ギリシャラブ|故郷への思いから、“形なきものの恐怖”を描き出す

天川悠雅がイメージする太陽、海、薔薇

──天川さんの書く歌詞の中には、ある1つのワードが数多くの楽曲に登場することがあります。例えば楽曲「ブエノスアイレス」「薔薇の洪水」「幽体離脱」「モデラート・カンタービレ」などには“太陽”が出てきますし、過去には「夜の太陽」という曲も発表しています。天川さんにとって“太陽”はどのような象徴として歌詞に使用しているのでしょうか?

僕は神戸の須磨区に一時期暮らしていたんですけど、そこは水族館があって、海からも近い場所なんです。そんな中でも太陽がすごく印象的で、今でもその景色を思い出すことがあって。自分にとって太陽はすごく重要なイメージなのかもしれない。

──収録曲「悪夢へようこそ」の「果物と薔薇の海におぼれて」「甘い海水に浸されて」という歌詞、「竜骨の上で」「イッツ・オンリー・ア・ジョーク」「ペーパームーン」に出てくる舟など、海を連想させるシチュエーションやアイテムも多いですよね。

確かに、言われてみればそうかもしれないですね。フランソワーズ・サガンの小説「悲しみよこんにちは」に出てくる海から連想するイメージをよく歌詞に盛り込むんですけど、どうしても僕は須磨の海を思い浮かべちゃうんです。須磨の海で泳いだことはないんですけど(笑)。

──ほかにも「薔薇の洪水」「悪夢へようこそ」には“薔薇”というワードが出てきたり、「(冬の)路上」の収録曲「ブラスバンド」「ペーパームーン」は薔薇の品種から引用したタイトルとなっています。

須磨の海浜公園という場所に薔薇園があって、そこによく行ってたことが大きいかも。薔薇はとても好きなんですけど、品種がいっぱいあるんですよね。

──同じ色に見えても品種によってちょっとした濃淡の違いがありますよね。

白1色でもものすごい種類があるし。固定化しづらいんですけど、個人的には薔薇=色の多さ、というイメージですかね。頭の中で色があふれかえっているような感じ。「薔薇の洪水」では色の反乱みたいなものを描きたかったんです。

──以前天川さんはブログで、地元のことを「いずれ書くし歌おうとおもっている」と書かれていたことがありました(参照:7/20のライブの前に|天川|note)。今のお話を聞くと、ご自身の住んでいた場所での体験や景色は、歌詞に強く影響を及ぼしているようですね。

普段あんまり意識していなかったんですけど、大好きな京都以上に影響はあるのかも。よく考えたら、今はこうやって楽しく語ることはできるんですけど、神戸のことは決して好きなわけではないんですよね。

──生まれ育ったフラワータウンという町には、どうしてもなじめなかったと以前からお話していましたし(参照:ギリシャラブと2017年3月|ミロクレコーズ|note)。

愛憎入り混じっているというか、複雑なコンプレックスがあるので。逆にすごく好きな土地について歌うことは向いてないのかなと思います。マイナスなイメージのある神戸のことを歌うことで、自己療養している部分があるのかも。

──さらに言えばニュータウンで暮らしていたからこそ、太陽や海のような自然に惹かれるのかもしれない。

やっぱりフラワータウンは不思議な町でしたね。山を切り崩して作った場所だから、すごく人工的な雰囲気の場所で。手塚治虫原作の映画「メトロポリス」に出てくる都市そっくりでした。

──あとは「おれは死体」の“友達を金で売る”というシチュエーションは初期の楽曲 「迷え悟るな」にも出てきました。これは意図的にもう一度使用したんでしょうか?

そこはあえて再度使おうとしたわけではないんですね。感覚的には、ギターとかドラムで手癖になっているフレーズを使う感じ。詩だったらやらないんですけど、歌詞だったら使い慣れたワードを何度か使うことはあります。

ギリシャラブ

人に伝えるため日本語を使う

──天川さんは「歌詞についてよく観客に言及される」と書きつづっていましたが(参照:『イッツ・オンリー・ア・ジョーク』の歌詞について、またはその参照、ならびに引用、について|天川|note)、このことは楽器の音に埋もれず、天川さんの歌声がしっかりとオーディエンスに伝わっている、ということを表していると思います。音のバランスについて、歌を中心にするよう普段から心がけていますか?

ライブのときはボーカルが前に出るようにしていますけど、レコーディングのときはそこまで気を付けていませんでした。意識的に出すというより、どうしても前に出ちゃうんです。

──この点について、天川さんと志磨さんの対談の中にヒントとなりそうな話題がありまして。天川さんはボーカル録りの際、ダブルトラック(重ね録り)をよく使用しているそうですね。そこが1つ、歌声が強調される要因になっているのでは。

むしろ僕の感覚では、ダブルトラックを使うと歌声が引っ込む印象があるんです。例えば喫茶店でもお客さんが1人しかいなくて、その人が声を出したらけっこう意識が向くじゃないですか。それと同じで、トラック1つ分だとぽつんと孤立するんですけど、トラックを重ねて厚くすると、楽器の音と混ざりやすくなるんです。

──もう1つ、志磨さんは天川さんの歌声について、低い声の使い方が特徴的だとお話していました。天川さんのボーカルは基本低め、かつ伸びやかな声で言葉をつなげていくスタイルですね。その点も歌声が強調されるポイントになっているんじゃないかと。

なるほど。だから歌詞が耳に入りやすいのかもしれないです。低い声は普段しゃべっているときの声にも近いし、聞き取りやすくなっているところはあるかも。

──ギリシャラブの歌詞には辞書で調べないとわからないような、難解な言葉があまり使われていません。わかりやすい言葉をリズミカルに乗せていく形が多い印象を受けます。

難しい言葉を使わないことは、ギリシャラブの活動を始めた頃から決めてましたね。そもそも日本語を使うのは、聴く人に歌詞の内容を伝えたいという理由が内包されていたので。絶対に平易な言葉で歌詞を書くよう注意しています。

──天川さんが普段ブログで書かれているテキストでは情景、心情の変化が事細かに描かれています。歌詞とはまた違う文体に思えたのですが、その点の違いは意識していますか?

文章と歌詞は全然違うものとして書いています。歌詞は誰かに作り話をしゃべってる感じに近いかもしれないですね。

「キメラっぽい」ゲストとレコ発

──今回のレコ発は東名阪で行われ、大阪公演では波多野裕文(People In The Box)さん、愛知公演ではTAMTAMとSaToAを競演者に迎えます。

波多野さんのやっているPeople In The Boxは僕が高校生の頃に結成されたんですけど、当時からずっと聴いていました。

──ブログでは競演できる喜びを明かしてましたね。

やっぱりうれしかったですね。楽しみにしてます。 TAMTAMはリリースツアーの対バンに呼んでくれたり、以前から関わりはあったんですけど、SaToAは今回初めて会います。よく曲を聴いていたのでお誘いしました。2組とも僕らとは活動拠点もサウンドも異なるんですけど、どこか似たような雰囲気があるんです。それを「キメラっぽい」と僕は言っているんですけど、そんな人たちを呼んでみました。

──そして東京公演は、バンドにとって初のワンマンになります。

今がんばって仕込んでいるんですが、焦ってます(笑)。まだ具体的な内容は考えてないけど、「悪夢へようこそ!」だけじゃなく「(冬の)路上」「イッツ・オンリー・ア・ジョーク」「商品」の曲もやりたいなって感じです。

公演情報

ギリシャラブ「悪夢へようこそ!」発売記念ツアー

大阪編
  • 2019年4月20日(土)大阪府 LIVE HOUSE Pangea
    <出演者> ギリシャラブ / 波多野裕文(People In The Box)
名古屋編
  • 2019年4月27日(土)愛知県 CLUB ROCK'N'ROLL
    <出演者> ギリシャラブ / TAMTAM / SaToA
東京編
  • 2019年5月11日(土)東京都 新宿red cloth
    ※ワンマンライブ