春ねむり×大森靖子ツーマン開催記念対談|リスペクトが生んだ、最も遠くて最も近い2人 (3/3)

感情的であることとロジカルであることの整合性を取る人が少なすぎる

 自分、インタビュアーの人に「怖い」ってめっちゃ言われるんですよ。

大森 差し入れ持ってけば?

 差し入れで変わりますかね!?(笑)

大森 一緒にお茶とかしながらインタビューすればいいんだよ。ギャップ萌え。

 ギャップ萌えで(笑)。私はいつも、すごく長いセルフライナーノーツをインタビューの前にお渡ししているんです。インタビュアーさんはそれを読んでから来るので、「前提情報を渡しているのにこの質問するんだ」とか思われるのが怖いみたいで(笑)。「批評する春ねむり」として「ここも潰してる」っていうのを共有しちゃってるから、向こうは「ここにない解釈を持っていかなきゃ」みたいな気持ちになるらしくて。

大森 ミュージシャンも、こういう情報量が多いタイプは少ないかもしれない。

 私は音楽の中にめちゃくちゃギミックを込めてるけど、それも大森さんの系譜かもしれないです。大森さんの曲の中にはギミックがトラップのように仕込まれてるときがあるじゃないですか。それを自分が理解した瞬間のドーパミンがヤバい(笑)。

大森 わかられたときも同じドーパミンが出る。「いたー!」みたいな。今言われて気付いたけど、オタクなんだね。それも最近のオタクじゃなくて、旧式のオタクなんだね。

 たぶんそうです。人の批評を読むのがめっちゃ好きで、私は「ここは、これにかけていると思うんだよな」とか考えるけど、今のカルチャーは全般的に、あまりそういう楽しみ方をされてない。とにかく少ない時間で楽しめるほうがいい。

左から春ねむり、大森靖子。

左から春ねむり、大森靖子。

大森 感情的であることとロジカルであることの整合性を取ってないとクリエイターってできないんですけど、「怖い」って思われるのは、その整合性を取っている人が少なすぎるので、コミュニケーションのデータが足りないんだと思います。感情をロジカルに分解しないとものは作れないから。感情的にものは作るし、ドーパミンをバンバン出して作るタイプではあるけど、「それ全部説明できるよ」っていう、めっちゃ尖鋭的な物作りをしている人が圧倒的に少ない(笑)。

 大森さんの音楽を「ヒスってる」って言ってるやつ、マジで死ねって思います(笑)。感情はあるんだけど、その感情をすごい解像度で分解して、「ここをメインにして、周りにこれをくっつけて」みたいな作り方をしてるから、自分も同じような作り方をするようになったと思うんです。

──大森さんのやってきたことを、春さんがすごく鋭く見て理解してきて、そのうえでヒップホップという自分の表現に落とし込んで、模倣ではないことをやっているわけですね。

 自分はめっちゃ目が悪いので、「見る」って行為がすごく苦手なんですよ。「私は見るっていう行為で世界の解像度を上げられないからどうしようかな」って思ったときに、言語で分解するしかないと気付いて。だから、クソ長いセルフライナーノーツを書くんだと思います。大森さんのしていることを、違うやり方でやってるんだなって、今聞きながら思ってました(笑)。

大森靖子が生んだ中で最も政治的な存在

──この2人でライブをやって、今後コラボで何か作ったりすると思いますか?

 (小声で)いや、恐れ多いです……。

大森 やんないの?

 (クッションを抱きかかえながら小声で)ちょっと考えます……。

大森 考えてください(笑)。楽しみ。私は、面白いものをめっちゃ見てるわけじゃなくて、面白くないものを見捨ててるだけ。私にとっての「面白い」って、意外と「好き」じゃなくて「違和感」なんですよ。だから、どっちかというと「嫌い」なんです。そういう人に興味を持っちゃうし、そういう人をメンバーに入れがちだから炎上しちゃう、っていうのはあります(笑)。

──だからこそ、この2人が何かを作ったらどうなるんだろうな、という期待を勝手に持ちました。

大森 こんなに真面目すぎる人間は周りにはいないのでびっくりです。見たことないタイプかもしれない。

 あー、真面目かもしれないです。自分は「真面目じゃないから真面目になろうと思った」というか、本当は別に真面目ではないんですよ。ですけど、曲に誠実であろうと思ったらこうなっちゃいました(笑)。まず曲が出てきて、あとから自分が曲に追いつこうとして、「春ねむり」になってきた感じがあって。だから、自分がロボットみたいにガシャンガシャンとしか動けないのはめっちゃ感じてるんです(笑)。「そんな動き方を人間社会でしてたら変やろ」みたいな動き方が、自分の曲に対して一番誠実だから、そうなっちゃうんです。真面目というか、堅いのかもしれない。

大森 確かに男が怖がる理由はわかる(笑)。自分もそういう、怖がらせるくらいに真面目すぎるところがあるけど、それがないふりをしないとコミュニケーションにならないので、「全然だよ!」って取り繕っています(笑)。

 なるほどです、次から見習ってみます。

左から春ねむり、大森靖子。

左から春ねむり、大森靖子。

──2人はLINEとかで連絡を取れるんですか?

 すっごく前に「なんでも連絡していいよ」って、LINEを教えてくださったんです。

大森 なんにも連絡してないよね。

 はい(笑)。本当に連絡しなくちゃいけないときまで連絡しちゃダメだなと思って。

大森 なんでだよ(笑)。指定すればよかった、「誕生日は毎年祝え」とか(笑)。

 1回、私が前後不覚なぐらい酔っ払うところからいきます(笑)。

大森 政治の愚痴とかでも聞きます(笑)。

 大森さんが生んだフォロワーの中で、自分は最も政治的な存在だと思うんです。大森さんの曲は政治的解釈のしがいがあるのに、あんまりされてない。フェミニズムの文脈で語られることは多いけど、正しくないフェミニズムの文脈に持っていかれることもあって、「フェミニスト批評家は仕事しろー!」って思ったり。例えば(ミシェル・)フーコーとか、男女二元論ではない女性のあり方から大森さんの歌詞を読み解くことはめちゃくちゃできると思うんですけど、あんまりそういうことを書く人はいない。

大森 政治の歪みから生まれる新しいキッズたちの歌を書かなきゃいけないし、もう書かずにもいられないんですよね。

 だから、私がこうなってるのは、私の中ではけっこう自然なこと(笑)。

大森 えー、もしかして私の影響だったんですか!?(笑)

──大森さんは、2014年の宮城県女川町でのライブ(「女川町復幸祭2014」)のときに、原発がある町で「原発」や「放射能」という歌詞が出てくる曲を全部演奏していましたね。

大森 全部やりました。ここの間のツアー(「音羽楽園TOUR 2025」)でも、「地雷を埋めよう」とか「粉々になってしまう」って歌う「真っ赤に染まったクリスマス」を夏の広島でやってます。言わないようにしよう、考えないようにしようっていうことはなんの解決にもならないので、歌うべきことを歌う。でも繊細に歌わないと、「どっち主義ですか?」という話になって、敵対するライブになっちゃうじゃないですか。そうじゃなくて、「こういうことがあるよね。今、こっち派とそっち派の人もいて、それをどうするべきか私たちは考えるべきだけど、それを考えている個々がいるこの空間は面白いね」が、ライブじゃないですか。「俺はこうだぜ」はやりたくないんですよ(笑)。考え続けることが平和だから、それを仕掛けたいっていう気持ちはいつもありますね。

 その当然の文脈の中にいるのに、自分は「違うもの」として扱われてると思うんです。

大森 そうかも。私も「なんでだろう?」と思ってました。でも今わかった。「私だからなんだ!」って。

 自分は大森さんを内包してたから(笑)。

大森 内包しちゃってました!?(笑)

 内包していて、自分はその分派の1つとして存在してるんだけど、分派がめっちゃある中での1、2派ぐらいしか「大森靖子的なるもの」としてカルチャー上では扱われてないんですよね。

左から大森靖子、春ねむり。

左から大森靖子、春ねむり。

公演情報

春ねむり presents「生存の技法」春ねむり×大森靖子

2026年1月22日(木)東京都 新宿LOFT
<出演者>
春ねむり / 大森靖子

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プロフィール

春ねむり(ハルネムリ)

横浜出身のシンガーソングライター / ポエトリーラッパー / プロデューサー。自身で全楽曲の作詞・作曲・編曲を担当する。2018年4月に初のフルアルバム「春と修羅」をリリースした。これまでに複数回のワールドツアーを開催し、100公演以上にも及ぶ海外公演を開催。2022年4月に2ndアルバム「春火燎原」を発表した。2025年にはよりDIYかつアナーキーな表現の追求を掲げて独立し、自主レーベルを立ち上げ。2025年8月に3rdアルバム「ekkolaptómenos」をリリースした。

大森靖子(オオモリセイコ)

愛媛生まれのシンガーソングライター。2013年3月に1stフルアルバム「魔法が使えないなら死にたい」発表後、同年5月に東京・渋谷CLUB QUATTROでワンマンライブを実施し、レーベルや事務所に所属しないままチケットをソールドアウトさせた。2014年9月にエイベックスからメジャーデビューし、同年12月にメジャー1stアルバム「洗脳」を発表。自らを「超歌手」と称し、メッセージ性の強い歌詞と独自の音楽性で存在感を示す。2018年9月には自らも“プロデューサー兼共犯者”として参加するアイドルグループ・ZOC(現:ZOCX)を結成。株式会社TOKYO PINKを設立し、MAPAやTHE PINK MINDS、椿宝座といったグループをプロデュースした。2025年、株式会社パンクチュアルと専属契約した。

2025年12月16日更新