「……そろそろですよね？」「わかりました」

──長い準備期間を経て、2012年春にはついにシングル「星空☆ディスティネーション」で一歩を踏み出したわけですが、この曲を大事な一歩目に選んだのはなぜですか？

花澤　最初にデモを聴かせていただいたとき、すぐに「私この曲歌いたい！」って思ったんです。北川さんの曲は大体そうなんですけど（笑）。レコーディングにもたっぷり時間をかけてもらって。どの曲よりも時間をかけてもらったんじゃないかなあ。

北川　曲ができたのは準備期間の最後のほうだったんですけど、それまでずっと「こんな曲もありますよ」っていろんな曲を提出しながら、なんとなくスタッフさんが理想としている感じはなんとなく想像できてたんですよ。だから違う方向から試していって（笑）。

花澤　うふふふふふ（笑）。

北川　それで「……そろそろですよね？」「わかりました」って感じで持っていったのがこの曲（笑）。そしたらスタッフのみんなから一斉に「これです！」って。

──実際ドンピシャな感じはありますね。デビューの段階でシーズンごとのシングルリリース計画は発表されてましたけど、花澤香菜がどういう音楽性で行くのかがはっきり提示された1曲というか。期待値も一気に上がりました。

北川　プレゼンとしてしっかりしてる（笑）。

──今年1月にリリースされた「Silent Snow」まで、季節ごとに4枚のシングルが世に送り出されました。声優としてではなく歌手としてメディアに出たり、イベントで歌ったりと、実際に音楽活動をすることで、ご自身の中で新たな発見、心境の変化はありましたか？

花澤　自分でもあまりわからなかったけど、1枚目と4枚目ではやっぱりなんというか、心持ちが違いますね。アルバムの中の1曲として「Silent Snow」を聴いたとき、「この曲を最初の段階で歌ってたら、こういうふうには歌えなかったな」と思って。心境の変化は……ライブで人前に出るたびに「よし、度胸が付いた」と思うんですけど……あの度胸はいつもどこに行ってしまうんだろう。

北川　ははははは（笑）。こないだもすげえ緊張してたよね。

──「Silent Snow」の発売記念イベントは僕も拝見しましたけど、前半緊張されてましたよね（笑）。

花澤　アニメのイベントのときはそんなに緊張しないんですけど、ソロになると……。アニメのイベントだとキャラクターを通して見られているという感じがあるから、1人で出演するときでもそんなに緊張しないんですよね。

北川　じゃあ気持ちを変えてさ、「私は『花澤香菜』に参加してるんだ」と思えばいいんじゃない？

花澤　なるほどー（笑）。

「うわ、試されてる」と思う瞬間はけっこうありました

──1stフルアルバム「claire」は、シングル4枚を通して発信されてきたソロ音楽活動の1つの締めくくりでありながら、シングル未収録の新曲が10曲も収められた贅沢な内容で。シングルにもそれぞれ2曲のカップリングナンバーが収録されてましたが、これらはあくまでシングルのみで聴けるという。リスナーとしては「曲がいっぱい増えた！」というだけでも最高で。

北川　確かに「シングル買ったのに全部アルバムに入ってたんだー」みたいなのは、ちょっとがっかりするよね。シングルにしか入ってない重要な曲もあるから。「もしもしー？」（4thシングル「Silent Snow」カップリング「CALL ME EVERYDAY」）って曲とかね（笑）。

花澤　北川さんには特に、デモ曲もいっぱい作ってもらったし、それこそ「これシングルじゃないんですか？」みたいな曲もいっぱいいただいたんですよ。そんな曲たちもアルバムにいっぱい散りばめられていて、よかったなあって。

──アルバムで初参加となる楽曲提供者も多岐にわたるラインナップで。“渋谷系”というキーワードを軸にしながらも、楽曲はかなりバリエーションに富んでいます。歌ってみて特に難しかった曲などはありますか？

花澤　一番難しかった曲を挙げるとすると……ミトさんが作ってくださった「melody」ですかねー。デモをいただいたときにまず「カッコいいけど、これ歌えるのかな」って不安になりました。

北川　レコーディングも面白かったね。ミトくんやmeg rockと一緒に「ワン、ツー、スリー、フォー」とか「シチュエーション」とか、英語の発音にすごくこだわったり。

花澤　チャレンジが詰まってますね。もう少しカッコよくしたほうがいいかな、とか細かく考えて。

──声のバリエーションや質感などを考えると、曲を作る人たちもかなりやりがいがあったんじゃないでしょうか。「この声ならあんなこともできる、こんなこともできる」と。

花澤　「うわ、試されてる」と思う瞬間はけっこうありました（笑）。

北川　歌録りには全部立ち会ったんだけど、録り方は人それぞれで面白かったなあ。

花澤　北川さんと皆さんの会話もそれぞれ違って面白かったです。北川さんは誰といるときもこのまんまなんですけど（笑）。皆さんそれぞれこだわるところが違うので、話を聞いてるだけでも楽しかったですね。