HANCE|遅咲きのデビューで提示する新たなキャリアの重ね方

1つのアルバムにいろんな視点の曲がある

──歌詞はHANCEさんのパーソナルな部分が出ているものなんですか?

HANCE

もちろん根底には自分のパーソナリティや価値観が出てると思うんですけど、先ほどお話ししたように映像を浮かべて作ることが多いので、主人公はけっこう変わるんですよね。一人称が“私”の曲もあれば“僕”の曲もあって、1つのアルバムにいろんな視点の曲があると思います。

──映画で言うところのオムニバス作品のような感じですよね。それこそジム・ジャームッシュの「ナイト・オン・ザ・プラネット」みたいな。

まさにそうです!

──いろんな人の視点の、いろんな場面の夜があるという。

だけどトータルの世界観は確立されていて、そこに1つの価値観が立ち上がるみたいな、そういう作品にしたいんです。

──その世界観を作るうえで、ボーカルも重要なポイントですよね。HANCEさんのボーカルはウィスパーな部分とソウルフルな部分がきれいに使い分けられていて、特に「夜と嘘」や「COLOR」はサビとそれ以外の部分で質感がガラッと変わっているのが印象的です。

映画でも静寂を表現したい場面と激情を表現したい場面が当然あると思うので、自分の歌い方もそれと似たようなものとして捉えているところはあるかもしれません。でも僕は自分のことをスペシャルな歌い手だとは全然思っていなくて。

──そうなんですか?

自分はどちらかというと曲を作る人という意識が強くて、シンガーとして前に出ていきたいタイプではないんですよ。自分が作った歌を自分よりもうまく表現できる人がいたら、全然その人に歌ってもらってもいいですし。ただ、そういう人は見つからなかったので、自分でやると決めました。そうとなったら、自分の歌声も1つの商品として機能しないといけないですし、自分の声を好きと言ってくださる方がいらっしゃる以上、それに応えたいなと。

HANCEの活動は“終活”

──コロナ禍でライブなどはなかなかしづらい状況ですけど、今後の展望などは考えていますか?

もともと僕はライブをやりたいというより、作品を形に残したいとかMVなどの映像作品を作りたいというところからスタートしているので、そういう意味ではやりたいことはもうできてるんですよ。もちろんライブを観たいという声もたくさん届き始めているので、できるだけ応えていきたいとは思いますけど。

──確かにデビューの動機が「今まで作った曲を形にしたい」だということを考えると、ある意味デビューですでにゴールを迎えているような感覚なのでしょうか。

そうですね。僕はHANCEの活動は終活だって言っているんですけど(笑)。よくありますよね、「死ぬまでにしたい10のこと」みたいな。それを自分でやって、1つずつ叶えてる感じですね(笑)。

──1stアルバムで終活というのもすごいですね(笑)。

この間撮影した「マーブルの旅人」という曲のMVでは、スーツ姿で拳銃を構えたりタバコをくゆらせたりしたんですけど、あれはもう終活そのものですね(笑)。男なら誰しも一度はアクション俳優に憧れるじゃないですか(笑)。40歳を超えてできる人もなかなかいないと思うんですけど、自分はそれを楽しみながらやってるような感じですね。

──では音源については次回作の構想は特になく?

ストックしてる曲はたくさんあるので、次回作どころか3枚目のアルバムぐらいまで、入れたい曲はある程度決まっています。なんならアルバムのタイトルもなんとなく考えていますし。ただ新曲も日常的に作っているので、いい意味でどんどん予定が狂って、更新されていくとは思います(笑)。やっぱりできたての曲もリリースしていきたいので。

──ではこれからも作品は精力的に出していくんですね。40代でデビューされて、これからどのように活動していくのか楽しみです。

おこがましいかもしれませんが、1つのチャンスではあると思うんですよね。若い方がどんどんデビューされていて、ひしめき合っているので、言ってしまえば10代、20代の新人アーティストさんはレッドオーシャンじゃないですか。一方、僕の場合は同世代でデビューしている人がまずいませんから、ブルーオーシャンどころか砂漠に1人ポツンと立ってるみたいな感覚です(笑)。やりようによっては目立てるかなと(笑)。また、日本の人口ピラミッドで言ったら40代、50代ってめちゃくちゃ多いですよね。だからこそ、この世代でアーティスト活動をするのはチャンスだとも思いますし、同じような方がこれからどんどん出てくると音楽業界全体が活性化していくのではないかと。HANCEの活動が、少しでもその火付け役になれればいいなと思いますね。

HANCE