GLAY「HC 2023 episode 1 -THE GHOST/限界突破-」特集|TERUソロインタビュー

思えばGLAYはその活動において常に“限界突破”を繰り返してきた。

20万人を動員した1999年開催のライブ「GLAY EXPO '99 SURVIVAL」、自らのレーベル「LSG」の設立、メジャーアーティストとしては早い段階での音楽配信サービスへの参加や公式サブスクリプションアプリ「GLAYアプリ」のローンチ……音楽シーンに根付いていた固定観念や定石を崩し、後進たちに向けて新たな道を指し示してきた。

常に進化を続けるその姿勢は、彼らが発表する音楽にも色濃く反映されている。2月15日にリリースされたGLAYにとって61枚目のシングル「HC 2023 episode 1 -THE GHOST/限界突破-」は、表題曲2曲ともにバンドの新たな挑戦が込められている。「THE GHOST」は、JIRO(B)が得意のロックサウンドを封印し、近年追求してきたR&Bのアプローチを取り入れた楽曲で、TERU(Vo)の抑制を効かせたボーカルが印象的なミディアムチューン。一方、直球すぎるタイトルの「限界突破」は、TERUらしい言葉選びが光る歌詞と、どこかダークな雰囲気が特徴の勢いのあるロックナンバーだ。

30年近くに及ぶキャリアを持つバンドがなぜ今、“限界突破”を高らかに歌い、新たなアプローチのサウンドに挑むのか? 音楽ナタリーではTERUにインタビューし、シングルの制作背景や自身の歌との向き合い方について聞いた。

取材・文 / 中野明子撮影 / Shin Ishikawa(Sketch)

カービングの神様×ブラクロの世界×GLAYの関係性

──新曲タイトルが「限界突破」であることが発表された瞬間、「TERUさんらしい」という声がSNSを中心に上がってましたね。

はい(笑)。歌詞もポジティブですしね。

──この曲はスノーボード界で“カービングの神様”と呼ばれてるラマさんとの出会いをきっかけに生まれたとコメントでつづられていました(参照:GLAY、61枚目のシングル「-THE GHOST/限界突破-」発売決定)。そのラマさんのことはどうやって知ったんですか?

僕は長年スノーボードをやってるんですが、コロナ禍でゲレンデに行けなかった時期に滑れないストレスを発散するために、InstagramとかYouTubeでスノーボードの動画をいっぱい観てたんです。そこでラマ先生のカービング映像に出会って、「この人と滑りたいなあ」と思ってDMで「来年あたり一緒に滑りませんか?」って声をかけたんです。

TERU

──突然TERUさんからDMがきてびっくりされたでしょうね。

その時点で僕が“限界突破”しちゃってますよね(笑)。その後、初めて一緒に滑ったときに、「スノーボードの世界ではオリンピック選手でも引退後はいろいろ大変で。スノーボードだけで生きていくのは大変な状況ではあるんですけど、それを打破するために限界突破してがんばってるんです」と話してくれて、その言葉がすごく自分に響いたんです。

──ええ。

そんな中で去年の夏頃に「ブラッククローバー」のモバイルアプリ(「ブラッククローバーモバイル 魔法帝への道 The Opening of Fate」)のタイアップのお話をいただいて。アプリや「ブラッククローバー」の原作マンガのストーリーを踏まえて、「限界突破」をテーマに曲を作っていきました。ラマ先生との出会いがなければ、「限界突破」というタイトルを付けることもなかっただろうし、激しいサウンドの曲を作りたいとも思わなかったでしょうね。

──スノーボードが上手な方は数多いると思いますが、ラマさんのどんなところに惹かれたんでしょうか?

カービングってマスターするのがとにかく難しいんですが、ラマさんの映像を観た瞬間に「こんなにも美しい姿勢で滑れるんだ」と驚いて。「その技術を習得したい!」と思ってDMしちゃったんです。もちろん技術も素晴らしいんですが、動画を観れば観るほどラマさんがスノーボードを愛していて、仲間たちと温かい関係を築いていることもわかって。その姿がGLAYのメンバーと一緒にいるときの自分や、仲間と一緒に同じ夢を見て歩んでいる姿と重なったんです。

──生きる世界は違うものの共鳴するものがあったんですね。「限界突破」は激しくスピード感があってライブ映えしそうなサウンドですが、着想はどういうところから?

イヤフォンで聴きながら雪山を滑るイメージを浮かべて作り始めましたね。スノーボード、スケートボード、サーフィンの横乗り系のスポーツに合う音楽ってラウド系が多いんですけど、この曲はポップなサウンドにしようと思って。それと「ブラッククローバー」は原作も読んでいたし、アニメも観ているくらい好きな作品だったので、その世界観を音にも取り入れたいなと。「ブラッククローバー」って魔法や悪魔が存在する世界の話で、西洋的な要素が強いんですね。それで、ゴシック系の音を取り入れたいなと思って、「Holy Knight」(2021年リリースアルバム「FREEDOM ONLY」収録曲)をアレンジしてくれたYOW-ROWくんに編曲をお願いしました。曲自体にはポジティブなメッセージを込めてるけど、イントロはダークな雰囲気をまとってるし、明るくなりすぎない中間的なサウンドにしてもらって。このアレンジはYOW-ROWくんじゃないと作れなかったでしょうね。

──TERUさんはご自身の曲は細かい部分までデモを作られるという話でしたが、ご自身のデモとYOW-ROWさんのアレンジで一番変わった部分はどういうところでしたか?

リズムと音色ですね。自分でデモを作ると、好きなドラムの音とかギターのアプローチにしがちなので、自然と自分が好きなブリティッシュロックっぽい雰囲気になるんですよ。例えばギターはストロークだらけで、ディストーションがかかってるとか。でもYOW-ROWくんがアレンジするとゴシックの要素が加わって、ヨーロッパ的なサウンドの中でも硬質なドイツっぽい雰囲気になる。

──その結果「ブラッククローバー」の世界に近付くと。サウンドもですが、歌詞も「ブラッククローバー」の要素が入ってますよね。

そうですね。僕は「ブラッククローバー」に出てくる魔力がない主人公のアスタと、幼馴染でライバルのユノがせめぎ合いながら高みを目指していくストーリーが大好きで。物語の中でいろんな困難を限界突破するシーンが何度も出てくるのでそれを言葉にしたり、アスタとユノの2人に対して、光と闇のイメージがあったのでそのワードを取り入れたり。アスタとユノの関係性になぞらえて、GLAYのメンバー4人の関係性も歌詞に反映していますね。アスタとユノのように、GLAYの4人もせめぎ合いながらも、仲間として一緒に歩んでいく関係なので重なるものがあって。

TERU
TERU

面倒臭いからいいや

──いろいろと深読みできそうな歌詞ですね。普段の作詞作業において言葉選びで意識していることはありますか?

ほかのミュージシャンが曲を聴いてくれるのもあって、なんとなく深い言葉にしたほうがいいんじゃないかとか、ちょっと頭よさげに書いたほうがいいんじゃないかっていつも悩むんです(笑)。でも、どうせ書くなら僕の顔が浮かぶような、自分が普段使っている言葉や言い回しのほうがいいんじゃないかと思って、素直に書くようにしています。

──言葉のインプットはどうされているんですか?

僕の場合はほぼ日常会話からインプットしてますね。TAKUROは歴史の本を読んだり、HISASHIはめちゃくちゃネットで調べたりしてるんですけど、僕は日々いろんな方とお会いして話す機会があるので、そこで感じたことを歌詞にしてます。

──確かに「GLAY MOBILE」のTERUさんの日記を拝見するとさまざまな業界の第一線で活躍されている方と毎日のように会われてますよね。それが制作の刺激になっていると。

小説を読むよりもいろんな経験ができるんじゃないかなと思うくらい、面白い話が聞けるんですよ。あと、インプットじゃないですけど、いつもお酒を飲みながら作詞してますね。

──え、「限界突破」もですか?

うん。酔っ払って書いてるから、あまりの支離滅裂な内容に朝起きてから読んで「なんだこりゃ!」ってこともありますよ(笑)。

──作曲もお酒を飲みながら?

そうですね。特に歌詞は歌入れまでにあればいいので、のんびり書いていきますね。性格上、大量生産できないんですよ。1曲をじっくり煮詰めていくタイプなので。

──ちなみにご自身が書く歌詞においてNGワードというのはあるんですか?

今はないですけど、一時期「愛」を使わないことがありましたね。なんか自分で歌うときに恥ずかしくなっちゃって。でも、TAKUROの歌詞に出てくる「愛」は躊躇なく歌えるんですよ(笑)。TAKUROみたいに100曲も200曲も書く次元になったら慣れちゃう気もするんですけど、まだまだそこには到達してないし、誰かを鼓舞するような曲のほうが自分らしいなと。あとは実体験も作詞に影響しますね。父親について歌った「COLORS」に出てくる、子供の写真が親の財布に入っていたというエピソードは自分の実話なんです。まあ、こうやってのんびり制作できるのはTAKUROというコンポーザーがいるからですけどね。僕は腰を据えて作りたいから、絶対ソロをやりたくなくて。

──TERUさんがソロ活動をされない理由はそこでしたか。

バンドのボーカリストってデビューして何年か経ったらソロをやる人が多いじゃないですか。バンド以外での自分のアウトプットを増やすために。だけど、僕はそういうのが苦手で。自分名義でのアウトプットを増やすにしても、「LIVE at HOME」みたいなコンセプトライブを企画したりするくらい。まあ、ソロライブにもメンバーに来てもらっちゃうんですけど。

──(笑)。

結局GLAYが好きなんですよね。

──とはいえ、過去に何度かソロデビューの話はあったのでは?

あったけど、面倒臭いからいいやって(笑)。

──面倒臭いって!

だってスノーボードできなくなっちゃうし(笑)。そういうこと考えちゃうんです、僕は。

TERU

──でも、無理をしない、自分のペースを保つというのは長く活動を続けるうえで大事なことですよね。歌詞で「愛」を使わない時期があったとお話されていましたが、逆に頻繁に出てくる言葉はなんだろうと思って、新旧のTERUさんの作詞曲の歌詞を拝見したところ「旅」「空」「風」「青」といったワードがよく登場していました。これらの言葉をTERUさんは自覚的に使われているんでしょうか?

自覚というか、好きなものですね(笑)。あとは、空や旅という言葉をきっかけに歌詞が書きやすいんです。

──逆に書きづらい、書いたことのないタイプの曲は?

そういえば失恋の曲とかほとんど書いたことがないな。恋に破れたことはありますけど……失恋をつらいと思ったことがなくて(笑)。だから、人に共感してもらえるような失恋ソングが書けないんです。

──TERUさんならではの悩みが……。歌詞同様、作曲においてTERUさんが自覚されている“自分らしさ”はありますか?

難しいコードを使わないこと。3つくらいのコードで歌える曲が好きなんです。使うコードは多くても4つか5つですね。

──その中で特にお好きなコードというのは?

カノン進行が大好きで。開放弦の音が好きなので、僕が作るのはGから始まる曲が多いですね。ピアノやステップレコーディングで作曲することもあるんですけど、だいたいアコギで作ってるので、ちょっと難しいコードは指が痛くなっちゃうから使わない(笑)。それに、自分が好きな曲をすぐ弾けるようになったらうれしくないですか?

──そうですね。私は学生時代にギターを弾いていたんですがFコードでつまづいていたので、その気持ちはすごくわかります。

自分がギターを弾きながら歌う人間ではないので、デモを作るときやレコーディングでは簡単に弾けるコードで作ってますね。

──作曲においてインスパイアされるものはありますか?

最近は函館の風景にすごく影響を受けていますね。「青空」が出てくる曲は大体函館で作ってるんじゃないかな(笑)。函館の石畳の道を歩きながらメロディがふっと浮かんで、スタジオに戻ってからすぐ録り始めたりすることが多いです。