後藤輝基の実姉も参加したカバーアルバム第2弾「ホイップ」プロデューサー藤井隆が吉田豪と解説 (2/2)

絶対に歌ってもらおうと思った曲

スローなDanceは踊れない(オリジナルアーティスト:アイリーン・フォーリーン[1985年])

後藤 「マカロワ」は女性を主人公にした曲ばかりだったので、男性の曲を歌うのが逆に照れ臭くなってしまったところがありました。レコーディングでは藤井さんがいろいろ説明してくれるんですけど、ものすごく藤井節なんですよ。例えば「後藤くん、今回アルバムとしては2枚目やねんけど、7枚目やねん」って。わからないでしょ?(笑) たぶんですけど、まるで2~6枚目を出したあとのように、次の次のさらに次のことをやりたいという意味なんでしょうね。ほかにも「この人は肩をすぼめて寒そうに襟を立ててんねん。でも夏服やねん」とか(笑)。実は全然わかってないですけど、「わかりました!」って言ってレコーディングしてました。

藤井 これは仙道敦子さんの主演ドラマ「'85年型家族あわせ」の主題歌なんです。この曲がすっごく好きで。渋谷公園通りのディズニーストアの向かいで撮影されたシーンがドラマにあって、そこを通るたびにいつも思い出すんですよ。あの都会的な感じ、後藤くんは照れ臭いかもしれないけど、この歌の主人公になってくれるのがホント楽しみだったんです。絶対に歌ってもらおうと思って、最初に選曲しました。僕の中でもすごく思い入れがある曲なので。僕も仮歌を歌ったけど、断然後藤くんのほうがよかったから、やっぱりすごいと思いました。思っていた通り素敵な後藤くんが録れたので、もう大満足です!

──藤井さんのプロデュースはホント独特ですよね。

藤井 こうやって人から聞くと僕も何言ってんやろって思いますけど、レコーディングのときは真剣に言ってるんですよ。「走り出す電車のドアに はさまれた僕のハート」という歌詞があるんですけど、「走り出す電車のドアにはさまれた」は状況説明で、一番言いたい部分は「僕のハート」ですよね。「僕のハート」だけ言ってもしょうがないから、挟まれてほしいし、挟まれた気持ちになってからじゃないと「ハート」って言えないんじゃない?って。歌詞は自分がはっきりイメージを持って歌わないと、聴いてくださった方がその映像を頭の中で再生できないから、下手でもいいから一生懸命考えなさいって、僕自身は言われてきたんです。後藤くんはスキルが高いから、僕がこういうリクエストを出すことによって、よさがなくなる可能性だってある。だからそのへんはせめぎ合いというか。徹底的に言うときは言うけど、漠然とした形で渡して「わからんなあ」と言いながらやったものがOKになることもたくさんあって。それは後藤くんとレコーディングしていて楽しいことの1つです。

藤井隆

藤井隆

後藤が出てる出てる!

想い出にかわるまで(オリジナルアーティスト:スターダスト☆レビュー[1985年])

後藤 すごく大好きな曲で、オリジナルもよく聴いていたんですけど、今回アレンジがすごくいいですよね。僕はもともとムード歌謡好きな要素が強くて、自分が歌っていて気持ちいいところは声を張ってしまうので、レコーディング中は「(後藤が)出てる出てる!」とよく注意されました(笑)。

この曲を作詞作曲した三谷泰弘さんがスタジオに来てくださる日があったんですけど、その日がちょうど「想い出にかわるまで」がシングルリリースされた日と同じ日だったんですよ! なので三谷さんが来たときに「すごくないですか!?」と興奮気味に話したら「そうですか」って(笑)。そんなことでは微動だにしないクールな方でした。そんな中、いざ曲が流れ出すと目を閉じて体でリズムを取っていて、ミュージシャンらしい姿に「わー、カッコいい!」と思いましたよ。歌もアレンジもすごくいいと褒めてくれました。

藤井 この曲は、作曲者の三谷さんがピアノを弾いてくださったり、コーラスを入れてくださったり、お力を貸してくれたんです。初めはあまり頼みすぎたらあかんなと思って押さえていたんですけど、わざわざレコーディングスタジオまでアレンジの確認に来てくださったので、その場で「ここでちょっと弾いていただくことって可能でしょうか……」とか「コーラスをお願いできませんか……」とか、全部後出しで頼んでしまいました。

──そういうことだったんですか。

藤井 はい。断られて当たり前だと思いつつ後悔したくなかったので、三谷さんの声や演奏する音をいただきたいと思い切ってお願いしました。そうすれば三谷さんやスターダスト☆レビューのファンの皆さんにも興味を持っていただけるんじゃないかなと思って。

──スタレビは全然追えてなかったんですけど、根本要さんが「目標にしてたのははっぴいえんどやシュガーベイブ、ムーンライダーズにミカバンド」「自分たちのことを『志の低いムーンライダーズ』とよく例える」と言ってる記事を発見して驚きました。

藤井 「志の低いムーンライダーズ」って、そんなことはないでしょうけど(笑)。三谷さんが抜けられたあと、バンドには「誰かが抜けたらもう解散ね」という約束があったそうなんですけど、今もライブを続けていらっしゃるし、素敵だなと思って。この曲も気に入っています。

どう歌ってええかわからんかったランキング上位

はじまりの予感 -あなたを見てるから-(オリジナルアーティスト:安藤秀樹[1992年])

後藤 この曲は歌うのが特に恥ずかしかった。どう歌ってええかわからんかったランキング上位ですね。「僕を信じて」とか「君を抱きしめていたい」とか、なかなか言わないじゃないですか(笑)。そういうタイプの曲をあまり聴かないし、すごく迷ったというか、何回もやり直させてもらった覚えがあります。

藤井 逆に僕は、この曲を後藤くんがステージで歌っているところがクッキリハッキリ見えてますね。どんなに本人が照れくさかろうが、この曲は絶対に歌ってもらおうと思っていました。「僕を信じて」とか「君を信じて」とか、応援してくださる方の前で歌ってほしいし、僕もファンの1人として歌ってほしいと思う曲。「僕を信じて」なんて言ったことがないって言うけど、テレビの仕事で後藤くんがおったら、絶対に面白くしてくれますから。例え自分が面白いこと1つ言えなくても、(明石家)さんま師匠、ダウンタウンさん、今田(耕司)さん、東野(幸治)さんみたいに、なんとかしてくださる人の1人なんで。

──安藤さんの曲って、サブスクにないんですね。

藤井 そうなんや!

──知らない人に向けて説明すると、安藤さんは吉川晃司さんの「RAIN-DANCEがきこえる」や「にくまれそうなNEWフェイス」の作詞をした方です。

藤井 うわ、そうなんや!

藤井隆

藤井隆

「んらっきーらめない」

逃げたりしない(オリジナルアーティスト:To Be Continued[1994年])

後藤 この曲も恋愛的な歌詞ですけど違和感なく突っ走れるというか、アップテンポやからその勢いでバーンと歌い切れるんですよね。力が入りすぎて「あきらめない」のところを「あっきらめない!」って歌ってますから。音源にならなかったテイクはもっと強く歌っているのがほとんど。ライブでは2番あたりから息が切れて歌われへんと思います(笑)。

藤井 この曲はステージで絶対に盛り上がることを期待して選んだ曲です。でも“後藤”がすごく出てたから(笑)。「あきらめない」じゃなくて「んらっきーらめない」って歌ってたのが面白かったです。

──あんまり後藤が出ると注意はするんですね。

藤井 僕もですけど、周りのエンジニアの方も「ちょっと出すぎてます」って止めてくださるんで(笑)。これもドラマの主題歌だったんですよ。

──TBSドラマ「E.T!」の主題歌ですね。

藤井 歌の表現がカッコよくて、すっごい耳に残る曲ですよね。てるきんは照れ臭いだろうけど、歌ってほしかったんです。それに、⻫藤伸也(ONIGAWARA)さんのアレンジが僕好みで、本当によかったなと思う1曲です。

なんで僕に英語詞の曲を歌わせたかったのか

REALITY(オリジナルアーティスト:リチャード・サンダーソン[1980年])

後藤 なんで僕に英語詞の曲を歌わせたかったのか、まったくわからないです(笑)。英語とか歌われへんって言ったんですけど、藤井さんは「そういう後藤くんが観たいねん」「カタカナ英語でええから」と。実際にレコーディング現場に行ったら、意味がまったくわからないカタカナがブワーッと並んだ歌詞カードが用意されていました(笑)。藤井さんがオリジナルの歌を聞き取ってカタカナにしてくれたみたいなんですけど、歌っているうちに逆にカタカナのほうが歌いにくいんじゃないかってことになってきまして(笑)。多少英語も見ながら歌いましたね。

──なんで「ラ・ブーム」(1980年制作のソフィー・マルソー主演映画)の主題歌を選んだんですか?

藤井 僕、YOUさんのことをソフィー・マルソーやと思ってるんです。SLENDERIE RECORDの作品にもいつも携わっていただいてるので、そのYOUさん要素をちょっと入れたいという思いがあって。あと、後藤くんが切々と歌うとグッとくるものができあがるんじゃないかっていう確信もありました。

──調べたら日本でカバーしてる人はDEENくらいでした。

藤井 先にカバーしてた人、いはるんですね。DEENさんも似合いそう。でも後藤くんみたいに、歌わなくてもいい職業の人が歌うとき、やっぱりどこか“やらされてる”っていう演出があったほうが楽な部分があると思うんです。「英語の歌を歌わされて大変でしたわ!」とか、「姉ちゃんと歌わされて嫌でしたわ!」みたいな感じがあっていいのかなと。後藤くんの「REALITY」はすごく愛らしくて、いいものが録れたと思ってます。

藤井隆

藤井隆

同じ歌でも歌い方がまったく変わる

てぃーんずぶるーす(オリジナルアーティスト:原田真二[1977年])

後藤 僕がカラオケで歌った原田真二さんの「キャンディ」を聞いてカバーアルバムを出したいと思ったと藤井さんがいろんなインタビューで話していましたけど、そっちは全然選曲されないですね(笑)。原田さんの歌が好きでこの曲もよく聴いていましたが、今回の急に曲調がズバッと変わるアレンジがすごくいいなと思いました。素人ながらに「歌うときは声を張るもんや」と思っていたんですけど、この曲では張らんほうがええんやと気付かされました。藤井さんからは「ささやくように歌って」「後藤くんのその声がええねんから」と言われて、「そんなはずないでしょ」って思ってましたけど、実際にレコーディングした音源を聴いたら「確かにこっちのほうがええわ」と思いました。

藤井 松本隆先生の歌詞は1曲は歌ってほしいっていう気持ちがあって。それで選びました。

──素晴らしかったです。

藤井 よかったです。CDや配信で音源を聴いていただくのも大事ですから徹底的にやりました。でもとにかくステージで聴いてほしいですね。てるきんのステージでは同じ歌でも歌い方がまったく変わるんですよ。ツアー何周回ってきたんですか?っていうぐらい。

初の全国ツアーに向けて

後藤 藤井さんの「Music Restaurant Royal Host Release Tour 2022」に何カ所か一緒に付いて回らせてもらったので、あの感じで楽しくできたらええなと思います。前回はオケだったんですけど、今回は全カ所バンドが付きますから。どこかで姉ちゃんも出てくるかもしれないですね。いったいどうなるんでしょう? 現代の岡本真夜が顔を出すのかというところも含めてライブを楽しみにしていただけたら。

藤井 前回のツアーで一緒に回ったときはオケ出しだったんですけど、今回はバンドの皆さんが「後藤さんならぜひ」と言って集まってくれるんです。ホントに後藤くんのおかげです。スタッフの方から「じゃあ、藤井さんも歌ってね」と言われたので、もちろん歌うんですけど……自分はいらないんじゃないかとか、自分より後藤くんに1曲でも多く歌ってもらったほうがよくない?とか、ずっと後藤くんのことばかり考えてますね。どんなライブになるかはまだ決めかねてますが、なんとか会場で一緒に盛り上がっていただけたらこんなにうれしいことはないです。それと、SLENDERIE RECORDの10周年ライブにはサプライズがあって……(以下略)。

──おおっ! すげえ!!

藤井 最高です。ホントうれしくて、夢のようです。

──それは楽しみですね。

藤井 だから、もしよかったら来てください!

左から吉田豪、藤井隆。

左から吉田豪、藤井隆。

ライブ情報

後藤輝基「ホイップ」インストアイベント

  • 2024年5月18日(土)東京都 タワーレコード渋谷店B1F CUTUP STUDIO
  • 2024年5月26日(日)大阪府 タワーレコード梅田NU茶屋町店

後藤輝基“ホイップ”ツアー2024 plus 藤井隆!

  • 2024年6月9日(日)愛知県 中日ホール
  • 2024年6月15日(土)宮城県 チームスマイル・仙台PIT
  • 2024年6月21日(金)福岡県 UNITEDLAB
  • 2024年7月5日(金)大阪府 なんばHatch
  • 2024年7月26日(金)東京都 ヒューリックホール東京

<出演者>
後藤輝基(フットボールアワー) / 藤井隆
バンド:冨田謙(Key) / 奥田健介(G / NONA REEVES、ZEUS) / 小松シゲル(Dr / NONA REEVES) / 南條レオ(B)


SLENDERIE RECORD 10th ANNIVERSARY MUSIC AWARD 2024

2024年7月27日(土)東京都 ヒューリックホール東京
<出演者>
藤井隆 / 早見優 / 椿鬼奴 / レイザーラモンRG / 後藤輝基(フットボールアワー)/ 川島明(麒麟) / tofubeats / and more
バンド:冨田謙(Key) / 奥田健介(G / NONA REEVES、ZEUS) / 小松シゲル(Dr / NONA REEVES) / 南條レオ(B)

プロフィール

後藤輝基(ゴトウテルモト)

吉本興業所属のお笑いコンビ・フットボールアワーのツッコミ。2003年に「M-1グランプリ」で優勝し、知名度が一躍全国区に。長渕剛とBLANKEY JET CITYのファンとして知られ、テレビ東京「ゴッドタン」の人気企画「芸人マジ歌選手権」で自身が作詞作曲した楽曲「ジェットエクスタシー(ジェッタシー)」を披露してから、その音楽センスが大きな話題となる。2020年10月にリリースされた藤井隆監修のオムニバスアルバム「SLENDERIE ideal」にボーカリストとして参加。2022年5月に藤井プロデュースによるカバーアルバム「マカロワ」をリリースした。2024年5月にカバーアルバム第2弾「ホイップ」を発表。

藤井隆(フジイタカシ)

1972年3月10日生まれ。1992年に吉本新喜劇オーディションを経て、吉本興業に所属。2000年にはシングル「ナンダカンダ」で歌手デビューし、同年「NHK紅白歌合戦」に初出場した。シングルのほか、2002年発売のアルバム「ロミオ道行」、2004年発売のアルバム「オール バイ マイセルフ」などで高い評価を得ながらも、2007年8月発売のシングル「真夏の夜の夢」以降はアーティストとしての活動を休止。2013年6月にシングル「She is my new town / I just want to hold you」で6年ぶりにアーティスト活動を再開し、2015年6月に約11年ぶりとなるオリジナルアルバム「Coffee Bar Cowboy」を主宰レーベル・SLENDERIE RECORDから発表した。2020年10月に藤井自身が全面プロデュースを手がけたオムニバスアルバム「SLENDERIE ideal」をリリース。2022年9月に5年ぶりのオリジナルアルバム「Music Restaurant Royal Host」を発売した。2023年11月には、1stアルバム「ロミオ道行」リリースライブのために松本隆、本間昭光が書き下ろした楽曲「負けるなハイジ」が配信された。