原田知世「原田知世のうたと音楽」特集|14歳の少女が駆け抜けた40年、うたと音楽の軌跡に迫る (3/3)

土岐麻子が語る、歌手・原田知世の歌声と進化

土岐麻子

土岐麻子

幼少期に見た原田知世の姿

私は幼稚園児から小学生の頃にかけてクラシックバレエを習っていたんです。だから知世さんの第一印象というと「『愛情物語』で踊っているバレエがうまい人」でした(笑)。「愛情物語」を観てから私も母も知世さんのことが好きになって。映画の内容そのものというより、原田知世さんという存在自体がすごく素敵だなと思って、知世さんが出演している作品は追っていたし、歌番組に出ていたら絶対に観ていました。当時の角川映画はミステリーっぽいテイストの作品が多かったからか、楽曲もそういう雰囲気のものが多いですよね。ドキドキする不思議なムードに惹かれたし、そこに知世さんの透明で草原のような歌が乗るというバランス感が本当に好きでした。

そのあと知世さんがトーレのタンバリンスタジオで録った作品を聴いたときに、これまでとはまた違う彼女に出会った気がして、すごく衝撃を受けたのを覚えています。私はトーレがプロデュースしたThe Cardigansも好きだったからスウェーデンの音楽シーンには注目していたし、そこに日本人が行ってレコーディングして日本語で出すのか!みたいな。しかも歌っているのがあの原田知世さんで、もう本当にぴったりだなと思いました。ああいう作品はいまだに出てきていないですよね。

そうやってある意味憧れとして見ていた方とレコーディングしたり、ライブでご一緒したりすると不思議な感覚にはなりますよね。知世さんはファンタジーの中の人だと思っていたから(笑)。でも実際にお会いしてもファンタジックな原田知世像は全然崩れない。最近は趣味の話だったりプライベートな話をする機会もあるんですけど、それでもファンタジーの中の“知世ちゃん”は変わらないんです(笑)。

土岐麻子が分析する、原田知世の歌い手としての魅力

私が「ping-pong」(2018年11月発売のアルバム「L'Heure Bleue」収録曲)の歌詞を提供したときに、レコーディングにも立ち会ったんですね。そこで感じたのは、知世さんご自身が楽曲の全体を感覚で捉えて歌うセンスの人でもあるんだけど、技術をつかもうとする人でもあるということ。女優さんのレコーディングに立ち会う機会ってあまりないんですけど、感覚一発みたいなタイプの人もいるんですよ。知世さんはそうではなくて、歌のコントロールをするために技術を追求していくタイプ。歌いながら研究しているからテイクごとに歌が違うんです。どんどんコントロールがうまくなってまとまっていく感じというか。ただ技術ばかりに走ると、インスピレーションにあふれた透明感のある歌声が疎かになることもあって。でも知世さんの場合はそこのバランスが取れているんですよ。もしかしたらこれは俳優業で培った技術なのかもなと思ったのを覚えています。

角川時代の楽曲を改めて聴くと、とにかくまっすぐ歌っていますよね。あれは意図的なものだったのかわからないけど、曲は複雑だし、歌詞に意味深な表現が含まれているのに、風のようにまっすぐに歌われている。まっすぐなボーカルって耳にすっと入ってくるから簡単に聞こえるかもしれないけど、ピッチを取るのが難しいんですよ。だからその部分でも知世さんのコントロール力はすごいものがあるんじゃないかな。トーレ時代以降はまた違った色合いが出ていて、知世さんの中で明確に「こういうふうに歌を聴かせよう」というビジョンがあるように感じます。まっすぐではあるんだけど、それまで積み上げてきたイメージや、歌い方からあえて違ったものを目指しているみたいな。冷静というかクリエイティブな方だなと思います。

「天国にいちばん近い島」をカバーして思うこと

原田知世から土岐麻子へ

土岐さんは歌い手として本当に素晴らしい方。ご自身のアルバムもそうですが、カバー曲を聴いたときにあれだけ自分のものにして、それでいて曲のよさを最高に引き出している人っていないと思うんです。それに「こんなにいい曲だったんだ!」とオリジナルを忘れさせるくらいの魅力がありつつ、オリジナルの魅力も出ている……歌の名人ですよね(笑)。土岐さんが以前、韓国のアーティストの楽曲をよく聴いていて、韓国語で歌ったりしていると話していて。あれだけ歌がうまいのに、そういう若い人たちの音楽もチェックしてカバーするって本当にマニアック。歌を心から愛してる人なんだと思います。

11月に出るトリビュート盤で「天国にいちばん近い島」をカバーしていただいたのですが、本当にすごくて感激しました。なんというか「こういうふうに歌えばいいんだ」と気付かされました。ずっと自分の曲を歌っていると、どう歌えばいいのかわからなくなることがあって。私は土岐さんが歌う「天国にいちばん近い島」を聴いて、自分の呪縛から解き放たれた気がする。もう1回歌ってみたいと思わせてくれました。

原田知世

原田知世

うわー、ありがたい。どうしよう(笑)。名人だなんてうれしいですね(笑)。私、PokekaraというカラオケアプリでK-POPグループの曲を歌ってひっそり公開していて。コロナ禍が始まった頃にすごくハマって、気付いたら1人で4時間くらい録音してたこともあったんです。それを知世さんのレコーディングのときに話したら「何それ? 聴きたい!」とおっしゃってくれて、それでBLACKPINKなら4人、MONSTA Xなら7人のパートを1人で必死に歌っているのを面白がってくれたんです(笑)。それもあって「歌を本当に愛してる人」と言ってくれているのかな。

「天国にいちばん近い島」のカバーの話で言うと、ディレクターさんからのオファーの時点で楽曲が指定されていたんですね。でも原曲が素晴らしいからどうやってカバーすればいいのか悩んでしまって……。知世さんがセルフカバーしているピアノと歌だけのバージョンもありますけど、それはそれで完成しているから「ほかにどうやれと?」と思うくらいでした(笑)。それで今回アレンジをお願いした川口大輔くんに相談して。彼は私と同世代で、だいたい同じ景色を見てきた人なので、やりとりの中で「原曲をなぞろうとしてもすでに完成されているから、違ったアプローチをしてみよう」と、原曲のイメージから思いっきり離れたところに着地することにしたんです。なので歌の透明感とか、まっすぐ歌う感じとか、私の中での知世さんの草原的な歌唱のイメージだけを踏襲してアレンジを変えた形ですね。ただ、歌ってみると本当に難しい曲なんですよ。あれをなんの小細工もなくスーッと歌ってる知世さんは相当タフなボーカルなんだなと思いました。あとカバーするにあたっては、土岐麻子全開な感じで歌うと全然違う曲になってしまうので気を付けました。知世さんの楽曲はアレンジとかと同じくらい、声の存在感が切り離せないんです。

原田知世をプロデュースするとしたら?

私が知世さんをプロデュースするとしたら? うーん……やっぱり知世さんが好きで聴いている音楽のエッセンスは入れるべきですよね。私の作品だと「Passion Blue」を気に入っていただいているみたいで、ああいう硬質なエレクトロサウンドもお好きなら、歌の主人公がクールな感じもいいかもしれない。それにK-POPみたいなバキッとした音も案外似合いそうですよね。

私、知世さんの40周年公演にも出演するんですけど……40周年って改めてすごい数字ですよね。緊張しますけど、単純に国際フォーラム ホールAで知世さんのライブを観られるのが楽しみで、出る側というよりは観に行く感覚でいます(笑)。ゲスト陣もすごいじゃないですか。あの並びの中に私が入っていくと考えると、それこそ迷い込んでしまった感覚というか、現実感がない(笑)。この間オーチャードホールでのライブも観させていただいたんですけど、ロックアプローチ的な曲もあってすごくカッコよかったんですよ。コンセプトによって印象が変わるんだなと思ったので、40周年公演もとても楽しみにしています。

原田知世ライブ情報

原田知世 40th Anniversary Special Concert "fruitful days"

2022年10月16日(日)東京都 東京国際フォーラム ホールA
<出演者> 原田知世
ゲスト:大貫妙子 / 鈴木慶一 / 高野寛 / 土岐麻子

プロフィール

原田知世(ハラダトモヨ)

1983年に映画「時をかける少女」でスクリーンデビュー。近年は映画「しあわせのパン」「あいあい傘」「星の子」、ドラマ「紙の月」「運命に、似た恋」「三つの月」「半分、青い。」「あなたの番です」「スナック キズツキ」などの話題作に出演している。デビュー時より歌手としても精力的に活動しており、1990年代は鈴木慶一、トーレ・ヨハンソンらを迎えてのアルバム制作や、国内ツアーなどで新たなリスナーを獲得。近年はプロデューサーに伊藤ゴローを迎え、コンスタントに作品をリリースしている。高橋幸宏、高野寛らと2007年に結成したバンド・pupaにも在籍。2022年にはデビュー40周年を迎え、3月に通算21枚目となるオリジナルアルバム「fruitful days」、10月に2枚組オールタイムベストアルバム「原田知世のうたと音楽」を発表し、10月16日には東京・東京国際フォーラム ホールAでデビュー40周年記念公演「原田知世 40th Anniversary Special Concert "fruitful days"」を開催する。さらに11月には原田知世のトリビュートアルバム「ToMoYo covers ~原田知世オフィシャル・カバー・アルバム」のリリースも控えている。

衣装協力
千鳥チェックノーカラージャケット / 28600円(JOHNBULL)
千鳥チェックドッグイヤーパンツ / 18700円(JOHNBULL)
シルバーネックレス / 93500円(petite robe noire)
ロングシルバーネックレス / 39600円(petite robe noire)
フープイヤリング / 17600円(petite robe noire)
ストーン付きリング / 13200円(petite robe noire)
シルバーリング / 各9900円(petite robe noire)
トップス、シューズはスタイリスト私物

土岐麻子(トキアサコ)

1976年東京生まれ。1997年にCymbalsのリードボーカルとして、インディーズから2枚のミニアルバムを発表する。1999年にはメジャーデビューを果たし、数々の名作を生み出すも、2004年1月のライブをもってバンドは惜しまれつつ解散。同年2月には初のソロアルバム「STANDARDS ~土岐麻子ジャズを歌う~」をリリースし、ソロ活動をスタートさせた。2021年2月にカバーアルバム「HOME TOWN ~Cover Songs~」、11月にはオリジナルアルバム「Twilight」を発表。