“おゴージャス”なピアニスト、五条院凌とは?憧れの加藤登紀子との対談、コンサートにまつわるソロインタビューでその魅力に迫る (4/4)

わたくしが奏でた音と、皆様の愛が循環しています

──五条院さんの公式ファンクラブ「五条会」内で公開されているブログのうち、「『練習』と『恋愛』」というタイトルの投稿ではピアノの練習を恋愛に例えつつ、自身の音楽を聴いてくれる相手を意識するようになったことで、ピアノを演奏する楽しみを見つけることができたとつづられていました。

あのブログもご覧になっていたのですね。

──今までは黙々と練習し、結果を出すことを目標にしていたためつらく感じ、楽しみを見つけるのが難しかった。しかし五条院凌として活動を始めたことによって、誰に向けて演奏するのか、どんな反応が返ってくるのかわかるようになり、そこから五条院さんの中で大きな変化が生じたようで。

わたくしが音楽を奏でることで、皆様が一喜一憂してくださるのは本当にありがたくて。これまでは一方通行だったけど、今は循環している。わたくしが奏でた音を、皆様が愛でお返ししてくださるのです。音楽を通して何かを感じてくださる、皆様の美しい心を守っていきたい。その気持ちが芽生えてからは「練習」というよりは、「おステージで皆様とお会いするためのお化粧のお時間」に変化していき、人生の喜びになっています。皆様のおラブのおかげですね。

──ブログやライブのMCからも、ファンやおギャルの皆様への強い愛を感じたので、今のお話を聞いて納得しました。

練習と恋愛は似ていますし、さらに言えば音楽そのものが恋愛、みたいなところはありますね。話題に挙げていただいたブログは、わたくし自身も普段どんなことを大事にしているのか、うまくしたためることができた気がします。会員限定ですけど、この投稿はいつか一般公開してもいいかもしれませんね。

五条院凌

五条院凌

五条院凌の感情と観客のおバイブスでできた音

──五条院さんのライブではグランドピアノとキーボードがセットされ、一部楽曲では打ち込みも使用されていますが、基本的にはピアノのみで演奏を行っています。五条院さんは演奏の際、どういった点を意識されていますか?

ピアノを奏でるときは常に歌心を大切にしていますね。例えば歌は声を出したら次の音に移るまで伸び続けますし、弦楽器もビブラートを自分の手でかけることができるため、減衰しない音を出すことができます。一方ピアノは空間に吸い込まれていくように音が鳴るので、自分の意思で音を伸ばすことができない楽器で。もちろんペダルである程度調節できますが、それにも限界があるし、コントロールできる要素が少ないんです。

──なるほど。

だからこそ、ピアノ奏者は音に対する思いをどんな楽器奏者よりもさらに強く持たなくてはならないと思っていて。打鍵したときのスピード感や音と音の間に発生するコンマ数秒の空白など。そしてその中で歌心の大切さに気付き、どのように音に命を宿らせることができるのかを考え続けてきました。

──歌は声色だけでなく歌詞でも楽曲の世界を描くことができますが、ピアノはどちらの要素もないため、どれだけ音のニュアンスを表現できるかが重要になりますよね。五条院さんの演奏は感情の機敏な変化が伝わってくるようで、とても惹き込まれました。歌謡曲のカバーアルバム「お愛集」も歌詞や歌声がないからこそ、ピアノの音色だけでどうやって各楽曲の世界観を表現するのか、真摯に突き詰めた作品でした。それこそがピアノの面白さであり、五条院さんの演奏の魅力につながっているようで。

ピアノの魅力を伝えることは、わたくしにとって特に重要な使命なので、ライブも音源も楽しんでいただけてうれしいです。お一人でも楽しませることができたら、わたくしが音楽を奏でることの意味につながりますからね。

──「お愛集」では愛をテーマにした昭和歌謡がセレクトされていますが、どの楽曲も不安やあきらめ、悲しみなど、ひと言では説明できない複雑な感情が表現されています。レコーディングはかなり難しかったと思うのですが、ライブで演奏するときはさらに難易度が上がりそうですよね。

そうですね。わたくしの音はそのとき生まれた感情で構成されていますから、二度と同じ演奏はできないんです。ライブではそのときのわたくしの中から生まれた感情だけでなく、たくさんの人々が会場に集まることで生まれるおバイブスもあって。わたくしはステージ上でそのおバイブスを感じながら演奏するので、やっぱりレコーディングとはまったく異なる音になるんですよね。そこがわたくしのライブの見どころ、面白さかもしれません。

──五条院さんだけでなく、来場者と一緒に作り上げていくと。

ピアノの型、ホールの特徴、環境音、そして皆様の息遣い、おバイブスは各公演違いますからね。それを味わう楽しさもあります。

五条院凌
五条院凌

皆様の前に現れたときからパフォーマンスは始まっている

──五条院さんのパフォーマンスは演奏に加え、ポージングも特徴的です。例えば1曲終えるたび、手を広げて体を反らすポーズを決めています。それからMCも持ち場を離れ、ステージ上を移動し、話し始めるまでの間にもすごく意識を向けているようでした。

わたくしが皆様の前に現れたときから、パフォーマンスは始まっていますからね。音を奏でていないときの余韻も含め、皆様にはわたくしの世界観に没頭してほしいんです。それからポージングは、奏でた音色が羽ばたいて向かう先を追っていくと、自然とあの形になっておりました。

──ある動画では練習中の様子を録画し、あとでポーズを確認するとお話していましたね。

ポーズというよりは、弾いているときの姿勢を大切にしたかったのです。お耳だけじゃなく、視覚でもわたくしの音世界を感じてほしかったので。それと同じように、ステージでの立ち振る舞いにもこだわっています。

──ちなみにポージングの参考にしている人物や作品はありますか?

やっぱりバレエからの影響は大きいですね。特に「白鳥の湖」に登場する黒鳥、オディールという悪魔の娘が好きで。「自分がこの世で一番美しい」と自覚していて、それを見せつけるように踊ることで表現する人物なんです。オディールのキャラクターは五条院を構成するうえで、1つのモチーフになっています。あとは「ドン・キホーテ」のキトリという町娘も好きです。扇子やカスタネットを使って踊り、情熱的であることを表現している女性で、お二人とも、わたくしにとって守り神のような存在です。

生まれた地で、前を向いて歩くわたくしを刻み込む

──活動を開始してから複数のツアーを行われてきましたが、最近ではホール会場を用いるようになり、規模がどんどんと大きくなっています。ライブの回数を重ね、五条院さんの中でパフォーマンスの変化や成長を感じた部分はありますか?

基本的にツアーはどの会場も同じセットリストで演奏するのですが、その日ごとの感情や、それぞれの会場でしか味わえない空気感はより大切にできるようになりました。それから最近では、各公演ごとにテーマを決めるようにしています。

──以前ブログでも、ツアーの各会場でどのようなテーマを掲げていたか説明していましたね。

毎回違うテーマを設けることで「こういう自分もいたんだな」という気付きがあるんです。ツアーでさまざまな場所を巡るうち、公演ごとのテーマに意識を向けることが増えてきて、徐々に五条院凌という人間を自分で理解しつつあります。あとはステージ上で精神をコントロールする方法も変わってきました。ライブを重ねることで、ネガティブなおバイブスを飼い慣らすことができるようになったんです。自分の感情をそのまま音に落とし込むだけでは、どうしても伝わらないものがありますよね。例えば怒りの感情を音にするとき、あまりにもそのままだと雑音になってしまうし。

──極端な例だと、めちゃくちゃな演奏で怒りを表現することもできますが、それだとアバンギャルドになりすぎたり。

ただの雑音は皆様に届けたくないので、怒りであっても、音の隅々まで大切に扱う意識は忘れてはいけないですし、その思いは日々強くなっています。感情と音の美しさ、2つのバランスをどのように取っていくのかは今後の課題でもあります。

──これから年末に向けてツアーやクリスマスライブが行われますが、年明けには五条院さんの地元である青森でのライブも決まりました。凱旋公演はこれまでとはまた違った心持ちになりそうですね。

逃げるように上京したので、地元には暗い思い出もありますが、その過去がなければ五条院は存在しなかったわけです。この「肉体」が生まれた地で現在のわたくしの音楽世界を表現することによって、その過去を光に昇華させることができたらいいですね。そこから新しい音楽人生の幕が開く予感がしています。身が引き締まる……いや、気が引き締まる思いです(笑)。

──最後の最後で(笑)。

お魚みたいになってしまいましたね(笑)。しっかり前を向いて歩いている五条院凌を、青森という土地に刻み込みたいです。

五条院凌

五条院凌ライブ情報

五条院凌 So Fabulous Winter Concert 2023

  • 2023年11月3日(金・祝)熊本県 熊本城ホール シビックホール
  • 2023年11月23日(木・祝)兵庫県 たつの市総合文化会館赤とんぼ文化ホール 大ホール
  • 2023年12月1日(金)大阪府 サンケイホールブリーゼ

五条院凌 So Fabulous Concert 2023 ~O Merry O Christmas~

2023年12月24日(日)千葉県 成田国際文化会館 大ホール


五条院凌 ~弘前市凱旋初コンサート~ So Fabulous Concert 2024「生」

2024年1月28日(日)青森県 弘前市民会館 大ホール


五条院凌 So Fabulous Concert 2024

  • 2024年2月10日(土)東京都 武蔵村山市民会館(さくらホール)
  • 2024年3月30日(土)神奈川県 クアーズテック秦野カルチャーホール(秦野市文化会館)

加藤登紀子ライブ情報

加藤登紀子ほろ酔いコンサート2023

  • 2023年11月12日(日)大阪府 新歌舞伎座
  • 2023年11月22日(水)福岡県 キャナルシティ劇場
  • 2023年12月1日(金)沖縄県 ミュージックタウン音市場
  • 2023年12月9日(土)京都府 祇園甲部歌舞練場
  • 2023年12月14日(木)神奈川県 横浜関内ホール
  • 2023年12月22日(金)埼玉県 大宮ソニックシティ 大ホール
  • 2023年12月23日(土)愛知県 御園座
  • 2023年12月26日(火)東京都 ヒューリックホール東京
  • 2023年12月27日(水)東京都 ヒューリックホール東京

プロフィール

五条院凌(ゴジョウインリョウ)

2021年4月からTikTokで活動を開始したピアニスト。Ado「うっせぇわ」のピアノカバー動画が大きな反響を呼び、これまで「5時に夢中!」「TEPPEN」「スッキリ」「踊る!さんま御殿‼︎」など数々のテレビ番組に出演。卓越した演奏力だけでなく、ゴージャスなビジュアル、さまざまな言葉の頭に「お」を付ける口調でも人気を集めている。2022年4月に1stミニアルバム「Gojolous」、同年12月に1stフルアルバム「Fabulous」を発表。2023年10月には“愛”をテーマした昭和歌謡曲をカバーしたアルバム「お愛集」をリリースした。

加藤登紀子(カトウトキコ)

1943年ハルビン生まれのシンガーソングライター。東京大学在学中の1965年に「第2回日本アマチュアシャンソンコンクール」で優勝し、翌1966年にデビューシングル「誰も誰も知らない」を発表した。「赤い風船」「ひとり寝の子守唄」「知床旅情」など数々のヒット曲を手がけ、これまでに80枚以上のアルバムを発表。国内だけでなく海外でコンサートを行うほか、地球環境問題にも積極的に取り組んでいる。

2023年11月3日更新