ナタリー PowerPush - 八王子P
ボカロ流ポップスの最新型「ViViD WAVE」
ボカロのトレンドに流されない意志
──最近のボカロ曲は自分と世代が違うなという印象はありますか?
ありますね。やはりボカロにも時代によって変化があると思うんですよ。まあ最近でいえばわかりやすいのは、じん(自然の敵P)さんの登場ですよね。最初、kz(livetune)さんとか出てきた頃はもっとミクのキャラソンそのもので「私が世界に歌を届けるよ」っていう内容の歌が多かったですよね。そのあとでryo(supercell)さんが出てきて、初音ミクが普通のJ-POPを歌うような時代になった。それからwowakaさんとかハチ(米津玄師)さんみたいに、アップテンポで中毒性があるような曲がはやるようになり、さらにそのサウンドを継承してストーリー調に仕立てていくのがはやって。サウンドというより、ボカロ曲自体のトレンドがあると思うんです。
──確かにそうですね。ジャンルの違いにとどまらない流行がある。
さっき言ったような「ボカロならでは」みたいな曲の作り方も、今はかなり減りましたよね。そういうトレンドをしっかり取り入れていくっていうやり方もあると思うんですけど、まあ自分はそこは変えずにやってますね。そこまで器用でもないですし。
──やはり八王子Pさんにとってボーカロイド曲の醍醐味とは、究極的には「人間に歌えない」部分なんですね。
自分はもう、そこだけは今後も変えないつもりです。ただほかの部分は、ちょっとずつ新しいところに挑戦して、常に変化を付けていきたいなと思ってますね。今回のアルバムも、今までのファンの人にとっては“ザ・八王子Pサウンド”みたいな音もあるし、さっき話した「Little Summer of Love feat. GUMI」とか和風テイストの「IZAYOI feat. 巡音ルカ」みたいに、新しい要素もたくさん入れてありますし。自分としては、いろんな人に楽しんでもらえることを意識して作ったつもりです。
──歌詞についてはどうですか? 八王子Pさんの場合、ボーカロイドのキャラクター性を意識して歌詞を作ることはありますか?
ボーカロイドのキャラクターに対するイメージって、本当に十人十色だと思うんですよ。初音ミクはすごくかわいい、ポップな感じのものを歌うって思ってる人もいれば、ちょっと激しいロックを歌うって思ってる人もいるだろうし。そこはユーザーによって人それぞれだから、あんまり気にする必要はないって思ってます。だからキャラクターにはこだわらずにとりあえず歌詞のテーマを考えることにしています。
──新アルバムのジャケットは今回もTNSKさんのイラストですけど、イメージはどういう形で伝えているんですか?
「表情はこういう感じで」ぐらいですかね。表情と、あと王冠を付けてって頼んだくらいです。黒を基調にしたアルバムにしたかったので、にっこり笑っているよりも、ちょっとカッコいい感じの表情を頼みました。基本的に好きに描いてもらいたいんです。絶対いいものを上げてきてくれるのはわかっているので、最低限の指定だけをして、どういうものが上がってくるのか楽しみにしている感じですね。今回PVを作っていただいた、わかむらPさんもそうですね。自分の曲に対する二次創作的なものとして、自分もファンの1人として楽しんでるみたいなところがあります。例えば、きっとみんなそうじゃないかと思うんですけど、「HORIZON feat. 初音ミク」という曲は曲だけを聴いたときとPVを観たときのイメージが全然違うと思うんですよ。初音ミクがOLになってましたからね。完全に予想してなかった。「わかむらPさんは歌詞をこう解釈したんだ」っていう、意外な面白さがありました。
歌詞と楽曲を別々に捉えない
──八王子Pさんの曲は、打ち込みの4つ打ちっぽい曲調で、トランシーで、ポップでキャッチーなメロディーというイメージがありましたけど、プロデュース経験を積んだ今回のアルバムにはジャンルの幅が出ていますね。
今までの八王子Pサウンドと毛色が違う曲というか、挑戦的な曲もちょいちょい混ざっていますね。ちょっとカッコいいエレクトロみたいな曲をずっとやり続けていても、いつかは飽きられちゃうから変化を付けたいという気持ちもありました。いろんな曲が作れるんだよっていうところを見せたかったというのもあるし。あと、この1年で本当にいろんな音楽を聴いて、曲はもちろんですけど歌詞も大事だなって思ったんです。それで制作のやり方も変えていきました。歌詞のよさというより、歌詞とメロディのフィット感っていうか、ピタッとハマるみたいな感覚ですね。J-POPとか聴いてると、そこだけは歌えるような、ハマるフレーズってあるじゃないですか。
──耳になじむというか、耳に残る部分?
そういう部分が大事だと思って。前まではメロディが第一だと思っていたので、とにかくメロディを最初に作って、そこに歌詞を当てはめるようなやり方で作っていたんです。去年のアルバムを出したときはそうやっていたんですけど、去年いろいろプロデュースさせていただいて、しっかりポップスと向き合う機会がありました。その中で、メロディと歌詞のどっちが大事かとか、そういう問題じゃないと思ったんです。それで今作からはメロディ優先じゃなくて、いい歌詞が浮かんだらメロディをそっちに寄せたりして、かなり柔軟に作りました。作詞と作曲とアレンジが頭の中で同時並行で進んでいる感じですね。そこが一番時間がかかるんですけど、それが終わればあとはもう、完成に向かって一気にいける。
──つまりポップスについて考えた結果、優れた歌詞とメロディが分かちがたく融合していることが重要だと思ったわけですか?
歌詞もメロディも、まあアレンジもそうですけど、以前はすべてを別々のものとして捉えてしまっていたんですよね。そこを全部フラットに考えて、とにかく聴いたときにベストな形になるように意識しました。
» 共同作業の面白さ
- ニューアルバム「ViViD WAVE」 / 2013年7月17日発売 / TOY'S FACTORY
- 初回限定盤[CD+DVD] / 3000円 / TFCC-86441
- 初回限定盤[CD+DVD] / 3000円 / TFCC-86441
- 通常盤[CD] / 2300円 / TFCC-86442
CD収録曲
- Monochrome
- GAME OVER feat. 初音ミク
- fake doll feat. 初音ミク
- take it easy feat. 初音ミク
- エレクトリック・マジック feat. 鏡音リン・鏡音レン
- Dream Creator feat. GUMI
- PARTY KiLLER feat. 巡音ルカ
- TRAP×TRAP feat. 初音ミク
- Little Summer of Love feat. GUMI
- IZAYOI feat. IA
- SECRET GiRL feat. 巡音ルカ
- フカヨミ feat. 初音ミク
- HORIZON feat. 初音ミク
- ViViD WAVE feat. 初音ミク
初回限定盤DVD収録内容
- GAME OVER feat. 初音ミク
- Dream Creator feat. GUMI
- fake doll feat. 初音ミク
- HORIZON feat. 初音ミク
八王子P(はちおうじぴー)
ボーカロイドを使用して音源制作をするボカロPとして活躍中の男性アーティスト。クールな4つ打ちトラックにキャッチーなメロディを乗せたダンスチューンを得意とする。2009年12月、ニコニコ動画で公開した「エレクトリック・ラブ」が注目を集め有名ボカロPの仲間入りを果たす。2011年11月に台湾でリリースしたベストアルバム「Sweet Devil feat. 初音ミク」は現地の週間売上チャートで4位に入る健闘ぶりを見せた。2012年2月、アルバム「electric love」でメジャーデビュー。2013年7月17日にはトイズファクトリーからニューアルバム「ViViD WAVE」をリリースする。