ナタリー PowerPush - 浜田麻里
孤高の歌姫、ストイックな30年
Twitterやブログをやらない理由
──ここ5年ばかり、浜田さんの活動の状況は盛り上がってきてますね。チャートアクションやライブ動員などを見ても。
はい。自分の気分も、さっき話に出た「Forever」とか「Call My Luck」を出したときに似てますね。自分の気持ちの変化、それからネットの力も大きいと思います。自分があまり出てないときもネットでずっと存在をアピールしてくださるファンの方がいて。うれしい声をいただくようになって、アルバムが出ても応援してくださる。
──楽曲にも恵まれてきてますね。
それもそうですし、長年やってきて、いい仲間がどんどん増えてきて。日本のミュージシャンもそうですし、アメリカのミュージシャンやエンジニアもそう。私を盛り立てようとがんばってくれる。自分自身もアレンジにこだわるようになって、アルバムを納得いくようしっかり作れるようにもなってきた。根底にあるのはそれなんですよ、私の場合。自信となるのはまず制作なんで。それがしっかりしてきたんで、ライブも盛況になってきたのかなと思います。
──2013年はひさびさにテレビにも出ましたし。
はい。あるときテレビに頼る活動は自分に向いていないと気が付いて。そこから20年出なかったんですけど、今年は30周年ということもあって、皆さんへの恩返しの気持ちや、ファンの方へのプレゼントという気持ちもあって、何回か出演させていただいたんです。それでまた新しいファンの方がついてくれましたし、離れていた昔のファンの方々が大勢気が付いてくれたり。それが今のところプラスに作用したみたいですね。
──ファンの方へのアピールと言えば、最近はTwitterやブログをやる人も多いですが、浜田さんは全然やらないですね。
やらないです。自分がそういうタイプじゃないんで。あまり得意じゃないし。
──個人としての浜田麻里とアーティストとしての浜田麻里は分けておきたい?
うーん……いや……昔は極端に分かれてる感じがありましたけど、今はそれがどんどん近付いてきて、そういう意味ではその違いを意識することはないんです。ただ……文章を書くのは好きなので、コンサートパンフレットなどにはエッセイなどを書くんですけど、自分で言うのもなんですが、私の発する言葉はファンの方にとってはすごく重いみたいで。影響力もあるので、あんまりこう、軽々しく発言できない感じになってきてるんですね(笑)。
人と同じだとすごい焦る
──しかしこうやってお話してても、あまり欲がないというか、ギラギラした野心みたいなものを感じさせないですね。
そうですねえ……あんまりギラギラしてないというか、ギラギラしてる人たちがうらやましい(笑)、という気持ちでずっときてましたね。なんか……ずっと冷めてる気持ちがどこかにある。もちろん熱いところもあるんですけど。
──歌ってる自分を上から見ているもう1人の自分がいるような。
必ず俯瞰してますね。最近やっと、ステージ上ではオープンマインドになれるようになってきたんですけど(笑)。ちょっと一線を引いてたようなところがある気がしますね。
──なるほど。ほかの音楽家の作品などはよく聴かれるんですか?
最近っていうかずっと……あんまり、というか全然、人の音楽を聴かないんです(笑)。このアーティストが好きとかこのアルバムがいいとか全然ないんですよね。もし聴かなきゃいけない状況だったら、自分の音楽性とは違うものを聴きたいというのがあって。ケルト的なものだったりワールドミュージック的なものを昔から聴いてます。
──人の音楽を全然聴かないのはどうしてですか?
同業者としか思えないっていう……。昔からそういう冷めたところがあって。それはもう、海外のアーティストでも一緒ですね。自然に耳に入ってくる音楽に関しては、人よりも耳ダンボだと思うんですけど、かえって面倒なんです。音感が鋭いほうなんで、いろいろ聞こえすぎてしまって(笑)。こう、好きで聴きたい、みたいなのがほんと、ないんですよね。恥ずかしいんですけど、それが現実なんで(笑)。前は言えなかったけど……。
──じゃあ楽曲を作るときは、何にインスピレーションを得て作ることが多いんですか。
インスピレーションねえ……人の曲からっていうのはないですね。まあ、人の曲でも自然にたまってきてるのはあるんでしょうけど。自分の中から自然に浮かんでくるような。もしかしたら、それこそ子供の頃の唱歌とか、童謡とまではいかないですけど。スタジオの仕事をやる前は、合唱クラブとかに入ったりしてたんで、そのときの素養もあります。放送部に入ってて、昼食のときにクラシックかけたりとか。あとは子供のときに聴いた歌謡曲とかもそうですし。自然にたまってきてるんでしょうね。アメリカに行けば、週末必ず「The Baked Potato」ってクラブに行ってジャズとか聴いてましたけど、それは音楽が聴きたいというよりも、知り合いのミュージシャンが出るので、呼ばれて行くみたいな(笑)。もちろん好きなタイプの音楽でしたけどね。そういう機会は多いですし、35年間プロとしていろいろなミュージシャンと仕事をしてきたので、実践を重ねて自分の中にたまってきてる音楽の素養はそれなりにあると思いますけど。
──でも周りから、これ聴いてみたら、とか勧められないですか。
(即答)いや、ないですね(笑)。
──(笑)。じゃあ同時代で活躍してるほかのシンガーの人とか、全然興味ない?
それが接点ないんですよねえ(笑)。
──あまり群れるタイプじゃなさそうですね。
あ、全然(笑)。なんか昔から……。よく嫉妬されるタイプというか。だから面倒臭くなっちゃう。あ、人は好きなんですよ。でも人と同じだったりするとすごい焦るタイプだったりするんですよ(笑)。どっちかというと日本人って人と同じだと安心感を得るみたいな……。
──目立つのを嫌う。
ええ。でも私は人と同じようなものを持ってるとか、そういうのは考えられない。だから音楽っていうか、歌うたいとしてもそうなのかもしれないですね。
歌を辞めることは考えたことがない
──なるほど。そんな浜田さんの今後の目標はなんでしょう。
道なき道なので、先が見えてるわけじゃないんですよ。今を一生懸命やっていくしかないな、と思います。
──プロのミュージシャンとして、この域には到達したいという希望はありますか。
やはり女性ロッカーという軌跡を自分が少しでも残せたら。なるべく長くいい作品を作り続けられたら、と思います。若いときの自分は今の年齢でこういう音楽でこういうふうに歌っているなんて想像もできなかった。40歳過ぎたらジャズでも歌ってるかなあ、またスタジオの仕事やってるかなあ、とか。20代後半とか30代ぐらいまではそんなふうに考えてた気がするんです。そのとき想像もできなかった自分が、今この年齡でいるので、自分でもこれからが楽しみですね。新しい女性ボーカル像っていうのができるんじゃないかなと思ったりもしますし。今の年齡で、自分の未来を楽しみに感じるなんてことは思ってもみなかったから、とてもうれしいです。
──ロックにはこだわりありますか?
はい、今はありますね。なかった時期はないんですけど、広く広くと思ってた時期とはまたちょっと違う。広がるきっかけがあれば、それを拒むつもりはまったくないんですけど。ロックシンガーとしての自分がこの30年間でできてきたっていうのもありますし、ハードな音楽をきっちりやれる人たちがたくさん出てくれば、ああもう自分の時代じゃないんだって思うかもしれないけど(笑)、なかなか出てこない。やっぱり自分がやらなきゃなと思うので。ハードな音楽をハードに歌っていくっていう自分の個性は大事なんだなと思います。
──しんどいなと思ったことはありますか?
いつも思ってます。体力的には、特に若いときはいつも限界でしたし。喉もいつもギリギリまで酷使するスケジュールで。声帯の先生にマネージャーが怒られてました。だから大変は大変ですけどね。
──歌手にならなかったら、どうなってたと思います?
いやあ、考えられないですねえ。もうほんとに幼児というか、小学生の頃から歌手になろうと思ってましたから。夢とかそんなのじゃなく、当たり前のこととして思ってきたので。想像したこともないですね。
──自分が歌を辞める瞬間は想像できますか。
今はできないです。今までも一度も思ったことない。よぎったこともないですから。
浜田麻里(はまだまり)
中学時代よりスタジオボーカリストとして活躍し、大学時代に所属していたMISTY CATSでオーディション「EAST WEST '81」東京ブロック出場時にスカウトされる。その後1983年4月のソロとしてアルバム「LUNATIC DOLL」でデビューし、女性ロックボーカリストとして台頭。激しいロックチューンを歌いこなす圧倒的な歌唱力で、「ヘヴィメタルの女王」としての地位を確立させる。1987年よりレコーディングの拠点をアメリカに移し、海外のアーティストとの制作活動を開始。1989年に発表したシングル「Return to Myself~しない、しない、ナツ~」およびアルバム「Return to Myself」はロックファン以外からの支持も集めた。1996年~2001年はライブを一時休止し、音楽制作を中心とした活動を展開する。デビュー20周年を目前に控えた2002年よりライブ活動を再開。デビュー30周年を迎えた2013年にはベストアルバム「Inclination lll」をリリースした。2014年1月にはコンプリートシングルボックス「Mari Hamada ~Complete Single Collection~」と、過去18タイトルのオリジナルアルバムをSHM-CD化してリリース。4月には東京・東京国際フォーラム ホールAにてアニバーサリーライブを開催する。