HANCE「BLACK WINE」インタビュー|世界各国へ届ける、極上の“シネマティックミュージック” (2/2)

ファッションに近い感覚かもしれない

──アルバム冒頭には勢いのある強い楽曲が並べられています。その中の1つ、リード曲となっているのが「モノクロスカイ」ですね。

この曲も「BLACK WORLD」からの流れで、だんだんきな臭くなってきている世の中に対しての思いを書いたと言いますか。何か争いが起きたときにすぐ対立構造になってしまうことに僕は違和感を感じていて。その間にあるグレーゾーンにこそ問題をクリアしていく鍵があるのではないかということにフォーカスしてみました。人と人が歩み寄っていくことで生まれる美しさ。それを表現していくことは僕のライフワークでもあると思っています。

──この曲のメロディやHANCEさんのボーカルからはやはり歌謡曲の雰囲気を感じました。

そうですね。海外の方からはアニメのオープニングテーマに似合いそうだと言われることもあります。この曲では自分の中にある攻撃的で、でもちょっと刹那を感じる部分を表現したところがありますね。そういう意味では非常に男性的な曲だろうなと思ってます、自分としては。

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──一方では女性目線で書かれた「或る人」のような曲もありますよね。

「或る人」もそうですし、「螺旋」も女性目線ですね。僕は短編映画を作っている感覚でやっているので、そこは自然な流れと言いますか。映画同様、主人公が男性だったり、女性だったり、ちっちゃい子だったり、老人だったりしてもいいわけで。一人称にしても“私”と言っているものもあれば、“俺”と歌っているものもありますからね。

──「或る人」は女性目線の曲ですけど、サウンドはものすごくハードボイルドだったりして。そのバランスも絶妙ですよね。

そうですね。女性の歌詞ではあるけど、サウンド面は映画の「007」を連想させるような男性っぽいものにしたかったんですよ。僕の場合、そういったバランスの取り方はすべての曲でやっている気がします。ここが濃いからこっちは薄くしてとか、こっちが柔らかいからここはハードにしようとか。その感覚はファッションに近いかもしれないですね。ちょっと決め決めすぎるからドレスダウンさせる、みたいな。わりとそういうバランスを考えながらやってます。

──HANCEさんの美学としては、バキバキに決まっているものより、ちょっと崩しが入ってるほうがいいんですかね。

もちろんバキバキに突き詰め、振り切っているアーティストさんも僕は好きなんですよ。ただ、僕自身の感覚はいろんなところを常に行き来しているから、それをつい曲に入れてしまうっていう。あとはアルバム全体の流れとしても、ずっと攻撃的で速い曲ばかりだと年齢的に厳しくなってきているので(笑)、最初はパンチがあるけど、だんだん優しくなっていくとか、コース料理のような部分を大事にしているところもありますね。そこも大人の方が聴きやすい部分じゃないかなと思っています。

──確かに本作も後半に向けて穏やかになっていきますもんね。

1stアルバムもそうだったんですけど、聴きやすく、飽きずに楽しんでもらうことを考えると、自然とそういった曲順になっていきますね。

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20年間、自分の心の中に溜め込んでいたものを浄化できた

──そんな後半に配置されている「snow sonnet」は歌い方も含めてフォークなニュアンスが強く出ている印象です。HANCEさんはフォークも通ってきているんですか?

僕はいろんな音楽を聴いてきましたけど、フォーク少年でもあったんですよ。ギターを始めた頃から、ボブ・ディランやPeter, Paul and Mary、Simon & Garfunkelといったアーティストの曲をよく聴いていて。90年代になってからもエリオット・スミスのような、わりとフォーキーで、でもちょっとオルタナティブな匂いの感じられる人がすごく好きでしたし。そういった意味では日本のフォークというよりは、アメリカやヨーロッパのフォーク、アコースティックサウンドをやっている人たちの影響が出ているんだと思います。

──アルバムラストの「眠りの花」は、歌詞やメロディのリフレインが心地よいゆらぎを感じさせてくれる1曲で。アルバムとして美しいエンディングになっていますね。

この曲は20年以上前、僕が20代の頃に作ったものをセルフリメイクした形です。歌詞に関しては今の大人になった自分の気持ちにリンクしないものは別の言葉に置き換えるつもりだったんですけど、意外なほど変えるところがあんまりなくて。それが自分にとっては大きな発見でしたね。20年間、自分の心の中に溜め込んでいたものを、曲として形にしたことで浄化できた感覚もあって。そういう意味で、このアルバムの中ではすごくパーソナルな曲になったと思います。

──そこがアルバムの最後に収められた意味にもなっているんでしょうね。

そうですね。この曲のアウトロには小さい子供の声がうっすら入っていて。人間はこの世に生まれたあと、いろんなことを経験し、亡くなっていくわけですけど、最後にはすごくピュアなところに帰っていくような感覚が僕の中にはあるんですよ。僕自身はまだそこまで年齢を重ねてないですけど、きっと老人になったときには赤ん坊のときと近い感覚を持っているような気がするんです。このアルバムでは1つの人生の大きな流れを表現したい気持ちもあったので、最後に子供の声を入れました。

「わりとロックっぽい人なんですね」

──来年1月には青山 月見ル君想フでワンマンライブが開催されます。

東京でのワンマンはちょうど1年ぶりになるので、2ndアルバムのリリースパーティだと思って遊びに来ていただけたらうれしいですね。会場となる月見ル君想フさんには初めて立たせていただくんですけど、あそこはステージバックの大きな月が印象的じゃないですか。HANCEの曲にはかなり高確率で“月”が出てきますので(笑)、今から非常に楽しみです。

──そして2月にはスイス・ローザンヌで開催されるイベント「Japan Impact」への出演も決定したそうですね。

そうなんですよ。日本のカルチャーに興味がある方が集まるフェスティバルに2日間出演させていただけることになりました。僕にとっては初めての海外公演になりますが、思い切り楽しんできたいですね。海外では今後もそういった趣旨のイベントを中心に出演していけたらと思っています。

──昨年1月に初ワンマンを経験されて以降、HANCEとしてのライブスタイルが見えてきたところはありますか?

ライブを観てくれた方には「わりとロックっぽい人なんですね」って言われるんですよ(笑)。多感な頃にロックな曲をたくさん聴いてきたので、「大人のために」というコンセプトの音楽をやっていても、パフォーマンス面ではそういう部分が反射的に出ちゃったのかもしれないです。HANCEとしては、楽曲では多面的にアプローチしているぶん、ライブでは、もっと肉感的といいますか、シンプルに音楽の持つエネルギーをぶつけていきたいですね。ぜひ一度、ライブに足を運んでみてもらえたらうれしいです!

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ライブ情報

HANCE Premium LIVE in Tokyo

  • 2024年1月27日(土)東京都 青山 月見ル君想フ

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プロフィール

HANCE(ハンス)

東京を拠点に活動するシンガーソングライター。2020年9月、1stシングル「夜と嘘」でデビュー。スペインのバレンシアで撮影された、ミュージックビデオは公開後、国内のみならず世界各国で話題となり、デビュー曲「夜と嘘」は3カ月でYouTubeで100万再生を記録した。2021年5月にリリースされた1stアルバム「between the night」はiTunes Store J-Popトップアルバムで、フランスで1位にチャートイン。Apple Music J-Popトップアルバムではスロバキア、ポーランド、ウクライナで1位となった。アルバムリード曲の「SMOKE」はSpotifyの主要プレイリスト「Tokyo Rising」「soul Music Japan」「New Music Wednesday」にプレイリストイン。その後も定期的にシングルをリリースし、2023年12月に2ndアルバム「BLACK WINE」を発表した。2024年1月に東京・青山 月見ル君想フでワンマンライブ「HANCE Premium LIVE in Tokyo」を行う。