けっこう“ラボ”してた「クロスロオオオード」
──3曲目の「クロスロオオオード」は、“ロバート・ジョンソンは悪魔に魂を売って、天才的なギタープレイを手に入れた”という伝説をモチーフにした楽曲です。
牧 悪魔と契約するという伝説ですが、僕は天邪鬼なので、逆のことを歌いたいなと。
──「悪魔の声には耳貸さないぜ。」と歌ってますからね(笑)。
牧 そうですね(笑)。クロスロード伝説って、あの時代だからこそまかり通った話だと思ってて。今の時代は、誰かを利用したり、取引したり、搾取したりしてるとそれがいつかは明るみに出て、「悪いものだ」と暴かれる。そういう時代の流れをメッセージとして届けたいという思いもありました。
プリティ 「クロスロオオオード」はIRORIに移籍して最初に作った曲なんですよ。もちろんずっと気合いを入れてやってるんだけど、この曲のレコーディングのときはだいぶ元気でした。「Liar! You are a liar!」という歌詞もいいですね。Sex Pistolsの「Liar」が好きなのでテンション上がりました(笑)。
柳沢 移籍して1曲目に作った曲なんだけど、けっこう“ラボ”してたなと思います。この曲、半分くらいスライドギターを弾いてるんですよ。最初はスポット的に「ここで入れよう」という感じだったんですけど、「こっちも入れてみようかな」とどんどん増えて。あとは「Liar!」のところで「コーラスを入れたいです」と自分で提案したり、やっぱり元気だったというか、前のめりだったのかも。青いエネルギーみたいなものが感じられる曲かもしれないです。
セイヤ 俺もめっちゃ好きな曲です。この歌詞、IRORIに対して歌ってるわけじゃないよね?って思いましたけど。
牧 ハハハハ。
セイヤ 移籍して最初がこの曲か!とめっちゃ面白かったです。あと、ドラムテックの和田元気くんと一緒にやれて。元気くんが叩いたカウベルも入ってるし、楽しさが詰まってますね。
The Verveのようなストリングス
──「Leyline」は弦楽器をフィーチャーしたミディアムバラードです。
牧 「Leyline」はアルバム制作の最初のほうに作った曲ですね。歌詞もできてたんですけど、最後に「ジュブナイル忘れないリアリスト お先真っ暗に泣くロマンティスト」というフレーズを入れたくなったんですよ。“光と闇”といった二元性をテーマにしている曲なので、「リアリストの逆はジュブナイルかな」とか「ロマンティストにもネガティブな一面があるよな」ということを考えて。人間はどこかに偏っている存在じゃないということも歌いたかったんですよね。ストリングスについては、わかりやすくThe Verveみたいなことをやりたくて。IRORIのレーベルヘッドの守谷和真さんからも「せっかくイギリスに行くんだし、この曲にストリングスを入れるのは最高じゃない?」と言ってもらいました。
──The Verveの「Bitter Sweet Symphony」のようにシンフォニックな弦を入れようと?
牧 そうですね。まず僕がストリングスのパターンをいくつか作って、イギリスに行ってから微調整して。
柳沢 ストリングスの録り方も面白かったんですよ。演奏者が1本のマイクをぐるっと囲むようにしてワンテイクずつ録って。そんなやり方は初めて見ましたけど、音に包み込まれるような感じと素朴さがあって、すごくいいなと。またイギリスに行く機会があったら、エンジニアの方にどういう意図でやっていたのか聞きたいです。
セイヤ 天使が降りてくるような音ですよね。アレンジのリーダーみたいな人がいて、「ここのフレーズはもっと感情を入れて」と指揮をしていて。できあがったものを聴くと、ボリュームだけではなくて、弾いてる人の気持ちで感情の波を作ってる感じがしたんですよ。曲を聴いてここまで解釈できるんだなと。
プリティ ベースに関しては、アルバムの曲の中でもフレーズの要素が少なくて。以前だったらもっと細かく動いていたかもしれないけど、この曲はそうじゃなくて、ドラムとしっかり合わせてメロディを引き立てるほうがいいなと。すごくきれいな音で録れたし、満足してますね。
実家はフォーク
──「Super Star Child」もアルバムの軸になる楽曲だと思います。
牧 最初はイギリスに行ったときの感覚やそこから受けた影響を生かしながら曲を作っていて、歌詞もわりと大きいテーマが多かったんですが、だんだん寂しくなっちゃって(笑)。もっと寄り添える曲というか、そのときに感じていたことを素直に書いたのが「Super Star Child」です。サビで「勘がいい その分ね 砕けてしまう夜を送るあなたにあげる歌だよ」と歌ってるんですけど、頭がいい人や、感受性が高い人ほど弱い立場にいるし、“正直者が馬鹿を見る”的なことが多いなという気がして。そんな人たちに寄り添いたいなと思いながら作っていたら、フォークのサウンドが頭に浮かんできて、「やっぱりこの音が落ち着くな」という気持ちになりました。
──フォークは牧さんのルーツの1つですよね。
牧 そう、僕にとってはそこが家みたいな感じなんで。イギリスという物理的に距離が遠い場所に行ったことで、余計に「実家っていいな」と思ったのかも。この曲を書いたときもそうだし、アルバム全体に関しても、最後は「戻ってきた」という感じがしました。
──ただ、「Super Star Child」のサウンドはフォークではなくて、アッパーなロックチューンですよね。
牧 もともとはもっとテンポが遅かったんです。けっこうバラードっぽく作ってたんだけど、そっちは「Leyline」に任せて、「Super Star Child」は超アップテンポにしてみようと。
柳沢 こういうアレンジになるとは思ってなかったから、びっくりしました。最初はそれこそ「フォークやりてえ」という感じでデモ音源がポンと送られてきたんですよ。それがアップテンポのロックナンバーになるとは、まさに“ラボ”だなと。この速さになることで、歌詞の内容もよりフォーク的に感じるようになりました。メロディラインや歌い方はデモのときと一緒なので。
プリティ すごい歌詞だなと思いますね。「HIBITANTAN」の歌詞もゾーンに入ってる感じがしたけど、「Super Star Child」は何かが降りているというか、さらに覚醒していて。どの曲の歌詞が好きかはその日のテンションによって変わるんですけど、今はこれが一番好きですね。
セイヤ 俺もこの曲が一番好きかもしれない。バニラズの曲の中でもトップクラスですね。泣けるんですよ、なんでかわからないけど。
牧 ドラム、すごくシンプルだよね。アレンジしている段階では途中でビートを変えたりしてたんだけど、「やっぱり直球の8ビートでいこう」ということになって。
セイヤ 自分の中のテーマとして、ちょっと不器用な男をイメージしてました。言葉にするのが下手なんだけど、心の中では感じていることや考えているものがある……という。「寝ぼけて朝日見逃す」のところのメロディも最高。「ウホー!」ってなります(笑)。
──抒情性があるメロディですよね。
牧 やっぱり日本人だなと思いました。もっとカッコつけてアルバムを作ることもできたんだろうけど、やっぱり人肌というか、体温を感じられるものになって。おそらく自分自身、そういうアルバムを作りたかったんでしょうね。
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ロックバンドは綱渡り