曲だ。

音楽ナタリー初登場となる今回のインタビューでは畠中の音楽的嗜好を紐解きつつ、2枚のシングルに込めた思いを聞いた。

取材・文 / もりひでゆき 撮影 / 竹中圭樹(ARTIST PHOTO STUDIO)

毎回戦いに行くような気持ち

──今年の7月でアーティストデビューから丸3年が経ちましたね。

怒涛の3年間でした。そもそも3年前にアーティストデビューすること自体、すごくびっくりな出来事だったわけですよ。当時は本業である声優としてもまだまだ駆け出しというか、事務所に入って間もない時期だったので、歌でもデビューできるなんてことには驚きと動揺しかなかった。この3年間はとにかくがむしゃらでしたね。

──歌うことはもともとお好きだったんですよね?

好きでしたけど、それはホントに趣味でしかないというか。お風呂場で歌って気持ちいい、くらいの感じでしたから。だから自分のために曲や振り付けが用意されて、それをパフォーマンスすることに対しては、本当に毎回戦いに行くような気持ちでやってきて(笑)。ただ、歌うことは常に変わらず楽しいことではあったんですよ。すごく夢中になれるし。それを3年続けることで少しずつ余裕も出てきたので、今はその楽しさをより丁寧に感じながら活動できるようにもなっている感じですね。もちろんお客さんに楽しんでいただくことが絶対条件ではあるので、そこを裏切らないようにパフォーマンス力をどんどん上げていかないとなっていう思いも強くはなっていますけど。

──ご自身の表現の引き出しを増やすために、日々やっていることは何かありますか?

畠中祐

なんだろうなあ。サブスクでいろんな音楽聴いたりとかYouTubeでアーティストの動画をハシゴしてみたりとかですかね。まあそれは仕事のためというよりは、単純に音楽が好きっていう理由ではあるんですけど。あと、音楽に詳しい友人がオススメの曲をめちゃくちゃ教えてくれるんで、それを参考に自分好みの曲を探してみたりということはよくしていますね。

──では、好きだと思う曲に傾向はあります?

洋邦問わず、ちょっとダンサブルな曲に惹かれることが多いですね。ほかにはシティポップとかもけっこう好き。たぶんポップでキャッチーな曲が好きなんだと思います。好きなものの傾向は昔からそんなに大きくは変わっていないと思います。急にヘビメタが好きになって、とかもなかったし(笑)。

──その音楽的嗜好を決定付けた、ルーツと言えるアーティストがいるんですか?

ダンサブルという部分に関しては、マイケル・ジャクソンさんかもしれないです。小学校3、4年生の頃、家にあったミュージックビデオ集をむっちゃ観てたんですよ。マイケルさんの詳しいことはわからないけど、でも「なんだこのダンスのキレは!? 超かっこいい!」みたいな。保育園の頃からダンス教室に通ったりもしていたので、そのすごさに衝撃を受けたんです。そんな経験があるので、今でもYouTubeでダンスしている人の動画をよく観るし、三浦大知さんのとんでもないパフォーマンスを観て憧れたりしています。

ありえないことが起こっている

──アーティスト活動に関しては、基本的に1年に1枚シングルをリリースするというゆったりとしたペースで歩んでこられた印象です。昨年はシングルに加えて1stアルバムのリリースもありましたけど。

そうなんですよ。基本的に音楽活動は年に1回の催しものだったというか(笑)。正直、声優のお仕事では、その役柄をどう表現していくかという部分をじっくり考えなければいけないから時間がすごく必要になるんですね。そうなると、音楽活動はどうしてもそれくらいのペースになってしまうところもあって。声優の仕事がちょっと落ち着くタイミングで音楽の仕事が入ってくるという今までのペースが、自分にはわりと合ってるかなとは思っています。

──1枚のシングルを作ることに対して時間をかけて向き合えるし、リリースしたあとも、それらをじっくり育てていくこともできそうですしね。

そうそう。がんがんリリースを重ねる声優アーティストの方もいらっしゃって、純粋に「すごいな」って尊敬しちゃうところもあるんですけど、自分の場合はそのスタイルじゃないほうがいいような気はしていて。歌はもちろん、ダンスパフォーマンスに関しても、僕はどんどん向上させていきたいと思っているので、早いペースで曲が増えてしまうと、いっぱいいっぱいになっちゃいそうなんですよね。質を高められなくなってしまうというか。僕は音楽活動自体、長くやり続けていきたいと思っているので、やっぱり年に1回ペースがいいのかなって思ったりはしています。

畠中祐

──そんな畠中さんからすると、2020年の状況はちょっとイレギュラーな感じなのかもしれないですね。8月に発表したシングル「HISTORY」に続き、10月と11月にも連続してシングルをリリースするわけですから。

そうですよねえ。通常の畠中祐のスケジューリングとしては尋常じゃない、ありえないことが起こっているという(笑)。でも、今回のペースは昨年アルバムを作ったときの感覚にちょっと似ているところもあって。短い期間に曲をたくさん作ることに対してのプレッシャーや張りつめた緊張感はありますけど、そのぶん、いろんなタイプの曲を歌える楽しさもあるんです。しかも今回は「憂国のモリアーティ」と「ウルトラマンZ」という大きなタイアップが付いていますしね。この3年間を通して、音楽活動に対してほんの少し余裕が出てきたし、歌とダンスで表現していくことに対しての自分の体力もちょっとずつ付いてきていると思うので、それが年に3枚シングルを出すということにつながったところがあったのかもしれないです。もちろんまだまだ必死でやってる部分は大きいですけど(笑)。

僕は誰として歌うんだろう?

──まずは10月にシングル「DYING WISH」をリリースされます。表題曲はテレビアニメ「憂国のモリアーティ」オープニング主題歌となっています。

はい。過去に一度アニメタイアップをやらせてもらったときは、作品世界にしっかり寄り添いながらも、ダンサブルなサウンドの上で歌い踊る曲だったので、自分としては畠中祐らしい曲でもあるなという認識だったんですよ。でも、今回の「憂国のモリアーティ」は世界観が相当濃い作品なので、僕の要素が出すぎるのは邪魔な気がしたんですよね。なのでガッツリと作品の世界に沿った内容の曲を作っていただきました。原作から受け取ったイメージそのままの楽曲になっているので、オープニングとして違和感なくマッチするものになったんじゃないかなと。

──まさにこれまでの畠中さんのレパートリーにはなかったタイプのゴシックな世界観の楽曲ですよね。

ホントにそうなんですよ。だからこそ、「じゃあこれを僕が歌うにはどうするか?」というところでものすごく悩みました。「憂国のモリアーティ」にはマッチしているけど、自分が歌っている姿がまったく想像できない曲になっていたので(笑)。

──そこはどうクリアしてレコーディングに臨んだんですか?

まず、「僕は誰として歌うんだろう?」ということを考えましたね。モリアーティ自身なのか、それともモリアーティ家にいる誰かなのか。モリアーティ家以外の人間の可能性もある。結果としてはモリアーティ家ではなく一歩離れたところにいる人間……でもモリアーティと同じ意見を持ち、彼のことを応援している人間という立ち位置に落ち着きましたね。そこが自分の中で明確になったことでちょっと歌いやすくなったところはありました。

畠中祐

──声のニュアンスとしてはどんな部分を大事にしました?

一歩引いた立ち位置でモリアーティに捧げる曲にするためには、歌い上げるのは違うなと思ったんですよ。むしろちょっと冷静に、力を抜いた感じで歌ったほうがいいんじゃないかなって。AメロBメロは特に繊細に歌いましたね。サビではグーッと声を伸ばすところがあるし、広がりを生むところもあるんですけど、やっぱり力の入れ加減は抑え気味で。曲に込めた思いを燃やして歌うのではなく、それを届けてあげるくらいのバランス感覚を心がけました。パートごとの表情の変化についてはけっこうこだわりましたね。

──この曲はサウンドはもちろん、歌詞のインパクトもすごくて。「差別社会」を“デストピア”、「常識」を“くさり”、「悲劇」を“ナミダ”と読ませたりしています。そういった部分を歌にうまく乗せる難しさもありそうですが。

ルビが振られていなかったら歌えないですよね(笑)。本当に独特で難しい言い回しがたくさん詰め込まれていて、その言葉が乗るメロディはけっこうくねくねするし、リズムも複雑。転調したり、曲調が急に変わるところもあるし。かなり難しかったので、何度もテイクを重ねて体に馴染ませて歌っていきました。

──作品世界にグッと寄り添った楽曲だけに、アニメの映像とどう融合するかもぜひチェックしてほしいところですよね。

そうですね。オープニング映像を僕はまだ観れていないので(取材が行われたのは9月末)、むちゃくちゃ気になってます。タイアップ曲をやらせていただくうえで一番うれしい瞬間は、映像と合わさって自分の歌が聞こえてきたときなので、僕もいち視聴者として楽しもうと思ってます!