ナタリー PowerPush - 花澤香菜
“渋谷系”ポップスを継承する傑作アルバム完成
「この曲、ホントはすごく難しいんだけどね」
──北川さんがこのシングル4枚とアルバム1枚の制作を通して感じた、花澤さんの変化、成長ぶりを教えてください。
北川 歌のテイクがだんだん少なくなってきたというのは、やっぱり自分のやり方をつかんできたということだろうなと思います。その成長は毎回感じましたね。あと普段の仕事柄、歌の世界を表現する演じ方については、声優としての普段の技をどんどん応用できるようになってきたんでしょうね。覚えたことを吸収するセンスもすごくいいし。
花澤 うーん。照れますね(笑)。うれしいです。
北川 たぶん俳優さんや声優さんのように本業がある人だと、ただ歌いっぱなしになっちゃう人も多いと思うんですよ、どうしても。香菜ちゃんは歌ってみて、確認して、技をどんどん増やしながら次につなげてるんですよ。
──それは作り手としてもやりがいがあるでしょうね。
北川 そうですね。こちらは「最高のものを作りたい」という思いに対して「受けて立った」という気持ちがあるから。「もっと難しいことやっちゃうよ」というムチャが通じる現場というのは楽しい(笑)。
花澤 あはははは(笑)。北川さんはなんてことないような感じで言うんですよ。「ここ、こうだよ」って。それでどうにかがんばって、歌を録り終えてから「終わったねー。この曲、ホントはすごく難しいんだけどね」って最後の最後に言うんですよ(笑)。
北川 だって最初に「この曲難しいんだよ」って言ったら、絶対身構えるでしょ?
──花澤さんの吸収力と北川さんのプロデュース術が織りなすマジックですね(笑)。
北川 ますます吸収していくんだろうなと思いますよ。
初めて作詞に挑戦した「おやすみ、また明日」
──アルバムでは「おやすみ、また明日」で作詞デビューも果たしました。「Silent Snow」発売記念イベントでは少し作詞の裏話についても話されていましたよね。
花澤 ……はい。なんか……すみません。
──とたんに表情がくもりましたけど(笑)。
北川 いきなり歌詞を書くのも難しいから「まずは思いついたことを、箇条書きでいいから書き出してみたら?」って話をして。
花澤 「自分が生み出した言葉じゃなくてもいいから、印象に残ってる言葉とか好きな言葉を書き溜めていれば、何か見えてくるんじゃない?」って北川さんからアドバイスをいただいて。それでしばらく経った頃、お試しというか……とりあえず1日の出来事をただつづったものを、北川さんに見てもらったんです。そしたらその紙が間違って印刷されて、みんなに見られてしまうという……(笑)。
北川 楽譜と一緒に配られちゃって(笑)。
花澤 みんなして「何これ?」って(笑)。
北川 みんな「うーん。ちょっと違うかなあ」みたいな(笑)。
──どの作家さんも花澤さんの持つ透明感を歌詞とメロディ最大限に活かしている一方で、たまにラジオなどで見せる破天荒な言動というか(笑)、そういう側面が自作の歌詞に出るのもいいんじゃないでしょうか。
花澤 ただそれが1作目なのは違うんだろうな、というのはなんとなく空気でわかりました(笑)。私としては、やくしまるえつこさんみたいな感じをイメージしながら書いた歌詞だったんですけど、ぜんぜんダメでした(笑)。でもそのときから、詞を書く上で方向性は決めないとなと思っていて。聴いている人に安心してもらえるような、ボーッと聴けてリラックスできるような曲にしたいなというのは決めてたんです。できるだけ飾らず、素直に書いたものが「おやすみ、また明日」になりました。
もちろんこのまま終わってしまうなんてさびしい
──花澤さん自身の歌詞も含め、各作家陣の楽曲やサウンド、ビジュアルイメージなど細部にいたるまで、徹底した世界観ができあがったアルバムだなと感じました。
花澤 ホントそうですねー。私もこうしてできあがったものを見て、ホントに恵まれてるなーと思いました。
──「星空☆ディスティネーション」から始まった一連のプロジェクトがここに1つの締めくくりを迎えたわけですが、果たしてこの先はどうなっていくのでしょうか? 個人的な思いを言えば、絶対にこのあとも続けてほしいんですよ。
花澤 おっ(笑)。
──ご自身の中では一連の活動を通して、どのぐらい手応えを感じているのかなと。
花澤 ひとつ大きな流れの中でチームとして動いていたので、もちろんこのまま終わってしまうなんてさびしいです。レコーディングもすっごく楽しかったし。と同時に、ライブやイベントは私個人としてファンの皆さんと触れ合える貴重な機会なので、うん、終わりたくはないですね。やってもらえるのであれば。北川さんお願いしますー(笑)。
北川 や、もう何曲か新しいの書いてるからね。
花澤 えー!? なにそれー!
北川 いろんな人を呼んでいろんな曲を作ってきたから「ああ、そういうのもあるんなら、こういう曲もいいかもね」とか言って、もう勝手に作ってるの(笑)。
──ご本人のモチベーションはどうなんだろうという心配もひそかにありましたけど、話を聞いてみたら杞憂でしたね。まずは3月に、このアルバムを携えてのワンマンライブが控えています。大阪と東京の2公演で、どちらも前回のイベントよりもはるかに多い観客数になりますが。
花澤 私、行き詰まるといつも大学の教授に助けを求めに行くんですよ。金八先生みたいな言葉をくれる先生で。この間のライブで緊張しすぎたから(笑)、また会いに行ったんです。そしたら「誰でも緊張はするものだから仕方ないけど、大事なのは自分がどんな状況でもちゃんと仕事ができることじゃない?」って。プロってそういうことだよなあと。じゃあなんでそんなに緊張しちゃったんだろうと考えたら、きっと自信がしぼんでたんだと思うんです。だからもう練習するしかないなって。
北川 こんなに緊張感のない人が隣にいたのにね(笑)。
──今までのイベントとは違う、2時間前後の“フル尺”のライブステージを経験することで、また何か新しい景色が見えるかもしれませんし。
花澤 そうですよね。2時間なんて……ほとんどマラソンですもんね(笑)。しっかり練習して、いいものを見せられたらなと思います!
- ニューアルバム「claire」/ 2013年2月20日発売 / 3150円 / アニプレックス SVWC-7929
-
CD収録曲
- 青い鳥 [作詞:北川勝利、acane_madder / 作曲:北川勝利 / 編曲:長谷泰宏、北川勝利]
- Just The Way You Are [作詞・作曲:北川勝利 / 編曲:acane_madder、北川勝利]
- 初恋ノオト [作詞・作曲・編曲:中塚武]
- ライブラリーで恋をして! [作詞・作曲:カジヒデキ / 編曲:関根卓史]
- 星空☆ディスティネーション [作詞・作曲・編曲:北川勝利]
- スタッカート [作詞・作曲・編曲:宮川弾]
- melody [作詞:meg rock / 作曲・編曲:ミト]
- Ring a Bell [作詞・作曲・編曲:北川勝利]
- Silent Snow [作詞・作曲・編曲:北川勝利]
- シグナルは恋ゴコロ [作詞・作曲:矢野博康 / 編曲:北川勝利]
- 新しい世界の歌 [作詞・作曲・編曲:沖井礼二]
- 眠るサカナ [作詞・作曲・編曲:Fullkawa Head.Q.music]
- おやすみ、また明日 [作詞:花澤香菜 / 作曲・編曲:北川勝利]
- happy endings [作詞:meg rock / 作曲・編曲:神前暁(MONACA)]
初回限定仕様特典
- 48P撮り下ろしスペシャルフォトブック
- 三方背スリーブケース
花澤香菜(はなざわかな)
2月25日生まれ、東京都出身の声優。2006年放送の「ゼーガペイン」で初のヒロインとなるカミナギ・リョーコ役を演じ、2007年には「月面兎兵器ミーナ」「スケッチブック ~full color's~」「ぽてまよ」といった作品で次々と主要キャラクター役に抜擢された。その後も「こばと。」「化物語」「海月姫」などの人気アニメでヒロインを演じるかたわら、多数の作品でキャラクターソングを歌い、2011年放送の「ロウきゅーぶ!」では声優ユニット「RO-KYU-BU!」のメンバーとしても活躍。2012年4月にはシングル「星空☆ディスティネーション」でソロデビューを果たした。同年7月に「初恋ノオト」、10月に「happy endings」、2013年1月に「Silent Snow」と季節ごとにシングルを発表し、2013年2月20日には1stフルアルバム「claire」をリリース。