HISASHI(GLAY)×川谷絵音(ゲスの極み乙女。、indigo la End、ichikoro、ジェニーハイ、美的計画)|異世代バンドマン2人の「ROCK ACADEMIA」

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HISASHIの音楽ルーツ&デビュー経緯

HISASHI

川谷 HISASHIさんは何から影響を受けたんですか?

HISASHI 僕は学生時代の先輩のバンド。学年が1個違うだけでもカッコよく見えるんだよね。彼らに憧れたし、「自分らもできるんじゃない?」「ああいうふうにやればいいんだ」とかいろいろ学んで。近しい先輩や地元のバンドの影響は大きかったかな。

川谷 地元というと、函館のバンドですか?

HISASHI そう。中でもE・Z・Oというバンドに影響受けたな。やっぱり海(津軽海峡)を隔てると文化が違うんだよね。今みたいにネットがあって、いろんな情報が入ってくるわけじゃないから、逆輸入みたいにねじれて情報が入ってくるの。そのうえ、自分から情報を取りに行かなきゃいけないから、札幌までレコードを買いに行ったりして、ムキになって音楽を聴いてたね。東京のアンダーグラウンドシーンとか、ライブハウスだったらロフトの文化とかに触れたくて、高校を卒業したら上京することだけは決めていて。そういう過去が僕の音楽の原動力になってる。

川谷 下積み時代はどれくらいだったんですか?

HISASHI 91年に出てきてからだから、3年ぐらいかな? バイトしながら月何本もライブやって。当時はヴィジュアル系がすごく流行ってたんだよね。で、僕らはラッキーなことに、市川にあるライブハウスでやってたときにYOSHIKIさんが観に来てくれて。それが縁でデビューが決まったんだけど、僕ら的には天下のエクスタシーレコードからデビューするなんて目標みたいなものだったから「やったー!」って感じだった。で、工場のアルバイトをしてたのに、急に「じゃあ明日、恵比寿に何時ね」とか言われて「え、明日はバイトあるんだけど」みたいな(笑)。バイトを辞めたら収入がなくなるから辞められないし、掛け持ちしてたの。それなのに、いきなりロスのYOSHIKIさんのスタジオまでデビュー曲のレコーディングに行って、いきなりプロフェッショナルなステージに立たされたわけ。だからデビューが決まった当初は音楽をやっててもつまらない時期があったな。覚えることもたくさんあったし、高い楽器も使わなきゃいけないとか、今まで自由にできてたことができなくなって。メンバーも若かったし、周りが大人ばかりだから「こういうふうにしなきゃいけないんだ」って押さえつけられていた時期が2年くらいあった。ただ、あの頃経験したことや大人たちが教えてくれたことが今になって生きてたりするんだよね。

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昨今の音楽シーン、その動向について

HISASHI 日本でも海外でも今の音楽シーンはすごくいいなと思ってるんだよね。僕、新しいバンドがすごく好きで。例えばOfficial髭男dismとかも聴くし、ライブも行ったりするし。GLAYしかできないことをやっていける自信を持ちつつ、同時に今の音楽シーンを応援するような活動もできればと思っていて。GLAYとしてフェスみたいなものをやってもいいのかなって思ったり。絵音くんは今の音楽シーンをどう見てる?

川谷絵音

川谷 流行のスピードが速い印象ですね。

HISASHI 日本の音楽のサイクルの早さって、国土が関係してるのかな。ツアーもわりとすぐ回れちゃうし。

川谷 なるほど。でも、昔のほうが1曲を長く聴く人が多かった気がするんですよね。今ってサブスクで毎日のように新曲が配信されるからか、音楽を大事に聴く風潮が薄くなっている気がしていて。

HISASHI 僕は音楽が“情報”に変わったという気もしてるんだよね。動画サイトとかSNSの影響なのかなと。でもそれを嘆くわけでもなく、僕はけっこう楽しんでやってるかな。

川谷 夢があるところもありますよね。それまで無名だった人がいきなりヒットしたりする。全然名前を知らないアーティストがランキングの上位にいたりもして、そういう流れがスタンダードになってる気がします。

HISASHI まだまだ日本の音楽というのは型が定まっていない感じがするんだよね。そこを逆手に取る自由さというか、柔軟な発想をするアーティストにはチャンスがあるんじゃないかなと思う。絵音くんは今、気になってるアーティストはいるの?

川谷 South Penguinという若いバンドがいて。めちゃくちゃカッコいい音楽をやってるので、Twitterで紹介したら「リスナーが5倍に増えました」と言われて。それは紹介してよかったなと思いました。今の若いバンドってみんな演奏がうまいんですよね。

HISASHI 確かに! 俺らの頃、ヘタウマ文化があって……あれはよくなかった(笑)。

川谷 あははは(笑)。

HISASHI でもその荒々しく、整ってない音楽には確かに説得力が宿っていて。

左から川谷絵音、HISASHI。

川谷 わかります。今は繊細な音楽が多いから、逆にガツンとしたロックを聴くと新鮮なんですよね。最近だとw.o.d.っていうスリーピースのバンドの新しいアルバムが一発録音でレコーディングしていて、それがカッコよかった。

HISASHI へえ! 僕、Nirvanaが出てきたときはレコーディングが下手だなと思いつつ、彼らのやっていたグランジというジャンルに衝撃を受けたんだよね。そういったプリミティブな音楽のリバイバルがあるかもしれないね。

川谷 あってほしいですよね。今、音楽をやる人がうまい方向に行ってる気がしてて。TikTokなんかを見ていると、歌が曲芸的にうまいみたいな人が増えているんです。プロよりもアマチュアのほうが歌や演奏がうまいときがあるし。そういうのってNirvanaが出てきた時代から完全に乖離してるじゃないですか。ヘタウマみたいな音楽が今は存在できないというか。

HISASHI あと“目”でレコーディングするようになってきてるよね。僕もコンピューターベースで、家でシステムを組んでやるようになってから、自分としては満足だけど、スタジオにアンプがドーンとあって爆音でギターを弾くようなレコーディングがしたくなったり。今はギターが弾けなくてもプラグインがあれば曲が作れちゃうし、自分以外の人間が存在しなくても音楽が作れちゃう。でも、ライブできなくなった今だからかもしれないけど、ダイナミックさというのを求めてる自分もいる。

川谷 そうかもしれないですね。今だからこそ、逆に生々しいロックが求められるようになるかもしれない。

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コロナ以降&これからの音楽の在り方

HISASHI 2020年がこうなるなんて、当然だけど想像してなかったよね。2月、3月の頃はまだ、初夏くらいには元に戻るもんだと思ってたし。

川谷 当たり前だったものがなくなっていくことって、よくよく考えたらいつかは起こることだと思うんで、それを今知ることができてよかったのかなとも思う気持ちもあります。ただ、今までのようなライブができないから配信に移行していって、新しい方向を探していきましょうということにはあまり未来を感じないんですよね。やっぱり生の体験に代わるものはないんで。

HISASHI

HISASHI それこそライブ体験ができるVRとか作られるかもしれないけど、やっぱりライブ会場のスピーカーから伝わってくる音や空気感、それこそ隣の人の匂いだったりとかはVRでは再現できないから。改めていろんな要因でコンサートは成り立ってるんだなと思う。

川谷 それと、今は簡単に他人同士が接触できない感じじゃないですか。そういう中から生まれるものって無機質になるのかなと思うと、ちょっと怖いんですよね。リアルとリアルじゃないものの区別がつかない人が増えるんじゃないかとか。

HISASHI バーチャルの世界は面白いところもあるけど、僕らみたいにデジタルとアナログ両方のよさを知っているのと知らないのでは感覚が違うからね。

川谷 話はちょっと変わるんですが、Avenue Beatという女の子3人組バンドが最近、「2019年にデビューして、これから私たちの年になるはずだったのに、コロナで何もできなくなっちゃってファックだ2020」って歌う「Fuck 2020」という適当なデモ音源をTikTokに無名のままアップしたら、いきなりすごい回数が再生されて大ヒットしたんです。これって、コロナが生んだヒットなのかなと思ったら面白いなって。

HISASHI 戦略も何もないものがヒットしたんだ。

川谷 そうなんです。これはこれで音楽の力だと思ったんですよね。

HISASHI まっすぐな思いがこもっていたからこそ広がったというか。

川谷 こういうことを目の当たりにすると、自分たちも音楽を一生懸命作って発表していくしかないなと。

HISASHI 確かにそうだね。そう言えば、ゲスの極み乙女。の最新作ってバームクーヘン付きだったんだよね(参照:ゲスの極み乙女。アルバムは世界初の“賞味期限付き”、CDの代わりにおいしいバームクーヘン)。

左から川谷絵音、HISASHI。

川谷 もう何かしら仕掛けないといけないところに追い込まれて、賞味期限付きの作品というのもシャレが効いてていいんじゃないかなと。僕らの場合、CDなんてもう別にいらないだろうし、食べ物のほうがいいでしょ?という意味合いで出したんです。

HISASHI 確かに僕もいろんなものを所有したい人間だったけど、今、逆にもう邪魔になっちゃって。ほとんどはサブスクとかオンラインでいいかなと。

川谷 もちろん“物”として欲しい気持ちもわかるんです。米津玄師のアルバムが、サブスクもあるこの時代に100万枚売れてるのって、物として持っておきたいという気持ちがあるからだろうし。それはそれで美しいことだと思う。

HISASHI パッケージ盤ってコレクターズアイテムみたいな感じになってきてるよね。

川谷 ええ。俺も洋楽は基本的にレコードで買っちゃうんですよね。めっちゃかさばるんですけど。

HISASHI 家でレコードを聴いてるんだ。

川谷 あとはレコードバーに行ったり。レコードで聴く音楽が僕は一番好きなんです。よく聞こえるというか。レコードって自分の操作で曲を飛ばすのが難しいんですよね。今は便利になりすぎてるから、逆にその面倒臭さにすごく魅力を感じていて。今の時代、アルバムとか曲順があんまり意識されないじゃないですか。iPodが流行って、サブスクになってスマホで音楽を聴けるようになってからより“単曲文化”になったし。

HISASHI 曲間もあまり意識されないよね。

川谷 ええ。でもレコードだと曲順通りにしか聴けないから、それがいい体験になるんですよね。CDだったら自分ではあんまり再生しなかったんですけど、実際に自分でレコードを作ってみたら聴きたくなって。

HISASHI あと、最近はカセットテープで音源を発表するアーティストが増えてるよね。

川谷 ビリー・アイリッシュもカセットをリリースしてますね。俺、カセットプレイヤーを持ってなかったので、わざわざ買って。その音が低域がまったくない感じで逆に味わいがあったんですよ。音楽の聴かれ方は、多様化している気がしますね。